『心が折れる職場』要約まとめ

新年会や忘年会で、上司や同僚と飲んで盛り上がったという人も多いはず。さすがに飲み疲れて、しばらく飲み会は遠慮したい……なんて思っている人もいるかもしれません。だけど、まったく飲み会が開かれない職場というのも問題なんです。産業カウンセラーの著者によると、そうした職場はメンタル不調になる人が多いらしい。他にもメンタル不調になりやすい職場には、さまざまな共通点があるといいます。あなたの職場は大丈夫?

 管理職向けのメンタルヘルス研修や産業カウンセラーとして活動する著者は、メンタル不調になる人が多く発生する会社や職場には、さまざまな共通点があることに気づいた。そのひとつが、自然発生的な飲み会がよく開かれているか。かつては上司が部下を食事に誘ったり、同僚同士の自発的な飲み会がよく開かれていたものだが、メンタル不調が多発する職場では、そうした光景があまり見られないという。

 飲み会を開けばいいという単純な話ではない。普段から業務上のコミュニケーションが取れていないため、気軽に誘い合えるような職場の雰囲気がつくられていないことに問題があるのだ。仕事上のトラブルがあったとき、飲みの席で社内では言いにくいことを愚痴ったり、相談できれば、「周囲に頼れる人がいる」という意識が生まれる。職場にそうした包容力があれば、ある程度のつらいことは乗り越えられるものなのだ。メンタル不調を抱える人は、仕事にしろ人間関係にしろ、一人で背負い込むことによって悪化させているケースが多いという。

 その他にもメンタル不調者が多い会社は、ここ1~2カ月で涙を流した人の割合が極めて少ないという。これも涙を流すとストレス解消になるといった単純な話ではなく、小説を読んだり、映画やドラマを観る心の余裕がないことを表している。「涙を流す人」が少ない職場は、仕事に直結するビジネスノウハウの本を読む人が多く、論理的思考や知的なセンスが重視される「頭のいい人」がそろった職場であることが多いそうだ。

 逆に「体育会系」の組織のほうがメンタル不調者が少ないらしい。理屈ではなく、誰かが困っているときに、「俺にまかせろ」という文化があるかどうかが重要だ。世間ではパワハラが問題になっているが、たとえ日頃から怒鳴りっぱなしの上司であっても、部下が困っているときに、「しょうがねえなあ」と救いの手を差し伸べてくれる上司の部下は、けっこう楽しそうに働いていたりする。

 最近は部下を厳しく叱ってはいけないという風潮があるが、一概に怒鳴ったらパワハラというわけではなく、部下が上司の言動をどう感じているかが重要だ。むしろ常に穏やかな態度の上司が、職場での評判が最悪というケースもあるのだ。仕事において、部下が失敗したときに叱ることもときには必要だ。ただし、部下の努力を認めるといったフォローがあるかないかで、まったく感じ方が変わってくる。

 今、ビジネスの世界では、個人が最大限のパフォーマンスを発揮するために「レジリエンス(跳ね返る力)」が大切だと言われている。いわば逆境に置かれたときのメンタルの強さだ。メンタル不調になりやすい人の傾向の一つに「運動系の部活を経験していない」ことがあるという。運動系の部活をあえて乱暴に表現すると、「理不尽さのかたまり」だ。雑用や下積み練習が多く、厳格な上下関係があり、練習に励んでもレギュラーになれないといった挫折を経験したりする。運動系の部活経験者は、こうした経験を通してレジリエンスが養われるのだろう。

 世の中では「ブラック企業」が問題視され、長時間労働と不規則な勤務形態がメンタル不調に直結すると考えられがちだ。しかし、それが直接の原因ではないと著者は指摘する。もちろん身体的な影響は明らかだが、心の面では一つの要因にすぎない。その仕事が好きで没頭している人は、いくら長時間働いてもさして苦にならないものだが、嫌な仕事の場合は「やらされ感」が募り、心が折れてゆく。「仕事そのものを楽しいと思っているかどうか」が根本的な問題だ。

 また、「成果主義」がメンタル不調の原因とされることも多いが、これ自体は悪い制度ではなく、社員の働きをフェアに評価できていないことに問題があると著者は指摘する。あるいは制度の導入の動機が、単に人件費のカットになっていることが問題だ。いくら頑張って成果を出しても会社の業績が悪いからと給料が下がるようでは、会社への不信感が募り、やがては無気力になっていく。無気力は怒りよりも組織の活力を失わせるものだという。

 著者がカウンセリングしたケースでもっとも多かったのが、人事異動などで新たな仕事に従事することになり、これまで培ってきたスキルや知識が使えなくなるという理由だ。メンタル面において、自分の能力が不足していると自覚することは大きなリスクになる。システムエンジニア(SE)は、メンタル不調になる人が多い仕事だという認識が世間にはある。長時間労働や一日中PCに向かっているストレスが原因と考えられがちだが、本質的には、自分のスキルが業務上で求められる技術水準に達していないと自覚するストレスやプレッシャーが原因であることが多いそうだ。

 多くの企業がメンタルヘルス研修を導入しているが、90分程度の研修はかえってメンタル不調者を増大させる可能性があると著者は問題提起している。「規則正しい生活習慣が大事」「部下を厳しく叱責しすぎてはいけない」といった誰でも知っているような内容の講習を受けても、管理職は「それくらい知っている」と受け流してしまい、結局、何も変わらないからだ。心の問題はとても複雑なものだから、表面的な知識では意味がない。そのため著者はまる1日を使ったメンタルヘルス研修が必要だと主張する。

 そして最後に、著者は経営者に対して、社員だけを見ずに、その社員を大切にしている家族の存在を感じてほしいと伝えている。かけがえのない人間として社員一人ひとりと接すること。誰もがそれを実践できたとき、心の折れる職場は姿を消すだろう。

『心が折れる職場』3つのポイント

●気軽に飲みに誘えるような職場の雰囲気が大切

●誰かが困っていたときに、「俺にまかせろ」という組織文化をつくる

●経営者と管理職が、複雑な心の問題を理解して、部下と接する

文●大寺 明