『山田昭男の仕事も人生も面白くなる 働き方バイブル』要約まとめ

「日本一“社員”が幸せな会社」として知られる「未来工業」。創業者の山田昭男氏は、もともと劇団「未来座」を主催する演劇青年でした。演劇だけでは食べていけず、50年ほど前に劇団仲間と起業したのがきっかけ。劇団の活動時間をつくるため、残業を減らし休日を増やすことに頭を使うようになったそうです。そんな山田氏も2014年に82歳で他界……。最後の著書となった本書から、山田氏の「仕事を楽しむ」哲学を学んでみましょう。

 ブラック企業の典型というと、過酷な営業ノルマや長時間労働を強いる管理体制だが、「元祖ホワイト企業」と評される電気設備資材メーカー「未来工業」には営業ノルマもなければ「ホウレンソウ」もない。就業時間は1日7時間15分と決められ、残業は一切禁止。さらには年間休日140日という働く人には願ってもない職場環境だ。それでいて創業以来、赤字決算はゼロで年商は352億円。今では社員数800名を数える。

 創業者の山田昭雄氏の経営方針とは、人を「管理する」のではなく、信じて「任せる」こと。多くの企業がノルマを課し、報告を義務づけるなどして管理しようとするが、それは「指示待ち社員」を増やすだけで生産性の向上につながらないと山田氏は考える。そうではなく、自分の頭で考えて行動する本当のプロを育てようという方針なのだ。

 そのための具体的なメソッドが、社内業務の「改善」。どの職場にも長年にわたってなんとなく続けられている「慣習」がある。それが本当に効率的であるか疑問だとしても、「変えるのも面倒」ということで現状維持になっているケースが多い。たとえば報告書や企画書、申請書などの社内資料の作成は、本当に必要な業務なのだろうか? 実際は簡略化しても業務に支障はないかもしれず、むしろムダな労力をとられ、肝心の仕事に集中できなくなっている可能性もある。

 こうしたムダな業務が仕事の質を下げる一因になっているとしたら、大いに「やめる」ことを試してみる価値がある。それで1日10分短縮されれば200日で2000(約33時間)もの時間が生まれる。そうした細かな時間が積み重なって残業がゼロになっていくものなのだ。もし、やめてみてダメだったら元に戻せばいい。さまざまな改善も取り入れるため、未来工業では社員の考えた改善案1件に対し500円の報奨金を出すといった試みもしている。

 山田氏が考える「質の高い仕事」とは、コスト意識に裏打ちされた仕事だ。社員がこまめに自分の席の電気を消すようにしたり、社内のコピー機を1台だけにしてコピー用紙を節約するようにしているのは、なにもケチだからではない。こうした細かな注意をはらうことで社員のコスト意識を高めようとうながしているのだ。そうすると次のステップとして、社員は「給料に見合った仕事をしているか」をたえず意識するようになる。これこそが本来のプロの考え方というもの。

 ただし山田氏は、なんでもかんでも「コストを下げる」という現在の企業の風潮には懐疑的だ。業績が下がってきたとき、経営陣は安易に正社員から派遣社員に切り替えたり、赤字部門から撤退しがちだが、短期的にプラスに転じたとしても、長い目で見るとマイナスのほうが大きい。働く人に不安や不満が募るとモチベーションが低下して仕事の質は下がるものだし、たとえコストが高くついたとしても、売るための工夫をしてそれ以上にたくさん売れれば何も問題はないと考えるのだ。

 そもそも日本の会社の97%は経営利益4000万円以下。つまりそれほど儲かっているわけでもない。ところが97%も占めているため、そうした会社の経営方針が世の中の常識になってしまっている。山田氏の根本的な考え方は、この常識を疑ってかかること。さらにいうと、会社の業績を上げたければ、97%の会社と反対のことをすればいいという。

 山田氏の経営方針は一見型破りに見えるが、いずれも理にかなっている。たとえば人件費が高くて営業職が雇えないと嘆いている会社があったとする。そこで大手問屋に15%の手数料を支払って販売していた場合、年間200億円の売上だと販売手数料は30億円。年収600万円の営業マンを500人は雇える予算だ。このように山田氏はビジネスの慣習を根本的に見直そうとする。

 タイムカードも警備員も実はいらないんじゃないか? 実際に試してみたところ、なんら業務に支障がないことがわかった。一方で、お盆休みを10日から7日に減らしてみたところ、前年比に比べ売上げ減となったため、すぐに10日に戻したりもしている。未来工業では試すことを奨励する一方で、ダメだった場合はすぐに元に戻すという原則がセットになっている。仕事も経営も「試しにやってみる」ことの永遠の反復練習だと山田氏はいう。

 本書の後半は、上司の心構えが中心となる。ここでもやはり「任せる」ことの重要性が説かれる。できる上司ほど「自分がやった方が速い」となりがちだが、上司の一番大事な仕事は部下を信じて、我慢強く「待つこと」だと山田氏はいう。

 上司としては進捗状況を細かく管理したり、あれこれ口出しをしたくなるものだが、それは仕事を「任せて」いるのではなく、仕事の「割り振り」をしているにすぎない。むしろ「がんばりすぎる上司」こそ、長時間労働や生産性の低さの元凶だというのだ。アドバイスは必要最小限におさえ、ときにはさりげなく声をかけてケアしながら、辛抱強く見守る。人は信頼されて任されたほうが、それに応えようとして一生懸命がんばるものだからだ。

 真面目に働くのが日本人の美徳。しかし、それがかえって生産性を低下させているのかもしれない。山田氏のラストメッセージは「日本人は楽しく働くことをもっと本気で考えたほうがいい」というもの。むしろそのほうが会社の業績は上がるかもしれず、大いに試してみる価値がありそうだ。

『働き方バイブル』3つのポイント

●「管理」は「指示待ち社員」を増やすだけ

●常に自分で考えて、業務を「改善」することを習慣化する

●人は信じて「任せて」もらうと、もっとがんばろうとする

文●大寺 明