「料理」は家庭でも仕事でも絶対に役立つ。結婚を機にフリーランスになったフードコーディネーターが語る独立ノウハウ

平田万里子/福岡県出身。短大の食物栄養科を卒業後、産婦人科の栄養士として3年間勤務。在職中に管理栄養士の資格を取得。上京し、フードコーディネータースクールで学んだ後、料理研究家のアシスタント、キッチンスタジオ勤務を経験。結婚を機にフリーランスのフードコーディネーターとして独立。

――独立DATA――
32歳で独立
【開業資金/数万円】

・調理器具や道具などの買い足し

もともと調理器具や道具は持っていたので、基本的に開業資金はゼロ円。強いていうなら、その都度、調理器具や道具を揃えていった費用が数万円かかった程度。ちなみにフードコーディネータースクールの受講料が半年間(週3)で60万円ほどかかっているが、スクールに通わずに活躍している人も多いため、今回はカウントしていない。

――事業内容――
■フードコーディネーター
テレビ番組やWEBサイトなどで料理の画像や映像が必要な際に、依頼に応じてレシピを提案し、料理を作り、盛り付けや色艶、器など料理の見せ方をコーディネートしている。

「好きなことを仕事にする」というと、よく紹介される仕事のひとつが「フードコーディネーター」。でも、職種名はよく耳にするものの具体的にどんな仕事なのか、いまひとつわからない。大まかにいうと、フードコーディネーターはテレビや雑誌などのメディアの撮影用に料理をコーディネートしたり、企業の商品パッケージや店舗のメニュー開発などに関わる仕事だ。独立して9年目になる平田さんにフードコーディネーターの仕事について聞いた。

「食べること」が好きで栄養士になるも、いろんな料理に挑戦したいと思い、退職してスクールに通う日々

 もともと食べることが好きだったので、短大の食物栄養科を卒業して、産婦人科の栄養士になったんです。入院中の妊婦さんの食事を作るのが主な仕事だったのですが、毎日の食事が産婦人科の評判にもつながってくるので、栄養バランスだけでなく、美味しさと見た目も大事になってきます。仕事を通して先輩から料理を学ぶことができましたし、毎週シェフが厨房に来て調理法を教えてくれたので、和洋中さまざまな料理を学ぶことができました。

 妊婦さんはだいたい1週間ほどで退院されます。そのため1週間の献立がある程度、決まっているんですね。仕事は楽しかったし、やり甲斐も感じていたのですが、社会人になってから管理栄養士の資格を取得したこともあり、新しいことに挑戦したくなりはじめたんです。まだまだ未熟でしたが、もっといろんな料理を作ってみたいと思いましたね。

 その当時、友だちの間で「フードコーディネーター」が話題になっていました。新しい職種として注目されはじめた頃だったのですが、何をする仕事なのか私にはぜんぜんわからなかった(笑)。それで興味を持つようになって「学びたい」と思ったのですが、調べてみると地元の福岡に専門のスクールがなかった。「じゃあ東京しかない」と思い、上京してフードコーディネータースクールに通うことにしたんです。

 スクールの勉強は専門性を高めるというより、幅広く学んでいくといった内容でした。たとえば、各ジャンルのシェフが講師となって料理を教えてくれることもあれば、CMや商品パッケージの撮影用に料理の盛り付け方を学んで実際に現場研修をしたり、店舗プロデュースやテーブルコーディネートを学んだりです。雑誌編集者の方が講師となって料理の紹介ページを実際に作ってみるという授業もありましたね。

 そのときはいろんな勉強ができて良かったと考えていたのですが、広く基礎的なことを学ぶだけでは仕事で実践するには十分ではありませんよね。卒業時にフードコーディネーター3級の資格がもらえるのですが、フードコーディネーターの仕事に資格が問われることはないですし、同業者にはスクールに行かずに活躍されている方がたくさんいます。だからといって意味がなかったわけではなくて、私の場合、講師の先生方とご縁ができたことが大きかったですね。

料理の撮影には、食材の切り方、盛り付け方、撮影の技術がある。仕事をとおして現場の流れを学ぶことができた

 スクールの紹介で卒業後は料理研究家のアシスタントからスタートしました。商品パッケージに使われる料理の撮影がメインだったのですが、最初は叱られてばかりでしたね(苦笑)。この仕事は学校で資格をとったとか、料理ができればいいというものではなくて、商品に合わせた食材の切り方、盛り付け方、ライティングなどの撮影の技術があることを知りましたね。

 最低保証月給が6万円で仕事日数に応じて収入が上がる契約だったのですが、収入は不安定だし、いつ仕事が入るかわからないので定期のアルバイトもできない。短期バイトをしてなんとか生活している感じで、金銭面で辛い時期もありましたね。だけど、プロの料理を見ることができたし、仕事の後に先生が美味しいものを食べに連れていってくれたりもして、本当にいい勉強になりました。2年間のアシスタント経験は今も生きています。

 福岡の実家に一旦帰ることになって、その仕事を辞めざるを得なくなったんです。その後、スクールでお世話になったフードコーディネーターの先生に声をかけていただいて、先生が経営するキッチンスタジオに週5で勤務することになったんです。スタジオ運営の業務をこなしながら、プロの仕事を実践的に学ぶことができました。料理の知識や技を身につけながら、雑誌、テレビ番組、CMといったメディアの撮影や食品メーカーの商品開発など、さまざまな食の現場の流れを知ることができて、本当にいい勉強になったと思いますね。

 6年ほどキッチンスタジオに勤務していたのですが、結婚を機に退職することにしました。だけど、先生から「せっかくこれまで続けてきたんだから、続けていったほうがいい」とアドバイスされて、独立してフリーランスでやっていく決心がついたんです。

 実際に独立してみて、これまでの仕事はすべて役に立っていると思います。スクールでは実力がついたことを実感できなかったですけど、産婦人科の栄養士時代は先輩から料理を学ばせてもらいましたし、アシスタントやスタジオ勤務時代は、少しずつですが実践的に仕事を覚えることができたんですね。

毎回、作る料理も作る環境も違うので、大変は大変だけど、それがむしろ楽しいし、やり甲斐になっている

「フードコーディネーター」といっても仕事内容はさまざまです。雑誌の料理ページを中心に仕事をしている人もいれば、企業や店舗のメニュー開発を中心にしている人もいます。私の場合は、企業のWEBサイトやテレビ番組の撮影用に料理をコーディネートする仕事が多いです。レシピを考案する仕事もあります。

 私の仕事は、和食やフレンチといった専門を持つというより、どんな料理でも幅広く対応できることが求められてきます。そして、料理の見せ方が大事になってきます。料理の撮影では美味しそうに見えるように盛りつけを工夫したり、出来立ての色艶が大事になりますし、テレビ番組でタレントさんが実際に食べる場合は、見た目だけではなく美味しい料理であることが求められてきます。

 調理する環境も仕事内容によって異なります。キッチンスタジオで作ることもあれば、普通のスタジオで作ることもあるし、海釣りやキャンプのロケ地で作ることもある。だから、打ち合わせでは料理の内容だけでなく、厨房の環境や調理器具を入念に確認することが大事になってきます。

 レシピが必要な場合は、自宅で試作してみます。それから撮影日までに調理器具や食器をそろえ、食材の買い出しや仕込みの準備をして、当日は撮影のタイミングを計算しながら調理をします。タレントさんやスタッフさんが関わっているので、「料理待ち」ということにならないように気を使いますね。

 ロケ地の場合は、厨房がない場合もあるので引越しのときのような大荷物になることもあります。たとえば海釣りのロケだったら釣れた魚をその場でさばいて調理したり、タレントさんが料理を作るフォローをするといった仕事になります。シチューエーションによって変わるので大変は大変ですけど、海釣りやキャンプのロケは楽しいですね(笑)。

 食材ひとつとっても、きれいな形のものがいいのか、大きさはどれくらいか、高級なものがいいのか安くて美味しいものがいいのか、依頼内容によって選ぶ食材も違ってきます。予算内で収めるためにその都度、求められる食材を用意していますね。

フードコーディネーターは「食」に関わる仕事なので、家庭でも役立つし、結婚後もずっと続けていける

 独立前はアシスタント業務が中心だったので、黒子のようにできるだけ目立たないように心がけていました。だけど、独立して個人でやるようになってからは、自分から積極的にコミュニケーションをとっていくように心がけていますね。そうすることで現場の雰囲気を良くしたり、クライアントさんに覚えてもらうことも大事になってくるからです。アシスタント時代も責任感を持って仕事をしていましたけど、フリーランスは基本的に全部一人でやらなければいけないので、責任感の重さも違いますよね。

 一人で仕事をしているからこそ、むしろ人との関わりが大事だと思います。仕事内容によっては一人で全部はできないこともあります。たとえば忙しいタレントさんが出演する番組で時間が限られている場合、同業者の知り合いにお願いして、2、3人で調理にあたることもあります。私もスケジュールに空きがあれば、お世話になった先生や同業者の友だちを手伝うようにしていて、お互いに助け合っているんですよね。

 サポートも料理の勉強になります。ときには有名シェフのサポートに入ることもあるんですけど、まず身のこなしが違いますし、まな板や包丁の手入れも違う。何から何まで無駄がなくて、さすがだなっていつも感心します。

 撮影はカメラマンさんや美術さんなど各分野のプロが集まって成り立っているものです。そこに料理のプロとして入るわけですから、責任の重さを感じます。さまざまな現場を経験することで、日々勉強している感覚がありますね。みなさんの力があってこそ、料理が美味しそうに映し出される。実際に食べていただいて「美味しい」と言っていただけることも嬉しいですが、自分が作った料理が写真や映像に残ることもやはり嬉しいですよね(笑)。

 あらためてフリーランスになって良かったと感じていることは、自分のペースで仕事ができることです。月によってまちまちですが、平均週4くらいで仕事をしています。撮影が夜中までかかることがあったりするので、家族のサポートがあってこそ成立している仕事だと思いますね。

 フードコーディネーターは食に関わる仕事なので、スキルと体力さえあれば、ずっと続けていける仕事だと思います。私の周りには子育てをしながらこの仕事をしている方もいらっしゃいますし、子育てで仕事を休むことになっても復帰のチャンスはあると思います。料理は家庭に入っても作るものなので絶対に役立つものですし、これからも自分のペースで仕事を続けていきたいと思っていますね。

フードコーディネーター 独立ノウハウ集

独立前

料理に関わる仕事は、すべて役立つ

これまで経験してきた料理に関わる仕事は、すべて役立っていると平田さんはいう。アシスタント業務やスタジオ勤務で師匠の仕事を見て覚える他に、まかないを作ることもいい勉強になるそうだ。また、プライベートでも美味しい料理が作ることができたときは、レシピを残すようにしている。料理が上達するには「日々勉強」という気持ちが大切。

「盛り付け」に徹底してこだわるべし

フードコーディネーターの仕事は、味はもちろんのこと美味しそうな「見た目」が求められるため、「盛り付け」や「色艶」が大事になってくる。盛り付けの決まりごとを覚えたり、料理に合う器を考えることも大切。特に商品パッケージの場合は、1枚の写真が売れ行きを左右するため、「ニンジンをもうちょっと右」というふうに細部に徹底してこだわり、かなりの時間をかけるそうだ。もちろん撮影はカメラマンが行い、ほとんどのフードコーディネーターは料理専門だが、中には自分で撮影もできる人もいるらしい。

オールマイティーに料理をすべし

依頼によって作る料理も多種多様なため、料理のジャンルに関わらず仕事を受けられるようにオールマイティーに料理の勉強をしておくといい。得意ジャンルがあれば、さらに強みになるし、苦手なジャンルがわかれば、それを克服するために何をすべきか考えられる。店舗のメニュー開発といった仕事の場合は、味や見た目だけでなく、「原価」との折り合いも考えなくてはいけない。

独立後

事前の打ち合わせで、しっかり“確認”すべし

フードコーディネーターの仕事は「毎回作る料理が違って面白い」と平田さんは話す。事前の打ち合わせで内容を正確に把握し、素材や食器といった必要なものを毎回揃えていくのだ。たとえば玉ねぎがメインの料理だったら、品質のいい玉ねぎを探しに行くこともあるし、自分で器を用意する必要があれば、器専門のリース会社でレンタルするそうだ。ただし、経費で請求できるのか、ギャラに含まれているのかを確認しておかないと、自腹を切ることになるので気をつけたい。

一人だからこそ、「横のつながり」を大事にすべし

フリーランスは基本的にひとりで仕事を請け負う。だからこそ、横のつながりが大事になってくる。たとえば、テレビ番組でタレントやスタジオの時間制限があり、ひとりで作ることが難しい場合、同業者の友人に頼んで数人で調理にあたることもあるそうだ。あるいは得意でない料理を依頼された場合も助かる。たとえば、パティシエのような本格的ケーキを依頼された場合でも、ケーキ作りが得意な同業者やパテシィエの知り合いがいれば、手伝ってもらうことができる。

キッチンの作業環境を整えるべし

フリーランスになってからは、自宅で準備をしたり、仕込み作業をすることが多いそうだ。一般的なキッチンでも十分できるのだが、調理器具や食器が増えていったため、次第に手狭になってきた。そこで平田さんは独立の2年後に自宅キッチンをカスタマイズした。作業スペースを増やし、オーブンレンジを設置するなど費用は約80万円。環境が整ったことで、急な仕事の発注にも対応しやすくなった。

取材・文●大寺 明