『いま君に伝えたいお金の話』要約まとめ

2006年の「村上ファンド事件」で表舞台から姿を消したかに見えた村上世彰氏――。しかし、200憶円ともされる個人資産をバックに投資家として復活し、数々のベンチャーへの投資や出光・昭和シェルの統合に尽力するなど、株主として経営に口を出す投資家として独自の活躍を見せています。そんな彼が上梓した著書は、子どもたちにお金の考え方を伝えようとするもの。お金を知り尽くしたプロだからこそ話せる「お金の話」とは?

「子どもはお金のことなんて考えなくていい」という風潮がある。これに対し、投資家の村上世彰氏は、大人になれば誰もがお金と付き合う必要があるわけだから、できるだけ早いうちからお金について学ぶべきだと提言する。なぜなら彼自身が、幼い頃から投資家だった父にお金について教わり、常にお金について考え続けてきたことで、「お金=数字」のとらえ方が鍛えられたからだ。

 お金は生きていくうえで欠かせない「道具」である。「何かと交換できる」、高いか安いかがわかる「価値をはかる」、お金のかたちでとっておける「貯める」という3つの機能がある。お金は便利な道具以上でも以下でもなく、善でも悪でもない。お金が原因で問題が起きるのは、お金を扱う人やその扱い方に問題があるのだ。ところが日本では、「お金=汚いもの/悪いもの」という感覚が根付いている。たしかにお金は簡単に「凶器」にもなりうるが、本来は自立したり、人を助けるためにも欠かせないものだ。

 村上氏の記憶に今でも残っているのが、父の口癖だった「お金は寂しがりやなんだ」という言葉である。お金は一人でいるのを嫌い、仲間のいるところに行きたがる。一人が二人になり、二人が三人になり……と増えはじめると、一気にお金が集まってくるものだと教えられた。こうして幼い頃の村上氏は貯金魔になるのだが、いつか何かに役立てようと思うくらいで、そのお金で何かを買おうとは考えなかった。

 しかし、モノに付く「値札」には並々ならぬ興味を示した。世の中のあらゆるモノの値段が気になり、その値段がどうやって決まるのかを知りたくなったのだ。値段は他のモノの値段と密接に関連し、季節や気候の変化、製造場所、素材、流行、あるいは人気スターが持っていたなど、あらゆる理由が複雑にからみ合って決められている。モノの値段は無味乾燥な数字ではなく、世界の秘密を解き明かすひとつの鍵なのだ。

 こうして村上氏は、値段が高いほうが質も高いとは限らないと考えるようになった。たとえば漁獲量が少なければ痩せたサンマでも高くなり、レアカードや古書が高値で取引されるのは希少価値によるもの。値段にとって重要なのは需要と供給の関係であり、値段が高いというだけで価値があると思うのは、値段という数字に惑わされているにすぎない。

 村上氏は高級時計やブランド品には興味がなく、無駄遣いも大嫌いだという。自分の目的を達成させてくれるものなら高額な出費も惜しまないが、逆にどんなに安いモノであっても、1円でも値段が価値に見合わないと思えば、彼にとっては無駄遣いとなる。お金と上手に付き合うということは、一定の収入のなかで、いかに自分にとっての無駄遣いを減らし、いかに多くのお金を自分の幸せのために使えるか、だと村上氏は考えるのだ。

「お金は稼いで貯めて、回して増やす。増えたらまた回す」というサイクルが大事だと、本書ではたびたび繰り返される。村上氏は子どもの頃から貯金し、投資で増やしたお金は、また投資に回してきた。それを通産省を辞めて独立する40歳まで続けたのだ。こうしてファンドマネージャーとして人生の次のステップに進むことができたわけだが、この経験から実感したことは、お金こそが、お金を生む「金の卵」だということ。

 出発点はまずお金を貯めることだが、日本の銀行の平均的な金利は0.01%くらいだから、これでは「金の卵」とは言えない。しかもインフレによってお金の価値が下がってしまうこともありうる。これに対し、海外では投資をして資産運用するのが一般的だ。ただし、投資はリターンが期待できるかわりにリスクが付きものであり、「お金を増やすことに近道はないし、魔法もない」と村上氏は断言する。

 投資の際の判断基準として、村上氏は「期待値」という考え方を大切にしている。たとえば100円で買った株が3倍になる可能性が10%、半減する可能性が90%だった場合、期待値は「3×10%+0.5×90%=0.75」となる。100円がそのままの場合は期待値1なので、それを下回るわけだ。では、100円の株が10倍になる可能性が10%、半減する可能性が90%だったとしたら「10×10%+0.5×90%=1.45」となり、期待値が非常に高いということになる。

 あらゆるデータを参考にしながら、自分の経験や勘とすり合わせて期待値を割り出していくのだが、期待値に正解はなく、本当にそのとおりになるかもわからない。ただし精度を上げることは可能だ。それが「物事を数字でとらえる」訓練を積むこと。子どもの頃から数字に親しみ、数字で考える練習を繰り返すことで、ようやく「お金=数字」に強くなる。一朝一夕にできることではないからこそ、子どものうちからお金に学び親しむべきだと村上氏は言うのだ。

 お金は貯めて増やすだけでは意味がない。その先にどう社会を良くするために回していけるかが一番大事だと村上氏は考えている。この10年ほど、寄付やボランティア活動をするようになったそうだが、以前は根本的な問題解決にはならないとして否定的だった。しかし、実際に活動してみると、人から直接「ありがとう」と言われたり、自分が誰かの役に立っているという人生の豊かさを実感するようになったという。お金に縛られずに生きるためには、お金とは違う、自分なりの「幸せ」の基準となる「ものさし」を持つことが大切だとしている。

『いま君に伝えたいお金の話』 3つのポイント

●お金は寂しがりや。貯めて回して増やし、増えたらまた回す

●投資は「期待値」で判断する

●子どもの頃から「お金=数字」でとらえる訓練をする

文●大寺 明