『アイデアは敵の中にある』要約まとめ

ビジネスの現場でアイデアを形にしようとしたとき、会議で話し合いが行なわれます。だけど、否定的な意見が出たり、自分の考えとは違う方向に進んだり、なかなか思い通りに事が運ばないものですよね。日本初の大型電動バイク「ゼクウ」で知られるプロダクトデザイナーの根津孝太氏は、そこに「創造(クリエイティヴ)の源泉」があると言います。モノづくりのスペシャリストが語る「クリエイティヴなコミュニケーション」とは?

 もともとトヨタのデザイナーだった著者は、35歳で独立し、ツナグデザインを設立。セクトに分かれた巨大組織を離れ、一介のプロダクトデザイナーとなってからは、水筒やランチボックス、日本初の大型電動バイク「ゼクウ」やタミヤのミニ四駆など、自動車に留まらずさまざまな斬新なプロダクトを生み出してきた。もちろん自動車業界においても古巣であるトヨタのコンセプトカー「カマッテ」や、ダイハツの軽スポーツカー「コペン」など遊び心あふれる車を生み出し、現在は過疎地域の交通問題を解決すべく超小型モビリティ「リモノ」の開発に尽力している。

 次々とアイデアを形にしてきた著者のことだから、最初から完成されたデザイン案を提出し、誰も反対意見を言うことなくスムーズに企画が通っているものかと思いきや、そんなことはまずなく、むしろ最初に自分が考えたとおりになってしまったら危機感を持つべきだという。自分ひとりで考えたアイデアなど、所詮たいしたものではない。反対意見が差し込まれ、それを受け止めて考え抜くからこそ、アイデアに磨きがかかるのだ。

 自分の意見が否定されたからといって、落ち込んだり、ふて腐れる必要はない。視点を変えると、自分と違う意見こそが新しいアイデアを生み出すヒントになる。誰も悪意をもってネガティブな意見を言っているわけではない。より良い製品を生み出そうとして意見しているのであって、ネガティブに対しネガティブで返しても何も生まれない。そこで大切になってくるのが、ポジティブな方向に持っていくためにコミュニケーションだ。

 最近の世の中は「結果を出す」ことが重視され、多くの人が四苦八苦しながら得体の知れない閉塞感を感じている。しかし、長い時間軸で考えたとき、目先の利益よりも「過程」こそが大切だと著者は考えている。過程の中には無数に小さな結果があり、たとえそのプロジェクトで実質的な利益に結びつかなかったとしても、メンバー同士が真剣に議論したことが、より大きな成功を導き出すカギになるかもしれない。特にモノづくりの現場では、こうした管理効率が悪いコミュニケーションでしか、生産効率を上げらないことがよくあるという。

 コミュニケーションが断絶される一番多いパターンは、各自があらかじめ結論を持ち、それに固執することだという。本来、会議とはさまざまな意見をぶつけ合って、アイデアを練っていく場だ。しかし、実際の会議では力関係が上の人が結論を言い渡す場になってしまい、さらには責任を取りたくないという自己保身や、縦割り構造のセクショナリズムがコミュニケーションを断絶し、創造性を阻害してしまっている。

 それに対し、著者は「あらかじめ決められた結論」は会議に必要なく、むしろ求められるのは起爆剤になる「仮説」だとする。その仮説が間違っていてもかまわない。最初から会議で「合意形成」は求めず、みんなの興味をかき立てるようなデザインを提出するのだ。その際。賛成や反対、質問や修正など多くの意見が飛び交うように、会議を躍らせることを意識する。それをみんなで一緒に検討していくことで、問題が自分化され、各自が主体的に知恵や工夫を提案するようになる。個々の意見が取り入れられることでチームの結束力も高まり、プロジェクトが勢いづくのだ。

 そこで大切になるのが、反対意見にも耐えられる柔軟性だ。多くの場合、自分と違う意見が受け止められない理由は、相手に勝とうとすることにある。しかし、よくよく考えてみると、誰もがより良い製品を作り出そうとして意見を出しているのであって、たとえ相手に勝っても何の得にもならないことに気づくはず。否定や打消しではなく、まず相手の立場や背景を尊重し、すべての意見を受け止めて、余裕をもって話を聞いてみるといいだろう。

 自分と違う意見に刺激を受けることで、自分の考えもどんどん更されていく。コミュニケーションの前後で自分が変わっていることこそ、創造性(クリエイティヴィティ)が発揮された成果だ。だからこそ著者は、反対意見が差し込まれたら、ラッキーだと思うようにしている。それは自分を成長させてくれるまたとないチャンスなのだ。

 いくら自分ひとりが満足していても、メーカーの思惑にそぐわなければそれが世に送り出されることもなく、企画部門や営業部門などさまざまな人が関わる以上、当初考えていたとおりの製品になることもない。だからこそ、自分のアイデアを現場全体のアイデアに変えていくコミュニケーションが大切になってくる。その方法や技術に専門的なノウハウは必要なく、コミュニケーションは「心がけ」次第でデザインできるというのが本書のテーマだ。

 重要なことは、発想自体が起爆剤となり、モノづくりのチームワークを活性化させること。その過程でどれだけの言葉が交わされたかが何よりも大切だ。自分ひとりで完結してしまうと、それ以上のアイデアは生まれない。自分と違う意見が出てくることこそ創造性の源泉である。自分以外の相手がいる限り、アイデアが尽きることはない。だからこそ、アイデアは敵の中にあるのだ。

『アイデアは敵の中にある』3つのポイント

●起爆剤となる仮説を立て、会議を躍らせる

●反対意見を否定せず、相手を尊重し、柔軟な姿勢で話を聞いてみる

●自分と違う意見にこそ、「クリエイティヴの源泉」がある

文●大寺 明