「好きなこと=自転車」×「できること=理学療法士」をかけ合わせた体の専門家によるバイクフィッティング。ACTIVIKEの独立ノウハウ

西谷 亮/1993年兵庫県生まれ、東京育ち。
医療系大学の理学療法学科を卒業し、理学療法士の医療国家資格を取得。都内の病院に理学療法士として勤務し、さまざまな患者のリハビリテーションに携わる。2018年7月に独立し、「自転車×理学療法」というアプローチでバイクフィッティングやボディケアを提供する『ACTIVIKE』を開業。自らもサイクリストとしてヒルクライムレースやロングライドイベントに出場している。

――独立DATA――
24歳で独立
【開業資金/計 約7万円】
・バイクフィッティング用ローラー台:5万円
・施術用ベッド:1万円
・ドメイン代:3千円
・ヨガマット等備品:7千円

バイクフィッティングをやるには、ローラー台が必要だ。開業時に購入したものというと、この他に施術用ベッドとヨガマットなどの備品くらい。ホームページはWordPressを使って自作したので、ドメイン代しかかかっていない。また、開業直前に自宅兼事務所として施術スペースが確保できる広さの物件に引っ越した。一時的に売上が落ちたこともあったが、自宅が仕事場で固定費がかかっていなかったため、なんとか乗り切ることができたそうだ。

――事業内容――
ACTIVIKE
理学療法士の専門性を活かしたバイクフィッティングやサイクリスト向けのボディメンテナンスを提供。基本的なメニューである「バイクフィッティング」のほか、競技向けに個別エクササイズを加えた「トータルフィッティング」、ビデオ通話による「オンラインフィッティング」がある。サイクリストの体のケアをする整体施術(ボディメンテナンス)も行っている。また、継続的にオンラインでフィジカル面のサポートをするオンラインコンディショニングも行っている。

スポーツバイクを愛好する人が年々増えています。自分の足だけを動力源に遠くまで走る達成感があり、スピード感や旅の醍醐味も楽しめ、さらには有酸素運動として健康にもいいとあって、乗れば乗るほどハマるのが自転車です。そこで「自転車を仕事にしたい」と思う人もいるはず。まず思い浮かぶのがサイクルショップの開業ですが、今回取材した西谷さんは、なんと前職の理学療法士の経験を活かして独立。理学療法が自転車にどう生かされるんでしょう?

父と兄の影響で自転車好きになり、大学時代に170kmのロングライドを完走し、本格的にロードバイクにハマった

 もともと運動が苦手な子どもだったんですが、父と2人の兄が自転車好きで、僕も小4の頃から多摩川や檜原村まで一緒に走るようになったんです。当時は子ども用の6段変速の自転車だったので、お尻が痛くなってしんどい……と思うこともありましたけど、「自分の足だけでこんな遠くまで来た!」という達成感が毎回あって、だんだん自転車にハマっていきましたね。

 最初の頃はみんな普通の自転車だったんですが、一番上の兄がクロスバイクを買って、二番目の兄はマウンテンバイク、父はロードバイクを買ったんです。自分も本格的なスポーツバイクが欲しくなって、お年玉で貯めていたお金で12万円のマウンテンバイクを買いました。中学生には見たことがない大金なので、12万円が札束に見えましたね(笑)。

 高1のとき、家族4人で兵庫の祖父母の家までキャンプツーリングを敢行したんです。7日間かけて650kmを走るという初のロングライドを経験したわけですが、結局、キャンプをしたのは初日だけ。あんなにキャンプ用の荷物を積んで行ったのに、あとは普通にホテルに泊まってました(笑)。僕は非日常が好きなので、一日中ペダルを漕ぐという生活が本当に楽しかった。それが7日間も続くんです。旅が終わるときは、少し寂しかったですね。

 それから月に1回くらい父と二人で100kmくらい走ったりしていたんですが、高校時代は幼少期から続けていた剣道がメインでした。その頃、剣道で捻挫や打撲することが多かったので、ずっと通っていた接骨院があったんです。漠然と「体を治す仕事っていいな」と思っていたところ、兄が理学療法士の養成学校に進んだのをきっかけに、自分も理学療法士を目指すようになったんです。

 こうして医療系大学の理学療法学を専攻したわけですが、大学時代も父や兄と自転車を楽しんでいましたね。中でも大学4年のときに父に誘われて「ツール・ド・東北」という被災地を走るロングライドのイベントに出場したことが思い出深いです。170kmのカテゴリーだったのですが、自分には未知の距離だったので、最初は無理だよ……って思いました。

 エントリーしたのがちょうど病院実習の時期で、その合間に練習していたんですが、いざ出場したら、これがすごく楽しかったんです(笑)。ボロボロになって完走した達成感もひとしおで、心から「もっとロードバイクに乗りたい」と思うようになりましたね。自転車はずっと好きでしたけど、本格的にロードバイクにのめり込んだ一番大きなきっかけでした。

理学療法士の仕事にやり甲斐を感じつつ、「予防」の段階で関わりたいと思うようになり、独立を模索しはじめた

 大学卒業後、理学療法士として都内のリハビリテーション病院に就職しました。転倒して骨折した高齢者の方や脳梗塞で体が麻痺してしまった患者さん、ガンなどで長期入院しているうちに筋力が落ちてしまった患者さんなど、何カ月もリハビリに関わる仕事には、やり甲斐を持っていました。その一方で、「ケガや病気になる前の段階から関わりたかった」と思っていて、理学療法士として何か予防でできることはないか?と漠然と考えていましたね。

 一方、社会人になって一人暮らしを始めてから、自転車の楽しみ方も変わってきました。それまで父と二人で走りに行くことが多かったのですが、今度は一人で峠に走りに行くようになって、ひたすら行ったことがない峠を目指すことが目的になっていましたね。足を着かずに峠を登りきることを目標に、いくつも峠をクリアしていくうちにだいぶ脚力もついてきました。その甲斐あって2度目の「ツール・ド・東北」も完走できました。210kmのカテゴリーで12時間走り続けたんですが、一日中、雨でしんどかったですね(笑)。

 その後、働いてお金も貯まったので、数十万円のロードバイクを買ったんです。それまで父のお下がりの古いロードバイクに乗っていたので、やっぱり高いだけのことはあるなって感動しました。ペダルを踏んだときの反応速度や車輪の滑らかさがぜんぜん違うんですよね。それからヒルクライムのレースに出場するようになりました。ひたすら坂を上る競技なんですが、自分の力でグリグリ登っていく感覚が、だんだん楽しくなってくるんですよね(笑)。

 一方、仕事のほうは、病院で働きはじめた当初から、これじゃないな……という思いがあって、とても定年まで勤めあげる気にはなれなかった。仕事自体にはやり甲斐を感じていたのですが、毎日同じ時間に起きて同じ場所で仕事をして……という繰り返しが性に合わなくて、わりと早い段階から独立を模索していました。

 そこで、独立した理学療法士の先輩に何人も相談して、さまざまな可能性を検討しました。ただし、理学療法は保険適用される治療なので、病院勤務が前提になっていて、理学療法士として開業することはできないんです。だから整体師として開業して、「理学療法士の国家資格を保有しています」くらいに留めている人が多い。自分も最初は整体師として独立することを考えていたんですが、「整体×理学療法」はすでに大勢の人がやっているので、これでもないな……って。人と被りたくない精神が出てしまったんです(笑)。

自転車という運動習慣を継続してもらうために、理学療法士の知識を活かしてサポートしていきたいと思うように

「好きなことを仕事にする」とよく言いますけど、僕が好きなことというと、自転車しか考えられなかった。そこで「自転車×理学療法」をかけ合わせれば、何かできるんじゃないかと思いました。退職を決めたとき、不安がゼロとは言わないですけど、それよりも好きなことを仕事にできるワクワク感のほうが大きかった。大変だろうけど、好きなことなら頑張れるだろうって。

 そのとき考えていたのが、予防という観点から自転車に乗る習慣を継続してもらうことです。自転車という有酸素運動を習慣化することで、糖尿病などの生活習慣病の予防になりますし、心臓や循環器系の機能も鍛えられるので、心筋梗塞などのリスクも減らせます。もちろん足腰を鍛えるにもいいですよね。自転車は本当にいいことだらけなので、それを少しでも長く続けられるようにサポートしたいと思いました。そうした運動習慣が継続できれば、僕が病院で看てきたような患者さんも減るはずです。

 すでに自転車を趣味にしている人に対しては、理学療法士として体づくりをサポートしていきたいと思いました。本来、自転車は体の負担が少ない動きなんですが、長時間乗ったり、競技的に走ったりしていると、やはり体を痛めやすい。特にヒザと腰の故障が多くて、それが原因で自転車からしばらく遠ざかっている人が周りに多かったんです。理学療法士として筋トレやストレッチによってケガや故障を予防し、自転車をしっかり楽しんでほしいと考えましたね。

 欧州ではロードレースのチームに理学療法士が参加することがあって、「自転車×理学療法」はそれほど珍しいものではありません。だけど、僕が知る限り、日本の自転車業界で理学療法士は見たことがない。たぶん日本で僕だけだと思います(笑)。他に誰もやっていないということは、ある意味、ブルーオーシャンですよね。今やれば、すぐにそのポジションを取れるんじゃないかと思いました。あとは、やってみなきゃわかんない――それだけでしたね(笑)。

 とりあえず、「できることからやってみよう」と思って、ツイッターで積極的に情報発信することにしました。まず、自転車に詳しい理学療法士であることを伝えたかったのと、サイクリストのニーズや悩みを知りたかったというのもあります。情報発信の際は、理学療法の知識と自転車ならではの内容を掛け合わせて、サイクリストの役に立つ情報を意識しました。理学療法士からすると初歩的な知識であっても、一般の人にはあまり知られていないことが多い。そういう情報にこそ価値があるはずです。本当にヒマさえあればツイートしてましたね(笑)。

ツイッターのつぶやきから、「バイクフィッティング」の仕事が生まれた。開業2カ月で次々依頼が入り、今では売上の9割を占めてます

 実は、独立してすぐにやっていけるとは思えなかったので、企業向け産業理学療法の業務委託の仕事と、フィットネスクラブのパーソナルトレーナーの仕事を掛け持ちして、3本柱でやっていくつもりでした。ところが、開業2カ月くらいでACTIVIKEの仕事が忙しくなって、結局、他の仕事まで手が回らなくなったんです。

 そのきっかけがツイッターでした。あるとき「理学療法士がバイクフィッティングをやったら面白いかも」とつぶやいてみたんですよね。すると、かなり反応があって「ぜひやってほしい」という声が多かったんです。実際に依頼をしてくれるフォロワーの方がいて、その後もどんどんツイッター経由で依頼が入り、開業2カ月で病院時代の給料よりもいい収入になったんです。今では売上の9割をバイクフィッティングが占めています。もともと整体とパーソナルトレーニングだけでやっていくつもりだったので、今思うと危なかったですね(笑)。

 よしこの調子で!と思っていたんですが、開業3カ月目からだんだん依頼が途絶えてきました。収入も一気に下がって、胃が痛かったですね(苦笑)。自宅兼事務所で固定費がかかっていないので、なんとか生活はできるんだけど、このままやっていけるかな……って不安になる時期もありました。9月の秋口から依頼が減りはじめたんですが、今思うと、秋は自転車に一番乗りやすいシーズンなので、サイクルイベントも多いんです。バイクフィッティングの依頼が減るのも当然です。

 その間もツイッターの情報発信を続け、1000弱だったフォロワー数が1700くらいまで増えたあたりからコンスタントに依頼が入るようになり、年末から売上が回復してきました。冬場は依頼が少ないだろうと予想していたんですが、実際は冬から右肩上がりで依頼が増えていって、3月は特に多かったです。おそらく、シーズンが始まる前に自転車の調整をしておきたいという人が多いのだと思います。あらためて、季節の影響をかなり受ける仕事だと実感しますね。

 僕は「好きなこと=自転車」と「できること=理学療法」を掛け合わせて仕事をしているわけですが、好きだからこそのセンスみたいなものがあると思うんです。バイクフィッティングの技術自体は、たぶん理学療法士ならできると思うんですが、やっぱり自分自身が自転車に乗っているか乗っていないかの差は必ず出てくるはずです。バイクフィッティングに関しては、少なからず僕自身の乗り手としての経験が活きています。あとは単純に「ここを走るといい」といったお客さんとの会話が弾みます(笑)。それも楽しいことのひとつなんですよね。

 バイクフィッティングを受けていただいたお客さんから「自転車に乗るのが楽しくなった」、「おかげでレースのタイムが伸びた」という話を聞くと、自分事のようにうれしくなります。今後も仕事の質をもっと上げて、「購入して最初にバイクフィッティングをするならACTIVIKE」と認識されるくらいまで頑張っていきたいですね。

自転車×理学療法士 独立ノウハウ集

独立前

理学療法士になるには?

理学療法士の国家試験を受験するには、養成校で3年以上学ぶことが必要だ。養成校には4年生大学、短期大学(3年制)、専門学校などがあり、西谷さんの場合、医療系大学の理学療法学科を専攻し、学科と臨床実習などで学んだ後、国家試験を受けて取得した。理学療法士とは、ケガや病気などで体に障害のある人や、その予防として運動療法や物理療法を行うリハビリテーションの専門職であり、治療は健康保険の適用を受ける。そのため就職先は、病院と介護施設がほとんどを占めている。

多様な人と接し、コミュニケーション力を鍛えるべし

リハビリ病院に勤務し、対人の仕事をしてきたことが今の仕事に役立っているという。ケガや病気などで日常生活に支障をきたすようになった患者は、複雑な精神状態に陥るため、西谷さんは相手の気持ちをケアして言葉がけを工夫したり、悩みをくみ取りながら提案することを心がけてきた。いざ開業すると、さまざまな年代や特性の人と接することになり、その都度、相手の困り事や要望を聞き出していく必要があるわけだが、病院時代に多様な人と接してきたおかげで、コミュニケーション面での苦労は感じなかったそうだ。

プロモーションは、ツイッターを最大限活用すべし

独立準備として、西谷さんはツイッターのフォロワー数を増やすようにした。情報発信の際は、腹斜筋や腸腰筋といった専門用語は極力使わないようにし、「腿の付け根の筋肉」というふうに誰にでも伝わる言葉で書くことを心がけたそうだ。そうしたツイッターの情報発信が功を奏し、バイクフィッティングのニーズを確認できたばかりか、最初のお客になってくれたのもツイッターのフォロワーだった。セラピストが開業するとき、最初の一人目のお客を見つけることが非常に難しいとされるが、そんなとき、個人が共通の趣味を持つ人にアプローチできるツイッターは、とても心強いツールだ。「ツイッターがなかったら今の仕事はなかった」と西谷さんは振り返る。

起業後

理論を学んだ後、さまざまな人を相手に検証すべし

西谷さんがバイクフィッティングをサービス化する際、最初は専門書で独学していたが、やはり解説だけでは理解しづらく、自分の自転車で調整を繰り返したり、プロ選手の動きを参考にして研究した。関節の角度と筋肉の連動の理解などは、やはり理学療法士の知識があったからこそできたことだという。その後、モニターを5人ほど募って実際に検証してみたところ、かなり好評だったことから西谷さんはサービス化の自信を得た。やはり人それぞれに体型や姿勢、筋肉の付き方や関節の硬軟が違うため、ベーシックな基準を作った上で、実際にさまざまな人に試してみることが大切だ。

パーソナルなサービスを提供すべし

バイクフィッテングは、元プロ選手や大手自転車ショップが行っていることが多いそうだ。自転車ショップの場合は、お客の身体データを取り、3D動画解析の大掛かりな専用設備で行うことが多く、料金もそれ相応にかかる。これに対し、西谷さんは「動作の専門家」ともいえる理学療法士の知見を活かし、一人ひとりの体の特徴に合わせた最適な調整ができることが強みだ。この1年で200人ほどのバイクフィッティングを行ってきたことで、さらに知見も溜まり、一人ひとりまったく異なるアプローチが可能になったという。

仕事も趣味も楽しみ、独立人生を謳歌すべし

西谷さんにバイクフィッティングを依頼するお客は、趣味で自転車を愛好している人が大半を占める。専門家に「自分の最適なポジションを教えてほしい」というニーズが多く、そのため何度もリピートする感じでもないらしい。平日働いている人が多いため、お客は土曜日に集中する(※日曜定休)。月20~30人くらいお客があるそうだが、平日は多くても2人程度で、土曜日に4、5人が集中するため、平日は来客の合間にHPを更新したり、ブログを書くといった仕事をしている。そこで思い切って営業日を週4日にしたそうだ。週3日はレースに向けてトレーニングに励んだり、自転車で自由に走りに行けるようになり、趣味も仕事もとても充実しているそうだ。

取材・写真・文●大寺 明

ロードバイク×カラダのこと
ACTIVIKE

東京都調布市を拠点に
医療国家資格である理学療法士(=体の専門家)の専門性を活かし、
一人ひとりの体の特徴に合わせた
『バイクフィッティング』と
サイクリストの体のサポートをする
『整体施術』『パーソナルトレーニング』を提供しています。

カラダの専門家によるバイクフィッティングは他にないものです。
ロードバイクを購入したばかりで「最適なポジションがわからない」という方、
「もっと気持ちよく遠くに走りに行きたい」という方、
レースに向けて「もっとタイムを伸ばしたい」という方、
自転車に乗る上で「カラダの悩みがある」という方は、
ぜひ一度遊びに来てください!

【営業日】火・水・木・土

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ACTIVIKE
にっしー/サイクルセラピスト

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