『「上から目線」の構造』要約まとめ

「上から目線」の構造

上から目線で言われてムカつく――。上司や先輩に対してつい反発してしまいがちだが、「上から目線」に過敏になりすぎるのも考えもの。心理学者が書いた本書を読むと、そこには「見下され不安」や「自己愛」があり、自分自身もまた「上から目線」で人を見ているものらしい。それは、日本的な平等主義が生んだディスコミニケーションの表れなのかもしれない。

 上司や先輩のアドバイスに対し、「上から目線はやめてください」と反発する人が増えているという。アドバイスとは経験や知識のある側から、それが乏しい側への働きかけであり、本来は感謝されるべきものだが、相手が親切で言ってくれたという解釈よりも、相手が優位性を誇示しているという解釈に重きが置かれてしまっているのだ。

 これが同世代の対等な者同士のやりとりであれば、「上から目線」がムカつくのもわかる。しかし、上司や先輩のように客観的に見ても上位の立場だった場合、そこに見え隠れするのは「見下され不安」なのだと心理学者の著者は指摘する。人が自分を見下すのではないかと恐れる人は、人を見下す傾向が強い人でもあるという。つまり、上から目線をとがめる「上から目線」となり、反発する側にも相手を見下そうとする心理が働いているのだ。

 ただし、ただ年齢や立場が上というだけで、強烈な「上から目線」の上司や先輩がいるのもたしかだ。しかし、現代は年齢や肩書きだけで尊敬される時代ではなく、あくまで仕事上の知識やスキル、経験など実質的に優れたものを持っていないと尊敬されない時代である。必要以上に威張り散らして自分の優位性を誇示しようとする人もまた「自信のなさや不安」を抱え、軽く見られないための自己防衛の心理メカニズムが働いているのだ。

 子どもの頃、そろそろ宿題をしようと思っていた矢先に、親から宿題をしろと言われ、うっとうしく思った経験があるだろう。人は誰しも自分で考えて動きたい。人の指示で動くロボットのようにはなりたくないのだ。若手から「上から目線」と反発されるケースの大半は、“言い方”に問題があるという。アドバイスをするにしても、いきなりまずい点を指摘したり、改善点を示すなど、一方的な姿勢のため反発されてしまうのだ。そんなときは、「自分も最初の頃はそうだったのだけど……」といったクッションになる枕詞を入れるといい。

「上から目線」が問題となる背景には、「上―下」「勝ち―負け」で人を判断する図式がある。人間というのは絶えず自己評価しないではいられない存在であり、そのため常に人と比較している。これを心理学では「社会的比較」という。私たちは子どもの頃から運動能力や学力を他の子と自分を比較してきたわけだが、この比較意識を過剰に持ちすぎると「見下され不安」に脅かされることになるのだ。本書では対人恐怖症が例に挙げられているが、過剰に人の目線が気になるこの症状は、日本人特有のもので他国には見られないものだという。

 青年期になると、社会的比較から「こうありたい自分」という理想自己との比較になる。たとえば、世界を駆けめぐって活躍するビジネスパーソンになりたい、という理想自己を思い描くわけだが、現実の自分と比較して「理想とはほど遠い」と感じるのが普通だ。両者のズレが大きくなることによって、自己嫌悪や自分への不満が増すわけだが、これは向上心につながり、心が成熟していることの証拠と見なすこともできる。

 ところが、最近よく目につくのが「自分はこんなもんじゃない」「仮の姿だ」という心理。本書で例にあげられているのは、派遣社員に対し会社の人間が正社員になることを薦めたところ、「ここで働いている社員は、なりたい自分じゃない」といって断ったというケース。そこで働いている社員からすれば、見下されたも同然である。「自分はこんなところでくずぶっている人間ではない」と思うこと自体はなんら問題はない。ただし、その「上から目線」が現実から目を背けるための装置になっているなら可能性があるのだ。

 こうした人は「本来やりたい仕事じゃない」「まだ目標が見つからない」とお茶を濁して頑張ろうとしない。本気を出して結果を突きつけられることを避け、現実の自分を棚上げできるからだ。

 人からどう見られているかを気にするということは、一見、他人に関心があるようだが、実際は相手を通して自己愛の視線を自分に向けているに他ならない。そうした自己中心的心性から抜け出し、もっと他人に関心を持ち、相手の立場で考えてみることが大切だと著者は提言する。

 こうした感覚の人が多く生み出される背景には、日本の母性原理社会があるという。「わが子はすべてよい子」という感覚で、落ちこぼれのない平等な社会であるべきだとする日本文化だ。一方、父性原理は上と下、善と悪などを区分けして「切断する」のが特徴。そうすることで個々を鍛え上げていくわけだが、ときに厳しすぎて個人を潰しかねない。しかし、現在は能力や成果による選別がより厳しくなっているのが実情だ。日本文化に根付いている母性原理と、「上から目線」の父性原理をどう調合していくかが課題となっている。

『「上から目線」の構造』3つのポイント

●「見下され不安」のある人が「上から目線」になる

●一方的な言い方が「上から目線」として反発される

●自己愛から抜け出し、他者の立場で考えてみること

文●大寺 明