『生き方 人間として一番大切なこと』要約まとめ

『生き方 人間として一番大切なこと』

仕事は、お金を稼いで豊かな生活を送るためのもの。それもたしかに真実だけれど、それだけだと、利己的な考えになりがちだ。それに対し、京セラ、KDDIの創業者であり、JAL再建で知られる稲盛和夫氏にとっての仕事とは、人格を高めるための“修業”であり、社会の発展に貢献するという利他的なもの。ときには伝説的実業家の経営哲学に“生き方”を学んでみよう。

 著者の稲森和夫氏は27歳のときに京セラを創業。経営の素人だった稲盛氏はどうすれば経営がうまくいくのか見当もつかず、困り果てた結果、人のためになることをする、努力を惜しまない、嘘をつかない、といった「とにかく人間として正しいことを正しいままに貫いていこう」と心に決めたという。徹底してその生き方を実践した結果が、京セラとKDDIの成功である。

 稲盛氏の生き方を方程式で表すと、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」となる。掛け算であるため、能力があっても熱意に乏しければいい結果は得られず、逆に能力はほどほどでも燃えるような情熱をもって努力すれば、能力に恵まれた人よりはるかにいい結果が得られるとする。そして、3要素の中でも稲盛氏がもっとも重視するのが「考え方」だ。

 稲盛氏のいう「考え方」の特殊なところはマイナスが存在すること。これは利己的、強欲、嫉妬・嫉みといったネガティブな感情に基づく考え方を指す。大本になる考え方がマイナスだと、いくら能力や熱意を掛け算してもマイナスにしかならないというわけだ。

 では、プラスの考え方は何かというと、何も難しいことではなく、昔から小学校で教えられているような倫理観や道徳的な「よい心」のことだという。常に前向きで建設的であること、感謝の気持ちを忘れないこと、協調性を大切にすること。こうした人として正しい行いを軽視せず、血肉化していくよう努めることが、人生に大きな果実をもたらす秘訣にして王道だというのだ。

 人生とはその人の考えたことの所産だと稲盛氏は語る。これは多くの成功哲学の柱になっている考え方だが、著者は自らの人生経験から「心が呼ばないものが自分に近づいてくるはずがない」という信念を持つに至った。

 仏教に「思念が業をつくる」という教えがある。これは、思ったことが原因となり、その結果が現実になるというもの。だからこそ考える内容が大切になり、そこに悪しき考えを混ぜてはいけないというのだ。こうした話をすると、オカルトの類いとして拒否反応を示す人もいるかもしれないが、経営をとおして数々の体験してきた稲盛氏は、これこそ絶対法則だと確信するようになった。

 よい思いを持った人にはよい人生が開け、悪い思いを持った人は人生がうまくいかなくなる。この法則があまり理解されないのは、結果を短期的に見ているからにすぎない。20年30年という長いスパンで見たとき、たいていの人の人生は、その人自身が思い描いたとおりになっているものだという。

 事を成そうと思ったとき、まず「こうありたい」と思うことが必要。これがすべての始まりだが、生半可に願うだけではダメで、身が焦げるほどの熱意をもって願望し、それがカラー映像のように鮮明に見えるまで四六時中考え抜いたとき、ようやく物事を成就させる原動力になるという。

 若き日の稲森氏は、ちっぽけなガラスメーカーに就職し、一時は零細企業で働くことに不平不満ばかり感じていた。しかし、腐っていてもしょうがないと開き直り、とことん仕事に打ち込むことにしたところ、途端に物事が好転しだしたそうだ。そして、わずかな期間で世界的に画期的だったファインセラミックスの開発に成功。当時の稲森氏に専門的な知識や技術があったわけでもない。それは、まぐれ当たりとしか言いようのない幸運だったが、不思議なことにその後も幸運が続き、どんどん自分と会社を成長させていった。

 こうした体験から稲盛氏は、この宇宙のどこかに「知恵の蔵(真理の蔵)」とでもいうべき場所があり、私たちはその蔵に蓄えられた「知」を、新しい発想やひらめき、創造力としてそのつど引き出し、社会を発展させてきたのではないかと考えるようになった。そして、自分がその蔵を開くことができたのは、「狂」がつくほどの情熱を持って研究開発に打ち込んだからこそだと振り返る。

 65歳にして稲盛氏は得度をして仏門に入った。それは、あらためて人生とは何かを学びたいと考えたからだという。私たちはなぜこの世に生まれてきたのか。この壮大な問いの答えは「心を高める」こと意外にないと考えるに至った。その大目的の前では、財産、名誉、地位などいかほどの意味もない。稲盛氏が本当に立派だと思う人は、たとえ無名であっても美しい心を持った人である。神や仏、あるいは宇宙の意志は、何事かを成した人を愛するのではなく、何事かを成そうと努める人を愛するものだという。

 私たち凡夫がいくら修業しようが、悟りに達することはできないと著者は痛感している。しかし、そうであろうと努めること自体が尊いのだと稲盛氏は感得した。山ごもりをしたり、滝に打たれるといった特別な修業が必要というわけではなく、お釈迦さまが説いているように、目前の仕事にわき目もふらず打ち込むことが「精進」という修行法の一つであり、人格を高めるために一番有効な方法だと稲盛氏は述べている。

 私たちは今、先行きの見えない「不安の時代」を生きている。豊かなはずなのに心は満たされず、自由なはずなのに閉塞感を感じている。それは、多くの人が生きる意味や価値を見出せず、人生の指針を見失っているからだと稲盛氏は指摘する。人は何のために生きるのか。この哲学的な問いを私たちはもう一度考えてみるべきかもしれない。

『生き方 人間として一番大切なこと』3つのポイント

●人として正しいことを貫くことが、よい結果を生む

●事を成そうと強く願望し、燃えるような情熱で努力する

●仕事こそが、人格を高めるもっとも有効な方法

文●大寺 明