『社長も投票で決める会社をやってみた。』要約まとめ

アメリカで生まれた「ホラクラシー」というチーム運営のメソッドが注目されています。これは組織のヒエラルキーをなくすことで、各自が自由かつ自律的に行動するという考え方。不動産テックベンチャーのダイヤモンドメディア社は、日本初の「ホラクラシー経営」として話題ですが、社会に貢献するための会社の在り方を問い続けた結果、自然とホラクラシーに似た経営スタイルになっていたそう。ホラクラシー経営の在り方とメリットとは?

 不動産テックの領域でITサービス事業を展開するダイヤモンドメディア社は、「管理しない」マネジメント手法を用いた日本初の「ホラクラシー」企業として注目を集めている。これは上司・部下といったヒエラルキーが存在しないフラットな組織のことであり、さらに同社では「自分の給料は自分で決める」「働く時間、場所、休みは自由」「財務情報はすべてオープン」といった徹底した自由かつ自律的なワークスタイルを実践している。

 同社の社長である著者がこの経営スタイルに行きついた背景には、最初の起業に失敗した忸怩たる思いがあった。22歳のときに友人を誘ってファッション関連のメディア事業を始めたのだが、すぐにキャッシュフローが回らなくなって経営は破綻……。事業を売却して会社を清算したとき、「自分は何をしたかったのか?」と問い直したところ、「何か大きなことがしたい」というひとりよがりなエゴにすぎなかったと気づかされた。

 二度目の起業(ダイヤモンドメディア社の創業)では、「いい会社ってなんだろう」ということをひたすら研究し、組織づくりのことばばかり考えていたという。最初の起業との一番の違いは、個人のエゴではなく、会社の社会的責任を中心において事業の方向性を決めること。組織に「権力」が生まれると一個人のエゴが暴走しかねないため、フラットな組織を作ろうとしたところ、自然と「ホラクラシー」と似た経営スタイルになっていた。

 アメリカではホラクラシーを取り入れる企業が増えているが、その多くはうまくいっていないそうだ。その理由として著者は「情報の透明性」を徹底していないことを挙げている。ある研究によると、組織とは情報の流れによって構造が作られるものだという。アナログな環境下では情報の流れが階層的な組織がもっとも合理的だったが、IT化が進み、多対多のコミュニケーションができる今の時代に適した組織を追求すると、おのずとホラクラシーになっていくのだ。

 組織内の情報格差をなくすことができれば、権力が勝手に弱まっていき、最適な形で組織が動き始めるという。また、情報が透明になると、不要なコストをかけている部分や、正しくない意思決定がすべて露わになる。ヒエラルキー型の組織では、役職と権力・予算が全部ひもづき、たとえムダな予算を使っていても黙認されがちだが、透明性の高い組織では自然とムダが排除されるため、経済合理性が高いといえる。

 ホラクラシーに取り組むには、どうやってその人の給料を決めるのか、という評価制度にまで踏み込む必要がある。同社では、その人の取り組みや業務範囲、市場価値などさまざまな側面から半年に一度、メンバーで話し合って給料を決めていく。職務給やインセンティブといったものは一切なく、仕事と給料が結びついていない。なぜなら仕事にお金を結びつけると、人はお金のついていない仕事をしなくなるものだからだ。そうすると自分の部署の仕事しかしなくなり、全体最適の視点で考える人がいなくなってしまう。

 さらに各自の給料や仕事の情報も全部オープンにしている。そうすると正当に成果を上げて顧客や仲間、会社に貢献している人の報酬が自然と上がっていくものだという。給料をオープンにすることで、社内政治や上司へのゴマすり、個別交渉の駆け引きなどが入り込む余地もなくなる。これは人事権を手放すことと同じことなのだ。人事権とは生殺与奪件のようなものであり、この脅威から解放されることで、社内における心理的安心が得られるのだ。

 株式会社の制度上、役員が一人以上いる必要があるため一応は社長を置いているが、流動性を重視して任期を1年とし、毎年「社長選挙」で決め直すことにしている。ただし投票だけで決まるわけではなく、投票結果を元にした話し合いで決めている。ホラクラシー型の組織において、もっとも障害になるのが「自分の思いどおりに社員を動かしたい」「利益を上げたい」といった経営者のエゴであり、だからこそ権力が長期にわたって集中しない仕組みにしているのだ。

 ホラクラシー型の組織は上司も部下もないため、日常的にチームと情報共有するコミュニケーションが重要になる。今がどういう状況で、チームや会社にとって必要なことを理解して自律的に動いていく働き方であるため、「言われたことはきっちりやるけど、それ以外のことに気づけない」という人は、ホラクラシー型の組織には合わない。

 上司なしで判断に迷わないのか?といった疑問があるが、上司がいないことによって迷っているのではなく、その人に判断する知識や能力がまだ備わっていないだけだと著者は考えている。その場合、「わからない人が無理に判断しない」ようにして、「わかる人に相談する」ようにすればいい。また、重要な場面では多数決による意思決定は絶対にしないことにしている。なぜなら多数決とはマイノリティを捨てる方法であり、リーダーシップとは常にマイノリティだからだ。組織内で多数決を繰り返すと、組織からリーダーシップが失われてしまうのだ。

 自然界は巨大なエコシステムであり、完璧なまでに合理的であり、持続的だ。管理やコントロールをしなくても機能するホラクラシー型の組織は、自然界のシステムに似ている。社会環境が変化している状況においては、ムダをなくし、ミニマムに最適化していくことで持続可能なホラクラシー型の組織が今後求められてくるだろう。

『社長も投票で決める会社をやってみた。』3つのポイント

●ヒエラルキーをなくすことで、各自が自由かつ自律的に行動する

●働く時間、場所、休みは個人に委ね、給料はメンバーで話し合って決める

●情報をオープンにすることで、権力が弱まり、自然と組織は最適化する

文●大寺 明