『「課長」から始める 社内政治の教科書』要約まとめ

『「課長」から始める 社内政治の教科書』

「出世したくない」という若い世代が増えているという。たしかに「社内政治」の駆け引きに嫌悪感を持つ気持ちもよくわかる。しかし、人が集まれば必ず生まれるのが政治だ。それは善でも悪でもなく現実にすぎない。まして、自分がやりたいことがあるなら、政治力を身に着けなければ何も実現できないだろう。課長になって悩む前に「社内政治」のいろはを知っておこう。

 社内政治――。この言葉によい印象を持つ人は少ないだろう。元リクルートで『アントレ』編集長を務めた著者も、入社したての頃は社内政治を潔くないものと考え、自分の仕事に集中するよう努めた。そして営業マンとして6年連続トップセールスを記録するなど社内評価も高くなり、マネジャー(課長職)に昇進。ところが、新規事業プロジェクトの提案が会議でことごとく却下される憂き目をみた。発言力のある人物の反対意見が原因だった。

 こうした経験から著者は否応なく社内政治と向き合うことになる。経営陣は利益最大化を求めるが、一般社員は働き甲斐を求める。開発部門は潤沢な予算を求めるが、経理部門は経費削減を求める。このように社内には常に対立する利害がある。巧みにそれを調整しながら自分の部署の実績を上げ、プレゼンスを獲得していく「政治力」こそが、マネジャーに求められる能力だと気づかされたのだ。課長職は一般社員の仕事とは質的にまったく異なるものだという。部下、上司、組織など「人を動かす」のが課長の仕事だからだ。

 社内における政治力には2種類ある。一つは指揮命令権、職務権限、人事権などの「権限」だ。課長の職務を果たすためには最大限活用すべきだが、強制力を伴うだけに露骨に使うと反発や摩擦が生まれる。いざというとき以外、使わないほうが賢明だ。そして、もう一つが人からの評価に基づく「影響力」である。これは信頼関係、好感、実績、専門知識など様々だが、いわば社内政治とは「影響力のゲーム」のようなものなのだ。

 ただし、小手先の処世術は見破られるものと考えたほうがいい。なぜなら長く一緒に働けば、どんな人物であるかを周りの人はすべて見抜いてしまうものだからだ。かえって八方美人や二枚舌といった評価になり、信頼が失われかねない。むしろビジネスマンとして「誠実であること」を常日頃から心がけるべきだと著者はアドバイスする。

「人を動かす」ために、著者は「あなたは、私にとって重要な存在です」というメッセージを伝えることを意識してきたそうだ。人は相手に認められることを求めて、激務も厭わず仕事に励むものだからだ。直接的にそうと言うわけではなく、挨拶をしたり、名前で呼びかけたり、正面から向き合って話に耳を傾けるなど、相手のことを「ちゃんと見ている」という態度を日頃から示すことが大切だという。

「課長」は社内政治の入り口にしてもっとも難しいポジションだ。正社員のみならず契約社員やアルバイトなど多様な個性・属性・年代の人と対峙する現場の長であり、制度的には経営側の一員として権力構造の末端に位置する。この緊張状態の真っただ中に置かれるのが課長というわけだ。この立場になったら、社員同士の経営批判に付き合わないようにするなど、プロフェッショナルとしての「課長」に徹し、タテマエは崩すべきではないと著者は忠告する。

 部長以上の役職になると部下と触れ合う機会も少なくなるが、課長は実際に現場を指揮する最後の役職だ。ここでいかに「民意」を得ておくかが、長期戦の社内政治を戦う基盤となる。人はとかく上層部のほうを向く傾向があるが、「民意」を得るためには、むしろ女性スタッフや派遣社員など「立場の弱い人」に意識を向けるべきだという。権力者も部下に慕われている人間を引き上げようと考えるものであり、味方が多い人間は潰されにくいという面もある。

 求心力のある管理職は「部下をよく知っている」という共通点があるという。面談を通して部下のプライベートまで把握して適切な仕事を割り振るなど、きめ細やかに配慮をして部門全体の仕事を組み立てるのだ。それが好業績を生むマネジメントのコツだ。さらには部下を昇進させるために、上層部に部下を売り込むことも最重要課題となる。それができなければ、課長としての「力」がないと部下に判断され、求心力も失われてしまうのだ。

 そして、課長になる頃から悩ましい問題として浮上するのが、上層部との関係や社内の「派閥」だ。上司に対しては、まず人間的な「好き嫌い」を捨て、クライアントのように接するといいと著者はアドバイスする。派閥については、『課長 島耕作』のように中立であるに越したことはないが、現実はそうもいかない。情報収集をして社内のパワー・バランスを知り、自分の「立ち位置」を踏まえたうえで、慎重に判断をしていく必要がある。その際、「結束の強い派閥」は避けたほうがいいという。なぜなら閉鎖的な色彩を帯びることがあり、派閥以外の同僚と溝ができてしまうからだ。

 政争の板挟みになって心身に不調をきたす人も少なくない。こうなってしまっては元も子もないだろう。社内政治を生き抜く知恵を多岐に渡ってレクチャーしながら、最終的に著者は「たいした問題ではない」と考えるのが賢明だとする。自分の生き方をじっくり見つめ、退職してもいいと腹をくくってしまえば、政治闘争の勝敗などたかが知れている。むしろ、そう開き直ったときこそ、果敢に社内政治に挑むことができるのだ。

『「課長」から始める 社内政治の教科書』3つのポイント

●誠実さを心がけ、現場の「信頼」を得る

●一人ひとりをきちんと見て、適切な仕事を割り振る

●社内のパワー・バランスを把握し、「立ち位置」を明確にする

文●大寺 明