『夜の経済学』の要約まとめ

夜の経済学

私たちは自分の知らない分野については、メディアの情報を参考にしがちだ。しかし、メディアの制作側からすると、珍しくなければニュースとしての価値が低いため、実は私たちが参考にしているのは「珍しい事例」の集大成かもしれないのだ。本書では気鋭の評論家とエコノミストが、データの数字をもとに風俗から政治まで検証している。

1993年の交通事故死亡者数は12000人以上だったが、2012年には4646人に減少した。そのため、ニュースで死亡事故が取り上げられることが増え、死亡事故が増えているような印象となってゆく。メディアは珍しい事例を取り上げるものであり、それが次第に世間の常識や空気となっていくのだ。

特に公式統計がない風俗業界や売春など夜のビジネスは、メディアに登場する「特殊例」が標準化しがちだ。「自分探しのため」や「留学資金のため」といった特殊事例が、風俗嬢のイメージとして定着しかねない。そうした偏った印象論を避けるためにも、本書はデータをもとに検証することで数字の面から実相を見つめ直そうとする。

まず、日本全国の風俗店だが、各都道府県公安委員会に届け出されている2011年の店舗数はソープランド1246店、店舗型(箱ヘル・ピンサロなど)822店、無店舗型(デリヘル・ホテヘル)17204店で計19272店となる。しかし、届け出はされていても営業していない無店舗型が多く、本書では風俗情報サイト運営の『MAN-ZOKU』の出稿数から試算し、実際に稼働している風俗店は店舗型2000店、無店舗型7900店の計9900店と割り出した。

1950年代に売春対策審議会が行った従業婦人調査では、30~50万人の売春婦がいると推測された。それに対し、本書が割り出した現在の風俗嬢の数は、1店舗あたりの在籍人数を29人前後とし、先ほどの約1万店舗をかけて約30万人と推測。この数字は、現代の日本女性の3.6%から5.4%が風俗で働いた経験がある可能性を示している。ワリキリ(出会い系による個人買春)なども加えると、セックス・ワーカーの数は60年前からあまり変わっていないのだ。「道徳の低下」といったことが言われがちだが、それも実は印象論にすぎない。

また、風俗穣の収入だが、16000円コースの客が1日平均4人つくとすると、売上64000円を折半して1日の稼ぎは32000円。給料日前後などの繁盛期を考慮して、1日の平均的稼ぎを35000円とし、月に平均14日出勤で計算すると平均月収は49万円、平均年収は600万円弱となる。現役風俗嬢30万人×600万円が売上の半分を占めていると仮定すると、フーゾク業界全体の売上規模は3.6兆円以上と推定されるのだ。

一方、カウントが難しいのが出会い系サイトや出会い喫茶などを通じて行われる個人売春だ。出会い系メディアを用いたものの中には、実は組織だった管理売春が行われているケースも多く、これらは「援デリ」「裏デリ」と呼ばれ、新たな裏フーゾクを形成している。

『週刊SPA!』の連載「週刊チキーーダ!」の誌面を使い、2010年から2013年にわたり大手出会い系サイトを利用して、ワリキリの価格・条件について調査を行ったところ、地域により「2万円」と「15000円」を提示する者が多い都道府県に分かれ、地域ごとの相場があることがわかった。そこから完全失業率・有効求人倍率を用いて回帰分析を行ったところ、「経済状況が悪い地域では売春価格は安い」という結果が得られた。そう、売春は経済問題なのだ。

実際、この4年間の調査でワリキリの平均価格は1293~2133円の1割前後も低下し、この時期の日本経済の姿をダイレクトに反映している。

また、ワリキリ女性に直接インタビューした過去300人分の調査では、中卒54人、高卒・中退209人であり、学歴が低いことがあげられた。一方、客層の男性側だが、風俗の顧客男性の大学進学率が55%であるのに対し、ワリキリ顧客の大学進学率は7%となり、現在の男性大学進学率50.8%を大きく下回った。
平均的な成人男性像がそのまま顧客の平均像となる風俗に対し、ワリキリ顧客は比較的低学歴・低ステータス層の利用が目立つ。これは、経済格差がそのまま価格差になるワリキリ市場の特徴につながっていると考えられる。

この他、生活保護受給者や東日本大震災時の流言とデマなど多岐にわたって世の中の印象論をデータから検証し、カンや「あてずっぽうな議論」をしないためにも、データは使われなくてはいけないと本書は提言している。

3つのポイント

●メディアは特殊事例の集大成

●経済格差が夜のビジネスにも反映される

●データにより世間の印象論を見直す

文●大寺 明