『フューチャー・プレゼンス』要約まとめ

昨今話題のVRですが、今のところゲームや映像といった娯楽用のイメージが強く、それほど影響力を感じない人も多いのでは。しかし、その可能性は娯楽に留まりません。旅行業界からSNS業界まで、あらゆる産業を激変させる未知の可能性を秘めているのがVRなのです。日進月歩で進化し続けるVRが日常的なアイテムになったとき、私たちの仕事やライフスタイルはどう変わるのでしょう? そこに次の時代のビジネスヒントがあるかも。

新聞やインターネットなど、新しいメディアが登場するたびに社会は大きく変動してきた。ただし、本書のテーマとなるVRは単なる新しいメディアではなく、これまでのメディアの壁を完全に取り払ってしまう可能性を秘めている。本や映画は想像上の世界を味わわせてくれたが、実際に体験できるわけではなかった。それに対し、VRがもたらす没入感はレベルが違う。人間は自らが空想世界の一員になる能力を手に入れたのだ。

世界有数の大企業の数々が何十億ドルという資金をVRに投じてきた。なぜならVRがあらゆる産業を大きく成長させる可能性を秘めているからだ。そうした意味で、VRはすべてを“破壊する”と言われるが、中でも人と人との関り方はとりわけ激しく破壊されるという。

その要因となるのが、VRの持つ実体感(プレゼンス)だ。プレゼンスのあるVR体験には、脳をだまし、肉体的な反応を引き起こす力がある。それこそ現実と同じように闘争・逃避反応が起きたり、心拍数が上がったりし、誰か(本物の人間や人工的キャラクター)との親密さを膨れ上がらせる力があるという。

エンターテイメントとしてVRの別世界を楽しむだけでなく、様々な用途が考えられる。たとえば、VRを瞑想に用いる研究や、精神医学的なアプローチとして用いる研究がすでに始まっている。これまでのVRは視覚のみだったが、今では自由に動き回れるように進歩を遂げ、VR内で自在に手を動かせる研究も進行中だ。さらには全身を包むボディスーツやVR内の味覚や嗅覚の研究まで進んでいる。

仮想世界に体を持ち込めるようになれば、感情を持ち込むのもずっと簡単になるはず。そのときVRは、あらゆるコミュニケーションの手段になる可能性がある。とりわけ著者がVR体験で驚きを覚えるのは、共感と“親密さ”だ。両者は共通する部分もあれば、違いもある。

たとえば、ヨルダンの難民キャンプで暮らす少女の生活をテーマにしたVRドキュメンタリー作品では、視聴者は少女と一緒にその場にいる感覚になり、少女の気持ちに深く共感できるようになる。ただし、それは見ているだけであって、その場の一員になったわけではない。一方の“親密さ”の本質は、何かしらの現象を他者と共有することにある。

そこで注目されるのが、ソーシャルVRだ。数万人のユーザーがいるとされる「オルトスペース」では、ユーザーはアバターを通して他のユーザーとゲームを楽しんだり、焚火を囲んで語り合ったりして、VR内で行動を共にすることで新たな交流を築くことができる。そこで問題となるのが、差別的発言や性的嫌がらせといったハラスメントである。

これまでのネット空間のハラスメントは言葉や視覚によるものだったが、VRで実体を得たことで、女性ユーザーの胸をヴァーチャルに撫でまわすといったバカバカしい行為が行われているという。あるいはVR空間で仲間外れにされると、現実と同等の心の傷を受けるものなのだ。今後、VRという“新たな現実”が、ネットショッピングや動画視聴、他者との交流といったデジタルライフに占める割合が大きくなるはず。VRが赤子の段階である今のうちにVRが誰にとっても安全な場所であるための努力をしていかなければいけない。

フェイスブック社がVR開発のオキュラス社を買収し、2017年に「フェイスブック・スペース」というソーシャルVRプラットフォームを発表した。フェイスブックのアカウントと連動し、知り合い同士で集まるための空間だ。フェイスブック社は、VRを現実逃避の娯楽ではなく、既存の人間関係を深めるものとして捉えているのだ。

フェイスブックの調査では、VRが内向的なタイプの人に強い影響を与えることがわかった。VRによって交流の現実味が薄まることで自意識が和らぎ、社交的になることができるのだ。また、VRの社交クラブを称する「レックルーム」では、見知らぬ男女がVRを通して結婚したケースもあるという。今後そうしたカップルが増えていくだろう。

「VOID」などのVRゲーム施設が、VRの普及に貢献しているが、あなどれないのがVRポルノだ。アダルト業界はいつの時代もテクノロジー活用の最前線であり、ビデオもCDロムもストリーミング配信も、ポルノを手軽にこっそり観るための手段として一般化した。一方でストリーミング配信の登場により、アダルトDVDが売れなくなったことも事実である。そこで業界は3Dや超高精細度映像など新たなテクノロジーに飛びついたが、どれもダメだった。なぜなら他人のセックスを観るというポルノの本質は変わらないからだ。

しかし、VRポルノは既存のポルノと一線を画している。VRでは、異性がすぐ近くにいるときのごく自然な興奮と“親密さ”が得られるのだ。他人のセックスを盗み見る側ではなく、当事者になるというVRポルノのプレゼンスにより、既存のポルノの趨勢をひっくり返す勢いだ。現にアメリカではVRのアダルトライブチャットまで登場しているほど。

さらにVRとAR(拡張現実)の融合も急速に進んでいる。アップルが2020年にARヘッドセットの発売を目指しているが、理論的にVRヘッドセットと兼用が可能だ。今後10年でVR(AR)ヘッドセットはスポーツサングラス並みに小さく軽くなり、画面も人間の目の解像度に近いものになっていく。「10年後には誰もスマホを使っていない」と予測する研究者もいるほどだ。SFのような世界が実現したとき、私たちの日常はどれくらい変わっているだろう?

『フューチャー・プレゼンス』 3つのポイント

●VRの実体感(プレゼンス)は、“親密さ”を生む

●VRは単なる娯楽ではなく、コミュニケーションの手段になる

●10年後にはスマホではなく、VR&ARヘッドセットの時代になる

文●大寺 明