『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』要約まとめ

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

アップル、グーグル、フェイスブック――これらの世界的企業もかつてはベンチャーだった。同じく世界最大のオンライン決済システム「ペイパル」もベンチャーとして少人数でスタートした。ペイパル共同創業者のピーター・ティールは、その後、エンジェル投資家として数百社のスタートアップに投資してきた。その経験を通して彼が語る「ゼロから1を生む」思考とは?

 多くの起業家は、グーグルやフェイスブックの成功を見て、次に続くことを目指す。しかし、アメリカビジネス界の伝説的人物であるピーター・ティールは、「ビジネスに同じ瞬間は二度とない」と告げるのだ。すでに在るものをコピーすることは「1がnになる」ことであり、「ゼロが1になる」わけではないのだから。

「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」
 ティールは採用面接で必ずこの質問をするという。「この国の教育制度は崩壊している」「アメリカは非凡な国家だ」「神は存在しない」といった答えがよく聞かれるそうだが、これらは現在を異なる視点で見ているにすぎない。ティールが求めている答えは、どれだけ未来へと視点を近づけられるかだ。未来は今とは違う。しかし、未来は今の世界が元になっている。世の中の人が信じきっている今の状況を超えたところに、「隠れた真実」があるという考えだ。

 未来を考える際、ティールは「水平的進歩」と「垂直的進歩」に分けて考える。1台のタイプライターを100台作るのは水平的進歩であり、タイプライターからワープロを創ることが垂直的進歩だ。マクロレベルで考えたとき、先進国で成功したことを他の地域に広げる「グローバリゼーション」は水平的進歩となる。これに対し、テクノロジーは「ゼロから1を生む」垂直的進歩となる。コンピュータの分野に限らず、新しい取り組み方やより良い手法はすべてテクノロジーだとするのがティールの定義である。

 グローバリゼーションとテクノロジーは異なる進歩の形であり、未来を左右するものとしては、テクノロジーの方がはるかに重要だとティールは断言する。そして、それを担うのが新しい考え方を持った独創的なベンチャーだとするのだ。

 しかし、こうした機運は、1999年にシリコンバレーで起きた「ドットコム・バブル」の崩壊で一転した。「世界を変える」と大口をたたいて資金調達した熱血起業家たちのほとんどが失敗し、テクノロジー楽観主義が否定的に捉えられるようになったのだ。以来、ライバル社の製品を改良して段階的に前進するといった経営が主流を占めるようになった。当然、ティールはこの流れを否定する。むしろ、過去の失敗への間違った反省から生まれた認識があるのではないか自問すべきだというのだ。

 ティールが「ゼロから1を生む」重要性を説くのは、市場競争を避けるためでもある。たとえば、アメリカの航空会社は数千億ドル規模の市場だが、平均の片道運賃178ドルのうち、航空会社の取り分はわずか37セント。新規参入が可能な業界は、供給が増えて価格が下がるため、長期的に利益を出す企業が存在しなくなり、結果、誰も得をしない。これに対し、「ゼロから1を生む」企業の好例であるグーグルの利益率は航空会社の100倍にもなる。差別化のないコモディティ・ビジネスではなく、他社とは替えがきかないほど優れた独占企業を目指すべきだというのがティールの一貫した主張である。

 独占企業というと、消費者にとってはショバ代を徴収する存在でしかないように思える。これは「世界がまったく変化しない」場合の話だ。独占企業になって長期的な収益が見込めるようになると、長期計画を立てて野心的な研究開発が行える余裕ができる。アップルが高くても欲しいと思えるiPhoneを開発したように、独占企業は消費者により多くの選択肢を与える存在になっていくのだ。進歩の歴史とは、より良い独占企業が既存の独占企業に取って代わってきた歴史だと言えるのである。

 研究開発に対してオープンな姿勢を貫いている限り「創業」は続き、それが止まると「創業」は終わる。起業の瞬間を引き延ばす企業こそが、もっとも価値ある企業だとティールは考えている。つまり、未来にキャッシュフローを生み出す企業こそが偉大な企業だという考えだ。

 イノベーションに成功の方程式はない。なぜなら、これまでにまったくなかったビジネスモデルだからだ。ただし、そうした企業にはいくつかの特徴があるという。まず、二番手よりも少なくとも10倍は優れていること。そうなるためには、まったく新しい何かを発明して先駆者となるのが一番だ。あるいは既存のソリューションを10倍改善するのでもいい。たとえばペイパルはイーベイの取引を10倍以上改善し、アマゾンはほかの書店の10倍の書籍を揃えた。もう一つの特徴が、ネットワーク効果を狙うこと。たとえばFacebookはみんなが使っているからこそ、自分も使う理由となっている。

 今では当たり前とされているアイデアも、かつては誰も考えてもみないようなものだった。ティールはこれを「隠れた真実」と呼ぶ。どうすればそれを見つけることができるだろう? それは、誰も見ていない場所を探すことだという。ほとんどの人は教えられた範囲でものごとを考える。学校教育とは、社会全般に受け入れられた既存の知識を教えるところだ。まずそこから視点を変えてみるといいだろう。そうして飽くなき探求を続ける独創的な者の前にだけ、「隠れた真実」は姿を現すものなのだ。

 世界はグローバル化によって横ばいが続くと信じられている。あるいはグローバル規模の衝突で破滅する可能性だってある。しかし、新たなテクノロジーが生み出されることで、今よりはるかにいい未来へと向かうシナリオも考えられるのだ。特に期待されるのが、コンピュータが人類の知性を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」の研究だ。このようにティールは常に今の常識を疑い、まだ訪れていない未来に目を向ける。これが最大のヒントだろう。

 今日の「ベスト・プラクティス」はいずれ行き詰まる。まだ試されていない新しいことこそが「ベスト」なやり方だとティールは言う。そこに投資しなければ、アメリカ企業に未来はないと考えるのだ。

『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』3つのポイント

●ビジネスに同じ瞬間は二度とない

●賛成する人がほとんどいない「隠れた真実」を探す

●未知のテクノロジーこそが、世界を変える可能性を持つ

文●大寺 明