『45歳の教科書 戦略的「モードチェンジ」のすすめ』要約まとめ

「四十にして惑わず」と言うけれど、現代の40代は仕事と家庭、お金の問題など悩み多き世代です。ひと昔前は終身雇用と定年というゴールが見えていましたが、今の時代はどこにゴールがあるかも定かではない。自分がどこに向かっているのか見失い、アイデンティティの危機に陥る人も少なくありません。本書は「迷える世代」といわれる45歳前後の人に向けた人生の教科書。20代30代の人も今後の生き方を考えるヒントになりそうです。

 義務教育初の民間校長を務めたことで知られる著者の藤原和博氏だが、45歳前後までは「中途半端な存在」だったと告白している。子どもの頃は過剰に緊張する気弱なタイプで、高校・大学時代は何かやりたいことがあるわけでもなく、周囲に流されやすい若者だった。社会人になっても、世の中に対する意見が言えないコンプレックスをずっと抱えていたという。

 人が何かに目覚めて変わるには、いろんなきっかけがあるものだが、著者の場合、3つの「大事件」があった。まずリクルートに入社し、営業のキャリアから社会人の第一歩を踏み出したこと。営業成績でトップとなり自信をつけたが、入社して10年経っても生きるテーマは見つからなかったという。

 第2の事件は、37歳のときに妻子とヨーロッパに移住したこと。このときの体験から著者は、日本が成熟社会を迎えるためには、教育・住宅・医療(介護)の3分野で社会システムが改まる必要があると考えるようになり、40代以降はいずれかに参戦しようと心に決め、40歳で自営業者となった。

 そして第3の事件は、47歳のときに公立中学校の民間校長に就任したことだ。ようやくライフワークが定まり、その後、「教育改革実践家」を名乗るようになった。最初からまっすぐ歩んできたわけではなく、様々なきっかけで人生がズレてゆき、結果として生き方の方向性が定まったのである。45歳前後で人生のモードを変えるには、①病気を武器にすること、②海外に出ること、③自分の思いや悩み、不安に思うことを書いてみること。この3つが有効だという。いつもの場所で普段どおりやっていても人生のモードはなかなか変わらないものなのだ。

 40代からの人生を確固たるものにしていくには、自分の価値を上げていくことが大事になる。それは自分の「希少性」を高め、レアキャラ化することだ。そこで著者が提唱するのが「キャリアの大三角形」という考え方である。まず初めの一歩は、5年~10年かけてある分野の仕事をマスターする。ひとつの仕事をマスターするのに1万時間かかると言われるが、これをクリアすれば100人に1人くらいの希少性が得られる。

 2歩目は5~10年かけて違う分野の仕事をマスターする。そうすると1/100×1/100で1万分の1人の希少性になる。別部署に異動したり転職することだけでなく、会社の経理から税理士や会計士の資格を目指すといったことでもいい。

 こうして1歩目と2歩目によって一本の線になり、40~50代にかけて3歩目を踏み出すことでキャリアの三角形ができあがる。著者の場合、1歩目はリクルートで営業とプレゼンをマスターし、2歩目は新規事業や管理職でマネジメントをマスターした。そして義務教育初の民間校長という3歩目を踏み出し、100万人に1人というレアキャラになったのだ。

 3歩目を踏み出すより、今いる組織に留まる方が安全だと考える人もいるかもしれない。しかし、サラリーマンである以上、上司が幸せの半分のカギを握っていると著者は指摘する。このリスクは年齢が上がれば上がるほど大きくなり、たとえ部長に昇進しても、常務や専務と相性が合わなければ、退職までの長い時間を不遇のまま過ごすことになる。40代半ば過ぎからは、「転職・独立」と「組織に留まること」のリスクはほぼ同じと考えていいだろう。

 3歩目を踏み出す際に重要になるのが「情報編集力」だ。これまでの学校教育が力を入れてきた能力は、正解を導き出す「情報処理力」であり、成長社会には合っていたが、「正解」がない成熟社会では、周りの人が納得できる「納得解」を導き出せる「情報編集力」が求められる。情報処理力が「ジグソーパズル型」だとしたら、情報編集力はピースを自由に組み立てる「レゴ型」の能力といえるだろう。

 3歩目の掛け合わせは無限大だ。たとえばツアーコンダクターが動物看護師の資格を取得すれば「犬も一緒に旅行できる専門のツアコン」という希少性が生まれ、お笑い芸人が文学賞を受賞すればテレビに引っ張りだこになる。掛け合わせが無限大だからこそ、物事を多角的に考えられる「情報編集力」が生きてくるのだ。

 どれだけ大きく3歩目を踏み出すかによって、三角形の面積が決まってくる。この面積が大きいほど、自分のキャリアが希少性の高いものであることを示す。希少性が高ければ高いほど、活躍できる範囲が拡がり、自らがイニシアチブをとって業務を進めることができるようになる。さらには自分から売り込まなくても、相手の方から「力を貸してほしい」とオファーされる機会も増えていくのだ。

 こうなれば自分のキャリアをどのように高めていくかを考える余地が生まれる。社会にどう貢献していきたいか、自分の人生をどのように価値あるものにしていきたいかを考え、三角形に「高さ」を出して「立体化」していくのだ。この立体の体積が、他者から得られたクレジット(信頼と共感の総量)を示す。報酬とは自分が積み上げてきたクレジットに対して支払われるものであり、いくら能力や実績があっても、他者からクレジットが得られない仕事をしていると、いつまで経っても報酬が増えることはない。

 人生100年時代を迎えようとする今、45歳からの30年間の仕事の中で、どんな人生のピラミッドを作るのか、自分の美意識や哲学性が問われる時代になるだろう。だからこそ折り返し点となる「45歳の決断」がカギになってくるのだ。

『45歳の教科書』3つのポイント

●キャリアを掛け合わせて自分の希少性を高め、レアキャラ化する

●40~50代で新たな一歩を踏み出すことで、人生の豊かさが決まる

●正解がない成熟社会では、「情報編集力」が問われる

文●大寺 明