『日本人のためのピケティ入門:60分でわかる『21世紀の資本』のポイント』要約まとめ

日本人のためのピケティ入門:60分でわかる『21世紀の資本』のポイント

フランスの経済学者ピケティの『21世紀の資本』がアメリカのAmazonでベストセラー1位となり話題を呼んだ。日本でも13万部に迫る勢いだ。ピケティが唱える資本主義の問題点とは? ぜひ知りたいところだが、728ページもの大著で、しかも専門用語だらけの難解さ。読破するには根気も時間もいる。日本人向けにポイントをまとめた本書で問題の本質を理解しよう。

 これまでの経済学では、資本主義の発展とともに所得分配は平等化すると考えられてきた。しかし、アメリカを例に見ると、労働者賃金の中央値は、ここ40年ほとんど変わっていないが、上位1%の所得は2.6倍になり、GDP(国内総生産)の20%を超えている。これは、経営者の給与が極端に高くなったことが大きな要因だ。

「資本主義は不平等になる」と言うのは簡単だが、それを実証した経済学者はこれまでいなかった。ピケティの研究が注目されたのは、統計が不十分だった19世紀以降の統計データを割り出し、歴史を遡って格差問題を検証したからだ。その結果、「ほとんどの時期で不平等は拡大しており、戦後の平等化した時期は例外だった」とピケティは結論づけた。つまり格差問題は今にはじまったことではなく、もともと資本主義にはそうした傾向がある。それが今後も続くだろうことを明らかにしたのである。

 ピケティは『r(資本収益率)>g(国民所得の成長率)』の不等式で「資本主義の根本的矛盾」を表した。「r」は株式や不動産などの平均収益率で、これが上がると格差は拡大する。これを解決する唯一の方法は、「g」の成長率を上げることだが、先進国が成長率を4~5%にすることは極めて困難である。そうした高い成長率は、途上国がキャッチアップするときのみであり、すでに技術的フロンティアに到達した国では、成長率は1~1.5%程度に落ち着くものだからだ。第二次大戦後にヨーロッパや日本が一時的に平等化したのは、戦争で破壊された資本を再建していく途上だったからなのだ。

 先進国が停滞期を迎える一方で、世界の貧困率は1970年から2006年にかけて80%下がるなど、新興国の格差は劇的に縮小した。これも工業化によって成長率が上がったことによる。逆に、先進国にとっては生産拠点が新興国へと移転する深刻な事態を招いた。国内製造業の単純労働者の賃金が、新興国の人件費に引き寄せられて下がり、知識労働者との格差を広げることになったのだ。

 日本人向けに書かれた本書では、随所で日本の経済状況についても言及している。たとえばアベノミクスによって円安に誘導することで、「生産拠点が日本に戻ってくる」と政府は考えたが、経営者はそうは見ていない。なぜなら法人税率13%の台湾から40%の日本に戻す理由などないからだ。しかも日本は原油や電気代が高いので、海外で生産したほうが安くつく。

 成長が停滞した社会では、過去に蓄積された富の比重がますます大きくなっていくという資本主義の根本法則がある。21世紀の今、この比率が18~19世紀の高い水準に戻りつつあるという。多くの資産を持つ人は、ファンドマネジャーを雇うなどして、多くのリスクをとって高いリターンを得ることができるからだ。中国などの新興国が台頭して、世界を支配するのではないかと危惧されているが、実際は世界の富は今も先進国にある。ただし、一部の大富豪に集中しているのだ。富が世界中に分配されるわけではなく、一部の大富豪が世界各地に資産を持つようになるにすぎない。

 格差を防ぐには、教育によって社会的流動性を高めることが重要だとされてきた。しかし、社会的流動性が高いと思われてきたアメリカでは、低所得者層の大学進学率が10~20%であるのに対し、上位25%の子供の大学進学率は1970年以降、40%から80%に倍増した。ハーバード大学の学生の親の平均年収が45万ドルといった顕著な例があるように、金持ちの子が金持ちになる比率が極めて高いのだ。さらに先進国では少子化で人口が減少しているため、子供一人あたりの遺産相続が大きくなり、資産格差が19世紀のように拡大する懸念もある

 こうした格差をなくすためには、累計課税によって金持ちから多くの税金をとるべきだろう。しかし、実際は逆の現象が起きている。ヨーロッパでは企業や高額所得者を誘致するために、むしろ税率が下げられているのだ。これが今後も続くと、ますます富の集中を促進しかねない。

 21世紀の世界を支配するグローバルで世襲的な金融資本主義をコントロールするには、20世紀にできた社会的国家や累進課税などの制度だけではもはや不十分だ。なぜなら課税しようとしても、大企業や大富豪は資産を海外のタックス・ヘイブン(租税回避地)に移してしまうからだ。

 ピケティは世界の国民所得の7%以上がタックス・ヘイブンに隠されていると試算した。そのほとんどが先進国の大富豪のものだという。そのため、すべての国の対外資産を合計しても、対外債務より少ないという帳尻が合わない数字になっているのだ。

 ピケティは資本主義を否定しているわけではない。むしろ「資本主義より効率の高い経済システムはない」とまで言っている。この経済システムの健全性を保とうというのがピケティの主張である。そのためには、世界の政府が金融情報を共有し、グローバルな資本課税をすることが必要だという。このままタックス・ヘイブンを放置すると、金融危機の原因になる可能性もあれば、税制そのものが崩壊する事態を招きかねないとピケティは警告しているのだ。

『日本人のためのピケティ入門:60分でわかる『21世紀の資本』のポイント』3つのポイント

●もともと資本主義は格差を拡大させる傾向を持つ

●大富豪は税金の安い国に資産を移す

●世界共通の「グローバル累計課税」を課す

文●大寺 明