『いつかリーダーになる君たちへ』要約まとめ

当サイトでも以前インタビューした一般社団法人リディラバ代表の安部敏樹氏の東大ゼミが書籍化された。「社会の無関心を打破する」をテーマに、社会問題の現場に行く「スタディツアー」で話題の今もっとも精力的な社会起業家の一人だ。ゼミの名は「ソーシャルビジネスのためのチームビルディング」。経験と学術の両面からチームづくりのノウハウが詰め込まれている。

 これまで学生たちが受けてきた授業は、先生が一方的に話すのを聞く“インプット”だったが、安部氏のゼミでは学生同士が盛んに意見を出し合う“アウトプット”の時間であろうとする。なぜなら良い結果を出すチームは、メンバー間の交流が盛んであることが明らかになっているからだ。チームにとって「なんとなく意見がいいづらい」という雰囲気こそが“敵”。いくら優秀なメンバーが揃っていても、この雰囲気に支配されてしまうとお手上げなのだという。

 そこで安部氏は最初のゼミで6つのルールを決める。①議論に積極的に参加する。②属人的な議論はしない。属事的であれ。③発言の意図を明確に。④準備不足でした、という言い訳はやめよう。⑤そんなの無理だ、とは言わない。⑥自分ができていなくても批判をする。これらはすべて積極的に議論をしていくための取り決めだ。多様な人が集まったとき、ある程度、決められたルールがなければコミュニケーションは成り立たないものなのだ。

 リーダーが最初にやるべきことは、こうした「ルールとマインドセットの共有」にはじまり、ブレストやプレゼンなどの際にチーム内で「技法の共有」をすること。そして「進捗状況と議論のステージの共有」と「意欲の共有」の4つがあげられる。人間の思考は大きくわけて「発散」と「収束」の2パターンがある。「発散」はとにかくアイデアをたくさん出そうとしている状態で、「収束」はいろいろなアイデアの中から結論を導こうとする状態。今がどの段階なのかメンバー内で共有していないと議論がちぐはぐになってしまうのだ。

 これらの前提を共有したうえでゼミは実践的な内容へと移ってゆく。プレゼンテーションのゼミでは、自分の意図を「伝える」ことで相手に変化を起こすことを意識するようアドバイスする。そのためには「メッセージ・構成・表現力」が大切。話に起承転結をつけてストーリーを持たせることがコツだ。特に社会問題という固めのテーマを話す場合は、人が興味を持てるように伝える工夫が一層求められてくる。

 ディスカッションのゼミでは、「これからの時代のリーダーに必要な資質は何か」を議題にしていて興味深い。ディスカッションは結論を出す「収束」にあたり、こうした場面では選択肢が用意されていると結論を出しやすくなる。

 一方、「発散」の段階にあたるブレインストーミングのゼミでは、とにかくたくさんのアイデアを出すために、「批判厳禁・自由奔放・質より量・結合改善」の4原則を設定。最後の「結合改善」とは、他人のアイデアをパクり、連想でアイデアを出していくこと。

 こうしてたくさんのアイデアが出た後、それを収束させていく場面で有効なのが、同じようなアイデアをグルーピングして整理していく手法。整理をすることで、それぞれの好みやチームの傾向といった発見が得られ、そこからさらに新たなアイデアが生まれてくるものなのだ。

 そしていよいよ社会的課題を解決するビジネスプランをチームごとにプレゼンするゼミとなる。ソーシャルビジネスにおいて大切なことは、「今はこんな状況だけど、こう変えたら、世の中もう少しよくなる」というように感情に訴えるテーマを持つこと。人を動かすには、自分が心の底からこの問題を解決したいと思えるテーマでなければ響かないものだという。

 その一方で大切になるのが精緻な論理構造だ。そのためにも仮説の検証が重要になる。たとえばプロトタイプを作って計測データをとったり、ヒアリングをして仮説を検証していくのだ。こうした裏付けをとることで、そもそもの仮説が間違っていることがわかるときもあれば、逆により説得力を増す材料になることもある。

 東大生チームそれぞれが提案するビジネスプランは、いずれも非常によく考え抜かれていて興味深い。学生の野菜不足を解消すべく、POSシステムを使ったポイントカード制度導入というプラン。男女の格差問題を解決すべく、東大の女性進学率の低さに着目し、東大女子アイドルを作ることで啓蒙活動をしようとするプラン。シングルマザーの貧困問題を解決すべく、資格取得を支援するシェアハウスを運営するというプラン。耕作放棄地や後継者不足といった農業問題を解決すべく、農村の法人化をサポートするプラン。いずれも課題設定が明確で、その解決策となるビジネスプランも斬新だ。

 さらに実現性を増すには、お金の出し手というボトルネックを押さえ、自分たちでなければその事業が成り立たないという状態を作ることだと安部氏はアドバイスする。学生の遊びで終わらず、本当に課題を解決していくかは、いかにお金を回して事業を継続していけるかにかかっているのだ。

 このように安部氏のゼミは、単にリーダーになるための精神論を説くのではなく、プレゼンやブレストの手法など徹底して実践的。「理解」と「実践」は大きく異なるものだと安部氏はいう。常日頃から実践して鍛えていくことでそれは本当の力になる。実践なき知恵は、錆びつくばかりで何の価値もないのだから。

『いつかリーダーになる君たちへ』3つのポイント

●意見を言いやすい雰囲気を作ることがリーダーの役目

●最初にルールを決めることで、チーム内の障害をなくす

●感情に訴えるテーマを持つことと、精緻な論理構造が大事

文●大寺 明