『社会を変えるアイデアの見つけ方』要約まとめ

これまでにない画期的な事業を興したベンチャー企業の創業者は、どうやってそのアイデアを生み出したのでしょう? 発想の原点を聞くと、必ずといっていいほど「〇〇を変えたい」という答えが返ってきます。それは社会課題であったり、生活の不便であったり様々ですが、何かしら「より良くしたい」という思いからアイデアが生まれている様子。ありそうでなかった「空調服」を発明し、100億円市場を生み出した著者のアイデアの見つけ方とは?

 元ソニーの技術者だった著者は、あるとき服に電動小型ファンを取り付けた「空調服」のアイデアを思いつき、製造販売の会社(現・株式会社空調服)を設立した。改良に改良を重ねた「空調服」は爆発的にヒットし、ゼロから100億円市場を生み出した。そんな著者がアイデアを生みだし、育てていく方法をさまざまな角度から考察している。

「空調服」自体は、何か画期的な発明や最先端テクノロジーから生みだされたというものでもなく、服とファンという既存のものの掛け合わせから生まれたアイデアである。こうしたアイデアの思考法を著者は「知識の木」になぞらえて説明する。

 私たちの生活は、人類の知恵の集積の上に成り立っている。自然科学や経済学、医学や天文学など多くの学問を木の「幹」だとしたら、そこから派生したあらゆる知識が「枝葉」にあたる。一部の天才たちが枝葉を日々成長させ続けているわけだが、天才ではない私たちに何ができるだろう? 著者は「誰にでもできることがある」という。それは、枝と枝葉の間に広がる空間を見つめ、「ここにはこんな枝が伸ばせられるのではないか」と想像することだ。

「必要は発明の母」という言葉があるが、新たな枝葉を想像するためには、「〇〇したい」「〇〇になったらいい」という動機や欲望が求められる。そこから組織、地域、社会、世界が良くなるというふうに範囲を拡大させていくのだ。そのためにも多くの人が求めていることを知ることが重要になる。求めている人が多ければ多いほど、新たな枝葉は太く長く伸びていく可能性があるのだ。

 求められているものが、なぜいまだに実現できていないのか、何がボトルネックになっているのかがわからなければ、芽を生やすことはできない。次に考えるべきことは、問題解決のための課題を見つけること。たとえば「地球環境を守りたい」という目的に対し、そのための手段として「ソーラーパネル」「低エネルギー技術」「森林保護」などの枝葉がある。これらはすでに育っている枝葉であり、そこからさらに望まれることとして、より効果的、より低コストといった幅広いニーズがある。それは、まだまだ新しい枝葉が成長する余地があるということだ。

 大切なことは何かを良くするアイデアを考えることであり、最初から、どこに、どのような枝葉を育んでいくかを想定する必要はない。その枝ではさして良いアイデアではなかったとしても、別の枝に接木すればとても良いアイデアになるということは往々にしてあることだし、逆にいうと、直接的に何かを良くしたいときは、すでに芽が出ている枝葉から適切な枝葉を接木するという方法もある。

 私たちは何か知りたいことがあったとき、「誰かに聞く」、「調べる」、「とりあえず考えてみる」といった方法のどれかを選択する。どれも正しい方法だが、順序があり、新しいアイデアを生み出したければ、まずは自分で考えてみることが大切だと著者はアドバイスする。なぜなら「聞く」「調べる」という行為は、すでにある知識や情報を知ることであり、未知のものは誰も教えてくれないからだ。

 今の時代はインターネットで簡単に聞いたり調べたりできてしまうが、そうした習慣は思考の幅を狭めてしまう。とりあえず考えるようにすると、無駄な情報が入ってこないため、既存の考え方や常識に縛られず、自由な発想ができるはずだ。また、自由な発想は、日常のストレスから解放されたリラックスした時間に訪れることが多いという。アインシュタインがアイデアをひらめくのは散歩やシャワータイムの最中だったというし、著者が空調服のアイデアをひらめいたのも、東南アジアの空港で待ち時間にぼぅっとしていたときだったそうだ。

 著者は常識に縛られずに考えてみることの意義を伝えているが、私たちが当たり前だと思っている法則やセオリーにも2種類ある。たとえば「地球は丸い」といった揺るがしがたい大原則と、人間社会のルールやモラルといった小さな原則だ。著者が縛られるべきではないと考えているのは後者であり、大原則は重視している。大原則を踏まえていない発想は、妄想の域を出ないものなのだ。相対性理論を無視したタイムマシーンはいくらなんでも実現不可能というわけである。

 創造の芽を育てていくには、「大原則を厳守しながら、小さな原則に振り回されない」という視点が必要になる。そのためにも常に当たり前だとされていることを問い直す癖をつけたり、新しい体験をして発想の転換をしたり、思考の幅を広げるために教養を身に着けるといいだろう。

 こうして大原則に則ったアイデアが生まれたら、時間や労力、お金が無駄になるというリスクを恐れずに「やってみる」「試してみる」ことが大切。たとえ失敗したとしてもすべてが無駄になるわけではない。挑戦の過程で得た「知識」と「経験」は、必ず次の挑戦の糧になるはず。これこそが「失敗は成功の母」ということなのだ。失敗しても次の方法を試し続ける粘り強さがあれば、そのアイデアはいつかきっと新しい枝葉へと成長していくだろう。

『社会を変えるアイデアの見つけ方』 3つのポイント

●何かを「より良くしたい」という動機や欲望を持つ

●「聞く」「調べる」より先に、とりあえず自分で考えてみる

●大原則を厳守しながら、小さな原則に振り回されない

文●大寺 明