フライデー記者の肩書きを捨て、飲食業の経験なしでバーを開業。新宿二丁目の音楽バー「ロシナンテ」オーナーが語る独立ノウハウ

林 大/1976年大阪府生まれ。
大学卒業後、看護学校に進学するも中退し、国会議員の秘書を4年間経験。30歳で講談社に入社し、『週刊フライデー』の記者を4年半経験。2011年11月に新宿二丁目でライブバー「ロシナンテ」をオープンした。

――独立DATA――
34歳で独立
【開業資金/約500万円】

・店舗を借りる際の保証金など/約300万円
・エアコン設備、厨房機器、お酒など/200万円

――事業内容――
■ライブバー「ロシナンテ」

新宿二丁目にある洞窟のような空間のライブバー。生ピアノ、エレピ、ギター、ベース、パーカッション、カラオケ(JOYSOUND)が常備してあり、機材使用料など一切なしで演奏や歌を楽しむことができる。ネットでも買えない珍しい焼酎や、他店では扱っていないリキュールを各種取り揃え、オリジナルカクテルを楽しむことができる。

新宿二丁目にあるバー「ロシナンテ」のオーナーは、国会議員秘書を経て前職は週刊誌記者だったという異色の経歴の持ち主。2011年11月にオープンし、今年で7年目になる。店舗を借りる際に一台のピアノがあったことがきっかけで、今では自由に楽器が演奏できるライブバーとして評判だ。最初にお店のコンセプトを決めたというより、お店を作るのはお客さんであり、「自分はアンプみたいなもの」というのがオーナー林さんの考え方だ。

週刊誌記者の仕事を辞めた後、転職先が決まらなかった。バーの開業は、最終的な選択肢だったんです

 大学卒業後、看護学校に進学したんですけど、2年で中退して国会議員の秘書を4年ほどやってました。それから秘書の仕事より面白そうだと思って30歳の頃に講談社に入ったんです。『週刊フライデー』の記者を4年半ほどやってたんですけど、最初の頃は自分のネタが記事になるだけでうれしかった。だけど、だんだんそれもルーティーンになってきたんですよね。

 国会議員秘書のときもそうでしたけど、最初はゼロからなのですごい苦労する。そこで自分なりに工夫して目標を達成することが面白いわけです。たとえば国会議員秘書のときは、献金集めの仕事で苦労してたんだけど、それが次第に簡単に集まるようになると面白くなくなる。フライデーの記者のときも最初は記事を書くのにものすごく苦労していたんですけど、当たり前のように書けるようになると飽きてきて、別のことがやりたくなってくる。

 週刊誌の記者は、殺人事件や詐欺事件、有名人が浮気しているという噂が流れたら動くわけですけど、毎週ネタを求められるので、それに応えることが大変でしたね。だんだんルーティーンになってモチベーションが下がってきたこともあったし、出版業界が斜陽産業になってきて、この業界に一生しがみつくのもイヤやなぁ……という気持ちもありました。経費もすごく少なくなっていたしね。前任のデスクとはすごく相性が良かったんだけど、次のデスクとの相性がすごく悪かったことも大きかった。

 こうして2011年に講談社を辞めることにしたんですけど、退職時は何も考えてなかった。フリーランスは自分には無理だと思っていたので、他の業界の会社に転職するつもりだったんですよ。ところが、ことごとく書類選考で落とされて、「自分で何かやるしかない」となった。だから、バーを開業することは最終的な選択肢だったんですよ。

 講談社時代は分不相応な給料をもらってました。飲食代や資料代は全部経費で落ちるので、お金を貯めるつもりもないのに勝手に貯まっていて、開業資金はなんとかなった。飲食業の経験はまったくなかったけど、「やってみなきゃわかんないっしょ」という感じだったね。

 物件は新宿を歩き回って自分の足で探しました。空き物件があると、たいがい不動産屋の連絡先が書いてあるので、そこに連絡して内見するわけです。洞窟みたいな内装が気に入ったわけだけど、新宿二丁目という場所柄もあって、もともとゲイバーだった物件でしたね。

もともと店にピアノがあり、自由にお客さんが弾けるようにしたら自然と「音楽バー」になった。全部、結果論なんです

 オープン当初は宣伝をしているわけでもないので、出版界隈の人間が来るくらいでしたね。最初はスーツを着て接客してたんだけど、気をつかって接客をすればするほどお客さんが離れていった。それで「オレは接客せんほうがええんやな」と気づいたんです。接客を求めるならホストクラブやキャバクラに行けばいいわけで、うちに来るお客さんはそうじゃない。それから襟付きシャツに変わって、今では普段着ですよ(笑)。

 お酒のメニューにしても、カクテルの作り方を覚えるようなことは何もしてない。たとえばマティーニやギムレットは腕のいいバーテンが作ったら美味しくなるカクテルなんですけど、オレはそういうフィールドに立ちたくなかったので、マティーニを頼まれても作れないですし、そもそもないですから。うちのお店にしかないようなお酒をひたすら置いて、お客さんの要望に合わせてオリジナルのカクテルを出しているんです。

 ロシナンテは「音楽・アニメ・フェティッシュ・セクシャルマイノリティ・メンヘラ」の5つがコンセプトになっているんですけど、それも最初に意図したわけではなくて、結果論なんですよね。物件を借りるときにピアノがあったので、それをお客さんが自由に弾けるようにしたら勝手に音楽バーみたいになっていったわけです。フェティッシュ、セクマイ、メンヘラにしても、新宿二丁目という場所柄もあって自然とそういう人が集まってくるからそうなった。アニメはオレが好きだったから。いずれも自然とそうなっただけで、全部、結果論なんですよ。

 もちろんオレの性格が店の雰囲気に出ているんだと思います。だけど、それはオレにはわからないことで、第三者が評価することですよね。結局、バーは「待ち営業」なので、お客さんが来るのを待つしかない。お客さんにはどこにお金を落とすかを選ぶ権利があって、結果としてうちを選んでくれているということですよね。意図してそのとおりになっているというパターンは少なくて、どの店も結果として今があるという点では変わりないと思います。

自分の給料くらい自分で決めたい。もちろんお金は大事だけど、それ以上に社会の歯車になっている自分に耐えられなかった

「自分の価値=給料」を第三者に決められるのって変だと思うんです。講談社時代に比べるともちろん収入は下がりましたけど、自分で稼いだ金額がそのまま自分の収入になるという点では満足してます。オレの給料を100万円だと定義したら赤字かもしれないけど、5万円に定義したら黒字になる。自分で自分の給料を決めてるわけだから、まあいいか、という感じですよね。

 お金の問題じゃないというわけじゃなくて、お金はすごい大事だと思ってます。お金以上に大切なことは命くらいやと思ってるんで。もちろんお金は大事なんやけど、それ以上に社会の歯車の一員になっている自分というものに耐えられなかったんやろうな……。オレが記事を書かなくても『フライデー』は発行されるけど、オレが辞めたら店は潰れますから。その点ではやり甲斐はあるかなと(笑)。

 もともと会社勤めが向かなかったんでしょうね。小中高時代は、同級生が好きであろうと嫌いであろうと毎日同じメンツで過ごさないといけない。それが大学で一旦解放されるんだけど、会社勤めをするとまた同じメンツでやっていくことになって、小中高時代の関係性に戻るんですよね。そういう人間関係が苦手だったわけだけど、自分の店の場合、少なくとも来てくれるお客さんはオレのことが嫌いではないだろう、というつながりですよね。その点では気楽ですね。

 逆にしんどいと思うことは、お客さん同士の恋愛関係のいざこざとかかなぁ。進んで介入しようという気もないんだけど、彼氏や彼女よりもオレのほうが知ってたりすることがいっぱいあるから、結果として一番近しい人間として関わらざるをえなくなってくるんですよね。

 うちの店は若い女の子の比率がすごく高い。女性客が増えると男性客も増えるので、若い女の子には媚びまくってますよ(笑)。うちの男性客もオレが女の子に対する態度がやさしいってことは百も承知ですし、ある意味、すごい正直だと思います。困るのが「出会い厨」ですね。そういう客が増えると、うっとおしい男が来る店だと認識されて女の子が去っていくので、あまりに度が過ぎると、「帰ってくれ」とはっきり言いますね。

4年周期で仕事を変えてきた自分からすると、店が7年続いたことは、かなり長い。今は、次の「おもろいこと」を探してます

 うちの店は3階にあるので、ふらっと入ってくるお客さんはほぼいないですね。お客さんのほとんどが、友だちに連れて来られて知ったとか、twitterを見て知ったとか、みんな予備知識を持って来てます。宣伝費はまったくかけていなくて、集客はtwitterやインスタグラムだけです。動画で店の雰囲気を伝えるようにしているんだけど、静止画よりも動画のほうが店の敷居が低くなると思うんです。

 twitterでは自分の個人的な思想を書いてます。だって、そうじゃないとおもろない。フライデー時代の経験は何ひとつ役に立ってないけど、ツイートを書くという点では多少、記者経験が活かせてるんやろうね。140文字っていう少ない文字数で書くのは逆に難しい。記者時代は1を100に広げて書くことを追求してたわけだけど、ツイッターは100を1にする感じで、140字でいかに書くかをすごく考えてますね。

 お客さんからよく「この店、長いんですか?」と聞かれるんですよ。でも、「長い」っていう尺度は人によって違いますよね。だから、「あなたにとって長いとはどれくらいですか?」と聞き返してしまう。国会議員秘書のときも週刊誌記者のときもだいたい4年周期で飽きてしまって仕事を変えていたのが、ロシナンテは7年続いているわけだから、自分としてはすごく長くやってるなぁって思うんです。

 最初の1、2年はお客さんが来なくて、どうしよどうしよ!?と必死だったのが、今はとりあえずお店を開けとけばそこそこ売上が上がる。だから、お客さんが来ないときがあっても、しゃあないしゃあない、という感じなんですよね。そう思う自分がすごくイヤなんですよ。ある程度、常連客がつくようになった今の状況を作るために最初はすごく苦労したわけだけど、それが達成できるとおもろない。

 実は一刻も早く店を引退したいと思っていて、お客さんにも話してるんです。中退した看護学校を卒業して、国境なき医師団のようなかたちでイエメンやヨルダンや南スーダンといった内戦地帯に行きたい。その国の歴史に名が残るようなレポートを書きたいと本気で考えているんです。わずか10坪の店で一生終えるのかと思うと悲しくなるじゃないですか。だけど、7年かけて店を作ってきて、常連客も付いているので手放すのももったいない。ゆくゆくは誰かに店を譲りたいので、今は後継者を育てたいと思ってますね。

BARオーナー 独立ノウハウ集

独立前

「食費衛生責任者」の資格を取得すべし

バーを開業するには「食費衛生責任者」の資格を取得し、保健所に届け出る必要がある。必ずしもオーナーが取得しなければいけないわけではなく、各店舗に一人取得者がいればいい。講習は1日で済み、費用は1万円ほどだ。さらに30人以上の人が入る店舗の場合、「防火管理責任者」の資格を取得し、消防署に届け出る必要がある。こちらも講習は1日で済み、費用は5000円ほど。いずれも簡単に取得できるので、バーを開業する敷居はそれほど高くはない。

前職は関係ない。自分なりの店を作るべし

週刊誌記者の経験や国会議員秘書の経験はまったく活かされていないと林さんはいう。ということは、前職の経験やスキルうんぬんではなく、その人の才覚・個性・雰囲気といったパーソナルな部分を打ち出してやっていけるのが、ある意味、バーオーナーという仕事なのかもしれない。そう考えると、むしろ組織に馴染まない人のほうが向いている仕事だと言うこともできる。強いていうなら、記者時代に文章を書いてきた経験が、twitterを書くときに多少は役に立っているくらいだという。

客商売の常識に縛られることなかれ

飲食業の経験もなく、お酒の作り方を勉強したわけでもなければ、お客さんを持ち上げるような接客をするわけでもない。いわば「客商売はかくあるべし」といった常識がないのがロシナンテの特徴だ。それでいてロシナンテには常連客がついている。なぜなら林さんが醸し出すザックバランな本音の雰囲気が、一部の客層に好まれているからだ。林さんが唯一心がけているのが、お客さんを「かまってあげる」こと。たしかに居酒屋は仲間と一緒にワイワイ楽しむ場所だが、バーに行くときは誰かにかまってほしい心境だったりする。バーの存在意義はまさにそこにあるのかもしれない。

独立後

店を作るのはお客さん。オーナーは「アンプ」

ロシナンテは酒好きの演奏家たちが集う「音楽バー」として知られている。これは林さんが意図したことではなく、店舗を借りる際にピアノが置いてあり、それを自由に弾けるようにしたところ、自然と演奏目的のお客さんが集まるようになったからだ。その後、お客さんがギターやドラムなど不要になった楽器を店に置いていくようになり、お金をかけずにひと通りの楽器が揃うまでになった。ちなみに林さんが購入した楽器は、自身が演奏する尺八のみ。店の雰囲気はお客さんが作るものであり、自身は「アンプみたいなもの」というのが林さんの考えだ。

宣伝はtwitterを活用すべし

ロシナンテのコンセプトは「音楽バー」と林さんが好きな「アニメ」のほか、「フェティッシュ・セクシャルマイノリティ・メンヘラ」の5つ。後者は林さんが意図したというより、新宿2丁目という場所柄もあって自然とそうしたお客さんが集まるようになったからだ。いわゆるマイノリティーの客層もあって、広く浅い一般的な宣伝をするよりも、一部の人にディープに刺さる宣伝をしたほうが効果的。そのため林さんはツイッターを主に活用し、個人的な思想を書くようにしている。実感値として、宣伝費をかけるより、自分の言葉で宣伝したほうが直接的な集客につながるそうだ。

酒は飲ませても、飲まれるな

林さんは基本的に仕事中はお酒を飲まない。飲むことがあっても、お客さんに勧められたときのみ。健康に気をつかっているわけではなく、もともと「お酒が好き」というより、「お酒を飲む場所が好き」なのであって、お酒がなくても十分楽しめるからだ。お客さんは月に数回の気晴らしでバーに飲みに行くわけだが、店側の人間はそれが毎日のことになる。お客さんと同じ勢いで飲んでいたら、仕事にならなくなるし、身体を壊しかねない。林さんのようにお酒と適度な距離をとれる人のほうが、安定して営業が続けられるだろう。

取材・文●大寺 明

元祖ライブバー
新宿ロシナンテ

新宿伊勢丹からほど近くにある洞窟のような隠れ家空間のバーです。
他のバーでは飲めない各種カクテルをご用意しております。
チャージ500円、ドリンク1杯300円~
即興ライブ、セッション大歓迎!
生ピアノ、エレピ、ギター、ベース、カラオケ(JOY)、カホン、PA卓常備。

東京都新宿区新宿二丁目12‐2 SS第一ビル3F
☎03-5925-8843
【営業時間】18:00~始発まで(お客さんがいなければ3:00まで)年中無休

東京メトロ・都営地下鉄「新宿三丁目駅」より徒歩3分
各線「新宿駅」より徒歩15分

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