『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』要約まとめ

松下幸之助や本田宗一郎といった昭和の名経営者の本が、時代を超えて読み継がれていますが、IT時代の名経営者の本と言えるのが、インテル社CEOが著わした本書です。インテル社を世界有数の大企業へと躍進させた著者の経営手法は、実に緻密で堅実。最先端企業だからといって大胆な発想や目新しいことが書かれているわけではなく、むしろ経営の基本を再確認し、徹底して錬磨させていったかのよう。彼が考えるマネジャーの仕事とは?

 著者のアンドリュー・グローブ(1936―2016年)は、アメリカ経済界における伝説的な人物だ。ナチス占領下のハンガリーでユダヤ人として育ち、若くして無一文で渡米し、カリフォルニア大学の博士号を取得。その後、インテル社の創設に参画し、1979年にCEOに就任。インテル社を世界トップのマイクロプロセッサーメーカーへと躍進させた中心人物である。彼ほど激務の人間が、書き下ろしで自身の経営手法を明かすこと自体が奇跡的なことであり、出版当時、序文を寄せたベン・ホロウィッツをはじめ、シリコンバレーのビジネスリーダーたちは、こぞって本書の核心をつかもうとした。

 執筆にあたり、著者は組織の中でなおざりにされがちなミドル・マネジャーについて語りかけたかったという。なぜならマネジャーこそが組織の業績を左右する重要なポジションだと考えるからだ。「マネジャーのアウトプットとは、その直後の監督下にあったり、または影響下にある組織体のアウトプットである」と著者は明言する。マネジャー自身が何かを生産するわけではなく、組織の生産性の向上が、すなわちマネジャーの成果だという考えだ。

 マネジャー職は、ミーティングや会議に追われ、その他にも人事考課や採用面接など際限なく多くのタスクを抱えている。その都度、意思決定の判断を求められ、業務上で注力すべきことを見失いがちだ。そこで著者は、「マネジリアル・レバレッジ(経営管理上のテコ作用)」を教えようとする。同時に様々なタスクをこなしながら、その都度、もっともテコ作用の大きいところへ移動すべきだとしている。

 そこで著者は、経営管理を朝食のレストランに例える。半熟卵、トースト、コーヒーの3つを同時に提供するためには、それぞれの調理時間を計算し、もっとも手間と時間がかかる半熟卵のステップから全体の流れを組み立てていかなければならない。まず中心的ステップを突き止め、そこから全体を逆算していく思考法は、より大規模な朝食工場でも同じだ。

 その際、注意すべきことは“価値が最低”の段階で問題を発見して解決すること。半熟卵でいえば、業者から配達された“価値が最低”の段階で卵の問題を発見し、返品すべきなのだ。問題に早めに対処するには、“インディケーター(指標)”を測定する必要がある。朝食工場で言えば、その日の販売予測、原材料の在庫量、人員、サービスの質といった様々なインディケーターがあり、マネジャーの仕事とは、これを管理し、問題が起きる前に対策を打つことに他ならない。

 そこで重要になってくるのが情報である。著者の一日のスケジュールは大半がミーティングや会議など人との対話で占められているのだが、その際、著者は“情報収集”という意図を持って挑んでいる。コツとしては、ちょっとした立ち話にこそ、最も役立つ情報があるものだという。なぜなら情報はタイムリーであればあるほど価値が高く、レポートは過去の情報をまとめたものにすぎないからだ。

 インテル社では監督者と部下による「ワン・オン・ワン」ミーティングが重視されている。これも相互に情報交換することが目的だ。その際、部下が使用しているインディケーターをもとに話し合うのが適切なのだが、中でもトラブルの存在を知らせてくれるインディケーターに重点を置くべきだとしている。「ワン・オン・ワン」を繰り返すことで、上司と部下に共通の情報ベースができ、類似した物事の処理方法が確立されるため、そのテコ作用はきわめて大きい。

 意思決定とともにマネジャーの重要な仕事となるのが、人材の活用である。経営管理とはすなわちチーム活動であり、チームの構成員が最善を尽くそうと努力しない限り、すべては無益となりかねない。人が最善の仕事をしない理由は2つしかない。能力がないか、意欲がないかのいずれかだ。ここでマネジャーの取組み方も2つある。“訓練”と“モチベーション(動機づけ)”だ。いずれも非常に高いテコ作用が期待できる。

 モチベーションは“欲求”と密接につながっている。欲求には段階があり、下から生活必需品を買うといった「生理的」欲求、次に仕事や今の生活水準が保障される「安全/安定」の欲求、所属するグループへの「親和/帰属」の欲求、人に認められる「尊敬/承認」の欲求、そして最上部に「自己実現」の欲求がある。他のモチベーション源が欲求の充足とともに消えてしまうのに対し、自己実現の欲求だけは、より高い行動水準へと人を推し進めていく。

 人はひとたび自己実現段階に達すると、達成度を測定する尺度が必要になる。そこで重要な尺度になるのが、遂行業績に対するフィードバックだ。そのため人事考課は慎重かつ正直に行わなければいけない。いかに部下の業績を査定し、どのような報酬、昇進を配分するかは、マネジャーが発揮できる最高のテコ作用なのだが、著者ほどの名経営者でも、これほど責任が重く、複雑で難しいものはないという。

 この他、マネジャーの重要な役割として、採用の面接と、貴重な人材が退社しないように話し合うことがあげられ、かなりの頁を割いてアドバイスしている。部下が退社の意向を伝えてきた際は、これから会議だからと後回しにしないで、予定をキャンセルしてでも話し合うべき最優先事項なのだ。あらゆる面で合理性を貫いている本書だが、最終的に部下のモチベーションを維持し、いかにやる気を引き出すかが、アウトプットの鍵を握ることになるだろう。

『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』 3つのポイント

●マネジャーのアウトプットとは、=組織のアウトプット

●インディケーター(指標)を測定して、問題を見つける

●部下が最善を尽くすようにモチベーションを維持する

文●大寺 明