『ビジネスモデル症候群 なぜ、スタートアップの失敗は繰り返されるのか?』要約まとめ

2010年代は世界的なスタートアップブームとされています。しかし、実のところ日本では1997年以降、起業率は年々減少し、しかも起業家の平均年齢は上昇傾向にあるそうです。こうした状況を受け、行政や自治体がビジネスコンテストの開催を後押しするようになり、画期的なビジネスモデルを評価し、若手起業家の育成に取り組んでいますが、本書はそうした傾向に警鐘を鳴らしています。実はビジネスモデルこそが失敗の入り口だった!?

 琉球大学で「ベンチャー起業講座」の講師を務める著者は、ビジネスコンテストの「優勝者がだれも起業しない」という現実を目の当たりにしてきた。アイディアに問題があるのであれば、少額で検証を繰り返してビジネスモデルを修正していく「リーン・スタートアップ」の手法が有効だと考えられている。たしかに成功事例も数多く存在するが、実際はこの手法を忠実に遂行したスタートアップほど典型的な失敗のパターンに陥りやすかったという。こうして著者は「ビジネスモデル」に疑問を抱くようになる。

 そもそもGoogleもAirbnbも創業時から現在のビジネスモデルを目指していたわけではなく、「創業から急成長した起業家が、やがてよいビジネスモデルと出会う」ものなのだ。結果から成功理論を導きだそうとすると、画期的なビジネスモデルがもっとも重要だと考えてしまいがちだが、実際はそうした成功事例はごくわすかであり、失敗事例のほうが圧倒的に多い。そこで著者は大多数の失敗を分析したほうが、再現性が高い起業理論が完成するはずだと考えるようになった。

 こうして導き出されたのが、「ビジネスモデルを考えすぎると起業は失敗しやすくなる」という本書の問題提起である。もちろんビジネスモデルは大事だが、「アイディア」に過剰に依存すると、「ビジネスモデル症候群」という罠にはまり、失敗を繰り返しがちだという。そこには典型的な5つの症状がある。

 症状その1は「バイアス」という偏った思い込みである。リーン・スタートアップは「仮説検証」がカギになる手法だが、実際は客観的にフィードバックを検証するのではなく、自分たちに都合のいいフィードバックばかり集めるようになり、「自作自演」のような仮説検証になりがちなのだ。ビジコンで表彰されたり、投資家から出資を受けるといった周囲の評価により、バイアスはより強度を増していく。そうなると第三者には見えているフィードバックが、アイディアの持ち主にだけ見えなくなってしまうのだ。

 症状その2は直感ですばやく解に到達しようとする「ヒューリスティック」と呼ばれる思考だ。シャワーを浴びているときや通勤中に突然アイディアが浮かび、起業を決意するということがある。しかし実際は、直感的に手に入れた結論は真実である可能性が低く、錯覚や判断ミスの可能性が高い。同時に論理的に考えることが大事なのだが、バイアスによって真実が見えなくなってしまうのだ。起業が難しいのはアイディアが浮かばないためではなく、むしろ「自分のアイディアが自分の脳を欺し始める」からなのである。

 症状その3は「経営破綻」だ。多くの起業家が「ビジネスが成功すれば売上が上がり、後から勝手に経営がついてくる」と勘違いし、経営をないがしろにしてしまう。しかし、実際は逆だ。経営という屋台骨がしっかりできているからこそ、アイディアを実現することが可能になるのだ。スタートアップにおける製品・サービスの「失敗」とは、売上やユーザーがいないことではない。その状態は「まだ成功していない状態」であり、それを提供する「経営」が続けていけなくなったとき、失敗は「確定」する。

 症状その4は「手段の目的化」である。起業を目指す人の多くは、何らかの課題をイノベーションによって解決しようと考える。その手段(ビジネスモデル)はひとつではない。複数の手段を検討し、一番効率的な手段を選ぶのが合理的なはずだが、ビジネスモデル症候群に陥ると、たったひとつの手段に固執してしまいがちなのだ。ビジコンや投資家のお墨付きを得たり、関係者が増えるほど、手段を修正・変更することが難しくなってしまう。

 症状その5は「失敗のループ」から抜け出せなくなること。ビジネスモデル症候群に陥ると、失敗した理由を「アイディアがよくなかった」と結論づけるようになり、「次こそニーズを捉えたアイディアを考えよう」となる。こうしてまた同じ失敗を繰り返してしまうのだ。1回1回の失敗は低コストだったとしても、時間的損失のダメージは大きい。

 ビジネスモデル症候群から脱却するには、意図的に「反証」するようにし、客観的なアドバイスが得られるメンターの存在が求められる。しかし、実のところ起業家本人以上に「メンター」や「専門家」と呼ばれる人にビジネスモデル症候群が浸透し、起業を目指す人に誤ったバイアスをかけている場合が多い。

 人は自分のアイディアや考えをできるだけ早く「確証」させたいと考える傾向がある。そのため「成功の後押し」をしてくれる人にアドバイスを求めがちだ。そうではなく、メンターを選ぶ際の基準は、「大失敗しないためのアドバイス」をしてくれる人がいいだろう。あるいは課題の当事者であるお客さまの中にこそ、良きメンターがいるかもしれない。

 ビジネスが成功するということは、「やりたいこと・できること・求められていること」が完全に一致している状態である。起業家の創業1年目の仕事は、この3つを一致させるための仕組みを構築することだと著者は考えている。そのためにはアイディアという「やりたいこと」を固定せず、「できること」をひとつずつ増やしていく事業展開が求められる。それが社会から切実に「求められていること」であれば、やがては素晴らしい「ビジネスモデル」に出会い、成功の確率も向上していくはずだ。

『ビジネスモデル症候群』3つのポイント

●ビジネスモデルに固執しすぎると、起業は失敗しやすい

●その原因は、偏った「バイアス」がかかること

●常に「反証」を意識し、客観的なメンターを付けること

文●大寺 明