憧れの職業「パティシエ」は実は甘くない!? 独立を目指し、“修業”する気持ちがあったから続けられた パティシエが語る独立ノウハウ

鈴木真紀/1982年東京都生まれ。中学高校時代を岩手県で過ごす。群馬県の製菓の専門学校で学び、「製菓衛生士」の資格を取得。卒業後は横浜の洋菓子店に入社。その後、個人店のケーキ屋とレストランでパティシエの経験を積み、2012年に焼き菓子とオーダーケーキのお店「おいしいや かわいいや」をオープン。

――独立DATA――
30歳で独立
【開業資金/約400万円】

・物件の保証金など/100万円
・内装工事費/100万円
・オーブン/150万円
・原材料や包装材料などの雑費/50万円
開業資金は自己資金と日本政策金融公庫の融資で準備した。運転資金を残すために、厨房設備はオーブンのみ購入し、冷蔵庫・シンク・ガス台・ショーケース等などはリースにした。一式借りるとなるとかなりの出費になりそうだが、すべて合わせても月額2万5000円程度だそうだ。

――事業内容――
おいしいや かわいいや
2012年12月OPEN

クッキーやフィナンシェなど手作りの焼き菓子と無添加無香料のジャム、手作り雑貨などを販売。オーダーでデコレーションケーキや、オリジナルのギフト用クッキーも作っている。店内にはイートインスペースがあり、ドリンクも販売。定員3名の「おかし教室」も開催している。

「憧れの職業ランキング」で常に上位に入る「パティシエ」だけど、実際はどんな仕事なんでしょう? 今回取材した焼き菓子店オーナーの鈴木さんによると、ケーキの専門店と、レストランやカフェの「パティシエ」では、かなり仕事の質が違うそうです。見た目もかわいく華やかなイメージのケーキ作りの仕事が、実は朝早くからの「力仕事」と聞いて意外でした。独立開業やシェフパティシエを目指して“修業”する気持ちが大切になってくる!?

親元を離れて「自立したい」という思いが強く、地元から遠い専門学校を探した。それが「パティシエ」の学校でした

 私がお菓子作りの道に進もうと思ったきっかけは、ちょっと変わっているかもしれません(笑)。小さい頃から母がお誕生日ケーキやクリスマスケーキを作ってくれたので、お菓子作りにふれる機会はけっこうあったんですけど、とりわけお菓子作りが好きという感じでもなかったんです。だけど何か物を作ることは好きで、中学高校時代は工作でいろんなものを作ってましたね。

 そんな私がお菓子作りの道に進もうと思った理由がふたつあるんです。ひとつは中学生くらいから自分は性格的に会社勤めが向いていないと感じていたことです。それで手に職がつく仕事をしたいとずっと思っていたんですね。もうひとつは親元を離れて自立したかったことです。親が嫌いとか仲が悪いというわけではなくて、とにかく早く実家を出て、ひとりで生きていけるようになりたかった。

 高校は進学校だったんですが、大学に行く気はなく、手に職をつけるために専門学校に行こうと思っていました。最初は服飾の専門学校を考えていたんですけど、地元の岩手に服飾の学校がたくさんある。そうすると実家から通うことになるので親元から離れられない。そう考えたとき、製菓の専門学校は東北にひとつもなかったんです。今でこそパティシエが人気の職業になって全国各地に専門学校がありますけど、当時(90年代末)は東京と横浜と大阪、あとは群馬にあるくらいだったんですよね。

 こうして群馬県前橋市の製菓とパンの専門学校に入ったんです。入学前は、とにかくたくさんお菓子を作って技術を高めていくようなイメージだったんですけど、1年目は「製菓衛生士」の資格を取るための座学がほとんどで、その後は、いろんな国のお菓子の歴史を勉強しながら実際に作ってみるという授業でした。

 卒業後は、デパートにも何店舗か出店している横浜の洋菓子店に就職しました。実際の仕事は、専門学校の授業でやっていたお菓子作りとはまったく違いましたね。学校で作る量というとホールケーキひとつ分くらいですが、そうした洋菓子店では1日にホールケーキを100~200台くらい作るんです。学校の場合、家庭用のボールで作るわけですが、お店では業務用の巨大なボールで機械を使って作ります。やっていることは同じでも、まったく違う作業をしている感じでしたね。

理想と現実のギャップが大きいのがパティシエの仕事。独立するために「修業する」という気持ちがあったから続けられた

 今は労働基準法が厳しくなったので変わったかもしれませんが、当時は朝5時から22~23時くらいまで働いていました。休みも月6日ほどだったし、お給料もすごく低かった。だけど、当時は「修業をさせてもらっている」という感覚だったので、現場で作り方を見て覚えることが何よりで、それでお給料をもらえるんだから、ありがたいという感覚でした。

 例えるなら、工事現場で働いていると言えばイメージしやすいと思います(笑)。小麦粉の20キロの袋を担いだり、巨大なボールに入った30キロの生地を手で混ぜたりするので、筋肉がないと仕事にならないんですよね。最初の頃は家で筋トレしてました(笑)。

 実はこれはまだ楽なほうだったんです。その洋菓子店に3年半ほど勤めた後、家族経営のケーキ屋さんに転職したんですが、ここは朝6時から22~23時までの勤務で、休みは週1日だけでした。クリスマスシーズンの12月は休みが2日だけで、元旦も仕事です。それでいてお給料は前の会社より年収で100万円くらい下がりました。だけど仕事内容に関しては自分が求めていたものだったんですよね。

 前職の洋菓子店の場合、職人が10人くらいいて、さらにパートさんもいるので分担作業になります。そうするとお菓子作りがトータルで見えない。だけど個人店の場合は、オーナーの家族と私だけなので基本的に分業はしないわけですよね。この段階を踏めたことは私にとって良かったと思います。初めからそういうお店に入ってしまうと、覚えることが多くてすぐに嫌になっていたかもしれない。

 「パティシエ」の仕事というと、華やかなイメージがあるし、専門学校でもそういうことしか教わらないですよね。だけど、実際に現場に入るとかなりの肉体労働で、理想と現実のギャップをすごく感じると思います。そうすると自分が作っているものが、お菓子とはまったく違うものにしか見えなくなってくる。だからほとんどの人が続かないんです。実際、専門学校の同級生が100人くらいいたんですけど、3カ月持つ人が半分くらいで、1年経つと3分の1以下になり、3年で結婚して辞める人が9割という世界なんですよね。

 私がなぜ続けられたかというと、働きはじめてすぐに「将来、自分のお店を持ちたい」と思って、修業しているという意識があったからです。そういう意志がないと、とても続かない仕事だと思います。だけど、家族経営のケーキ屋さんで3年半ほど働くうちに疲れ果ててしまって辞めることにしました。独立する夢を諦めたわけではなくて、本当に仕事をしすぎた……という感じで、一旦その環境から離れたかったんです。

ケーキ屋のパティシエから、レストランのパティシエに転職。デザートを創作するようになり、お菓子作りの固定概念が外れた

 これまで仕事一筋でまったくといっていいほどプライベートの時間がなかったので、イタリア旅行に行ったり先輩のお店を手伝ったり、半年ほどのんびり過ごしていました。だけど、仕事をしていないと自分の存在意義がわからなくなって、気分が落ち込むようになったんです。早く仕事がしたいと思いました。だけど、ケーキ屋ではもう働きたくない。そこでケーキ屋以外でパティシエの仕事を探したところ、外資系レストランのパティシエの仕事を見つけたんです。

 ひと言で「パティシエ」といっても、ケーキの専門店と、レストランやカフェのパティシエでは作業が倍くらい違うんです。ケーキ屋の場合、テイクアウトがあるので、大量に作りますし衛生管理も徹底しないといけない。だけど、レストランのパティシエの場合は、その場で食べて終わりになるので、作る量も衛生管理もケーキ屋にくらべてずっと楽なんです。レストランの仕事に就いてからは、勤務時間は半分になって給料は倍くらいになりました。しかも、レストランはアイドルタイムもあるし、まかないまで付くので、すごく待遇が良かった。

 それ以上に私にとって良かったことは、お菓子作りの固定概念が外れたことでした。ケーキ屋で働いていた頃は、ショーケースに並べる際にすべて均一の形にしなければいけなかったので、ちょっとでも曲がって切られていると、何やってんだ?という感じで見ていたんですよ。だけど、レストランのパティシエの場合は、ちょっとくらい形が違ってもかまわないですし、料理に合わせてデザートを創作することや、お客さまに合わせてアレンジすることが求められるんです。たとえばお客さまがベジタリアンであればフルーツのデザートにしたり、お年寄りの方であれば甘さを控えたりですよね。

 ところが、そのレストランの経営状態が悪くなってウエディング会社に買収されてしまったんです。これまで職場の人というと料理に関わる人だけだったんですが、プランナーやスタイリスト、カメラマンといった様々な職種の人が関わる職場環境になって、人間関係のストレスで体調を崩してしまったんですよね……。

 そんなとき、専門学校時代の友だちが地元の富山に戻ってお店を出したんです。オープンを手伝いに行ったんですけど、それを見て「やっぱり自分でお店をやりたい」と思いましたね。人間関係のストレスで悩まされるくらいなら、お給料の保障がなくなっても、自分のペースで「自分が好きなものを作りたい」と思いました。東京に戻ってすぐに物件を探しはじめました。

パティシエ業界以外の人と交流することで、思わぬ仕事の広がりがあった。一人ひとりのお客さまを「笑顔」にしていきたい

 27歳くらいからちょこちょこ独立関連の本を読んだり、メニューを考えたりしていたんですけど、実際に開業するにあたって「焼き菓子とオーダーケーキ」のお店にしぼりました。ケーキ屋時代のように早朝から夜遅くまで仕事をしたくなかったし、食品ロスを出したくなかったんです。焼き菓子なら日持ちがするので食品ロスも出ないし、設備投資もケーキ屋よりだいぶ少なくて済みます。

 あとはお菓子だけでなく、雑貨も販売しようと考えていました。友人の手作りアクセサリーや赤ちゃん用品を置いたりして、ギフトやプレゼントに使えるお店にしたかったんです。そうしたコンセプトなので店名が「おいしいや かわいいや」なんですよね(笑)。

 オープン当初はまったく宣伝をしていなかったこともあって、お客さまは知人がほとんどで、しばらくは赤字続きでした。どうにかしなければ……と思って、異業種交流会に参加してみることにしたんです。まったく違う業界の方からビジネスのアドバイスを得られて勉強にもなりましたし、集客の面でもすごく効果がありました。

 そこで知り合った方がお客さまになってくれて、さらに人を紹介してもらえたんです。そうした縁もあって企業から入社式用のオーダーケーキを毎年注文されたり、社員に配るために大量のクッキーを注文されるようになったんです。BtoBの仕事をするようになるなんて、思ってもいなかった広がりがあったんですよね。

 私が独立したかった理由のひとつに、お客さま一人ひとりにもっといろんなことをしてあげたいという気持ちがありました。従業員だった頃、知り合いからケーキを注文されることがけっこうあったんです。もっとデコレーションを凝ったり、特別な形のケーキを作ってあげたいと思っても、従業員の立場だと、お給料が発生している時間のなかでそこに時間をかけるわけにもいかないし、追加料金が発生したりするので、やってあげられることが限られてしまう。だけど今は、自分のお店ですから全部やってあげられることがうれしい(笑)。

 オーダーケーキは頼まれればどんな形のケーキでも作ります。これまでにいろんな形のケーキを作りましたね。サメの頭の形やギターの形、他にもレコード、飛行機、車などケーキの概念を超えたいろんなオーダーがありました。どうやって作ろうか?と思うと、職人魂に火がついてよけいにやり甲斐を感じます(笑)。

「パティシエ」の仕事の醍醐味は、みんなが笑顔になることだと思います。イラストが入っていたりすると子どもは飛び跳ねて喜んでくれますし、仕事で疲れている人が「自分へのご褒美」といって買いに来てくれることも多くて、うれしいですよね。怒りながらお菓子を食べる人っていないじゃないですか。買って笑顔、食べて笑顔、プレゼントしても笑顔、お菓子のある場所って常に笑顔の隣にあるんですよね(笑)。

パティシエ 独立ノウハウ集

独立前

独立志望者は「製菓衛生士」の資格を取るべし

鈴木さんは製菓の専門学校に通い「製菓衛生士」の国家資格を取得。これは菓子作りの技術や知識のほか、衛生学や食品添加物など食の安全に関する専門知識を証明するもので、パティシエのほとんどが取得している。受験資格は、スクールで1年以上学ぶか、菓子製造業に2年以上従事すること。この資格がなくてもパティシエとして働くことはできるが、飲食店を開業する際に必要な「食品衛生責任者」と同等の資格なので、独立開業を目指すなら必ず取っておきたい。

地道な作業を繰り返し、技術を鍛えるべし

専門学校の授業は基礎や知識は学べるものの、あまり技術は身につかなかったという。なぜならお菓子作りの技術は同じ作業を繰り返すことで、目による判断や手の感触を覚えていくものだからだ。鈴木さんが最初に働いた洋菓子店では大量にケーキを作るため、ムースやクリームを仕込む人、生地を仕込む人、オーブンで焼く人というふうに分業制がとられ、1~2年(短い場合は半年)はその作業をやり続けることになっていた。地道でうんざりする作業かもしれないが、職人仕事に近道はないのだ。

原価率を考えて商品を作るべし

洋菓子店の従業員の場合、シェフパティシエが創作したお菓子を作ることになり、自分で創作することはまずない。しかし、鈴木さんはレストランのパティシエとして働くことで、料理に合わせてデザートを創作する機会が得られた。自分でデザートを創作することが勉強になったことはもちろんだが、原価率を考えるようになったことが大きかったという。コース料理の中でデザートの割合が決められているので、その原価内でデザートを創作する意識を持つようになったのだ。自分でお店を持つと、原価率を意識することが利益を左右する重要なテーマになってくる。

独立後

事業者支援の融資制度を活用すべし

鈴木さんは自己資金に加え、日本政策金融公庫から融資を受けて開業資金を用意した。金利が低いことがメリットだが、そのぶん審査は厳しいようだ。独立開業後も鈴木さんは設備投資のために融資を受けているのだが、次は品川区の事業者支援のための融資制度を利用した。こちらは3年目まで無利子だから活用しない手はない。創業補助金や事業者支援のさまざまな融資制度があるのでこまめに情報をチェックすべし。ちなみに鈴木さんは信用金庫の人からこの情報を教えてもらったそうだ。

他店にはない主力商品を作るべし

鈴木さんは食品プリンターを導入し、今ではイラストや写真入りのクッキーが注文の半分以上を占める人気商品になっている。導入を迷っていたところ、異業種交流会で知り合った経営者から「やりたいと思うならすぐに導入すべき」と後押しされたそうだ。お店のコンセプトでもあるギフト・プレゼント用に写真や言葉が入ったクッキーは最適で、多くの需要があったのだ。さらに鈴木さんは世界初(?)のプリントクッキーのカプセル自動販売機を考案し、店頭に設置している。

同業者以外の人と交流し、一般の人のニーズを知るべし

パティシエで独立開業を目指す人へのアドバイスとして、鈴木さんは「違う業界の知り合いがたくさんいたほうがいい」と言う。ケーキ屋で働いていた頃の鈴木さんがそうだったように、早朝から夜遅くまで働いていると、仕事一筋になって世界がどんどん狭くなっていく。そうすると交流関係は同業者だけになり、最近流行りのケーキや材料の話題に終始してしまう。しかし、お客さんは同業者ではないのだ。一般のお客さんが求めているニーズを知るためにも、自分の世界を広げていきたい。

取材・文●大寺 明

おいしいや かわいいや

「おいしくて、かわいいものを日常に。」をコンセプトにした
焼き菓子とジャム、手作り雑貨のお店です。

オーダーでデコレーションケーキや、オリジナルプチギフト用クッキーなども
おつくりいたします。お気軽にご連絡ください。

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型にとらわれない、生徒さんお一人お一人に合わせたレッスンです。
【レッスン・スケジュール】火曜日~土曜日9:30~11:30/火曜日~金曜日19:00~21:00

オリジナルクッキーと焼き菓子の詰め合わせが、ネットでお買い求めいただけます。
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