会話を楽しみながら自分だけの本ができる「おしゃべり自分史」を低価格で提供。「パーソナルメモリーズ」が語る独立ノウハウ

須藤 渉(すどう・わたる)1989年東京都江東区生まれ。IT企業でSEとして4年間勤務した後、2013年に24歳で自分史作成サービス「パーソナルメモリーズ」を開業。

――独立DATA――
●24歳で独立

【開業資金/100万円】
・業務用プリンター 10万円
・ノートPC 14万円
・ICレコーダー、名刺代、サーバー代、電話回線費など 約5万円
・運転資金 71万円
インタビュー仕事はICレコーダーとPCさえあれば可能。自分史作成サービスならではという点では、写真の取り込みや原稿確認用のプリントのために業務用プリンターがあるといいようだ。須藤さんの場合、仕事用備品の出費はそれほどでもないが、運転資金を3カ月分ほど準備した。実際、最初の依頼が入ったのは独立3カ月目だった。

――事業内容――
パーソナルメモリーズ
自伝・自叙伝・自分史の代筆を請け負う。文章を書くことが苦手な人のために、記者とおしゃべりをするだけで自分史が完成する「おしゃべり自分史」を基本料金298,000円~という低価格で提供。完全オーダーメイドで一人ひとりに合ったプランを提案し、1部から製本が可能。

自伝や自分史を作るとなると100万円以上かかるイメージがある。これまでは自費出版という形式で、100部単位で刷るのが通常だったからだ。しかし、近年は1部から製本が可能になり、良心的な料金の自分史作成サービスが登場している。今回取材したパーソナルメモリーズは中でも低料金の自分史作成サービス。代表の須藤さんは、なんとIT企業のSEからライター経験ゼロで開業したというから驚く。自分史を仕事にしようと考えた原点とは?

祖父が自分史を作ろうとするも、高額だったこともあり果たせずに他界……。「作ってあげればよかった」と思ったのが原点

 IT企業でシステムエンジニアとして働いていた頃、当時81歳だったうちのおじいちゃんが「自伝を作りたい」と言いはじめたんです。自分で書くつもりで原稿用紙に向かうんですが、最初の1行を書いては書き直すという日々を繰り返していたので、インターネットで代筆業者を調べてあげたんですね。

 当時は多くの業者が数十万円から百万円以上という料金で、最低100部は刷らないといけなかった。だけど、個人の自分史で100部もいらないですよね。そのとき、もっと安い値段で1部からでも自分史を本にできるサービスがあればいいのに、と思ったんです。そのときは会社勤めをしていたので、自分がそのサービスをやるなんて考えもしなかったですね。

 結局、自分史を本にできないままおじいちゃんは亡くなってしまったんです。生前のおじいちゃんは「戦争のときはどうだったの?」と聞くと、いろんな話をしてくれました。自分の戦争体験を書き残しておきたかったと思うんですよね。おじいちゃんが亡くなってから「作ってあげればよかった……」とつくづく思いましたね。

 その頃の僕は、企業からの依頼でシステム開発をするSEの仕事をしていました。安定はしていましたが、将来的に考えると何も夢がなかった。取引先が決まっていて、特定のお客さまとお付き合いをする同じ日々の繰り返しのように感じていたんです。それに比べると、自分史作成サービスの仕事は毎回違うお客さまと接するので、毎日が新鮮です(笑)。

 独立を考えはじめてから、まず経営を勉強しようと思いました。ベンチャー企業なら一社員でもなんとなく会社全体のことが見えると思うんですけど、大企業は部署ごとに細分化されていて全体が見えない。各分野の専門知識は増えますが、経営のことは何もわからないんですよね。

 そこで経営学の本を読んだり、講演やセミナーに参加したりするようにしました。まったく経営のことを知らなかったので、何を聞いても勉強になるくらいの感じでしたね。こうして水面下で徐々に独立に向けて準備をはじめて、同時に自分史作成サービスというビジネスモデルに問題がないか、洗いざらい点検していきましたね。

 今でこそ「自分史」や「終活」が盛り上がっていますが、それはここ2、3年のことで、当時(2012年頃)は市場があるのかもわかりませんでした。自分史や自伝を専門にあつかう業者も少なくて、昔ながらの自費出版の会社がやっている程度だったんですね。そのため料金も昔と変わらず高額でした。

 それに対し、低価格の自分史作成サービスの事業を立ち上げようと考えたわけですが、SEだったのでライター経験ゼロだし、出版も未経験なわけです。今思うと無謀ですよね(笑)。何も知らなかったからこそ、不安もなく飛び込めたのかもしれない。

ライター経験も出版経験もなく開業。練習として祖母の自分史を作ってみましたが、はじめて依頼が来たときは、緊張しました(笑)

 退職後は、本にするまでトータルで練習してみようと思って、うちのおばあちゃんを取材して実際に自分史を書いてみることにしました。身内ということもあって時間も決めずにしゃべっていたんですが、長時間の取材になるとテープ起こしの作業が膨大になることをそのときはじめて知りましたね(笑)。

 2、3カ月かけて本ができたんですが、これが意外といい仕上がりで、おばあちゃんも喜んでくれたし親からも好評だったんですよね。手ごたえを感じて、ホームページ作りに取りかかりました。自分で作ることにしたわけですが、WEBと会社員時代に業務で書いていたプログラムがまったく別物で苦戦しましたね。

 最初は老人ホームにチラシを配りに行ったりもしました。だけど、老人ホームは保険や資産運用の営業がいっぱい来るらしく、何件か周りましたがどこも門前払いでしたね。それもあって集客は今もホームページ一本でやってます。今では老人ホームやパソコン教室など向こうから提携や講師の依頼をいただくようになりました。

 ホームページは試行錯誤しましたね。最初はデザインのことがまったくわからなくて、真っ青な色のページを作っていたんです(笑)。それを見た友だちから「明るすぎて目が痛い」と言われて、落ち着いた色に作り直しましたね。高齢者の方が見るサイトなので目立てばいいというものでもないですよね。リニューアル時にブログ機能をつけたので、頻繁にブログを更新するようにしたところ、検索の上位に表示されるようになって徐々にお問い合わせが来るようになっていきましたね。

 だけど、一番最初のお問い合わせは、独立後3カ月目だったんですよ。ずっと依頼がなかったので、初めて仕事になったときは緊張しましたね。うれしいというより、「本当にしっかりできるのか」って(笑)。練習で一冊作ったとはいえ、この製本が最適かもわからないし、上手く話を聞き出すことができるのかもわからない。最初は採算を考えず、話が聞き出せないようだったら何回でも通おうと考えていました。結果的には、ご本人にもご家族にも大満足いただけたので自信になりましたし、やり方が間違っていないなと確信しました。

 その後、周囲の人に「自分史作成サービスを始めた」と声をかけていると、知人の何人かから「作ってほしい」と依頼されて、数をこなすことでだんだん力をつけていった感じです。印刷会社を紹介されたりもして、徐々につながりも増えていきましたね。

 パーソナルメモリーズでは手製本という作り方にこだわっています。機械が製本するのではなく、すべて糸で縫った手作りの本です。オンデマンド出版で作れば安く簡単にできるんでしょうけど、お客様の生きた証として残っていくものなので、破れたり折れ曲がったりしない丈夫なハードカバーにこだわりたかった。多少は製本代が高くなりますけど、そこは妥協したくなかったんです。

まずは仕事を抜きにして、楽しくおしゃべりをします。打ち解けていくうちにお客さまの人となりと人生が見えてくる

 その一方で、低料金に抑えるためにいろいろ考えましたね。低料金の印刷会社を見つけることはもちろん、本文のレイアウトをフォーマット化したり、校正を専門の校正者に依頼するのではなく、自分で校正するようにしたりです。

 他の自分史作成サービスを見ると、料金が高いところは表紙のデザインに凝っていることが多い。デザイナーに依頼すると、それだけでも数万円はかかってしまいます。そこでコストを割かないために、題名を箔押しするくらいの表紙に落ち着きました。自分としてはそれほどコスト削減をしている意識はないんですが、出版社の人と話すと「業界経験がないからこそ最低コストでできた」と言われますね。出版業界の常識がないことが、かえってよかったのかもしれません(笑)。

「おしゃべり自分史」というサービス名にしているのですが、まずは仕事のことは考えないで、打ち解けてザックバランにおしゃべりをします。話をしているうちに所々で人生の話が出てきたり、お客さまの性格がわかってくるので、そこから「そのときはどうされたんですか?」と質問しながら話を聞き出していきます。

 80代から95歳くらいまでのお客さまが圧倒的に多いんですが、僕は今27歳なのでお客さまからすると孫の世代なんですよね。「若い人と話すのが楽しい」という方が多くて、インタビューに伺うと「まだこんな話もあるよ」っていっぱい話をしてくれるんです。おしゃべりをして話を聞くだけなら楽しいことなんですけど、テープ起こしをして執筆するとなると、大変な作業になります。

 最初の頃は時間を決めていなかったんですが、そうすると際限のない話になってしまうので、今はお見積もりの段階でページ数と取材時間を決めるようにしています。お客さまによっては最初から2時間と決める方もいらっしゃいますし、どれくらいの話のボリュームになるかわからない方は、2時間×3~5日と幅をとって決める方もいらっしゃいます。

 今は高齢者の方も意外とインターネットを見て検索されています。自ら自分史を作りたいというくらいインテリジェンスの高い方は、たくさん話してくれるものなんですが、むしろ苦戦するのは話が出てこないときです。

 僕がおじいちゃんのためにネットで業者を調べたように、娘さん息子さんが親へのプレゼントとして依頼されるケースが多いんです。だけど、いざ取材になると「もう思い出せない……」と言われることがけっこうあって、そうなるといくら話を聞き出すことが上手い人でもお手上げです。だから、プレゼント案件のときは最初に本人のやる気を必ず確認するようにしています。

記憶はやがて薄らいでゆくものです。心も体も元気なうちに、自分が生きた証を自分史として残してほしい

 お問い合わせの後は打ち合わせのためにご自宅に伺います。その際、これまでに作った本を見てもらうんですね。基本的にお客さまは本を作ったことがないので、実際の本を見ないとイメージがわかないものです。逆に本を見ると「自分も作りたい」となることが多いですね。

 最初の打ち合わせから、その後の取材までお客さまが普段過ごしている場所に伺うようにしています。そのほうがお客さまもリラックスしておしゃべりできるんですよね。全国各地から依頼があるので、先日は栃木県に行ってきて、次は北海道に行く予定です。連泊して一度に済ませることはないです。なぜかというと、一度テープ起こしを読み込んで、固有名詞や年数といった疑問点や深掘りしたい箇所を明確にしてから二度目の話を聞きにいかないと、執筆の段階で手が止まってしまうんですよね。

 作業的な都合だけではなくて、高齢者の方は2時間おしゃべりすると疲れてしまうというのもあります。若い方なら「明日、話の続きを」ということも可能ですが、高齢者の方は1~2週間空けるくらいがちょうどいいんですよね。それを数回繰り返すと、取材だけでも1、2カ月、テープ起こしと執筆、製本の期間も含めると依頼があってから3、4カ月後の納品になります。

 だから、自分史を作りたいという人には「早く作りましょう」と言いたいです。親が入院することになって、娘さん息子さんから「早く来てください」と依頼されることがよくあります。病院まで取材に伺うわけですが、点滴をしながら話しているような状態なので、根掘り葉掘り話を聞くとかなりの負担になってしまうんですよね。

 最近あったことなんですが、入退院を繰り返してかなり危険な状態のお客さまがいました。何度も病院に通い詰めて取材をして、本になるのをすごく楽しみにされていたんですが、最終原稿の確認をお願いしてOKの連絡があった4日後に他界されたんですよね。

 内容については何度も確認してもらっていて、後は製本するだけという段階でした。最期の頃はかなり痩せ細ってしまっていて、逆にいうと、「本にしたい」という想いが生き甲斐となって数カ月間長らえたようにも感じます。完成した本の状態で見せてあげられなかったのが心残りですが、通夜に間に合うように大急ぎで製本をして、棺に一冊入れることができて、せめて良かったなって。

 誰しも死を意識することは怖いことですよね。身近な人に感謝を伝えていなかったり、これまでの経歴がすべて消えてしまうような気がして不安に思うのも当然です。でも、本にすることで、自分が生きた証を残すことができます。昔の写真も本に収録しておけば残りますよね。子どもや孫の世代からしても、自分のルーツを知りたいですし、親の本当の気持ちを知るのはうれしいことですよね。

 記憶というのはどんどん薄らいでいくものです。みなさんたまに本を眺めて、「こんなこともあったっけ」と日々噛みしめながら読んでいるそうです。IT系の仕事をしていたときは、お客さまから直接感謝されたことがなかったですけど、今は「ありがとう」と言われることが多いので、それがやり甲斐になっていますね。

自分史作成サービス 独立ノウハウ集

独立前

今の時代に合った料金設定を打ち出すべし

須藤さんが開業した2013年頃は、これまでにもあった自費出版のサービスが主流で、数十万円~100万円以上という料金設定が一般的だった。こうした昔ながらの料金設定に対する疑問が、須藤さんが開業に踏み切ったきっかけだったわけだが、その後、新聞社や大手出版社が本格的に参入し、自分史や終活が多くの人に認知されるようになり、市場が盛り上がりはじめた。それより少し前に開業していたことで、パーソナルメモリーズは業界的に先駆者となり、キーワード検索でも上位に表示されている。

人間味が感じられるサイト作りをすべし

須藤さんは当初、派手なカラーのHPを作成していたが、友人の客観的意見を参考に、お年寄りが見やすいようなカラーに変更した。「おしゃべり自分史」という気軽なネーミングもそうだが、ただ目立つサイトやコピーにすればいいというわけではなく、それを見る人の立場に立って受け入れられやすいサービスを作ることが肝要。そのためには代表の人となりが見えるようにしたり、お客さまの声を載せるなど、さまざまな工夫が求められる。また、SEO対策として、ブログを頻繁に更新するといいそうだ。

出版というより、サービス業と考えるべし

須藤さんが自分史を事業に選んだ理由のひとつとして、高齢者に「お話したいニーズ」があるのではないかと考えたことがある。普段あまり人に話すことがない自分の人生を聞いてもらい、楽しくおしゃべりをする。それを本にすることも大事だが、むしろおしゃべりを楽しむ時間こそがメインという考えだ。出版業というより一種のサービス業としてとらえているため、遠方でも必ず会いに行き、楽しい時間を提供するように心がけている。お年寄りも若い須藤さんが行くと孫が訪れたように感じ、取材日を心待ちにしているそうだ。

独立後

1部から印刷製本できる業者を見つけるべし

やや割高になる手製本だが、そのかわり1部から製本が可能。お客の追加依頼で多いのが、5部や10部の追加なので対応しやすい。一般的に多く刷れば刷るほど一冊あたりの単価は安くなるとされているが、10部から100部程度の増刷では、それほど値段は変わらないそうだ。ちなみに文字の大きさは高齢者が見やすいようにかなり大きめに設定され、「メガネがなくても読める」と好評だという。高級感のあるハードカバーや本文のレイアウトなど、お年寄り向けの本作りをする姿勢が大切。

作業時間と労力から料金を設定すべし

あまり知られていないが、聞き書きの原稿執筆で一番の重労働がテープ起こし。タイピングが早い人でも10分起こすのに1時間ほどかかり、2時間の取材で計10~12時間の作業になる。さらに執筆が3日かかるとすると、2時間の取材を原稿にまとめるのに最低5日、6時間取材した場合は15日間の作業が発生する。また、単純に取材が2時間といっても、移動で半日は潰れるものだし、話を聞き出す仕事は脳をフル稼働させるので、その日は脳が疲れて執筆どころではなくなってしまう。こうした労力を計算したうえで納品日や料金設定を決めるべし。

あらゆるお客の要望にこたえるべし

パーソナルメモリーズは「29万8000円~」という業界的にはかなり良心的な料金設定にしているが、それでも「高くてムリだ」という人もいるはず。あくまでこれは基本料金で、問い合わせ内容によって柔軟に対応しているそうだ。たとえば予算が10万円なら、それに合わせて表紙の箔押しをなくしたり、ページ数を少なくして戦争体験の話だけにフォーカスした自分史にするなど、予算に合わせた提案をしている。逆にページ数(文字数)がかなり多い重厚な自分史を希望する場合は、作業量の増加に合わせて基本料金よりもやや高くなる。

取材・文●大寺 明

自伝・自叙伝・自分史
パーソナルメモリーズ
自伝・自叙伝・自分史のパーソナルメモリーズ

テレビなど各種メディアで大好評の自分史作成サービス「おしゃべり自分史」で数多くの自分史を作成する。全国から依頼があり、全国的に活動中。

パーソナルメモリーズは“一人でも多くの方に自分史を残して欲しい”という想いからスタートし「お客様の人生を自分史として形に残し、家族や友人または後世に残すこと」を目的としております。
「おしゃべり自分史」は、文章を書くことが苦手なお客様でも、記者と楽しくおしゃべりをするだけで、自分史が完成するサービスです。上手くお話できるか不安なお客様でも、記者が質問してお客様の人生で印象に残る出来事を聞き出しますのでご安心ください。お客様がご指定していただいた場所(もちろんご自宅でも可能です)にお伺いし、 自分史の作成に必要となるお話を楽しくおしゃべりしながら聞かせていただきます。
取材した内容を元に、お客様の代わりに自分史の執筆を行います。
低価格で楽しく自分史を作成しましょう!