『日本再興戦略』要約まとめ

近頃テレビにコメンテーターとして出演し、切れ味鋭い発言で注目される若手の論客・落合陽一。肩書きは「メディアアーティスト」だけど、他にも筑波大学の准教授、研究所の所長、ベンチャーの経営者などなど様々な顔を持っています。彼の活動の目的は、旧時代のシステムを見直し、テクノロジーによる時代変化に最適化した“日本のグランドデザイン”を描くことにあるようです。落合陽一が訴える「日本再興戦略」とは?

 今、「日本を何とかしないといけない」と多くの人が考え、そのための解決策も見えてきているが、本当に日本を再興するためには「意識改革」が重要だと著者は訴える。過去において日本の「何がすごかったのか/何がすごくなかったのか」について我々の常識を更新しながら考えることが大切だというのだ。

 かつての高度経済成長の正体とは、「均一な教育」「住宅ローン」「マスメディアによる消費者行動」の3点セットだったと著者は指摘する。当時はいい戦略だったが、今はもう機能しなくなってきているのが現状だ。日本を再興するためには、機能しなくなったシステムを見直し、新たな価値が生まれるシステムに作り直すことが求められる。

 日本のシステムは、外来的に入ってきたものをすべて「欧米」と呼び、いろんな分野で各国の方式を組み合わせてきた。大学の場合、基盤は欧州式だが、戦後はアメリカ式を組み合わせる形になった。法律の場合は、刑法はドイツ式を参考にし、民法はフランス民法が基盤となり、日本国憲法は米国式というふうに、それぞれまったく違う国の方式を規範にしているのだ。いいとこ取りをしたつもりが、時代の変化によって悪いとこ取りになっているケースが目立ってきている。

 日本の歴史と伝統を見つめ直していくと、欧州式の概念の中には、日本に合わないものも多いという。その典型例が、「平等と公平」という概念だ。江戸時代では代官が片方に寄った裁きをしたら嫌がる一方、士農工商は受け入れているように、日本人は公平さを大事にするが、全員に同じ権利があるという平等については無頓着なのだ。こうした特徴は、民族的に均質な日本人が以前から持っているものだと著者は考えている。

 古代の日本を振り返ると、645年の大化の改新によって日本の基本スタイルが誕生した。日本の中心に天皇制を持ってくるのだが、天皇が政治するのではなく、官僚が政治を行うというスタイルである。これは戦国時代も江戸時代も同様で、大きな変化もなくこの統治構造が1300年にわたって続いたのだ。また、宗教においても他国が一神教であるのに対し、日本は八百万の神の国である。こうして日本の歴史と伝統を再確認していくと、本来、日本は民主的であり、非中央集権が合った国だと考えられるのだ。

 日本は士農工商のカースト制度が300年ほども続いた国である。カーストというと悪いイメージがあるが、職業選択の自由がない反面、安定が得られるという面がある。この士農工商のモデルがこれからの時代には合っていると著者はいう。なぜならAIが普及すると、「商」のホワイトカラーの効率化がどんどん進んで機械に置き換わられるようになり、モノを作りだせる「工」や、いろんな仕事ができる「百姓」のような人の価値が高まるからだ。

 AI、ロボット、自動運転、AR・VR、ブロックチェーンなどの技術革新は確実に我々の生活や仕事を変えていくはずだ。日本の再興戦略を考える上でカギになるのがこれらのテクノロジーである。20世期にもっともインパクトを与えた発明は、エジソンに代表される「電気製品」と、フォードが量産した「自動車」の2つであり、これらが大量生産形式になったことで、マスコミュニケーションによって消費行動と消費社会が生み出された。

 これからの時代の課題は、いかに「近代」から脱するか。今は「現代」だと言う人もいるだろうが、法律の仕組みや教育プロセスなど社会のシステムは、過去150年くらい変わっていない。今ある「現代」とは、マスが拡大しすぎて人間の想像の限界を超えてしまった「制御しづらい近代」のことだと著者は指摘する。これを本当の意味で現代化するには、人間の再定義とコンピューテーショナルな考え方が必要となる。

 そのためにはまず近代的な教育を施して、人を均しくしていくことをやめなければならない。「1対N」の近代的なマスの世界を脱し、「N対N」の多様な現代世界になると、技術のオープンソース化とパーソナライズ化が進み、AIとコンピュータサイエンスによって統計的かつコストがほぼゼロで情報処理が可能となり、あらゆるものが「最適化を目指せる」ようになる。これこそがテクノロジーによって起こる社会変化の本質だ。

 人口減少と少子高齢化がネガティブに語られているが、むしろ日本にとって大チャンスなのだという。なぜなら人が減り高齢者が増えるため、仕事を機械化する際に「打ち壊し運動」が起きないからだ。いち早く人口減少・高齢化が進んだ国として新しいソリューションを生み出すことができれば、最強の輸出戦略にもなりうる。さらに少子化によって「教育投資」ができるようになる。少子高齢化と人口減少はテクノロジーで対処できるため、何の問題もないのだという。むしろ人口増加のほうが厄介な問題なのだ。

 今後、具体的に何が起きるかというと、まずホワイトカラーの窓口業務などの仕事はほとんど機械化される。さらに自動運転やロボット技術によってあらゆる運搬業務も機械化されていく。そうすると人間の時間が余るようになり、人々のライフスタイルや仕事観は大きく変わるはずだ。日本人は革命といった急激な変化は苦手だが、改革や革新は得意だ。日本をアップデートしていくという発想を持てばいいだろう。

 著者は筑波大学の助教授という安定した地位を一旦捨てて、ベンチャーを起業し、6.4億円の出資を受けて筑波大学内に「デジタルベンチャー推進戦略研究基盤」という研究所を設立した。大学から給料を貰うのではなく、自分の会社から自分に給料を払うという日本の国立大学では初の試みだ。著者が大学という場にこだわるのは、「教育して仲間を作らないとグランドデザインを実行することはできない。時代の変革は教育から始まる」と信じるからなのだ。

『日本再興戦略』3つのポイント

●機能しなくなったシステムを見直し、日本に最適なシステムに作り直す

●テクノロジーによって私たちのライフスタイルや仕事は大きく変わる

●日本をアップデートしていくという発想を持つ

文●大寺 明