『ぼくらの仮説が世界をつくる』要約まとめ

当サイトでも以前インタビューした作家エージェント会社「コルク」代表の佐渡島庸平氏の著者が出版された。『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』などの大ヒット作を手がけ、名編集者として知られた人物だ。本書ではネット時代における作家と編集者の在り方に思索をめぐらせ、鋭い考察に目からウロコの連続。著者が大切にする「仮説・検証」の仕事術とは?

 マンガ編集者として数々のヒット作を世に送り出してきた著者は、常に「仮説を先に立てる」ことを念頭に置いてきたという。この「先」という順番が大切。ほとんどの場合、仮説は「情報を先に見て」から立てられているものだからだ。会社経営であれば前期の決算数値、出版であれば類書の売上など過去の情報をもとに考えるため、前例主義に陥ってしまう。当然、そこから新しいものが生まれることはない。

 では、著者は何をもとに仮説を立てているのだろう? それは過去の数字データではなく、「日常生活の中で、なんとなく集まってくる情報」と「自分の中にある価値観」だという。それをもとに立てた仮説を補強・修正するために情報を集めるという流れだ。

 たとえば『宇宙兄弟』の当初の売上はいまひとつだった。「宇宙」をテーマにしたマンガは女性読者に響かないため大ヒットしないという定説があり、たしかに『宇宙兄弟』は男性読者が7割を占めていた。しかし、著者はこの情報を鵜呑みにせず、この作品は性別を問わず愛される作品だと確信していた。

 そこで「女性読者が増えると、ヒットし始める」という仮説を立て、美容室に『宇宙兄弟』を送付するという思いもよらぬ販促方法をとった。作品を読んだ美容師がお客さんに薦めるはずだと考えたのである。やがて読者の男女比は5:5になり、単行本の売上がじわじわ伸びはじめたそうだ。

 著者のいい作品の判断基準は、「新しい定義を生み出すことができること」だという。たとえば『ドラゴン桜』は「教育の再定義をしよう」という発想から生まれた。そこで、いわゆるマンガファンではなく、教育業界に認められたほうがよいという仮説を立てた。書店の学習参考書コーナーに『ドラゴン桜』を置いてもらうという異例のプロモーションをかけたところ、これが功を奏し、後の大ヒットへとつながった。

 これらは著者が講談社のマンガ編集者時代に培ってきた仕事術だが、作家エージェント事業で独立した今では、ネット時代における作家と編集者の在り方について仮説を立てることにベンチャーの意義を見出しているようだ。

 膨大な情報によってすべてが可視化されるネットの世界では、情報をコントロールしたり隠したりすることはほぼ不可能。これは、世の中のすべてのプロダクトがサービスに変わってきていることを意味する。ホテルが24時間体制で質の高いサービスを提供し続けようとするように、本というプロダクトだけでなく、それに付随するすべてに対して誠実に対応していくことが求められると著者は考える。

 さらにスマホの登場によって状況は様変わりした。多くの人は「ただなんとなく」時間を使っているものであり、以前はテレビやマンガに時間を使っていたわけだが、スマホの登場以降、SNSやソーシャルゲームで時間を細切れで使う人が増え、各メディアが時間を取り合っている状況だ。

 SNSの身近な人が書いた文章と雑誌でプロが書く文章では、当然、後者のほうが質は高い。同様に、ソーシャルゲームよりもソフトを購入して遊ぶゲームのほうが質は高い。しかし、いま人気なのはいずれも前者。これは、親近感のあるほうに面白味を感じるという「接触回数」の問題でもある。そう考えたとき、読者にどう届けるかという仕組みまで徹底して考え、それを実行するプロデューサーの視点が求められてくるという。

 そこでコルクでは、HPやメルマガ、ツイッターやフェイスブックなど多方面から情報発信するほか、グッズ販売やイベント企画などあらゆるプロモーションを手がけようとしている。これも「接触回数」を増やすための試みだ。著者はファンと密にコミュニケーションを取りながら一緒にモノを作る時代になっているという「仮説」を立て、事業を通して「検証」しているのだろう。

 こうした大胆な仮説を立てるために著者が意識しているのが「宇宙人視点」だという。ルールやイメージといった固定観念がない宇宙人から見ると、業種に捉われることなく「ビジネスモデル=骨格」だけが浮かび上がってくるという。そうすると出版社の強みは、コンテンツの質ではなく、むしろ「流通」だということが見えてくる。

 つまり、そのチャンネルが弱まっていることが出版不況の現状なのだ。そこで出版社が収益を上げるためにやるべきことは、コンテンツの質の向上というより、流通の再構築にある。コンテンツの内容や作者の才能によるものではなく、仕組みのせいで能力が発揮されてないのではないか?と宇宙人視点で冷静に考えてみることも必要だ。

 そして、仮説を立てることと同じくらい著者が重視しているのが、「ドミノの1枚目を倒す」こと。魔法のような一手などどこにもなく、どれだけ未来を予測してもそれは見つからない。基本的な仕事を徹底させ、ドミノの1枚目を倒すことが次の連鎖へとつながるのだ。

 その際、大切になるのが「たった一人の熱狂」だという。自分が好きなことを見つけ、仕事と遊びの境目がないくらい熱狂している人が、仮説を立てる。これが2枚目のドミノであり、3枚目のドミノは熱狂している人の周りに集まってきた人が倒していく。こうしてぼくらの仮説が世界をつくってゆく。

『ぼくらの仮説が世界をつくる』3つのポイント

●「情報→仮説」の前例主義ではなく、「仮説→情報」で検証

●固定観念を取り払い、「宇宙人視点」でビジネスモデルを見る

●ドミノの1枚目を倒し、次の連鎖を生みだしてゆく

文●大寺 明