『道をひらく』要約まとめ

今話題のビジネス書もいいけれど、ときには普遍的な大ベストセラーに学んでみたい。今回ご紹介するのは「経営の神様」松下幸之助の代表作。スキルやノウハウうんぬんというのではなく、徹頭徹尾、仕事をする人の心がまえを説いている。それは、経営者であろうが一社員であろうが同じ。40年以上も前の古い本だが、むしろ今の時代にこそ読んでおきたい本だ。

 9歳のときの丁稚奉公から始まり、一代で松下グループを築きあげ、「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助は、出版事業のPHP研究所を設立し、多数の著書を発表したことで知られる。

 中でも本書は1968年の発行以来、500万部を超える大ベストセラーとなった松下幸之助の代表作。その内容は、機関誌『PHP』に連載された121篇のエッセイをまとめた人生哲学といったもので、一般的なビジネス書のようにテーマを決めて構成されているわけではない。そのため要約が極めて困難であり、「松下幸之助 名言集」という形でご理解いただきたい。

「逆境は尊い。しかしまた順境も尊い。要は逆境であれ、順境であれ、その与えられた境涯に素直に生きることである。謙虚の心を忘れぬことである。
 素直さを失ったとき、逆境は卑屈を生み、順境は自惚(うぬぼれ)を生む。」

 本書で頻出するのが「素直」と「謙虚」という2つのキーワード。たとえ巨大グループの経営者になっても奢ることなく、初心を忘れずに歩んできた。本書のタイトル『道をひらく』のヒントも、素直さと謙虚な姿勢こそが切り拓くといっていいだろう。

「人生は真剣勝負である。だからどんな小さな事にでも、生命をかけて真剣にやらなければならない。」

 次に頻出するのが「真剣」という言葉だ。真剣になるかならないかでその人の人生は決まってくると松下幸之助はいう。

「自分の周囲にある物、いる人、これすべて、わが心の反映である。わが心の鏡である。すべての物がわが心を映し、すべての人が、わが心につながっているのである。」

 自分の身なりを正すために人は鏡の前に立つが、心までは映しださない。しかし、周囲をよく見て人の声に耳を傾ける素直な心があれば、自分の考えや自分のふるまいの正邪が、相手を通して鏡のように見えてくるものだという。

「同じことを同じままにいくら繰り返しても、そこには何の進歩もない。先例におとなしく従うのもいいが、先例を破る新しい方法をくふうすることの方が大切である。やってみれば、そこに新しいくふうの道もつく。失敗することを恐れるよりも、生活にくふうのないことを恐れた方がいい。」

 松下幸之助が目指すところは、事業を通して人類の発展に貢献すること。どんな小さなことでも工夫をして変えていくことが、人類の発展につながるという考えだ。イノベーションの原点は、むしろ身近なことから変えていくことにあるのかもしれない。

「与え与えられるのが、この世の理法である。すなわち、自分の持てるものを他に与えることによって、それにふさわしいものを他から受けるのである。これで世の中は成り立っている。」

 松下幸之助が語るサービスの神髄。頭のいい人、力の強い人、心やさしい人などどんな人にもその人ならではの天分があり、それをもって世の中にサービスすべきだとする。多くを得たければ多くを与えるべきであって、充分に与えもせずに多くの利を得たいという利己的な考えを戒めている。

「叱られてこそ人間の真の値打ちが出てくるのである。叱り、叱られることにも、おたがいに真剣でありたい。」

 人に叱られるのも人を叱るのも気持ちのよいものではない。だからといってなあなあでやっていこうとすると、そこに弱さと脆さが生まれ成長を阻害することになると松下幸之助は戒めている。

「進むもよし、とどまるもよし。要はまず断を下すことである。みずから断を下すことである。それが最善の道であるかどうかは、神ならぬ身、はかり知れないものがあるにしても、断を下さないことが、自他共に好ましくないことだけは明らかである。」

 あれこれ思い悩んでただ立ちすくんでいても道はひらかれない。人生や経営のみならず、国家の運営も同じことだという。

「一〇〇パーセントはのぞめない。それは神さまだけがなし得ること。おたがい人間としては、せいぜいが六〇パーセントというところ。六〇パーセントの見通しと確信ができたならば、その判断はおおむね妥当とみるべきであろう。そのあとは、勇気である。実行力である。」

 名経営者とされる松下幸之助であっても、時々の判断では迷うこともあったようだ。100%完璧な答えを求めるのではなく、60%いけると判断したことを100%の勇気と実行力で完遂すべきだとする。

「失敗することを恐れるよりも、真剣でないことを恐れたほうがいい。真剣ならば、たとえ失敗しても、ただは起きぬだけの充分な心がまえができてくる。」

「七転び八起き」ということわざがあるが、八度目に起きればよいと呑気に考えていてはいけない。「転んでもただ起きぬ」心がまえが大切。

「自分の仕事は、自分がやっている自分の仕事だと思うのはとんでもないことで、ほんとうは世の中にやらせてもらっている世の中の仕事なのである。ここに仕事の意義がある。」

 どんな仕事も世の中に必要だからこそ成り立っているのであり、自分本位になってはいけないと松下幸之助は仕事の原点を語った。

 いかがだろう? 本書のどの言葉を抜き取っても、そこには私利私欲に捉われず、謙虚に社会に貢献しようとする精神が見てとれる。それが単なる理想論ではなく、松下グループのDNAとなって世界的な活躍に結びついていることを思うと、世の中の求めに真剣に答えてきたきわめて順当な結果だったと思える。イノベーションや組織論が様々な最新のビジネス書で論じられているが、本質は変わらない。普遍的なビジネス書を1冊熟読して、それを一生かけて実行してみると道はひらけるかもしれない。
 新たな年を迎える際に気を引きしめてくてる一冊だ。

『道をひらく』3つのポイント

●素直で謙虚であることが、道を切りひらく

●真剣になるか否かで、人の人生は決まる

●仕事は自分のためではなく、世の中のため

文●大寺 明