声優プロダクションから独立後は、「声」が必要とされるあらゆる業界に営業をかけた。フリーランスのナレーターが語る独立ノウハウ

内藤ヒロキ/1978年兵庫県生まれ。大学生の頃から声優養成所でレッスンを受け、声優プロダクションに所属。大学卒業後は大学院で分析哲学を研究し、博士課程を修了。2009年に独立し、フリーランスのナレーター・声優として活動。2011年にフリーランスのナレーター・声優ギルド「ジラソーレ」を設立。

――独立DATA――
●30歳で独立

【開業資金/0円】
身体ひとつでできる仕事なので開業時に特に費用はかかっていない。独立後は営業用のボイスサンプルを収録するためのスタジオ費用や宣材資料制作費がいくらかかかっているほか、コンスタントにボイストレーニングのレッスンを受けているため、その費用も毎月かかっている。声帯も筋肉と同じく年齢とともに衰えていくため、プロとして声を維持する努力は欠かせない。

――事業内容――
ナレーター・声優
テレビ番組、CM、海外映画の吹き替え、ゲーム、WEB広告など、さまざまなメディアでナレーター・声優として活動。フリーランスのナレーター・声優のギルド「ジラソーレ」の代表を務め、出演者のキャスティングを行うほか、音声や映像コンテンツの企画制作も請け負う。その他、ボイストレーニングや小学校を対象とした朗読教室など、レッスン事業も展開している。

アニメの声優に憧れる人が増え、声優の専門学校や養成所が増えているけれど、声優の仕事のうちアニメ以外で人気なのが、テレビやCMなどのナレーションの仕事だ。アニメ声優の場合、プロダクションに所属している人が9割以上なのに対し、ナレーションはフリーランスで請け負う人も多い。放送業界だけでなく、WEB業界も動画に力を入れるようになったこともあり、ますます「声」の需要が高まっている。知られざるプロナレーターの世界とは?

「台詞が言いたい」と舞台役者から声優志望にシフト。声優プロダクションが運営する養成所に通う日々

 子どもの頃から親によく演劇に連れて行ってもらっていて、将来は役者になりたいとずっと思っていました。大学進学後、すぐに劇団に入ったんですけど、当然、新人は台詞がもらえない。それでも舞台に立てるだけでうれしくて3年ほど劇団に在籍していたんですが、だんだん「台詞が言いたい」という思いが募っていきました。それで声優やナレーターといった職業に興味が移っていったんです。ある意味、台詞だけの世界ですよね。

 そこで声優プロダクションが運営する養成所のレッスンを受けることにしました。そうした養成所は授業料がかかるものと無料のものがあるんですが、基本的に育成が目的なので、そこで認められると、そのままプロダクションの所属になることが多い。最初は授業料がかかるレッスンを3年ほど受けたんですが、プロダクションに所属することができなかったので、別の養成所に通うようになって、結局、プロダクションに所属するまでに3つの養成所のレッスンを受けましたね。

 養成所によっては年間30万円ほどかかったりして、授業料を払うために必死にアルバイトをしてました。大学卒業後、大学院に進んで修士課程が3年、博士課程が6年の計13年間、学生をやっていたので、時間だけはたっぷりあったんです。販売員や飲食店の店長などいろんなアルバイトをやりましたけど、一番長かったのが10年以上続けた不動産屋の仕事です。アルバイトとはいえ店長を引き受けるようになったので、ほぼ会社勤めをしているようなものですよね。

 やはり声優やナレーターの仕事に就くには、レッスンを受けたほうがいい。発声法の基礎が必要なのはもちろんのこと、講師から教えてもらうこと以上に、いろんな情報が入ってくることが大きいです。ここでいう「情報」とは、仕事情報といった意味ではなくて、さまざまな気づきが得られるという意味です。「あの人の表現は上手い」「あの人の表現は違和感がある」と感じたら、自分も同じように声に出してみる。自分以外の人を参考にして試行錯誤してみることで気づくことが多いんです。

 養成所に通っていた25歳の頃、声優の初仕事が入りました。『幻想水滸伝』というゲームキャラクターの声優だったんですが、プロの現場が初めてで右も左もわからなくて、「いつしゃべればいいんですか?」という感じでしたね(笑)。ギャラはわずかでしたが、いい経験になりました。だけど、そのプロダクションにも所属するまではいかなくて、その後、大ベテランの人気声優が代表を務める声優プロダクションの養成所に通いながら、そのプロダクションに所属することになったんです。

声優プロダクションに所属するも、新人は自分から仕事を取ってこない限り、やりたい仕事が回ってこないと実感

 だけど、仕事がほどんどなかったんです……。もちろん実績のある売れっ子さんはたくさん仕事がありますけど、実績のない新人は自分から取ってこない限り、まず仕事にありつけない。そんなとき、前に通っていた養成所の社長が「プロダクションを紹介してあげる」と言ってくれていたことを思い出して、別の声優プロダクションに所属することにしました。

 移籍後、月3、4本の仕事が入るようになったわけですけど、当然それだけでは食っていけません。ずっと不動産屋や飲食店のアルバイトを続けていたので、とりあえず生活は成り立っていたし、当時はまだ20代半ばだったので、将来をそれほど切実に考えているわけでもなくて、いつか自分がやりたい仕事で食っていけるようになりたいと夢を追いかけている感じでしたね。

 その声優プロダクションでは、もともとやりたいと思っていた外国映画の吹き替えの仕事をはじめ、アニメやゲームといった仕事もさせていただけて、実績を作ることができた。だけど、基本的にはアニメに特化したプロダクションで、「アニメの声優をやりたい」という人が多かったんですけど、自分はそれほどアニメに思い入れがなかった。次第に「ナレーター部門」みたいな扱いになっていって、ナレーションの仕事が入ると僕に回ってくるようになったんですけど、そもそもナレーターの仕事自体が少ないんですよね。

 やはり自分がやりたい仕事をするには、自分で仕事を取ってこないといけない。そう意識して仕事をするようになってから、以前にお仕事をさせていただいたディレクターさんが次も呼んでくれたり、別の方が評判を聞いて依頼してくれるようになって、いろんな方とお仕事をする機会が増えていったんです。

 ナレーションの仕事が順調に回りはじめた頃、懇意にさせていただいていたマネージャーさんが声優プロダクションから独立することになったんです。それをきっかけに自分も独立を意識するようになりました。そのマネージャーさんと一緒に仕事ができるかもしれないという淡い期待もありましたし、もっと営業に力を入れたいという気持ちもありました。プロダクションに所属するタレントが、勝手に営業をするとプロダクションに迷惑がかかることがあり、あまり積極的に営業ができないというジレンマを抱えていたんです。こうしてプロダクションと話し合って2009年にフリーランスになったわけです。

テレビ業界に限定せず、「声」が必要とされる業種に片っぱしから営業をかけた。さらに、「仕事がないなら作ってしまえ」と発想を転換

 独立当初は順調に仕事が増えていきました。独立されたマネージャーさんの紹介で、ゴールデンタイムの地上波でのナレーションをさせていただくことができたんです。だけど、新人のうちはギャラがあまり高くないので、ナレーターだけでは食っていけない。そこで、もっと仕事を増やすために飛び込み営業をかけてみることにしたんです。だけど、この業界は声優プロダクションと制作会社といった、会社と会社の付き合いで仕事が回っていることがほとんどなので、結局、飛び込み営業が仕事につながった確率は0%です(苦笑)

 そうこうするうちに独立されたマネージャーさんが業界を引退されて、急に仕事が途絶えてしまった……。飛び込み営業は効果がなかったので、今度は紹介営業に切り替えることにしました。懇意にさせていただいている業界関係者から制作会社の社長さんやディレクターさんを紹介してもらって営業するわけですが、そうすると高確率で仕事につながりましたね。

 とはいえ、30歳を過ぎてまだアルバイトで生計を立てていて、声優のギャラを足しても月収は20万円そこそこ。就職している同年代の人と比べると、とてもこのまま続けていける感じでもなかった。どうにかして仕事を増やさなければいけないと思って、頭をひねりましたね。

 そのときとった手は3つです。それまでは自分がやりたい仕事を優先的に考えていたので、テレビ番組の制作会社や外国映画の吹き替え専門の制作会社など、テレビ業界を中心に営業をかけていました。そうではなく、テレビ業界に限定せずにとにかく声が必要だと思われる制作会社に営業をかけてみることにしたんです。テレビ業界だと大手事務所にはかなわないですが、世の中にはWEB関係や広告関係など制作会社は山ほどありますよね。そうした営業先をネットで探して、片っぱしから営業をかけましたね。

 2つ目がキャスティングのコーディネート業をはじめたことです。いくら営業をかけてもニーズと合わないことがありますよね。そこで「キャスティングもできます」といって営業することにしたんです。そうすると女性の声や若い人の声など、自分が出演できない案件を相談されます。以前お世話になった声優プロダクションのタレントさんをキャスティングしたり、少し前にボイストレーニングのレッスン事業をはじめたので、生徒をキャスティングしたりです。これがフリーランスのナレーター・声優ギルド「ジラソーレ」の前身になったんですよね。

 そして3つ目が、映像コンテンツや音声コンテンツの企画営業をすることです。プロダクションに在籍して待っていても仕事が来ない。営業をして自分から仕事を探しに行ってもなかなか仕事が見つからない。「だったら自分で仕事を作っちゃえ」ということですよね。

ナレーター・声優を目指した時点で、安定は期待しちゃいけない。どんな仕事も手を抜かず、次につながるような仕事をしていきたい

 以前のWEBサイトは、データが重くなることもあって音声はあまり必要とされていませんでした。だけど今は、Youtubeや動画配信サイトが普通になってきて、WEB広告や動画コンテンツのナレーションが求められるようになっています。WEBの仕事自体は多いのですが、放送業界に比べるとWEB業界の予算はかなり低いことが多いです。しかも、セミプロのナレーターが大勢参入しているので、かなり競合も多い。プロのナレーターは敬遠しがちなんですが、まずWEB業界でナレーターの仕事を増やしていきましたね。

 企画営業では、音声や映像コンテンツの制作を受注するほか、店内インフォマーシャルといった企画を提案していきました。たとえば大手スーパーでは、BGMをつけて今日のオススメ商品をアナウンスした音声を流したりしますよね。個人商店や中小企業はこうした予算がかけられない。もし大手スーパーと同じことをやろうとすると、年間で数百万円はかかるものなんですが、「ジラソーレなら1カ月数万円からできます」と提案するわけです。これは1パターンのみの音声収録で、もし何パターンも音声を流したければ、1カ月で何回でも収録できる定額プランを用意したり、少しでも個別のニーズに柔軟に対応できるサービスを提案しました。

 あるいは、30周年を迎える会社があったとしたら、記念式典をやる可能性があるので、そこで流れるアナウンスや動画コンテンツを提案したりです。目先を変えると、あらゆる業界で音声が必要になる場面があるので、業界を問わずこまめに営業メールを送るようにしました。営業をして動画コンテンツの制作を受注できたら、これまで僕が仕事を依頼されていた制作会社に逆に仕事をお願いするわけです。そしてナレーションはジラソーレが担当します。

 実は、企画営業をはじめるにあたって、マーケティングや企画営業を勉強しなければいけないと思って、3年ほど企画営業ができる会社に就職したんです。僕は経営学部を出たわけでもないし、マーケティングも素人なわけですから、必死にやらないととても対応できない。精神的にまいってしまいそうなほど毎日大変だったんですが、そのぶん勉強になりましたね。

 2013年にその会社を退職したわけですが、コンサルティングの手法や企画営業を勉強したおかげで、その後はどんどん営業で仕事が取れるようになったんです。だけど、経済的にはだいぶ楽になったはずなんですけど、ずっとハードな状態が続いてますね(笑)。仕事が増えたぶん、今度は時間がなかったり人件費の支出が増えたりして、独立当初からずっと目の前のことを必死にやっているような感じです。

 もともと声優やナレーターを目指した時点で安定は期待しちゃいけないと思っていました。この業界は芸能界と同じで、一時売れっ子になったからといって、次も仕事があるとは限らない。ここで手を抜いたら、一気に落ちると思っています。だからこそ、次につながるような仕事をしていかなければいけないですよね。

ナレーター・声優 独立ノウハウ集

独立前

声優プロダクションの養成所に通うべし

声優やナレーターの仕事に就くには、プロダクションが運営する養成所に通うのが一般的。ここで認められるとプロダクションの所属となるわけだが、キャスティングを決めるオーディション情報は基本的にプロダクションにしか回ってこないため、よほどの実績がない限り、プロダクションに所属せずにアニメ声優として活動することは難しい。一方、ナレーター業界はプロダクションに所属できなかった人が、セミプロとして活動していることも多いそうだ。そのぶん人数も多く、アニメ声優よりも激戦区。その中で頭ひとつ抜きん出るには実績が重要になってくる。内藤さんの場合、プロダクション所属時代に海外映画の吹き替えやテレビCMに出演した実績が強みになっている。

接客業でトーク術を身につけるべし

内藤さんは販売員や不動産屋の店長といった接客業のアルバイトに長年携わってきた。独立してフリーランスでやっていくとなると、営業もギャラの交渉も全部自分でやらなくてはいけないため、一般企業の社会人経験が求められてくる。特に内藤さんの場合、接客業を多く経験してきたことが役立っているという。販売の接客業を経験したことで、商品説明をした際、お客さんがどういうリアクションをするかを予測できるようになり、そのときの経験を活かして商品宣伝用のナレーションの仕事をしているのだ。どういうふうに商品を紹介するかといった構成や、ここは力を込めて説明し、ここは謙虚に話すといった、お客さんを惹きつけるためのトーク術を身につけたことが大きい。

ロジカルな思考法を鍛えるべし

内藤さんは大学院で哲学を研究し、博士課程を修了した。哲学が直接的にビジネスに役立つイメージはないが、実際は非常に有効だという。なぜならどんなビジネスでも「ロジカル・シンキング」が大切になってくるからだ。この思考法を鍛えてきたことで、内藤さんは何ごとも筋の通った話ができるようになり、企画営業やレッスンといった場面で、相手にわかりやすく伝えることができるようになった。内藤さんの専門は「分析哲学」というもので、課題解決の筋道を論理的に分析するという学問だが、この思考法がまさに独立後に役立った。「仕事がない」という問題に対し、内藤さんは分析哲学の手法で解決法を分析し、それを実践していったのだ。

独立後

キャスティング権を持つ人に、自分を売り込むべし

独立直後の内藤さんは、飛び込み営業に力を注いだが、それが仕事になったことは皆無だった。実績があったため、営業先の制作会社では好意的に対応されることが多かったが、社内にいる人は事務のスタッフがほとんどで、ディレクターに会えることはまずない。いくら営業をしても、そうしたキャスティング権を持つ人に自分を売り込まなければ意味がないのだ。その後、内藤さんは「紹介営業」に切り替え、ディレクターや制作会社の社長に直接売り込むようにしたところ、仕事につながりやすくなったそうだ。誰にでも売り込めばいいというわけではなく、キャスティング権を持つ人に狙いを定めて営業すべし。

業界のギャラ相場を知っておくべし

プロダクションに所属していると、会社がギャラの交渉をしてくれるが、フリーランスは自分で交渉しなくてはいけない。その際、相場を知っていることが大切。ちなみにアニメ声優の場合、日本俳優連合に加盟することが多く、活動年数や実績によってギャラがランク制になっている。たとえば活動2年以内の新人は「ジュニア」と呼ばれ、30分アニメ出演のギャラ相場は1万5千円。3年以上はランクが付き、ランクに応じて出演料が上がるというように、新人から大ベテランまで何段階にも分かれている。これはあくまで地上波放送の相場で、イベントやWEBの出演などはこの相場が当てはまらず、地上波放送のアニメに出演した実績によってギャラは相当アップする。不当に安い仕事を請けないためにも、自分の実績に見合ったギャラの相場を知っておきたい。

フリーランスの仲間と組んで、仕事を共有すべし

いくら営業をかけても、女性の声が求められていた場合、内藤さんにはできない。そこで内藤さんは、フリーランスの女性ナレーターと組んで営業活動をすることにした。互いに自分にできない仕事を振り合うことで営業の効率化をはかったのだ。この発想が、フリーランスのナレーター・声優のギルドである「ジラソーレ」の原点。現在、ジラソーレには6名のメイン加盟者がいるが、いずれも自分で営業ができるプロのフリーランサーである。登録制の声優事務所と誤解して応募する人も多いそうだが、各自が営業をしてメンバーに仕事を紹介することを目的としているため、フリーランスの活動実績がない人はお断りしているという。

取材・文●大寺 明

フリーランスのナレーター・声優ギルド
ジラソーレ

私たちは俗にいう「声優・ナレーター事務所」ではなく、
フリーランス・個人で活動しているプロのナレーター・声優で組織する
協業団体、つまり「ギルド」です。

ナレーター・声優の出演、およびキャスティングをはじめ、
音声コンテンツや映像コンテンツの制作、
ボイストレーニングや朗読教室のレッスンなど、
「声」を必要とするさまざまな場面で活用していただけます。

こんなご要望をお持ちの方は、ぜひジラソーレにご相談ください!
●音声収録などで、声優・ナレーターを必要としている。
●音声コンテツの作成を検討している。
●映像コンテンツやイベント、舞台などの制作を検討している。
●フリーランスの個人として、声優・ナレーターとして活動していきたい。
(※ボイスサンプルの作成を請け負います。)

ジラソーレ代表・内藤ヒロキのボイスサンプルはこちらからご視聴ください!