『逆説のスタートアップ思考』要約まとめ

FacebookもGoogleもかつてはスタートアップでした。これは、短期間で急成長を目指す一時的な組織体のこと。着実な成長を目指すものは「スモールビジネス」と呼ばれ、ベンチャーキャピタルから出資を受けたり、最先端技術に関わっているから「スタートアップ」というわけでもありません。あくまで目指すは、短期間の急成長です。このスタートアップの世界では、普通のビジネスの考え方や方法論が当てはまらないといいます。あえて大企業が避けたがる選択をとる“逆説”のスタートアップ思考とは?

 スタートアップの思考において、もっとも特徴的なことは「反直感的である」という点だという。普通のビジネスの思考法や方法論が当てはまらない場合が多いのだ。すべてのスタートアップはアイデアから始まるわけだが、スタートアップとしての優れたアイデアは、一見そうは見えない。誰もがいいと思うようなアイデアは急成長を遂げられない場合が多いという。

ゼロ・トゥ・ワン』の著書で知られるピーター・ティールは、不合理なアイデアについて「賛成する人がほとんどいない大切な真実」と述べている。ここで重要なことは、「真実」を含んでいること。実際のところ、悪いように見えるアイデアは、単に「悪い」だけのことが多く、一見悪いように見えて実はよいアイデアというのは、とても希少なものなのだ。

 スタートアップが反直感的である背景として、次の4つの説がある。

  1. 不合理なほうが合理的
  2. 難しい課題ほど簡単になる
  3. 本当によいアイデアは説明しにくい
  4. スタートアップの成功はべき乗則に従う

「不合理なほうが合理的」については、急成長できる機会が明確で、合理的に動いているマーケットは、頭のよい人たちにすでに狩り尽くされている。したがって先進的な大企業が目をつけていないような不合理なマーケットを選んだほうが、スタートアップにとっては合理的な選択となるのだ。

「難しい課題ほど簡単になる」については、社会的課題を解決する事業や、高度な技術を必要とするハードテックのスタートアップのほうが難しく見えるものだが、実際はむしろ逆。そうした事業のほうが周囲から支援が受けやすく、優秀な人材も採用しやすい。競合がいないマーケットに進出できるため、実はかえって簡単になる可能性が高い。

「本当によいアイデアは説明しにくい」については、Airbnbの成功がその典型といえる。一般的に「よいアイデアは、それを聞いた誰もがわかりやすいアイデア」だとされている。たしかにAirbnbのアイデアは「他人の家の空きスペースに泊まる」という極めてシンプルなものだが、彼らの登場前にこのアイデアを聞いてもピンと来なかっただろう。ピーター・ティールはこうした状況を次のように述べている。「本当に成功している企業というのは、既存のカテゴリーにはまらない、事業内容を説明しにくい企業なのです」と。Airbnbはホテル事業でもアパート賃貸事業でもなく、新しいカテゴリーの事業だったわけだ。

「スタートアップの成功はべき乗則に従う」の「べき乗則」の特徴は、基本的に外れ値であり、異常値であること。通常の競争では1位、2位、3位が僅差でゴールするのが普通だが、スタートアップの場合、1位と2位の差が数十倍にもなる。ベンチャーキャピタルが狙う投資先とは、こうしたホームランを狙うビジネスだ。短期間で急成長をしたければ、大きく化ける可能性を秘めたビジネスを考えるべき。そのほうがベンチャーキャピタルから投資を受けられ、成功しやすいというわけだ。

 これらアイデア面だけでなく、スタートアップは戦略も反直感的だ。大企業の場合、すでに見込みのある市場を狙うものだが、そうした市場はすでに競争が発生している。これに対し、スタートアップが狙うべきは、「競争」を避けて「独占」できる市場だ。スタートアップの世界では、競争に参加した時点でいわば「負け」。価格競争になると小資本の企業では太刀打ちできないし、たとえ成長できてもジリ貧になる。逆にライバルがいない市場を独占できれば、高い利益率を得ることが可能になる。

 独占するためには、まず何より「素早さ」が重要になる。その際、「小さな市場を選ぶこと」が条件。破壊的イノベーションは多くの場合、ローエンドから「小さなニーズを満たすもの」として始まる。大企業がこのニーズに気づけたとしても、その市場では組織を養えるほどの利益が出ないため、投資をしないという判断になる。だからこそ小さな市場のほうが独占できる可能性が高くなる。

 スタートアップ初期には、多数の人からそこそこ好かれる製品ではなく、少数の顧客が深く愛する製品を作ることが重要。急成長を目指すといっても、スタートアップ初期においては、「スケールしないこと」をするといいそうだ。まずその業務のエキスパートになることに専念し、カスタマーサポートに力を入れるなどして、少数の顧客の継続率を上げていく。こうして土台をしっかり作ったほうが、大きく成長する可能性が高くなるのだ。

 スタートアップの方法論を伝える本書だが、スタートアップのためのスタートアップには否定的だ。スタートアップはあくまでアイデアを実現するための手段であり、実際、何かやりたいことやアイデアがあって始めたスタートアップのほうが成功率は高いという。資金調達や有望株の仕組みなど知らなくても、専門家に頼ることができるし、標準的な方法に則れば解決できてしまうものだという。それよりも創業者がやるべきことは、顧客に愛される製品を作り、その製品をより良くし続けるためのチームを作ることなのだ。

『逆説のスタートアップ思考』3つのポイント

●スタートアップとしての優れたアイデアは、一見そうは見えない

●「競争」を割け、小さな市場の「独占」を狙う

●少数の顧客が深く愛する製品を作ることが重要

文●大寺 明