『ワーク・シフト─孤独と貧困から自由になる働き方の未来図』要約まとめ

ワーク・シフト─孤独と貧困から自由になる働き方の未来図

日本でも大いに話題となった世界的ベストセラー『ワーク・シフト』。テクノロジーの進化、グローバル化、エネルギー問題、長寿化といった要因により、18世紀後半の産業革命に匹敵する“働き方の変化”が起きようとしているとし、新たな職業人生を提案する内容だが、今あらためて読むと、確実に著者の予測どおりになっていると実感。未来はすでに訪れているのだ。

 2008年のリーマンショックを受け、これまで安定して好調を維持してきた世界的企業が軒並み揺らぎだした。この一連の流れは、景気後退だけで説明がつくものではないと経営組織論の世界的権威であるリンダ・グラットンは分析する。これまで常識となっていた企業のあり方や人々の働き方が根本から覆されようとしていると言うのだ。

 石炭と蒸気機関という新エネルギーにより18世紀後半に産業革命が起き、人々の働き方や生活様式は劇的に変わった。それまでの職人仕事から工場労働になり、人々の仕事は機械の「歯車」のように専門分化した。それにともない9時5時の勤務形態や、現役を退くまで同じ同僚と一緒という生活になっていった。しかし、今後数十年の間に、仕事の世界ではこれとは正反対の変化が起きる可能性があるという。

 その際、新たなエネルギーとなるのが爆発的に進化を遂げるコンピュータのデータ処理能力だ。産業革命のゆっくり世界に波及していく変化ではなく、今では変化の影響がただちにグローバルに波及し、スピードはますます加速していく。「テクノロジーの進化、グローバル化の進展、人口構成の変化と長寿化、社会の変化、エネルギー・環境問題の深刻化」、この五つの要因が世界を突き動かし、産業革命に匹敵する変化が今まさに進行しているのだ。

 それにともない私たちの仕事観も変わっていくわけだが、未来にいたる道筋は幾通りもある。悲観的な側面を強調したシナリオを描くこともできれば、主体的に未来を切り開く明るい未来を描くことも可能だ。本書では2025年の未来を舞台に、それぞれ負の面と好ましい面を具体的なストーリーとして紹介してゆく。

 たとえば負の面としては、世界各地のオフィスと24時間仕事ができる状況となり、ロンドンのキャリアウーマンは膨大なメールチェックやバーチャル会議など四六時中仕事に追われている。また、インドの医師とエジプトのプログラマーは、ともに高い専門技術を持ち、ネットを通じて海外の仕事を請けている。仕事を評価され十分な収入を得ているものの、生身の人間と接する機会はほとんどなく、孤独を抱えながら仕事をしているのだ。

 一方、アメリカやベルギーなど先進国の若者は、自分よりも賢くてやる気のある中国人やインド人の若者との競合となり、就職したくてもできず、ファーストフードや短期のアルバイトでギリギリの生活を送っているありさまだ。2025年の未来では、先進国に生まれたからといって豊かな暮らしができるわけではなくなり、格差はますます広がっていくと著者は予測する。

 以上が「暗い未来のシナリオ」である。これを「主体的に築く明るい未来」に書き換えためるには、個人個人が未来の世界でニーズが高まりそうなジャンルと職種を選び、高度な専門知識と技術を身につけることが不可欠。ただし、高度な専門技能を習得するには1万時間という膨大な時間を要するという説もあり、仕事で時間に追われている限り、なかなか身につくものではない。

 2000年以降に生まれる子どもの半分以上が100歳以上生きると予測されている。年金制度では支えきれなくなり、多くの人が70歳を過ぎても働く時代になっていくのだ。こうなると現役を退くまで一つの会社で勤め上げるといった職業人生は成り立たない。一つの専門技能を高めるとともに、ある年齢から他の分野へ移動したり、独立してミニ起業家になるといった選択もとらなければいけない。その際、新たな専門技能を習得するために、1年ほど仕事を離れ、学業やボランティアで経験を積むといった期間も必要になるだろう。

 未来の明るい面としては、世界の50億人がインターネットで結びつき、力を合わせて難しい問題に取り組む時代がやってくる可能性もある。また、エネルギー問題や環境問題に対して先進国が大倹約時代に突入し、大量消費社会に終止符が打たれるかもしれないのだ。そうなったとき、私たちの仕事観はお金を稼ぐためだけのものではなくなり、自分のニーズと願望に沿った「経験」を得るためのものに変わっていくだろう。

 その典型となる2025年のストーリーが、バングラデシュでボランティア生活をするアメリカ人夫婦の例だ。夫婦は自分たちの職業人生にとって何が必要かを話し合った結果、マイホームもマイカーも持たない生活を選び、大企業の仕事を1年間離れて海外でボランティアを経験することを選んだ。マイホームは土地に縛られるし、マイカーはエネルギー資源を消費する。夫婦は大量消費時代の成功モデルとは別の生活スタイルに価値を見出したのだ。

 仕事の世界には3種類の『資本』が必要とされる。明るい未来を切り開くためには、これを『シフト』させなければいけないというのが本書の提言だ。まず第一に「知的資本」のシフト。昔は幅広い分野の知識と技能をもつゼネラリスト的な人材が評価されたが、グローバル化が進展した未来では、同程度の能力をもつ人が世界中に大勢いるため、専門分野の技能を深め、自分を差別化しなければいけない。これが「第一のシフト」である。

 第二が「人間関係資本」のシフト。職場の人間関係がなくなり、孤独が深まっていく未来の世界では、生活に喜びを与えてくれる深い人間関係や、多様な情報や発想に触れる広く浅い人間関係など人的ネットワークを意識的に築いていかなければいけない。こうした人とのつながりによってイノベーションを成し遂げる姿勢、これが「第二のシフト」となる。

 第三は「情緒的資本」のシフト。古い仕事観では「仕事」とは単にお金を稼ぐことを意味していたが、前述のアメリカ人夫婦のように、どのような職業人生を送りたいかを真剣に考え、情熱を持って何かを生み出す生活に転換すること。これが「第三のシフト」だ。

 私たちがなじんできた仕事のやり方や働く理由は、産業革命後に形成されてきたものだ。働き手は機械のごとく扱われるようになり、個人個人が責任をもって人生を選択しなくなっていった。しかし、未来に向けた「シフト」について理解を深めると、私たちは大きな選択を迫られざるをえない。自分はどういう人間なのか。人生で何を大切にしたいのか。それを明確に意識して選択していくことが、私たち一人ひとりの未来の課題なのだ。

『ワーク・シフト─孤独と貧困から自由になる働き方の未来図』3つのポイント

●専門技能を高め、世界中の競合と差別化する

●70歳以上まで働くことを想定し、職業人生を考える

●お金ではなく“経験”を求める働き方へシフト

文●大寺 明