『すいません、ほぼ日の経営』要約まとめ

1998年に始まったウェブマガジン「ほぼ日刊イトイ新聞」は、暮らしに根ざした情報を発信し続け、そこから生まれた商品の販売も手がけてきました。中でも「ほぼ日手帳」は大ヒット商品となり、年間80万冊近くも売り上げるほど。さらにはユニークな商店を集めた「生活のたのしみ展」や、大人の学び場「ほぼ日の学校」など新しい試みも多数。そんな「ほぼ日」が、2017年にジャスダック上場を果たしました。糸井重里が考える「経営」とは?

70~80年代にコピーライターブームの火付け役となった糸井重里が、「ほぼ日刊イトイ新聞」を始めてから20年以上になる。もともと「東京糸井重里事務所」という社名だったが、2016年に「株式会社ほぼ日」に変更し、翌年ジャスダック上場を果たした。しかし、ほぼ日という自由な風土の会社に、株式上場は似つかわしくないように感じてしまう。なぜ糸井さんは上場を決めたのだろう?

「いい事業はアイデアありきで始まる」という考えが糸井さんの根本にある。よほど的外れでない限り、社員のアイデアにダメ出しすることはなく、本人が「本当におもしろい」と信じ、心底「やりたい」と思っているかを大切にしている。

 アイデアがまとまると、メンバーを集めてプロジェクトが動きだすわけだが、社長がメンバーを決めるのではなく、社員同士で声をかけてメンバーを決めていく。「この仕事がおもしろそう」と思えば、上長の判断を仰がずに参加してもいい。ほぼ日のプロジェクトは、誰が言い出してもいいし、どんなチームで始めてもいいのだ。企画書を求められたり、進捗を報告する義務もなく、他社商品をリサーチしたりもしない。そして、失敗しても責められない。

 ほぼ日では、2018年春から労働時間を1日8時間から7時間勤務に短縮し、さらに、ひとりで考える時間として毎週金曜日を「インディペンデントデー」とし、どこで何をしていてもよい日とした。ほぼ日において「生産性が上がる」ということは、すなわち質のいいアイデアがたくさん生まれることだ。労働時間が長ければアイデアが生まれるものでもないし、集中すればいい発想が浮かぶものでもない。そこで思い切って労働時間を短縮し、一方で給料を上げる「働き方改革」を行ったのである。

 だからといって社員がサボるようにならないのは、ほぼ日の企業風土に理由がありそうだ。糸井さんは企業の風土を決めるのは、「なにがかっこいいか」だと考えている。ほぼ日の場合は、「人がうらやましがるようないい考えを出して、実行する」ことが、かっこいいとされている。これも糸井さんが日頃から社員に自分の考えを言い続けてきたからこそ形成された風土だろう。そうした価値観が社員に行きわたっているからこそ、一人ひとりが自律的に考え、行動するのだ。

 採用についても、あえて「いい人募集」という定義しづらい採用告知をしている。なぜなら「いい人」を定義してしまうと、応募者がその採用基準に合わせるようになり、「面接用の人格」が現れてしまうからだ。では、ほぼ日が求める「いい人」とは何かというと、たとえば旅行に行くときに「あいつも呼ぼうよ」と呼びたくなるような人物像である。たとえ力や術がなくても、ほぼ日に入ってから覚えていけばいいという考えなのだ。

 ほぼ日には伝家の宝刀のような言葉が二つある。ひとつは「誠実」であること。弱くても貧しくても不勉強であっても、誠実であることはできる。仕事を一緒にやろうと手をつないでいるときに、手を離して逃げないこと。「誠実」は「信頼」とセットなのだ。そして、もうひとつが「貢献」である。貢献することで人が喜び、自分も喜ぶことができる。貢献が認められれば、次も頼まれるようになり、新たなチャンスが巡ってくる。この循環こそがチームで活動することのおもしろさであり、存在理由なのだ。

 組織作りにおいては、課長や部長といった上下関係はなく、人体模型図の内臓のようなフラットな組織にしている。腎臓や肺はどちらのほうが大事というものでもなく、全部がつながっている。会社も同じようにクリエイティブ職が上であるとか、総務のほうがえらいというふうになってはいけない。象徴的な試みとしては、4カ月に一回くらい席替えをしている。完全なくじ引きで、経理の人の横にデザイナーがいたり、その隣に原稿を書いている人が座る可能性もある。そうすることで自分と違う仕事をしている人を理解してほしいという気持ちがあるのだ。

 糸井さんは、ほぼ日を「『場』をつくる会社」と位置付けている。「誰がつくったか」より「どんな場がつくったか」が大事であり、糸井さんが一貫してやってきたことは、「おもしろい場」をつくることなのだ。こうしてチームでさまざまなアイデアを実現させてきたわけだが、それは「子どもの自由」かもしれないと感じるようになった。その思いが株式上場のきっかけになったようだ。

 上場すれば社会から見られていることを常に意識しなければならず、株主からのプレッシャーもある。しかし、仕事のうれしさは、いつでも苦しさと紙一重だと糸井さんは考える。だからこそ、会社を絶えず社会から試される場に置こうとしたのだ。また、株主の協力が得られるようになれば、できることも増えるはず。これまでが湖だったとしたら、海に漕ぎ出し、より遠くに行けるようになった。糸井さんは上場を難しく考えるのではなく、企業が「つよく」なるためのエクササイズのようなものだと捉えているのだ。

 糸井さんはずっとフリーのコピーライターとして活動し、組織や会社に縁がなかったし、好きでもなかったという。子どもの頃から「働くことがいやだ」と思っていた糸井さんが、なんとか「いやじゃない会社」にしようと取り組んだ結果として、現在のほぼ日があるのだ。そうした思いもあって、本のタイトルには「すいません、」と付けられている。

『すいません、ほぼ日の経営』 3つのポイント

●いい事業は、アイデアありきで始まる

●労働時間やルールを減らし、社員の「やる気」に任せる

●人体模型図のようなフラットな組織作りで、おもしろい「場」をつくる

文●大寺 明