『新・観光立国論 ~イギリス人アナリストが提言する21世紀の「所得倍増計画」~』要約まとめ

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2020年の東京オリンピックに向けて、外国人観光客の誘致に力を入れる日本。連日のニュースを見ていると、たしかに順調に増加しているように見えるけど、イギリス人にして文化財を修繕する会社の社長を務める著者は、むしろ少なすぎると感じている。もとゴールドマン・サックス証券のアナリストとして、日本の観光政策に足りないものを徹底的に分析した。

 外国人観光客が過去最高の1300万人に達した。しかし、日本ほどのポテンシャルを持った国であれば、驚くほど少ない数字だと著者は指摘する。外国人観光客数1位のフランスは8473万人、4位の中国は5569万人であり、日本ははるか下位の26位に留まる。観光収入でみると、1位のアメリカは2147.7億ドル、2位のスペインが約676億ドルで、日本は大きくそれを下回る168.7億ドルにすぎないのだ。

 2030年には全世界の国際観光客到着数が年間18億人と予測される発展が約束された市場だけに、しっかりと経済政策として観光業に注力すべきだというのが著者の論点である。

 「観光立国」となるには「気候」「自然」「文化」「食事」の4つの条件が必要不可欠とされている。観光立国のフランス、イタリア、中国はこの条件をすべて満たし、日本も同等に有利だという。「気候」に関しては四季があり、北海道でスキーもできれば沖縄でビーチリゾートを楽しむこともできる。「自然」については、あまり知られていないものの1平方キロメートルあたりの動物と植物の数が日本は世界一である。「食事」は世界文化遺産になった和食があるし、「文化」についても歌舞伎や日本庭園といった伝統文化もあれば、アニメ・音楽・ファッションといった現代文化も充実している。

 しかし、だからといって調子に乗ってはいけない。これだけ観光資源に恵まれながら26位に甘んじているということは、むしろ非常に深刻な問題を抱えていると考えるべきなのだ。これまで日本は最先端技術や工業分野に注力し、観光業を軽視してきた。そのため文化財への予算が世界の観光立国に比べて驚くほど少なく、観光業のマーケティングやインフラ整備も完全に遅れている。

 「おもてなし」という言葉に象徴されるように、サービスの質や治安の良さを盛んに打ち出しているが、外国人からすると的外れのアピールなのだという。外国人観光客の目的は、あくまで北海道ニセコのスキーリゾートや日本食を楽しむなど4つの条件いずれかに根ざしたものであり、わざわざマナーや治安の良さを味わうために飛行機に長時間乗ったりするものではないというわけだ。

 そもそも日本は外国人観光客にやさしい国とはとても言えない。成田空港の外国人向けカウンターが少なく長蛇の列になっているし、電車の券売機もクレジットカード対応をしていない。交通運賃も海外に比べると高額で、5分くらい電車が遅れてもいいから、もっと安くしてほしいという意見が圧倒的に多いのだ。また、外国人観光客のクレームに「ゴミを捨てる場所がない」が2番目に多いそうだ。物を売っておきながらゴミを自分で処理せよと言うのは、外国人には理解しがたい供給者側のご都合主義にすぎない。

 アメリカ、中国、フランス人に日本のサービスのアンケート調査を行ったところ、「一方的に日本のやり方やサービスを押し付ける」といった声や、「融通がきかない」「堅苦しい」と酷評されるケースのほうが多いという。そもそもホスピタリティとは客人が評価するもので、自らアピールされてもシラけるだけの話なのだ。

 むしろ日本の観光業のサービスは、国内向けにマニュアル化されているため、外国人にとって心地良いものとは言えない。その根底にあるのが「ゴールデンウィーク」に代表される短期間で大量の観光客をさばこうとする日本ならではの観光業の特徴だ。

 「ゴールデンウィーク限定プラン」などは、一見お客さま視点のようでありながら、実際はパッケージ化して効率化をはかる供給者視点であり、「客」の都合は優先されていない。個別の対応になった途端、「うちではやっておりません」となりがち。海外では別料金をとることで個別に対応するのが基本である。

 日本が「観光立国」になるためには、この発想を180度転換すべきだと本書は提言する。「おもてなし」というと、金銭的な見返りを求めない「奉仕の心」のようなイメージが浸透しているが、むしろ「お金を落としてもらうだけの高品質なサービス」という発想を持つべきだ。日本では外国人観光客数の増加を中心に報道されがちだが、「観光立国」とされる国では「観光収入」が目標に掲げられる。極端な話、外国人観光客がいくらたくさん訪れても、安宿に泊まるバックパッカーばかりでは「観光立国」にはなりえない。

 日本を訪れる外国人観光客を国別に見ると、1位が台湾の283万人、2位が韓国の275.5万人、3位が中国の240.9万人。4位が香港で、ようやくアメリカが89.2万人で5位に入る。距離的に近い隣国からの観光客は、数日の滞在が多く、長期滞在が一般的なヨーロッパ諸国やロシアの観光客はきわめて少ない。この現実を重く受け止めるべきだ。なぜならそうした先進国の人々こそ「観光にお金を使いたがる上客」だからである。

 アジア諸国の観光客の目的が「食事」や「買い物」に集中するのに対し、アメリカやヨーロッパ諸国の観光客は、日本食や日本酒といった目的は共通するものの、日本独自の自然や伝統文化、あるいはアニメなどの現代文化を味わうことに重点を置いている。

 そのためにも外国人観光客が何を求めているかを国別にきちんとマーケティングし、それに合わせてインフラを整備する必要がある。日本はビジネスホテルをはじめ国内向けの価格帯のホテルばかりで、世界のセレブを呼べるような超高級ホテルが圧倒的に不足しているし、外国語の案内板や外国語対応の観光ガイドもまだまだ少ない。文化財修復の予算を増やすことや、京都などの歴史ある町並みを保存する法整備も求められるだろう。

 日本の観光政策にはやるべきことが山積している。それは、裏を返すとまだまだ成長する余地があるということ。日本経済にとって観光業は大きな希望なのだ。

『新・観光立国論 ~イギリス人アナリストが提言する21世紀の「所得倍増計画」~』3つのポイント

●「おもてなし」ではなく、「何が楽しめるか」をアピール

●外国人が何を求めて訪日しているか「国別」にマーケティング

●重要な経済政策として、外国人向け観光インフラを整備

文●大寺 明