『孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術』要約まとめ

「数字で(根拠を)示せ」「数字(成果)を出せ」とプレッシャーをかけられ、ストレスを溜め込んでいる人も多いはず。そうした「上から押し付けられる“受け身の数値化”」ではなく、本書の「数値化仕事術」は、「下が上を動かせるようになる“攻めの数値化”」だと言います。とかく声の大きい人の意見が通りがちなものですが、数字は誰にとっても絶対的な事実。数字を味方につければ、未来は切り拓かれるはず。

 25歳のときにソフトバンクに転職した著者は、社長室に配属され、毎日のように数字を求められてきた。孫社長は人の意見やアイデアを「良い悪い」「好き嫌い」で判断せず、数字という客観的な事実で判断しようとしていたのだ。

 数値化するメリットは、「目標達成までに何をすべきか」という具体的なアクションが見えてくることにある。まず現実で起こっている事象を数値で把握し、それを分析して問題のありかと根本的な原因を探る。解決策を考えたらすぐに実行し、その結果をまた数値で把握・分析していくのだ。このPDCAサイクルをスピーディーに回して問題を解決していくのが、孫社長流の「数値化仕事術」である。

 ソフトバンクは創業以来、検索ポータルサイト「Yahoo!JAPAN」、ADSL事業「Yahoo!BB」、携帯電話事業、Pepperのロボット事業など、次々と新たな分野に進出し、成功を収めてきた。最初は経験もノウハウもないわけだから、当然あらゆる問題が発生する。しかし、解決のために使える人、時間、お金などのリソースは限られている。だからこそ数値化によって問題を分析し、優先順位を決めて着手していく必要があるのだ。

 まず最初にやるべきことは「分ける」こと。ソフトバンクがADSL事業を始めた当初は、毎月100万件以上の電話がかかってくる状況だった。そこで著者はコールセンターに寄せられた問い合わせやクレームの内容を7種類ほどに分類した。そうすると2つの大きな山ができ、それだけで全体の8割ほどを占めていることが判明した。この2つの問題を解決すれば、全体の8割は解決するわけだから優先順位は高い。

 分析の結果、モデムに関するクレームを減らせば、コール発生率が5%から4%に減らすことができ、毎月4000万円のコスト削減ができることがわかった。著者はすぐに数字を盛り込んだレポートを経営陣に提出し、モデムの改良を要請したところ、すぐに実行された。「数字=お金に換算しなければ、上は自分たちの問題として認識してくれない」ものなのだ。

 ソフトバンクでは、「顧客数」「顧客単価」「残存期間(顧客でいてくれる期間)」「顧客獲得コスト」「顧客維持コスト」の5つの数字が経営の基本となる。会社の長期的な売上は「顧客数×顧客単価×残存期間」で計算でき、そこから「顧客獲得コスト」と「顧客維持コスト」を引いたものが営業利益となる。とてもシンプルだが、これこそがビジネスにおいてもっとも重要な数式なのだ。ソフトバンクではこの5つの数字を上げたり下げたりしながら経営を行なっている。著者はこれを「ソフトバンクの3次元経営モデル」と名づけた。

 第一のフェーズは、顧客単価やコストを度外視して「顧客数を増やす」こと。「Yahoo!BB」立ち上げの際、孫社長はモデムを100万台発注し、当時としては桁外れの顧客数を目指した。なぜ顧客数にこだわるかというと、顧客数を増やせば増やすほど、製品やサービスの単価が下げられるからだ。他のADSL事業者が月額4千円代だった時代に、「Yahoo!BB」は月額2千円代の低価格を打ち出し、一気に顧客数を伸ばした。

 顧客数で圧倒的ナンバーワンになると、競合がその地位をひっくり返すことは事実上ほぼ不可能になる。ネットオークションがその典型だが、出品者が一番多いサイトに入札者が集まるため、出品者がさらに増えるという好循環に入るのだ。「Yahoo!オークション」の場合、世界最大手の「イーベイ」に勝つために無料でサービスを提供する戦略をとり、日本でトップの地位を獲得。こうしたスタートダッシュがソフトバンクの強さの秘訣なのだ。

 第2フェーズは、あらゆる販売手法や販売チャネルを試すこと。「Yahoo!BB」は街頭でモデムを配る「パラソル」を日本全国数千カ所で展開した。最初に少ない数で試すのが一般的だが、大きな数を一気に試すことで計測条件が同じになり、比較検証のスピードと正確さが段違いにアップするのだ。

 ソフトバンクは2001年にADSL事業に参入し、黒字に転換したのは2005年度だったという。四期連続赤字で上場廃止になる瀬戸際だった。普通の経営者なら青ざめるところだが、孫社長は数値化によって黒字化する裏づけをとった上で、ギリギリまで赤字を続けるという戦略を取っていたのだ。

 第3フェーズは、「残存期間」をできるだけ長くすること。これが「3次元経営モデル」の仕上げになる。孫社長は「牛のよだれのようなビジネス」が理想だと常々語ってきた。ADSLもスマホも一旦契約したらすぐに解約する人は少ない。「一回売ったら終わり」ではなく、ライフタイムバリューを意識したビジネスを戦略的に選んでいたのだ。
 
 ライフタイムバリューを意識すると、顧客獲得コストの考え方も変わってくる。顧客が1年間で支払う料金が4万円だとすると、顧客獲得コストを4万円以下に抑えようとなるものだが、平均で3年の残存期間があった場合、「4万円×3年」で12万円まで顧客獲得コストを投入できることになる。もちろんコストをかけたほうが顧客獲得数も大きくなる。ソフトバンクがどのビジネスでも圧勝できる理由はまさにここにあるのだ。

 孫社長ほどのカリスマ経営者でさえ、正解を知っているわけではない。ただし、数値化という武器を使って、誰よりも早く正解に近づく方法を知っている。それがあたかも未来を見通しているように見えるのだ。先が不透明だからこそ、「どこまでリスクをとるか」というラインを数値化に基づいて冷静に見極めながら、前に進んでいくしかない。

『孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術』3つのポイント

●「数字」という客観的事実から、問題のありかと解決策を考える

●解決策を実行し、また数値で把握・分析するサイクルを回す

●数値化することで、次のアクションを見定める

文●大寺 明