IT技術を活かした“攻めの移住”に挑戦。鹿児島県「長島」に移住したITスペシャリストが語る独立ノウハウ

株式会社コアース 土井 隆(どい・たかし)
株式会社コアース 土井 隆(どい・たかし) 1985年神奈川県座間市生まれ。慶應義塾大学SFC卒業。2008年に楽天株式会社に入社し、出店者のコンサルタント業務を経験。2011年に株式会社ルクサの物販事業の立ち上げに参画。2012年に株式会社コアースを設立。2015年にルクサを退職し、同年9月より「地域おこし協力隊」として鹿児島県長島町に拠点を移し、ITによる地方創生に取り組んでいる。

coearth_sub03――独立DATA――
●29歳で独立(会社設立は26歳時)
【開業資金】30万円
<内訳>
・会社設立費用 25万円
・税理士費用 5万円
※事務所費用は、知人のオフィスを間借りしたことで0円。その後、賃料を入れるようになった。
※移住費用は、PC機器と衣服や布団を郵送した程度で、数千円程度。

――事業内容――
株式会社コアース
・2012年設立
・スタッフ/5名
WEBサイト制作をはじめ、動画配信サービス、ECコンサルティング、システム開発など、インターネットを活用したプロデュース業務全般の事業を展開。現在、鹿児島県長島町に拠点を移し、渋谷オフィスのスタッフと連携して業務を請け負っている。

今とは違うライフスタイルを求めて“移住”を考えたことはないだろうか? しかし、問題は“仕事”だ。逆を言うと、やりがいを持てる仕事があるなら、移住を決断する人も少なくないかもしれない。今回取材したIT会社社長の土井さんは「地域おこし協力隊」の制度を使って鹿児島県長島町に移住。現在、長島町は一緒に長島を盛り上げてくれる24職種の人材を募集中だ。

eコマースのコンサル業務に携わるうちに、いずれは独立して「自分でやってみたい」と思いはじめた

 地元が神奈川県の座間市なんです。もともと日本陸軍の基地があった場所なんですが、戦後は米軍キャンプができたことでアメリカの影響を強く受ける街になりました。近年はアメリカ資本のコストコができたことで商店街がどんどん廃れているんですよね。外国の影響を受けやすい街で育ったことが僕の中では大きい。地域と政治の問題をITで解決していくことが大学時代からの僕のテーマとしてあって、世界に挑戦できるくらいの日本企業で仕事をして経験を積みたかった。そこで楽天株式会社に入社することにしたんです。

 楽天に加盟している事業者は4万店舗くらいあるんですが、その中の数百社を担当して出店者のコンサルティング業務に携わりました。何をどう売りたいのかをヒアリングして提案したり、その店舗の強みを考えたり、同じような商品の成功と失敗の事例を分析したり、出店者さんと一緒に考えていく仕事です。そのほかにも商品販売ページを構成したりといったディレクション業務もあれば、広告営業もかなりやりましたね。

 やっぱりeコマースの世界は、売りたい商品を知ってもらうためには広告を出さないとなかなか売れない。でも、広告費をねん出できない商品というのがいっぱいあるものなんです。事業者さんから広告費をかけずに売る方法はないかと相談されて、一緒に考えたりしていました。そんなとき、タイムセールサイト『ルクサ』の立ち上げを知ったんです。

 数量限定、期間限定、会員限定で商品を値引きするフラッシュ・マーケティングのビジネスモデルであれば、販売数に応じた手数料を支払うことで広告費をかけずに商品を販売することができる。しかも、バイヤーが目利きした商品しか販売しないので、ブランドを保てる。そうしたやり方は楽天ではできないけれど、事業者さんのニーズはある。そこで楽天に在籍しながら、業務時間外でルクサの物販事業の立ち上げに参画することにしたんです。

 当初は事業者さんに『ルクサ』を紹介するくらいだったんですけど、ベンチャーが大きくなっていく場面で、これまで楽天で培ってきた経験を活かして自分も勝負してみたいと思うようになった。そうした思いから株式会社ルクサに転職することにしたんです。

 実を言うと、転職を決めたときから、いずれは独立して自分でやってみたいという気持ちが明確になっていました。楽天時代に多くの出店会社の社長さんと接してきたことで、起業や経営が身近に感じられるようになっていたんです。

「次のステージに進みたい」と考えていたとき、特産品のネット販売の講演を依頼され、副町長と意気投合

coearth_sub02 僕は大学時代から映画研究会で映像を制作してみたり、WEBサイトを作ったりしていたんですね。もともとIT関連のことが好きで、独学でやっていると知人ルートからWEB制作や映像制作の相談が次々と舞い込んでくるようになった。そうした仕事を請けるための窓口として、ルクサに在籍しながら26歳のときに自分の会社を立ち上げることにしたんです。

 最初は知り合い関係の人のWEBサイトや映像を作ることから始めたんですけど、ちょうどネット選挙が解禁されるタイミングということもあって、そうした仕事を請けるための窓口を作りたいという気持ちもあった。「地域×政治×IT」がずっと僕の中のテーマだったので、自分がやりたいことをやるためにも会社が必要だという気持ちでした。

 実体験としてベンチャーが大きくなっていく過程を経験して、その頃には「そろそろ次のステージに進みたい」と思うようになっていました。いよいよ退職して自分の会社一本でやっていくことを決めました。以前から僕は自分がやりたいことを会社の上司や同僚にいつも話していたので、快く送り出してもらえましたね。

 退職する少し前に、大学時代にお世話になった先生の紹介で鹿児島県長島町の副町長をしている井上貴至さんから連絡があったんです。インターネットで特産品を販売する方法や、特産品をブランド化していく方法をレクチャーする講演をしてほしいという依頼でした。そこで初めて長島に関わることになったわけです。

 楽天とルクサの経験を活かして、特産品を販売して成功したケースと失敗したケースを地元の人にお話しさせていただいたんですが、その後、副町長の井上さんと意気投合して「インターネットで物を売るだけじゃなく、もっといろんなことができるよね」という話になった。僕のこれまでの仕事仲間や事業者のお客さんを具体的にイメージしながら実際にできることを考えていくと、次々とアイデアが生まれて「じゃあ長島に来てよ」となったんです(笑)。

東京では当たり前のITスキルが、地方ではオンリーワンになる。長島町特産品のネット展開に取り組みたい

 移住することに多少の不安はありましたが、それ以上に自分がこれまでやってきたことを応用して「できることが増える」という魅力のほうが大きかった。今の時代、インターネットさえつながればどこにいたって仕事はできるし、むしろ他の人がやっていない仕事をするチャンスだと思ったんです。これまで渋谷のオフィスを間借りしていたんですが、東京では当たり前のITスキルが地方ではオンリーワンの存在になる。その地域と一緒にやっていくんだったら、やっぱりその地域に住んだほうが、できることも多いはずですよね。

 長島は人口約11,000人で、本土と橋でつながった大きな島です。内陸の島という環境がブリの養殖に適していて、養殖ブリの漁獲量が世界一という豊かな地域なんですよね。日本各地に卸すだけでなく海外にも販路を広げていて、「鰤王」というブランド名で出荷しているんですが、スーパーで切り身が販売される際には「鹿児島産養殖ブリ」となってあまり一般的には知られていない。それではもったいないということで、漁協の方々もブランド展開に積極的になっています。

 そこで、2015年9月に日本で初めて漁協として株式会社が設立されました。ブランド展開やネット販売など、これからいろいろ仕掛けていこうという環境が整ったタイミングだったので、移住を決めたときは「いよいよ時が来たな」という感じでしたね。

「地域おこし協力隊」の制度を使って移住することになるので、任期は3年です。地元の事業者さんとうまく仕事ができるようになれば、その後も長島に拠点を置くことを考えているし、まず長島で地方創生の好例を作って、それをモデルケースにして他の地域でも挑戦してみたいという気持ちもある。セミリタイアの移住ではなく、“攻めの移住”だと考えてます(笑)。

長島はとにかく人があったかくて、ブリや焼酎も美味い。多くの人に来てもらって長島を盛り上げていきたい

coearth_sub01 長島の住まいは、100平米の一軒家を特別価格で貸してもらえました。そこを住居兼事務所としてスタートしたわけですが、最初は机もなければ冷蔵庫もない。住居を東京に残しての単身赴任みたいな感じで赴任していたので、布団くらいしか持ってきてなかったんです。そんな話をしてたら、「廃校になった校舎にいろいろあるから持ってきてあげるよ」と言って机と冷蔵庫を貸してもらったり、農家の人が米を届けてくれたりするんですよね。「そのかわり自分で脱穀してね」って(笑)。

 知らない土地に行って寂しくないか?と聞かれることがあるんですけど、地元の人が温かく受け入れてくれているので、あまり寂しさは感じません。たとえば移住初日に漁協の組合長さんの家に誘われたんですけど、行ってみると、まず風呂に入るように言われて、その後、夕飯をご馳走になることになって家族10人と一緒にブリを食べて、それから酒盛りです。かなり飲み過ぎまして、「布団しいといたから今日はここで寝なさい」と。明日も来るように言われて、結局2日連続で泊めてもらいました(笑)。

 これまでの仕事仲間に長島を訪れてもらって一緒にITの取り組みを進めていることもあって、連日のように来訪者があるので今は毎日忙しくしてますね。だけど、夜一人になるとお隣さんの家まで車で5分という場所なので、ちょっと寂しくなるときもある。いま僕が取り組んでいることは、「鰤王」のネット販売のサイトを立ち上げることのほかに、ネットで人材募集の活動もしています。今は僕と副町長の井上さんの二人だけですが、僕らの後に続く人をこれからたくさん集めていきたいです。

 長島は山も海も川もあって、星がきれいな暮らしやすい島です。漁業が年商100億円くらいの規模があるのですが、農業もそれと同じくらい強いし、「島美人」という焼酎の産地でもある。そして何より、僕らのような余所から来た人間を島の人たちが迎え入れてくれる懐の広さがある。これまでのキャリアを活かして挑戦するための準備も整っているので、ぜひ多くの人に長島に来てもらいたいですね。

IT技術を活かした独立ノウハウ集

独立前

会社員時代にビジネスパーソンとしてのベースを培うべし

土井さんのビジネスパーソンとしてのベースは、やはり新卒入社した楽天時代に培われた。出店者のコンサルタント業務を担当し、「どんな商品をどう売りたいのか」といった出店者の声を引き出す仕事に就くことでビジネスにおけるコミュニケーション能力が培われた。また、数多くの成功例と失敗例を検討したことで実例を基にした判断力と方法論を身につけることもできた。こうしたノウハウは地方創生にこそ求められるものだ。

組織人であっても、個人として人と付き合うべし

一社員としては、企業の売上を最大化させることが目的となるが、土井さんは楽天出店者と損得勘定を抜きに付き合うようにしていた。たとえ直接的に企業の利にならないとしても、プライベートの時間を使って個人的に協力するというスタンスだ。利害を超えて培ってきた人脈は、独立後、様々な場面で自分の協力者になってくれるもの。会社員時代にこうした人脈をどれだけ築いておけるかが、独立後の決め手となる。

様々な業界の人脈を築くべし

土井さんは慶応SFC時代から人との交流を大切にしてきた。社会人になってからも社会人ゼミを主催し、様々な業界関係者とつながりを広げていった。そうした旧知の仲から仕事が来ることが実際に多いという。こうした人とのつながりこそが財産だと土井さんは考えている。ビジネスにおける人脈とこれまで培ってきた経験を活かし、長島の地方創生に貢献できないかと考えたことが移住を決断させた。

独立後

会社員時代の視点を切り替えるべし

会社員は毎月決まった日に決まった給料が振り込まれる。この絶対的な安心感が肯定的に語られることは少ない。当然のことながら、独立後はすべて自分の判断で自分で稼いでいかなくてはならない。これがいかにヘビーなことか、独立経験者でなければ実感できないものなのだ。そのかわり、自分のやりたいことを仕事にしたり、個人の判断で行動できるといった選択権が得られる。土井さんは独立の際、まずこの視点を切り替えるようにした。

すべてを自分の血肉とすべし

会社員時代は与えられた業務に集中することが求められるが、独立後は仕事を新たに生み出していくことが求められる。経験面で足りない部分があれば、勉強してスキルアップしていくことも必要。こうしてできることが増えれば、事業展開の可能性も広がる。土井さんが独立して一番良かったと感じていることは、すべてが自分の血となり肉となることだという。会社員時代の実績は会社の看板と体制を使っての成果であり、100%自分の実績とは言えない。しかし、独立後はすべてが自分の実績になるのだ。

「移住」は地方創生の制度を活用すべし

移住を望みながら仕事や収入の面で不安だという人も少なくないだろう。土井さんの場合、「地域おこし協力隊」の制度を使っての移住のため、「報償費年間200万円」と「活動費年間200万円」の計400万円の給与が得られ、住居費も町が一部助成してくれ、長島での交通費は全額支給という厚待遇。副業も許されているので、自分の会社の仕事をすることもできる。永住ではなく、3年の任期なので、まずは「地域おこし協力隊」として移住を経験してみるといいかもしれない。

取材・文●大寺 明

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鹿児島県長島町 地域おこし協力隊(24職種)募集!
 鹿児島県長島町は、九州南西部に位置する自然に恵まれた雄大な島です。独自の文化や歴史に育まれ、自然エネルギー自給率も食料自給率も100%を超え、出生率は2.0という豊かな地域です。養殖ブリの「鰤王」や「赤土バレイショ」など全国に誇れる特産品の宝庫でもあり、山や海でアウトドアも楽しめます。そして何より人があったかい。
 ところが、町内には高校がなく、若者が流出し、出生数も減少。約11,000人の人口が2040年には7,000人ほどになると試算されています。そのため長島町では特産品をブランド化するといった取組みにより交流人口を増やし、将来的には移住者を呼び込んで町の人口が増えるように働きかけています。
 今回、「地域おこしに協力隊」として長島町を一緒に盛り上げてくれる人材の募集を開始しました。特産品の販売企画者、副町長の右腕、洋菓子・アクセサリー作りの経験者のほか、観光業やインストラクターなど24職種の人材を募集しています。ふるってご応募ください。

※詳細は上記のリンクから『スタンバイ』の採用情報をご覧ください。