『お客さまには「うれしさ」を売りなさい』要約まとめ

「マーケティング」というと複雑なイメージですが、実は誰もが日常の買い物で参加しているごく普通の行為なんです。私たちが商品やサービスを購入するとき、何かしら解決したい課題があって、それに最適だと思えるものを選んでいるわけですが、本書ではそれを「うれしさ」と表現します。マーケティングとは「お客さまにうれしさを提供する競争」であり、考え方はいたってシンプル。この単純明快な理屈を徹底的に考えることで活路が開けるはず。

 マーケティングとは「お客さまにうれしさを提供して対価を得る」ことであり、誰もが日常の買い物においてマーケティングに参加している。ところが、買い手にとっては当たり前のことが、売り手になるとまったくわからなくなるものなのだ。そのため体系的な理論によってお客さまの欲しいこと(ニーズ)をきちんと把握し、施策を実行していくことが重要になる。本書はマーケティングの入門書として、日常の買い物からマーケティング戦略を解き明かしてゆく。

 どんなときにお客さまがうれしさを感じるかというと、「商品・サービスを使うとき」である。しかし、お客さまが「うれしいとき」に売り手はその場にいないため、把握するのが難しい。ハーゲンダッツを例にとると、当然、美味しさを味わうときにうれしさを感じるものだが、仕事で帰りが遅くなった夫が手土産として妻に買って帰り、夫婦円満になることがうれしいという使い方もある。私たちが何かを買って使うのは、何らかの「課題」を解決したいときであり、「うれしさ」と「課題解決」は同じことを意味する。

 ハーゲンダッツは300円前後と他のアイスより高価だが、それだけの「うれしさ」を提供していることに対する「対価」であり、お客さまからすると、「他の商品ではなくその商品を選ぶ理由」がある。お客さまに「選ばれる理由(独自のうれしさ=強み)」をつくることがマーケティング戦略の神髄なのだ。

 人によって、あるいは商品・サービスの使い方によって、求める「うれしさ」はまさに十人十色。たとえば同じアイスでも、夏の炎天下では体を冷やし喉を潤すために「ガリガリ君」などの氷菓を選ぶが、頑張った自分へのご褒美というときはハーゲンダッツなどの高級アイスを選んだりする。そのためお客さまが求めるうれしさごとにグループ分けして考える必要があるのだ。これを「顧客セグメンテーション」と呼ぶ。

 セグメンテーションの基本的な考え方は、「人×使い方・TPOで分けて対応する」こと。パソコンを例にとると、「どこで使うか」では「室内のみ」「たまに持ち運ぶ」「頻繁に持ち歩く」という3通りに大別でき、「何をするか」では、IT関係の作業などのハードユース、ビジネス用途などのノーマルユース、メールの送受信やウェブサイトの閲覧といったライトユースに分けられる。使用目的が「ハードユースで頻繁に持ち運ぶ」という場合は、パナソニックの「レッツノート」が選ばれやすくなり、「ハードユースで室内のみ」という場合は、デスクトップが選ばれやすい。人によってパソコンの使い方が違うため、たくさんの種類のパソコンがあるのだ。

 こうしてセグメントを分けて顧客を絞り、その的に対して「細く鋭い矢」を放つことがマーケティングの実務となる。売り手はつい「お客さまを広げればたくさんのお客さまに買ってもらえる」と考えがちだが、競合がいるため必ずしもそうはならない。「万人向けにしたがためにかえって売れない」というのが、マーケティング“あるある”のひとつだ。

 顧客の次に考えるべきことは「戦場・競合」である。「競合」とは「お客さまの頭に浮かぶ他の選択肢」のことであり、ポイントはモノが似ていることではなく、提供している「うれしさ」や「使い方・TPO」が同じであるということ。たとえば営業パーソンが接待で使う場合、高級寿司、高級フレンチ、高級鉄板焼きが頭に浮かぶが、回転寿司は選択肢にあがらない。高級寿司と回転寿司はメニューが同じでも、使い方・TPOが違うため競合しないのだ。

 私たちが顧客として何かを買うとき、いくつかの選択肢の中から選んでいるわけだが、当然そこには「選ぶ理由」がある。つまり競合がもたらすうれしさとの差が、自社商品・サービスの「強み」なのだ。ハーゲンダッツは他のアイスに比べて「濃厚なコクのある美味しさ」が強みになっているが、デパ地下のケーキでも同様の美味しさを味わえる。では、デパ地下のケーキに対する強みは何かというと、ケーキよりも「安い」ことや、夜中でもコンビニで買えること、あるいは冷凍保存ができる「うれしさ」に差があるのだ。

「競合にマネされないようにするか」を考えることも重要だ。ロッテの「雪見だいふく」の場合、独自製法と特許によって「競合のマネ」から守られているわけだが、この「競合がマネできない理由」が独自資源である。他には設備、立地、スキル(知識・経験・ノウハウなど)、人材や組織体制、ブランドイメージ、起業理念などが独自資源に挙げられる。こうした独自資源がなければ、「強み」を維持することはできない。

 さらに、いかにお客さまに「うれしさ」を魅力的に伝えるか、というメッセージまで考えてようやくマーケティング戦略は完結する。CMやパッケージなどで伝えるべきメッセージは、基本的に「強み」である。顧客に刺さるように「強み」を伝えることは、「お客さまが選ぶ理由をつくる」というマーケティング戦略の神髄なのだ。

 マーケティング戦略の本質とは、お客さまに提供するうれしさをひたすら高めていくことのみ。いわば「お客さまにうれしさを提供する競争」なのである。競合と同じうれしさを提供しているだけでは価格競争になるだけだが、うれしさの差ができれば、それが「強み」になる。本当に素晴らしいうれしさがあれば、高価であろうと、行列をつくろうと人は買うものなのだ。

『お客さまには「うれしさ」を売りなさい』3つのポイント

●マーケティングとは、「お客さまにうれしさを提供して対価を得る」こと

●商品・サービスの使い方とTPOによって、求める「うれしさ」は十人十色

●競合がもたらすうれしさとの差が、「強み」になる

文●大寺 明