元プロ格闘家が作るお弁当は、オリジナルの「イケだれ」が決め手! 東京池上のお弁当屋さん「Nanary」の独立ノウハウ

秋葉雄大/1984年東京都生まれ
高校時代からテコンドーに打ち込み、大学時代に全日本大会・無差別級でベスト8に進出。その後、キックボクシングに転向し、プロデビューを飾る。大学卒業後、株式会社明治屋に6年間勤務。31歳で独立し、オリジナルのタレを販売。2016年4月に「イケダレ」を使ったお肉のお弁当屋「plate lunch Nanary」を東京池上にオープンした。


――独立DATA――
31歳で独立
【開業資金/計650万円】

・物件の保証金など/60万円
・外装・内装費/400万円
・厨房設備費/60万円
・冷蔵庫、冷凍庫、製氷機等/5万円
・材料費・仕入れ代/30万円
・ホームページ制作費/50万円
・トイレの手洗い設備/5万円
・運転資金/40万円

起業準備として貯蓄していたため、開業資金のほとんどは自己資金でまかなった。洋風の店構えにする外装費・内装費にお金をかけ、そのぶん倉庫内やパソコンなどをする部屋の内装は抑え、冷蔵庫や製氷機などの設備も海の家を経営していた知人から格安で購入するなど、なるべく出費を抑えるようにしたが、今でも悔やまれるのが、業者に依頼したHP制作費50万円の出費だ。BtoBの商売の場合、HPは効果的だが、BtoCの客商売の場合は費用対効果が低いそうだ。むしろSNSの方が効果的とのこと。

――事業内容――
plate lunch Nanary
オリジナルのタレ「秘伝のイケだれ」を店舗とマルシェで販売し、その他に都内14店舗と山形県長井市の道の駅などに卸している。店舗では「イケだれ」を使ったお肉のお弁当をテイクアウトで販売している。その他、山形県長井市と提携した、Bリーグのアースフレンズ東京Z応援米「Z米」や新商品の玄米コーヒー「池上の忍茶」などの物販も行う。

大田区の池上は、池上本門寺の門前町として栄え、昔ながらの土産物屋や食事処も多い風情ある街だ。この商店街の一角に洋風お弁当のお店がオープンした。てっきり地元の人がオーナーかと思いきや、杉並区出身で元プロ格闘家とのこと。もともとオリジナルのタレの販売で独立し、たまたま池上本門寺の朝市に出店したところ、商店街の人々の心意気に共感し、池上に出店を決めたという。こうして誕生した池上の新名物「秘伝のイケだれ」とは?

プロ格闘家を目指し、キックボクシングでプロデビューを飾るも、先が見えない……。結婚を機に就職することに

 高校時代からテコンドーに打ち込んでいました。マンガの影響で子どもの頃から格闘技が好きだったんですが、みんなと同じ格闘技はやりたくなくて、テコンドーを選んだんです。格闘技をやっていく上で目標が2つあって、ひとつは自分の力で稼いで生きていくこと。もうひとつはファイトマネーをもらうことでした。だから、高校生の頃からプロ格闘家を目指していたんです。

 だけど、テコンドーにはプロがない……。大学2年のときに下北沢に自分のテコンドー道場を持っていました。たまたま前任者がいなくなったので道場を引き継ぐことになったんですが、20人くらい生徒がいて月10数万円の収入になっていたので、将来的にテコンドー道場で生計を立てていくことも考えましたね。

 軽量級で全国1、2位を競うまでになって、全国大会の無差別級でベスト8まで進出したこともありました。だけど、このまま続けても先がない。その頃、テコンドーの団体で一番えらい人の内弟子という立場になって、すごく良くしてもらっていたんですけど、最終的に意見のすれ違いもあってテコンドーは辞めることにしました。大学3年のときから並行してキックボクシングをやっていたので、そっちでプロを目指すことにしたんです。

 プロデビュー戦で生まれて初めてファイトマネーをもらいました。だけど、プロといっても数万円なので、これで生計を立てていくのは難しいですよね。しかも試合が3カ月に一回とかなので、たとえ一流選手でもファイトマネーだけでは食べていくのは難しい。だから、スポンサーを付けているプロ選手が多いんです。

 プロ格闘家になるつもりだったので就活もしなかった。大学を卒業するとき、このまま格闘技を続けていくのか、考えざるをえなかった。プロデビュー前に10数試合しているんですが、ずっとKO勝ちでした。だけど、プロデビュー戦で3階級上の選手とやることになって、延長の末、判定負けでした。2試合目も上の階級の選手とやって判定負け……。たとえ階級が上とはいえ、このレベルの選手に勝てないようじゃ先はない。次やれば絶対勝てるという自信はあったけど、自分が世界を目指せるレベルじゃないことを肌で感じましたね。

 実はこのとき結婚を決めていて、嫁さんのお父さんにご挨拶に行くことになったんです。だけど、「格闘技やってます。明日のことはわかりません」と言うのはさすがに心苦しい……。格闘技は好きだから続けたい。でも、好きなことを続けるといっても相当お金を切り詰めて生活していくことになりますよね。ずっと起業に憧れがあったんですけど、それもふわふわした感じで定まらない。結婚のご挨拶に行くにあたって、一旦就職することにしたんです。

妻のお母さんが作った自家製のタレが絶品! これで起業しようと思い立ち、マルシェで市場調査をくり返した

こうして就職したのが、全国にスーパーを展開する株式会社明治屋でした。1年目は広尾店に配属されて青果部門で働いたんですが、富裕層の方が多かったので接客業のメンタルが鍛えられましたね(笑)。2年目から横浜中華街の店舗に配属になったんですが、小さな店舗だったので、店長がいないときは店の開け閉めから全部、自分に任せてもらえて、お店の流れがわかってすごく勉強になりました。

 就職したときから、いずれ何かしらで起業するつもりだったので、嫁さんには「3年で辞めたらごめんね」と話していたんですが、結局、24歳から30歳までの6年間、勤めました。なぜかというと、起業する種を見つけられなかったからです。だけど、30歳をメドに独立することは決めていました。じゃないと、リスクが怖くなって辞められなくなると思ったんです。

 起業の種が見つかったのは28歳のときです。嫁さんの実家が昔、焼き肉屋やっていて、家で焼き肉を食べていたら焼肉のもみタレがすごく美味しかったんです。このタレで起業できないかと思って、さっそく嫁さんのお母さんにレシピを教えてもらいました。お母さんは目分量で作っていたので、それを数値化して何回か試しに作ってみて、いろんな人に食べてもらいたいと思いましたね。

 だけど、知人に試食を頼むと、良くも悪くも考えすぎてしまって率直な感想を聞けない。見ず知らずの人の感想を聞きたかったので、タレを使った牛ハラミの串をマルシェで販売してみることにしました。あくまで市場調査が目的だったので、値段は赤字にならない程度の200円にしましたね。

 直接、感想を聞くとお客さんも構えてしまうので、カップルが食べて感想を言い合ってるのを、そばでそっと聞くようにしたりしてましたね(笑)。そうやってお客さんの反応を見ながら、徐々に味を改良していきました。こうして動いているうちに、加工食品を販売するために必要なことがわかってきました。自分のお店で直売するのは大丈夫なんですが、加工食品を店舗に卸して販売する場合、食品工場で製造しなければいけないという保健所の規定があるんです。

半年にわたる食品工場とのやりとりを経てタレを商品化。アンテナショップとして、お弁当屋の開業を思い立つ

 そんなとき、勤めていた横浜中華街の店舗が再建されることになり、一旦、全スタッフが転勤することになったんです。1年ほど前にその辞令が出されたのですが、起業するチャンスだと思いましたね。会社の仕事しながら、起業の準備として一番小ロットでタレを作ってくれる食品工場をネットで探しました。

 静岡の食品工場に製造してもらうことが決まり、レシピとサンプルを送ってやりとりをしていたんですが、最初はまったく違う味になって苦労しましたね。レシピどおりに作れば同じ味になるはずだと思っていたのですが、材料が違うと微妙に味が変わってしまうんです。かといって同じ材料を使うことも難しい。たとえば工場が仕入れている唐辛子ではなく、僕が使っていた唐辛子を使おうとすると、工場にトン単位で仕入れなければいけないんです。

 僕のこだわりとして、賞味期限を延ばすために保存料や増粘剤は入れたくなかった。そうすると加熱することになって、火をかけるタイミングによってまた味が変わってくる。なので、材料を変えてみたり、火にかけるタイミングを変えたり、もうちょっと甘みや辛みを強くしてもらったり、半年くらいすり合わせをしていましたね。

 退職後しばらくは週末だけマルシェに出店していました。タレが1本売れると100円儲かるとしますよね。たとえ1000本売れても10万円だから、それだけで生活していくことは難しい。どうにかして日銭を稼がないといけないと思って、料理にタレを使ったお店を開きたいと考えたんです。あくまでメインはタレを販売することで、タレの味を知ってもらうためのアンテナショップをイメージしました。

 最初は飲食店を考えていたんですけど、開業資金が1千万円くらいかかりますし、家賃、光熱費、人件費などのランニングコストも相当かかる。それもあってテイクアウトのお店にしようと考えたんです。その際、思い描いたのがハワイで食べた骨付きカルビのプレートでした。世の中で一番美味いお弁当だと思ったし、日本で見たことがないので、これならイケる!と思いました。腕のいいシェフがいないと成り立たないという飲食店ではなく、お弁当にして肉は何グラム、ご飯は何グラムというふうにシステム化すれば、人を雇うにしてもアルバイト一人でお店を回せるので、ランニングコストも抑えられると考えたんです。

商店街の人々の心意気に共感し、池上にオープン。商品名を「イケだれ」に変えて、地域に貢献していきたい

 僕は杉並出身なので杉並で物件を探すつもりでした。それがなぜ大田区の池上でお店を出すことになったかというと、結婚して10年くらい池上に住んでいるんですが、あるとき池上本門寺の朝市に出店したことがきっかけでした。ところが、当日は朝から土砂降り……(苦笑)。お客さんがいなくてヒマを持て余していたとき、池上の商店街連合会の事務局長が話しかけてくれて、「池上で店を出すなら相談に乗る」と言ってくれたんですよね。

 印象深かったのは、早朝の暗いうちから商店街の会長さんや高齢の方がテントを設営していて、みんなで池上を盛り上げようという一体感を感じたことでした。それまで商店街なんて面倒だと思っていたんですけど、この商店街だったら一緒にやっていきたいと思いましたね。池上本門寺は日蓮宗の大本山で観光資源としてのポテンシャルも高い。これからもっと盛り上がっていきそうな可能性を感じたんです。

 池上の商店街に入りたいと思ったその日から、商店街近辺を集中的に探しました。池上駅から徒歩3分で1階の物件としては家賃は安かったんですが、そのかわり裏道りで人通りは少ない。僕としては爆発的にお弁当を売ろうというより、あくまでタレのアンテナショップという位置づけだったので、自分の身の丈に合っていると思いましたね。

 こうして2016年4月にオープンしたわけですが、思ったほど運転資金が残らなかったので、宣伝も何もしなかった(笑)。最初の頃は地元の人がちょろちょろ来てくれるくらいで、貯金を切り崩しながら営業していましたね。そんなとき、池上商店街にケーブルテレビの取材が来て、商店街の人の紹介でうちも取材してもらえたんですよ。

 よそ者にこんなに良くしてくれることがうれしくて、池上に貢献したいと思いました。それで「イケだれ」という商品名に変えようと考えたんです。商店街の人に「勝手に名物と名乗ったら問題になりますか?」と聞いたら、「べつに名乗るのは自由だよ」って言われて(笑)。

 そこでまず池上に来た人がお土産に何を買っているかを調べました。すると、やっぱり和菓子や洋菓子など日持ちがしないものが多かった。タレなら日持ちがするので、いつ渡すかわからない人へのお土産として買ってもらえるのではないかと思いましたね。前は「秘伝のもみだれ」という商品名だったんですが、あんまり売れなかった。それが「イケだれ」に変えて、ラベルも池上のデザイン会社に頼んで作り直したところ、売れ行きがまったく違うんです。大田区のお土産100選や「おおたの逸品」に選ばれたりもして、あらためてネーミングはすごく大事だと実感しましたね。

 商売をやっていると、いろんな日があります。1日に800円のお弁当一つしか売れない日もあったけど、大事なのは、そこで心が折れないことなんですよね。これは格闘技で培われた精神でもあるんですけど、どんなことでも心が折れてしまったら絶対勝てない。諦めなかったことが、お店を続けてこれた一番の理由だと思いますね。

「イケだれ」&お弁当屋 独立ノウハウ集

独立前

物流の流れを知るべし

「イケだれ」を市場に流通させたい秋葉さんにとって、大手スーパーで働いたことで物流の流れを知ったことが大きかった。多数の店舗を持つ大手スーパーでは、店舗が食品メーカーから直に仕入れるのではなく、本部の買い付け部署や仲卸業者が仕入れ、一旦、倉庫に集めてから各店舗に出荷される。つまり営業をかける際、店舗ではなく、本部の買い付け部署や仲卸業者にアプローチしなければ無駄骨になってしまうのだ。現在、「イケだれ」は都内14店舗と山形の道の駅に卸しているが、今後はamazonや大手スーパーに流通させていくのが目標だ。

「やりたいこと」を人に話すべし

起業を目指す人にアドバイスするとしたら、「とにかく人に話すこと」だと秋葉さんは言う。マルシェに出店した際は、とにかく他の業者と話すようにしたそうだ。そこで他のマルシェの情報を聞いたり、食品を販売している人に販売方法や保健所のルールを聞いたりして情報を集めた。また、池上で開業した経緯も商店街の事務局長に「お店を出したい」と話したことがきっかけだった。一人で考えていると広がりはないが、人に話すとそこからどんどん広がって、活路が開けてくるものなのだ。

保健所のルールに合わせて改装すべし

お弁当屋を開業するには保健所の認可が必要だが、設備面でさまざまな規定があるので、これをクリアするように改装工事をしなければならない。中でも見落としがちなのが、従業員用のトイレに手洗いが付いていることと、トイレと調理場の間に仕切りが必要なこと。秋葉さんが借りた物件は、トイレが狭く手洗いが付いていなかったため、保健所の認可を取るために小さな手洗いを設置した。また、トイレのすぐそばが厨房だったため、新たに仕切りも取り付け、狭いスペースにやけに扉が多い作りになったそうだ。

独立後

食品ロス&ゴミを減らすべし

ランニングコストにゴミ処理代を計算している人は少ないのではないだろうか。家庭ゴミと違って、事業者が出すゴミは有料なのだ。その際、「事業系有料ごみ処理券」を購入して地域の行政に回収してもらう方法と、民間の産廃業者と契約して回収してもらう方法がある。大田区の場合、45Lのゴミ回収が340円ほどだが、それが毎日何袋も出るとバカにならない。特に飲食店は食品ロスが出て損をするばかりか、それを捨てるのに二重に損をする。そのため秋葉さんは注文後にお弁当を作るようにして食品ロスを減らし、ゴミを出さないように心がけている。

「災い転じて福をなす」を信じるべし

Nanaryのお客で一番多いのが警察官だという。池上警察署や蒲田警察署にお弁当をデリバリーしているのだ。これもひょんな縁があり、以前に営業妨害をする厄介な人が来店し、警察を呼んだところ署内にお店の評判が広まっていったそうだ。「運がいいですよね」と秋葉さんは笑うが、これも秋葉さんのめげない姿勢が運を引き寄せているのだろう。初めて朝市に出店した際も雨で運が悪かったが、そのかわり商店街の関係者と知り合いになることができたというふうに、「自分は運がいいと思い込むことが大事」だと秋葉さんは言う。

地域密着型で街の活性化に貢献すべし

お弁当屋は駅前やオフィス街にあった方が立地的に有利だが、Nanaryは商店街から少し入った裏通りにある。秋葉さんが人通りよりも池上商店街に入ることを重視したからだ。池上は池上本門寺の門前町として観光客も多く、商店街は街の活性化に力を入れている。この商店街に加わったことで「イケだれ」を名乗ることができたばかりか、池上と防災連携都市の山形県長井市と提携することができたり、障害者支援施設が運営する大田区役所のカフェでお弁当を販売できたり、地域密着型のお店にすることで、さまざまな恩恵が得られている。

取材・写真・文●大寺 明

お肉と野菜が美味しい池上のお店
プレートランチNanary

池上で美味しいお肉と野菜、こだわりのお米が食べられる
プレートランチのお店です。

お肉の味付けをしているオリジナルのタレは、
いろいろなイベントに出店して、じかにお客様の反応を見て、
研究改良を重ねたこだわりの味です。

お米は、山形県長井市の全国コンクール金賞受賞の遠藤孝太郎さんの
特別栽培米「つや姫」を使用しております

忙しいお母さんたちに、「安心して子どもに食べさせられる」と
思ってもらえるような素材とメニューにこだわっています。
皆さまのお越しを、心よりお待ちしております。

【営業時間】11:00~19:00 月曜定休
〒146-0082 東京都大田区池上4-32-2
東急池上線「池上駅」より徒歩3分
03-6410-3985

大田区お土産100選に選ばれた池上の新名物
●秘伝のイケだれ/1本540円(税込)
辛みと甘みの絶妙なバランスがクセになる!
保存料を一切使用せず、独自開発したオリジナルのタレです。
焼肉はもちろん、冷奴や餃子につけても美味しいと評判!
池上を訪れた際は、ぜひお買い求めください。

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