『組織の未来はエンゲージメントで決まる』要約まとめ

日本は他の先進国に比べ、一人当たりの生産性が極めて低いとされています。そこで政府は「働き方改革」を打ち出しましたが、労働時間を減らすことと生産性の向上にはたして因果関係はあるのでしょうか? 中には自分の仕事が大好きで、長時間働いても苦にならず、結果も出しているという人も少なくありません。そこで、本質的な問題はべつのところにあると指摘するのが本書です。日本では聞き慣れない経営指標「エンゲージメント」とは?

日本経済はGDP成長率が最低水準を推移している。そうした状況を打破すべく、政府主導で「働き方改革」の取り組みが始まった。ホワイトカラーの生産性向上を目的とした長時間労働の是正が中心だが、ただ労働時間を減らすだけで生産性が高まるものではないと著者は指摘する。むしろ「働き方改革」には、本質的な要素が抜け落ちていると言うのだ。

 それが、欧米で注目を集めている「エンゲージメント」という概念だ。これは「組織や職務との関係性に基づく自主的貢献意欲」と定義される。アップル、グーグル、ディズニー、ザッポスといった名だたる企業がエンゲージメント経営に取り組み、今や人材マネジメントの新たな常識になりつつある。しかし、残念ながら日本企業の多くは、非常にエンゲージメントが低いという調査結果が出ているのだ。

 エンゲージメントが注目される背景には、大きく2つの現象が挙げられる。まず、転職が普通のことになり、人材の流動化が進んだこと。終身雇用の時代はエンゲージメントが問題視されなかったが、今の時代は、会社に愛着が持てなかったり、働きがいを感じられないと職場から人が去っていくのだ。そのため「ここで働きたい」と思える組織づくりが重要課題となった。

 もうひとつが、クリエイティビティが求められるようになったこと。かつての高度経済成長期のように、先輩社員がやっていることを踏襲していればいいという時代ではなくなり、今では若手も経営者も知恵を絞って、ゼロからイチを生み出すことが求められるようになった。クリエイティビティは上からの命令で生まれるものではなく、自発的に考え、自由に発想してこそ生まれるものである。

 これに対し、エンゲージメントの高い組織は、離職率が低く、イノベーションにも強いとされる。従業員のエンゲージメントとサービスの品質にも相関関係があり、組織が従業員を大事にすると、従業員は顧客によいサービスを提供するようになり、その結果、企業の売上と利益が増大するという好循環が生まれるのだ。

 エンゲージメントを高めるには、まず現在の状態を測定できなければならない。そのための測定法は、たった一つの質問で十分だという。それは「あなたは現在の職場を親しい友人や家族におすすめしたいですか?」というもの。これを10点満点で評価してもらい、回答者全体に占める「推薦者」(9~10点)の割合から、「批判者」(0~6点)を引いた数値がエンゲージメントの度合いを示す。

 しかし、エンゲージメントの度合いがわかっても、どこに問題があり、どう対策を取ればいいのかわからない。そこで著者の新居氏が代表を務める株式会社アトラエは、エンゲージメントを定点観測できるサービス「wevox」をリリースした。これはエンゲージメントに影響する9つのキードライバー(職務・自己成長・健康・支援・人間関係・承認・理念戦略・組織風土・環境)から、組織におけるエンゲージメントの課題を見つけるというもの。すでに400社以上の組織が利用しているという。

 ただし、こうすればエンゲージメントが向上するという唯一絶対の正解はない。組織の問題は多種多様であり、エンゲージメントを高めるために有効な施策は会社によって異なるものだからだ。組織づくりは終わりのない継続的な取り組みであり、決して外部のコンサルタントに任せてはならない。社員が当事者意識を持って組織改善に取り組むことが、エンゲージメントを高めることに直結する。そのためにも、社員が自ら声を上げるカルチャーをつくることが不可欠だという。

 もちろんアトラエでは、いち早くエンゲージメント経営に取り組んでいる。象徴的なのが、肩書きの撤廃だ。肩書きがないということは、出世もなければ上下関係もない。上下関係は、自由な発想や率直な意見交換、柔軟な行動の妨げになると考えるからだ。上司がいないと、社員の評価を誰がするのか疑問に思うところだが、これについては360度評価を取り入れている。その際、「成果」ではなく、「貢献」を評価軸にしている。たとえばベテラン社員が営業成績で若手に負けていたとしても、若手のよい相談相手になっていれば、「組織への貢献」として評価されるのだ。

 また、あらゆる経営上の数値を情報開示し、全社員に自社の株式を付与している。これにより社員の当事者意識がより強くなる。さらに子連れ出社や自宅でのリモート勤務を可能にし、3年勤務するごとに1カ月の休暇が取れる制度も新設した。社員の幸福度を上げるエンゲージメント経営を行った結果、社員一人当たりの生産性は右肩上がりに向上し、2016年には東証マザーズ上場、2018年には東証一部に指定替えになるなど、事業も着実に成長している。

 エンゲージメントを高めるために一番大切なことは「相手を知ること」だという。メンバーの性格や、どんな理由で入社したか、何がしたくて会社にいるのか、といったことをよく知らなければ、エンゲージメントを高めることもできない。

 人材が流動化した今、社員を囲い込んでいた壁は崩れ、ビジョンやミッションが魅力的な組織に人が集まるようになる。そうした中でマネジメントの役割も変わらざるをえない。マネジメントは「管理」と訳されるが、これからの時代は、メンバーが意欲的に働けるように「支援」するマネジメントが求められる。社員がやりかいを感じ、自らの意志で、責任をもって仕事に取り組める。そのような状態をつくりだせるかどうかが、企業の将来性を決定づける要因になっていくだろう。

『組織の未来はエンゲージメントで決まる』 3つのポイント

●組織や職務に対する「エンゲージメント(貢献意欲)」を高める

●社員が当事者意識を持って組織改善に取り組む

●社員が意欲的に働けるように「支援」するマネジメント

文●大寺 明