古道具は実際に使ってみてこそ良さがわかる。昭和レトロな古道具屋が語る独立ノウハウ

小宮幸香(こみや・ゆきこ)
古道具ナクワチ 小宮幸香(こみや・ゆきこ) 1974年千葉県生まれ。短大卒業後、食品会社に入社し、事務職として勤務。28歳で結婚し、現在、二児の母。2014年に19年間勤めた会社を退職し、同年6月「古道具ナクワチ」を開業した。

retro_sub00――独立DATA――
●39歳で独立
【開業資金】計64万9000円
<内訳>
・仕入れ代 50万円
・古物商許可免許 1万9000円
・ネットショップ開業費 3万円
・出店用タープなど什器代 10万円

――事業内容――
古道具ナクワチ
・2014年6月開業
・個人事業主
1970年代前後を中心とした“くらしにまつわる”古道具を販売。大江戸骨董市をはじめとした骨董市や、各種イベントで販売するほか、ネットショップでも販売している。

二子玉川のイベントスペースで出会った古道具屋さんの食器に一目惚れをした。それは深みのある紫色をしたガラス製で、雑貨屋やデパートでも見たことがない。それでいて手ごろな値段。聞くと、70年代から80年代に製造されていた日本製品らしい。「古道具ナクワチ」では、こうした昭和レトロな生活雑貨を中心に扱っている。古物を探しだす仕事の魅力とは?

古物コレクターの夫の影響で、古道具の世界へ。自分にしかできない仕事をしたい、と考えて独立を決心

retro_sub01 40歳になる手前で「これから自分は何ができるだろう?」って考えるようになったんです。事務職として食品会社に就職して19年間勤めてきたわけですけど、自分にしかできないといった仕事でもなくて、やりがいを持てずにいたんですね。このまま会社に居続けた場合、役職がついて責任ある仕事をする人もいれば、専門能力を磨いて「その人しかできない」といった仕事をする人もいるわけですけど、私はどちらでもなかった。

 退職する前に品質保証の部署に移って、その後、総務の部署に移ったんですけど、二つの違う業務を経験してみても、やっぱりやりがいを持てなかった。結局、会社の中でやりたいことがあるわけではなかったんだと思います。でも、私が個人的にそう感じていただけで、すごくいい会社だったと思う。自分のわがままで退職を決めたわけですから、今度の仕事は頑張ろうって気が引きしまりましたね。

 28歳のときに結婚したんですが、その頃から夫と「いずれお店をやりたいね」という話をしてたんです。最初はカフェをやろうと考えていたんですけど、子供が二人いて家庭を守らなくてはいけないので、夫婦二人でカフェをやるとなると経済的に不安定になってリスクが高い。まわりからも「旦那は会社勤めを続けて、まず私一人でやるべきだ」と言われましたね。そこで、パン屋兼カフェをやろうと思って、パン作りに挑戦してみたんですけど、すぐに「こりゃダメだ」と思いましたね。もともとお料理がそんなに得意じゃなくて(笑)。

 自分で何かを作る仕事には向いてない……そこで次に浮かんだのが古道具屋でした。夫は高校時代から趣味で古着を集めていて、最初はアメリカのビンテージもの中心だったのが、昭和レトロなオモチャや100年以上前の西洋骨董というふうに興味が広がっていった筋金入りの古物コレクターなんです。夫と付き合いだした頃から、一緒に古着屋さんに行ってビンテージの洋服や靴を見て回るようになったんですね。それで私も古い物に興味を持つようになって、昭和レトロな雑貨や西洋アンティークが好きになっていったんです。

 よく行くアメリカもの中心の古着屋さんに開業の相談をしたら、海外の買い付けは為替相場の変動や旅費などの経費がかかってリスクが高いので、まずは日本の古物マーケットから始めた方がいいとアドバイスされましたね。それからは旅行で地方に行くたびに、昔ながらの金物屋さんに見つけては入るようにして、レトロな生活雑貨を探すようになった。あとはとにかく骨董市を見て回りましたね。

 退職前の1年間はそうやって仕入れをする準備期間でした。仕入れは、自分が欲しいと思っていた物が見つかったりするとやっぱり面白い。通常は200~300点から始める場合が多いらしいんですけど、夫も好きで古物を買ってくるので、開業時には通常の3倍以上の1000点ほどの在庫がありましたね。

無店舗でも骨董市で商売は始められる。古物の世界は同業者同士の「つながり」で広がっていくと実感しています

retro_sub02 こうして古道具屋をやることは決まったんですが、実店舗を出す費用がありませんでした。最初は某雑貨店さんのHPに書かれていた開業エピソードを参考にしましたね。その方は会社勤めをしながらトランク一つ持って大江戸骨董市に出店して、今は都内に実店舗を持たれているんですね。さっそく私も大江戸骨董市に連絡をとることにしました。

 実際に出店してみて、古物の世界は同業者同士のつながりから広がっていくものだと実感しましたね。2回目の出店で同業者さんに声をかけてもらって、そのご縁からギャラリーで開催される小さな骨董市に出店することができたんです。そういったつながりで、少しずつ出店させてもらえる場所が増えていきました。だから、古道具の仕事を始めたい方には、とりあえず骨董市に出店してみることをおすすめします。

 もちろん自分でも出店できる場所を探すようにしました。たまたまFacebookを見ていたら、音楽の野外イベントで出店者を募集してたんです。ダメもとで主催者に問い合わせてみたら、逆に古物の出店者を探していたという話でした。タイミングがうまく合ってラッキーでしたね(笑)。夫がキャンピングカーを持っているくらい夫婦そろってキャンプ好きだったので、キャンプのついでに出店するという感じで最初は遊び感覚でした。でも、一応は昔のカラフルな折り畳み椅子といったキャンプで使えそうな古道具を吟味しましたね。

 その音楽イベントを主催していた会社が、二子玉川のイベントスペースで雑貨販売やワークショップを主体にしたマルシェを開催していて、また次につながっていったんです。こうして平日は関東近県をまわって仕入れをするようになって、第1・第3日曜日は大江戸骨董市、あとはイレギュラーのイベントに出店するというサイクルができていった感じです。

 会社勤めのときとは逆で、平日は子どもの面倒が見られるけど、土日は夫や親に子どもの面倒を見てもらうようになりましたね。11歳と7歳の子どもがいるので、専業主婦になるという選択肢もあるのかもしれないけど、私はやっぱり仕事をしていたい。何かしらの形で社会とつながっていたいという気持ちがあって、人と古物をつなぐ仕事を選びました。これまで経験してこなかった接客を通じて、自分自身も成長できればと思ったんです。

 今は仕事が楽しいので、なるべく休日は出店していたいですよね。売らないと夫がどんどん古物を仕入れてくるので、物が溜まっちゃうというのもある(笑)。どんどん前に出るようにして、立ち止まってはいけないですよね。

1970年代前後の日本製品はすごく質がいい。実際に使ってもらうことで、若い人に古い物を見直してほしい

 夫と一緒にさまざまな古道具を集めてきましたけど、結局、私たちの中で一番フィットしたのが使って楽しめる生活雑貨でした。生活の中に自然と古い物がとけこんでいるような暮らしを提案していきたいと思ってるんです。

 古い雑貨には現代の物にはないデザインという魅力があるだけではなくて、1970年代前後の日本の物って実はすごく作りがいいんですよ。たとえばガラス製の食器だと、とても質のいいガラスや肉厚のガラスを使っているものが多くて、とても頑丈にできている。だから今でも十分使用に耐えられるんです。実際に使ってもらうことで若い人たちに古い物を見直してもらえたら、という気持ちがあるので、手に取っていただきやすい値段にできるように、自分の足でいろいろな場所を回って仕入れを頑張っています。

 仕入れのときは「生活の中にその品があったとき、どういうふうに生活が豊かになるだろう」ってイメージします。このコップでコーヒーを飲んだら「なんかほっこりする」とか、身近に置いて飾ってあるだけで「かわいい」とか(笑)。そうした感覚的なものや空気感が仕入れの基準になってますね。古物商の業者市では雑貨や木製品などが雑多に流れてくるので、その中から自分が欲しいものを探しだす感じです。

 ただし、まだまだ経験が浅いため、たまにクセのある物を仕入れて失敗してしまうこともあります。自分では「かわいい」と思って仕入れても、イラストが独特だったりするとお客さんに見向きもされないことがあるんです。あまりに突飛なものになると、生活空間の中で浮いてしまうんですよね。そこがけっこうビミョーなところです(笑)。

 一方で、出してすぐに売れちゃう物もある。1年の間、お客さんと触れ合っていると、「今のお客さんはこういうものを好んでいるんだな」というのが少しずつわかってくるので、今は自分の好みでやみくもに仕入れるのではなくて、お客さんのことを考えつつ、自分のお店の雰囲気を思い描きながら仕入れるようになりましたね。

 うちは比較的、若い女性のお客さんが多いように感じます。仕入れの際に「どういう人がどういう使い方をするだろう?」と想像するんですが、意外にもおじさんが買っていったりして、そこがまたこの仕事の面白いところでもあるんですよね。人と物をつなぐ橋渡しをしているようなところがある。

 たとえば、未使用の小さくて古いお弁当箱を買われる方が沢山いるんです。なぜ売れるのか想像もつかなくて聞いてみると、ボタン入れにしたり、裁縫道具を入れて持ち歩いたり、イヤホン入れにしたり、私たちが想像もしていなかった使い道をされている。直に接客をすると、そうしたヒントを沢山いただけるので仕入れの参考になりますよね。

足りない知識は、場数を踏んで古い物との接点を増やすことが大切。「古物が好き」という原動力が何より強い

retro_sub03 ネットでも販売しているんですが、古物のネットショップは難しいと感じてます。なぜかというと、中古品であるために商品の状態を伝えにくいからです。たとえば古い木製の家具だと、「前にどんな人たちが使っていたんだろう?」と想像がふくらむようなちょっとした傷あったりして、それが味として愛おしく思えてくるものなんです。仮面ライダーシールが貼られていて時代背景が見えたりもして、古い物には“表情”がある。だけど、私たちが味だと感じていたとしても、実際に手に取ったお客さんは傷だと思うかもしれないですよね。

 そのためネットショップの商品説明では、傷や欠けの部分を写真で見せて理解してもらう必要が出てくるんです。でも、一点一点違うので、さすがに表現しきれない。だから、ネットショップに出品している商品は、極力、骨董市に持参して直接状態を見てもらいたいと考えています。

 事務の仕事から接客の仕事に変わって、正直なところいまだに慣れないです(笑)。同業者の方は何十年もこの業界の一線で活躍されている方も多く、すごく接客がスマートでかっこいいんですよね。それに対し、私はいつもオドオドしてしまって……。だけど、一方であまり前に出過ぎるより、お客さんと同じ目線で接客をした方がいいのかな、とも思ってるんです。基本的に私も夫もじっくり見てから買いたいという気持ちがあるので、そういう視点で接客するように心がけています。

 自分がそんな感じなので、時間をかけて商品を見ているお客さんがいると、興味を持ってくれているのがわかるようになってきました。そういうときは、さりげなく声をかけるようにしてますね。その際、オススメするポイントとして自分自身が物の価値を知っておく必要がありますよね。たとえば器一つとっても、製造されていた時期や場所など、物の背景にある情報を持っていた方がいいです。それを聞けば、お客さんも納得して購入されるかもしれない。

 長年古い物に触っていると、色や質、形状やロゴなどでだいたいの年代がわかってくると思いますが、私はまだまだ経験不足なので、同業の先輩に教えてもらうことも沢山あります。近年はネット上でも沢山の情報が拾えますので、それも参考にして自分で調べるようにしています。製造された年代などは、仕入れのときも必ず聞いてメモするようにしているんですけど、やっぱり自分が興味を持っていないと、いくら教えてもらっても頭に入ってこないものです。

 とにかく入口が「好き」であることが、こうしたマニアックな業種に関しては大事だと思っています。その原動力が何よりも強くて、夫も私もずっと古い物が好きで触ってきた経験があるから、今はそれが少しは役立っている。それでも、この業界は奥が深くて毎日が勉強だなと実感しています。そうした経験は、いろんな骨董市を回ったりして場数を踏んで、自分の足で稼いでいくしかないと思います。問屋から既製品を仕入れるのではなくて、そうやって自分の足で一つずつ物を探すから、「ナクワチ」というお店ならではの雰囲気も生まれてくるものだと思うんです。

古道具屋独立ノウハウ集

独立前

とにかく古物を見て相場を知るべし

夫が古物コレクターだったことから、小宮さんは20代の頃からさまざまな古物を見てまわった。その経験が蓄積され、古物の相場を把握できるようになったことが大きい。仕入れの際、以前に同じような物がいくらで売られていたかを知っていれば、元がとれる値段なのかがわかり購入の判断材料になるからだ。いくら物が良くても相場3000円の物を3000円で仕入れても意味がない。そうした情報を蓄積しておくことが求められる。

自分のセンスで買い集め、世界観を作るべし

小宮さん夫婦は共に古物好きということもあり、開業前に1000点もの古物を集めた。品数が多ければ、定期的に出店する場所で毎回同じ商品を出さずに新鮮さをアピールできる利点があり、夫婦なので女性目線と男性目線で購入した物があってバリエーションも豊富。そのためイベントに合わせて商品をセレクトすることもできる。また、「くらしにまつわるレトロ雑貨」というテーマを設けることで、独自の世界観を生み出すようにしている。

古物商許可の免許を取得すべし

古道具屋を始めるにあたって必要になるのが古物商許可。リサイクルショップやネットショップで中古品を扱うために取得する人も増えている。警察署内にある「古物商」係に行き、「申請書・誓約書・略歴書・使用承諾書」などを記入し(ネットでダウンロードも可能)、住民票や身分証明書などを揃えて1万9000円の証紙を購入して申し込む。試験があるわけでもないので簡単に取得できるが、禁錮以上の刑で5年を経過していない場合は取得できない。

独立後

まずは無店舗から始めるべし

古物商の場合、各地で定期的に骨董市が開催されているので、無店舗でも売り場を確保できるという利点がある。都心部で有名な大江戸骨董市は第1・第3日曜(もしくは土曜)に開催され、1ブースの出店料は代々木公園が7000円、東京国際フォーラムが1万2000円。小宮さんはこのほかに年間3万円のネットショップ運営サービスを用いたネット販売の二本柱で営業。将来的には実店舗を持ちたいと考えているが、まずは無店舗から始めて着々と歩を進めているのだ。

仕入れは、自分の足で稼ぐべし

古物業者専用の市場があるので、足しげく通うことで安定的な仕入れができるものの、より面白い商品を見つけたければ、自分の足で探して様々な場所に赴いてみることをおすすめしたい。小宮さんの場合、関東近県の各地を回るようにし、旅行で遠方に行った際も常に探すようにしているそうだ。そうして独自のルートを確立することで、他店にはない珍しい商品に出会うことができる。

新しい顧客の発掘にも注力すべし

出店者はもちろんお客もマニアックな人が多いのが骨董市。古道具ナクワチのスタンスは、なるべく間口を広げ、新たな層の入門の場になること。そのため骨董市以外のイベントにも積極的に出店し、お客にはショップカードを配ってネットショップにも訪れてもらうようにしている。そうした新たな客層は、他店では見かけないオンリーワンの商品として購入しているため、比較的新しい1970年代前後の雑貨を中心に扱い、初めて古物に触れるお客が手に取りやすい値段設定にしている。

取材・文●大寺 明

■くらしにまつわるレトロ雑貨
古道具ナクワチ
「ナクワチ」とは、インディアンのホピ族が模様にもちいたモチーフを表す言葉です。それを訳すと「フレンドシップ」や「つながり」「絆」といったメッセージになります。私たち古道具をあつかう仕事も、人と物を“つなぐ”ことだと考えています。新しいものばかりがすぐれているわけではなくて、古いものの中にもいいものはたくさんあります。それは、実際に使ってみてこそわかるもの。そして、使えば使うほど愛着がわき、くらしの中にとけこんでいくものです。今はない製法、今はないデザイン、時を経てきたものだからこその表情――そんなレトロな生活雑貨をお届けしています。

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