『やりぬく力 GRIT』要約まとめ

世界的に活躍するアスリートやアーティストを見ると、私たちは「天賦の才能」だと考えがちです。だけど、イチローが日々の練習と習慣を強調するように、「天才」と呼ばれる人は長年に渡ってたゆまぬ努力を続けているものです。「天才」と安易に納得することは、そうした努力に目を向けず、「自分にはムリ」と決めつけているにすぎないのかもしれません。何かを成し遂げるために才能以上に重要だという「やり抜く力=GRIT」とは?

 学力・体力ともに優秀な若者たちが目指す米国陸軍士官学校は、1万4000名以上が入学を志願し、わずか1200名しか入学が許されない狭き門である。入学を果たした生徒はほぼ例外なく各校を代表するスポーツ選手であり、大半はチームのキャプテンを務めているという。ところが、5人に1人は中退し、その大半は入学直後に行なわれる「ビースト」と呼ばれる訓練期間中に辞めてしまうのだ。

 どんな人なら「ビースト」の過酷な訓練を耐え抜けるのか? ここで問題になるのが、入学時に最高評価のスコアを獲得した生徒たちが、最低スコアの生徒たちと同じくらい中退率が高かったことである。この問いから心理学者の著者は「GRIT=やり抜く力」に着目し、グリット・スコアという測定テストを考案した。その結果によると、入学時のスコアとグリット・スコアには何の関係も見られず、逆に「ビースト」を耐え抜いた生徒のグリット・スコアが総じて高いことが判明した。

 また、「営業職」を対象に同様のテストを実施したところ、55%の人は退職してしまったが、グリット・スコアの高かった人は辞めずに残っていた。さらにアメリカ人を対象とした大規模調査を行ったところ、「やり抜く力」が高い人ほど高等教育の上のレベルに進学しており、博士、医学士など大学院の学位を取得した人々は、4年生大学卒業生よりも「やり抜く力」が強いことが明らかになった。

 では、「やり抜く力」はどの程度、重要なのだろうか? そこでスペリング・コンテストに挑む7~15歳の生徒たちを対象に調査したところ、「言語知能指数」と「やり抜く力」に相関関係はまったく見られなかった。たとえ言語能力が劣っていたとしても、人より何時間も多く練習し、コンテストで場数を踏んだ生徒が勝ち進んでいたのだ。つまり「やり抜く力」と「才能」は別ものだということが判明した。

 私たちは優秀なアスリートやアーティストを見ると、すぐに才能によるものだと決めつけてしまいがちだ。肉体的にも遺伝的にも普通の人とは決定的な違いがあり、「生まれつきの才能」によるものだと納得してしまう。しかし、どんなとてつもない偉業も、実際は小さな努力を積み重ねた結果であり、一つひとつのことは誰でもやればできることなのだ。哲学者のニーチェは、偉業を達成した人々のことを「天才」ではなく「達人」と考えるべきだとした。

「才能」から「達成」に至るまでの過程を著者はこう説明する。「才能」とは「努力」によって「スキル」が上達する速さを意味する。さらに「スキル」は「努力」によって生産的になる。いずれも「努力」と掛け合わせることが重要であり、才能が人の倍あっても人の半分しか努力しない人は、長期的には努力家タイプの人に圧倒的な差をつけられてしまう。

「やり抜く力」とは、「情熱」と「粘り強さ」を合わせもつことである。何かに熱中するのは簡単でも、それを持続することが難しい。そこで問われるのが「目標」である。目標には階層があり、「早起きする」「練習する」といった個々の目標は、中位にある目標を達成するための手段であり、さらに上位には「ビジョン」とも言うべき抽象的かつ最終的な目標があるからこそ、長年にわたって努力を持続できるのだ。

 逆に「やり抜く力がない」という状態は、漠然と最上位の目標だけがあり、中位や下位の目標が設定できていない状態であったり、中位の目標ばかりが乱立し、「最上位目標」が存在しない状態であったりする。全体を見たとき目標がピラミッド構造になっていないのだ。

「やり抜く力」は子どもの頃の「ほめられ方」によって決まる確率が高いという。「才能」をほめるよりも、「努力」と「学習」をほめたほうが「やり抜く力」は育まれる。能力を才能によるものだと捉えるようになると「固定思考」になり、逆境を悲観的に受け止めたり、困難なことを避けるようになるという。逆に能力は努力によって伸ばせるという「成長思考」になると、逆境を楽観的に受け止められるようになり、粘り強くなる。

 子どもをすぐに抱きしめたり無条件の愛情を注ぐのではなく、子どもが難しい課題に挑戦し、見事にやってのけたときにほめるようにし、何でも一生懸命やることや、最後までやり遂げることを教えることが大切だという。ただスパルタ式に厳しくすればいいというわけではなく、子どもに厳しい要求をしながらも支援を惜しまない「愛情ゆえの厳しさ」が子どもの能力を最大限に引き出すのだ。

 さらに賢明な育て方は、親が子どもの手本になること。これは子どもが「親を真似る」という強力な本能に基づいており、もしあなたが子どもの「やり抜く力」を引き出したいなら、まず自分が人生の目標に対してどれくらい情熱と粘り強さをもって取り組んでいるかを子どもに見せることが大切になる。これは必ずしも親だけではなく、コーチや教師、上司や友人など、周りの人々が個人の「やり抜く力」を伸ばすために重要な役割を果たしているのだ。

「やり抜く力」が強い人ほど精神的に健康的な生活を送り、幸福感が高いことがデータから明らかになっている。「やり抜く力」が強い人は、大きな目的のために情熱をもって仕事に打ち込めることに喜びを感じ、それをやり遂げることが彼らにとっての成功であり幸福なのだ。たゆまぬ努力によって卓越性を究めることをを「天才」と定義するなら、誰もが天才になれることを本書は教えようとしている。

『やりぬく力 GRIT』3つのポイント

●「やり抜く力=GRIT」とは“情熱”と“粘り強さ”

●「能力」は“目標”と“努力”によって伸ばすことができる

●子どもの「やり抜く力」を育むには「愛情ゆえの厳しさ」が必要

文●大寺 明