『キングダム 最強のチームと自分をつくる』要約まとめ

「マンガから人生の大切なことを学んだ」という人は多いはず。本書はマンガを通してチームやリーダーの在り方を見つめ直そうというユニークなビジネス書です。テーマとなる原泰久の『キングダム』をざっと説明すると、「秦の始皇帝」という歴史上の人物名は聞いたことがあるはず。本来は「政」という秦国の王で、500年以上続いた戦乱の世を終わらせるべく、中華統一を掲げます。そして主人公の「信」は、一兵卒から出世して「天下の大将軍」を目指す! この紀元前の物語と、現代の仕事に通ずるものとは?

 著者の伊藤羊一氏は、ヤフー株式会社が運営する「Yahoo!アカデミア」の学長を務めるほか、グロービス経営大学院で客員教授を務めるなど、次世代を担うリーダー育成に取り組んでいる。プライベートでは年間500冊を超える漫画を読むという漫画フリークだというが、なかでもこよなく愛す作品が『キングダム』だ。約30年間のキャリアで著者が培ってきた「仕事力の鍛え方」を『キングダム』を通して伝えるというのが本書のユニークな試みである。

 冒頭を飾るのが「おれは秦へ帰り王になる」という秦王・政の台詞。敵国の趙で生まれた政は迫害を受けて育ち、秦王になるのは困難な状況にあった。しかし、闇商人・紫夏が命がけで秦へ帰る手引きをしてくれたことを契機に、政は王になると決意する。全ては自分が決めた「志」から始まる。志とは、自分が人生を通して何を成し遂げるか、どういう存在でありたいか、という思い。そして志は経験を積み重ねることで生まれ、育まれるものだと著者はいう。だからこそ最初の一歩を踏み出すことが大切なのだ。

 志と表裏一体なのが「ビジョン」だ。政は宿敵の呂不韋に対し、「中華を分け隔てなく 上も下もなく一つにする そうすれば必ず 俺の次の世は人が人を 殺さなくてすむ世界となる」と言い放った。秦が中華統一を掲げる背景には、こうした壮大なビジョンがあったのだ。このビジョンを実現するために、我々は志を持つ。ビジョンは簡単に実現できないくらい大きなものがいいそうだ。著者の場合、「あらゆる人が、目を輝かせて仕事を楽しんでいる世界」というビジョンを描いている。

 志の土台となるのが、自身が持つ価値観や倫理観だ。かつて秦の白起将軍は、「長平の戦い」で趙軍に勝利した後、投降した40万の捕虜を生き埋めにした。以来、趙国民は秦に対して強い恨みを抱くようになった。この怨念に対し、主人公の信は「俺は長平みてェなことは絶対にやらねェし! 絶対やらせねぇ!!」と誓った。粉飾決算や食品偽装の問題など、企業のモラルが問われる時代だからこそ、高い倫理観を持ち、自分に問い続けることが大切になる。

 信の志は「天下の大将軍」になること。趙の総大将・龐煖(ほうけん)に初めて相見えた際、「だがそれでも戦るしかねェ ここで逃げてるようじゃ 天下の大将軍なんて夢のまた夢だ」と言って信は立ち向かった。たとえリスクをとって踏み出すことが大切なことはわかっていても、「踏み出すのが怖い」という局面は誰しもある。恐怖を克服するために、著者は「迷ったらワイルドなほうを選べ」ということを習慣にしているという。信も同様に常にこれを習慣にしているから、迷いがない。

「こいつは俺が超えなきゃならねェ壁なんだ!!」といって信は「戦いの天才」といわれる輪虎将軍との一騎打ちに挑んだ。簡単に超えられない壁にチャレンジし、死力を尽くしてはじめて人は成長する。前職で著者が銀行員だった頃、自分が所属していた銀行を含め、3つの銀行が統合されたのだが、システムの不具合により統合初日から1カ月以上も大混乱が続いたそうだ。思い出すだけで気持ちが悪くなるくらいの経験だったが、この壁を乗り越えたことが間違いなく自分の力のベースになっているという。

 Yahoo!アカデミアでは、年末に約1カ月かけてプレゼン大会を行なうそうだ。普段の仕事で400名を前にプレゼンする機会はめったにない。信が目標とする天下の大将軍・王騎将軍は、自分の馬に信を乗せ、「これが将軍の見る景色です」と語りかけた。自分が指示を出せば、思い通りに軍が動くという立場から見える景色である。そこには責任とプレッシャーもある。これと同様に、プレゼン大会はまさに「リーダーが見る景色」の疑似体験なのだ。同じ目線を経験することは、とてつもなく大事なことだという。

 王騎将軍の指示は実に簡潔だ。著しく士気が低下していた秦軍を指揮する際に言い放った台詞は、「全軍 前進」のひと言。この一言で歩兵たちの士気が一気に高まった。私たちはつい多くの言葉で語り、難しい言葉で伝えようとしがちだが、聞き手の心を動かすには「スッキリ、カンタン」が鉄則。著者はプレゼンの際には10分程度の内容を準備し、それを5分程度にまで削っていくそうだ。そうすることで言葉が「筋肉質」に引き締まるという。

 政は側室に「何が起ころうと信じて待て」と言った。何が起きても対処するという自信みなぎる言葉だが、どうすれば自信が持てるかというと、怠りなく準備しておく、これに尽きると著者はいう。著者が初めて孫正義氏にプレゼンをすることになったとき、5分のプレゼンを300回以上練習したそうだ。そうすると、たしかに緊張はしているが、勝手に口が動くようになり、安心感が生まれる。そうなると、相手を動かすことに集中して話せるようになるのだ。

 政は呂不韋との対話のなかで、「人の世をよりよい方向へ進めるのが為政者の…君主の役目ではないのか」と説いた。これは君主や経営者だけの役割ではなく、私たち一人ひとりが世の中をよりよくするために生きるべきだ、と著者は強く思っている。なぜなら仕事とは、全て誰かに喜んでもらうためにあるからだ。

 本書には41もの台詞からこうした著者の仕事に対する考え方が記されている。『キングダム』の台詞は、いずれも根源的でストレートだ。だからこそ普遍的であり、それは仕事や自分の生き方にもつながってくる。本書を読んでから『キングダム』を読み返すと、また新たな発見や気づきがきっと見つかるはず。

『キングダム 最強のチームと自分をつくる』3つのポイント

●すべては「志」から始まる

●迷ったらワイルドなほうを選べ!

●一人ひとりが世の中をよりよくするために生きる

文●大寺 明