『「言葉にできる」は武器になる』要約まとめ

言葉の伝え方に関するハウトゥー本が人気です。たしかにタメになるんだけど、いくら言葉のスキルを身に着けてもコミュニケーション力や文章力が向上した実感がない……。そんな人も多いのでは? ジョージアの「世界は誰かの仕事でできている。」やタウンワークの「その経験は味方だ」等のコピーライティングで知られる著者は、言葉の技術よりも「内なる言葉」を磨くことが大切だと言います。「心に響く言葉」を生み出す秘訣とは?

いくら言葉を尽くして伝えようとしても「伝わっていなかった」ということがある。逆に相手にうまく伝わり、「納得」や「共感」を得ることがコミュニケーションの醍醐味と言えるだろう。こうした評価は、実は言葉に対する評価ではなく、「薄っぺらな考えだな」といった人格に対する評価だったりする。聞く側は、相手の言葉の重さや軽さを通じて、無意識のうちに人間性そのものを評価しているのだ。

「伝わる言葉の磨き方」といった書籍やトレーニングによって、自在に話す術を得たとしても、話したり書いたりする中身が変わるわけではない。中身が伴わなければ、逆に「嘘っぽい」「口先だけ」といった印象を持たれる可能性もある。そこで著者が提唱するのが、「内なる言葉」を意識することだ。

「内なる言葉」とは、無意識のうちに頭に浮かぶ感情や、自分自身と会話をすることで考えを深めるために用いている言葉のことである。「今自分が何を考えているのか」を正確に把握することで、外に向かう言葉の精度は飛躍的に向上するという。その結果、言葉に重みや深さが生まれ、納得感のある言葉になる。言葉が意見を伝える道具であるならば、まず、意見を育てる必要があるのだ。

 では、どうすれば意見を育てることができるだろう? まずは1人の時間を確保し、「内なる言葉」と向き合うこと。悲しいとき、楽しいとき、困難なときなど、あらゆる局面で湧き上がってくる感情を「悲しい」「うれしい」といった漠然とした言葉で受け流すのではなく、複雑な思いを言葉にして認識し、一つひとつ把握するのだ。この繰り返しが、内なる言葉に幅と奥行きをもたらす。

 最初のステップは、内なる言葉を単語でも箇条書きでもいいから紙に書いて見える化すること。頭の中だけで内なる言葉を整理しようとすると、どうしても主観が先行するため、頭の中がごちゃごちゃになったり、同じことをぐるぐると考えてしまいがちだ。そこに書き出すという一動作を加えると、考えが目に見えるため扱いやすさが格段に向上する。この行為を著者は「内なる言葉の解像度を上げる」と表現する。

 その際、ノートではなく、A4サイズの1枚紙に書いていくことを著者はお勧めしている。紙を机の上に広げることで、自分の頭の中を俯瞰して見ることができるからだ。あるいは付箋に書いていくのもいいだろう。とにかく書き出すことで頭が空になると、そこに考える余裕が生まれる。それから「なぜ?」(より根本的に考える)「それで?」(具体的に考えを進める)「本当に?」(より本音や本質に迫る)の3点をキーワードに内なる言葉を拡張していくのだ。

 次のステップは、書き出した言葉から同じ仲間をグルーピングし、大きな方向性にわける。ここで注意すべきは、できるだけ客観的に分類すること。そうすると、自分の「思考のクセ」が把握できるようになり、冷静な視点で足りない箇所に気づくことができるようになる。

 ここまでは自分の内なる言葉を可視化した上で、考えを広げたり、深めたりするものだが、そこからもう一歩進み、今度は真逆を考えてみる。自分の常識とは、自分の世界における常識にすぎず、他人にとっては非常識であり、先入観であることが多い。真逆を考えることで、自分の常識や先入観から抜け出し、別の世界へと考えを広げていくのだ。真逆は否定だけでなく、「希望/不安」といった対義語、「私/相手」といった人称としての真逆などの3種類がある。

 さらに様々な人の立場から複眼的に考えてみる。著者は広告の企画やメッセージを考える際、常に違う人の視点で考えてみるようにしている。たとえばクライアントへの提案であれば、上司や取引先がどう考えるかに思いを馳せるのだ。コミュニケーションとは言葉を受け取る側との相互協力によって成り立っているものであるため、「自分の常識という前提」をいかに捨て去るかが、コミュニケーション効率を高めるポイントになるのだ。

 内なる言葉は、外に向かう言葉のタネである。素材がよければ、味付けは最小限でいい。聞き心地がよく、文字の並びも美しい「美文」が心に響く言葉なのだと多くの人が誤解しがちだが、美文が珍重されるのは文学や小説の分野であり、実社会においては美しい文章や言葉が、必ずしも人の心を動かすわけではない。では、どんな言葉が人の心を動かすのか? 

 著者が考える唯一の方法は、思いをさらけ出すことに集約される。そのためにも内なる言葉の解像度を上げることが重要になる。その上でようやくコピーライターとして日々培ってきた言葉の技術がレクチャーされる。それは何も特別なことではなく、「たとえる」、「繰り返す」、「ギャップをつくる(対句)」、「言い切る(断定)」など、国語の授業で学んできた「言葉の型」である。様々な名言や名コピーを用いて説明されるのだが、いずれも「言葉の型」によって、より強く印象づけたり、思いをより効果的に伝えている。

 最後に言葉のプロが実践する「もう1歩先」として、たった1人のために言葉を生み出すことが大切だ。広告の目的として多くの人に伝えようとすると、日本人全員や30~40代の女性全てというふうにターゲットを広げがちだが、多くの人に伝えようと思えば思うほど、誰の琴線にも触れない言葉になってしまう。特定の1人を思い浮かべながら、「この人にだけは伝えたい」という気持ちで生み出された言葉のほうが、多くの人の心に響く傾向があるという。

『「言葉にできる」は武器になる』3つのポイント

●言葉のスキルよりも、まず、「内なる言葉」を意識する

●紙に書き出して、「内なる言葉」の解像度を上げる

●「言葉の型」を使って、思いをさらけ出す

文●大寺 明