カブトムシとクワガタを最大1000匹ブリード。思わぬ展開で、趣味を仕事にすることになった「Beetle on」オーナーの独立ノウハウ

大原暁雄/1971年千葉県生まれ。
旅行会社、ボーリング会社などを経て、大手ゲームセンター運営会社に10年間勤務。千葉エリアと大宮エリアのマネージャーを務める。この頃から趣味でカブトムシとクワガタのブリードを開始。ゲームセンター運営会社に転職し、経営と管理職に携わる。2015年に東京都大田区に「かぶとむし専門店 Beetle on」をオープン。2017年に大田区北嶺町に移転し、現在に至る。

――独立DATA――
44歳で独立
【開業資金/計120万円】

・家賃・保証金など/50万円
・棚やパソコンなどの備品/25万円
・空調設備/10万円
・成虫の仕入れ/15万円
・エサやケースなどの仕入れ/20万円

大原さんは趣味でブリードしたカブトムシとクワガタを300万円分ほど保持していたため、仕入れに関しては費用を抑えることができた。もしゼロから昆虫ショップを開業するとそれ相応の仕入れ費用を準備しなければいけない。ちなみに現在の店舗に移転した際は、家賃と保証金が数倍になり、さらにクーラーや冷蔵庫、棚なども3倍設置し、開業資金の3倍以上のお金がかかったそうだ。

――事業内容――
株式会社Beetle on
カブトムシとクワガタの販売店を営む。これまでネット販売しかしていなかった人気ブリーダーのカブトムシやクワガタも扱っている。エサやマット、飼育ケースなども各種取り揃え、店内で飼育ができる貸し棚を月額4000円で貸し出している。ゲームコーナーと駄菓子コーナーがあるほか、キーホルダーやステッカーなど虫グッズの販売も手がける。

子供だけでなく、大人のホビーとしても愛好されるカブトムシとクワガタの世界。マニアの間では希少種や大きな個体が数千円から数万円という高値で取引され、それを輸入して販売するブローカーや、ブリーダーとしてネット販売で生計を立てるプロが数多く存在する奥の深い世界なんです。カブトムシ専門店「Beetle on」のオーナーも元々は趣味にしていたそうですが、それを生業にすることになった経緯とは?

子供のためにオオクワガタを飼いはじめたところ、奥の深い趣味の世界を知り、自分がハマっていた

 ツアーコンダクターとして4年ほど旅行会社に勤めた後、ボーリング会社に転職したんですよ。ゲーム部門に配属されて、ボーリング場に併設されたゲームコーナーの運営管理の仕事をしていました。今から20年以上も前ですが、すでにボーリング人気に陰りが見えていて、会社が倒産の危機に陥ってしまった。同僚が一斉に辞めていって、自分も辞めることにしたんです。

 当時はまだ20代だったので、なんとかなるだろうという感じで2年ほど職を転々としていたんですが、今の奥さんと結婚を考えていたので、ちゃんと就職しようと思ってゲームセンター運営会社の面接を受けたんです。奥さんからは「前に倒産したじゃない?」と渋られましたけど、その会社には10年くらい勤めましたね。

 会社のゲームセンターが全国に50店舗くらいあって、店長になると各店舗に配属されるので、ときには転勤もしなければいけない。断ってもいいんですが、サラリーマンなので出世に響いてしまう。当時の私はまったく断らず、どんどん転勤します!くらいの勢いでしたね。

 本社勤務の後に東京の船堀店で店長をして、その後、市原店の店長として千葉に転勤しました。千葉では5店舗を統括する千葉エリアのマネージャーになったんですが、人事異動が激しい会社だったので、今度は埼玉エリアのマネージャーとして転勤して、その後も新潟に単身赴任で転勤しましたね。

 この頃からカブトムシを飼いはじめたんですよ。最初は5歳の子供に見せてやりたくて、埼玉の森でカブトムシとクワガタを捕まえてきたんです。私が子共の頃は、毎日のように神社で捕まえて遊んでましたからね。それからオオクワガタの幼虫を育ててみたんですけど、飼い方がわからなくてほとんど死なせてしまった。それで飼い方をネットで調べはじめたら愛好家のブログがいっぱい見つかったんです。

 自分で飼い方を調べるにも限界がある。先達の人に聞いたほうが早いと思って、新潟に転勤した際にある愛好家グループのもとを訪ねてみたんですよ。そしたらすごく親切に教えてくれて、どんどん知識が深まっていった。カブトムシをもらったりもして、そこから一気にカブトムシとクワガタが増えていきましたね。最初は子供のためだったのが、奥深い趣味の世界があることを知って、完全に自分がハマってました(笑)。

会社勤めのかたわら、ブリーダーとしてMAX1000匹を保有。ネットで販売し、趣味と実益を兼ねていた

 最初は産卵や幼虫が孵化するだけでうれしいんですよ。だけど、増えるときはあっという間に増えるし、どんどん大きくなってくる。そうするとケースが小さいままじゃ育てるのが無理なんですよね。50匹生まれたら、ケースが50個必要になるわけですが、初心者はそういうことを想定せずに増やしてしまいがちなんです。どこかで間引くなり、売るなり、大きなケースに移すなりしなければいけないわけです。

 私の場合、MAXで1000匹くらい飼ってました。自宅でも飼っているんですが、ブリード(繁殖・飼育)用に2DKのマンションを借りていました。家賃や水道光熱費がバカになりませんけど、実はネットオークションで販売していたので、ブリード費用は全部それでまかなっていた。むしろ黒字になるくらいでしたね(笑)。

 大量のカブトムシとクワガタを持っていたので、会社に企画を出して、ゲームセンターでカブトムシ・クワガタ教室を開催したりもしました。これがけっこう評判になって、全店舗で大々的に開催したんですよね。いずれは自分のお店を持って社長をやりたいと思っていましたけど、この頃は純粋に趣味で、カブトムシのお店をやるなんて考えてもいなかったですね。

 10年勤めた会社を辞めるきっかけは、ゲームセンター業界が不況になりはじめて、一方的に給料を下げられたことでした。親会社が経営に口を出しはじめて、会社の規定を作ろうということになり、マネージャーの給料を一律にしたんです。マネージャーでは私が一番高給だったんですけど、頑張って徐々に上げてきた給料がミスをしたわけでもないのに下がるわけです。一気に愛社精神も枯渇して、出世もマネージャー止まりで、やり尽くした感がありましたね。

 前職のボーリング会社の先輩が実は小さなゲームセンター運営会社の社長で、管理職で誘われたこともあって、43歳のときにその会社に転職しました。ところが、その社長が病気になって、急遽、別の社長が連れてこられたんです。私にも社長の声がかかりましたけど、財政状況が苦しいことを知っていたので断ったんです。2代目社長は経営ができる感じでもなかったので、実質、私が経営面の実務をやっていました。

 当時はゲームセンターの閉店ラッシュで老舗でも潰れるという状況でした。客足が遠のいていたこともあって、2代目社長が「ゲームセンター以外のことをやろう」と言い出したんです。社長がお金を出すという話で、カブトムシとクワガタのショップをやることになったわけです。すでにモノはあるわけだから、すぐに物件の準備に取りかかりました。

ネット販売の業者が多いなか、あえて対面接客にこだわりたかった。経験者の意見を聞けることが、お店の存在意義です

  2代目社長はかなりチャランポランな人物で、飲み代などの事業以外のことにばんばんお金を使っていたんですよね。そのため取引先に支払いができないことが何回か続いて、最終的にドロン……ですよ。いざカブトムシショップができたところで社長が失踪してしまったわけです。

 社長はいないけど、部下や従業員は残っているし、取引先との関係もあるので放り出すわけにもいかない。残務処理などの後始末が終わるのに半年くらいかかって、キツかったですね……。ようやく落ち着いたところで、自分の仕事をどうしよう?という問題もあったし、もうカブトムシショップができているわけですよね。看板も付けてあったし、法人登記も物件の名義も自分になっていたので、「やるしかない」となるじゃないですか。自分の意志で独立したと言えればかっこいいですけど、私の場合、半分は無理やりだったんですよ(苦笑)

 奥さんには「とりあえず1年だけやらせてほしい」と頼みました。その間に軌道に乗らなかったら潔く店を閉めると言ったんだけど、この半年間、会社の後始末に追われて何の宣伝もしてないわけだから、お客さんが来るわけもない。しばらくしてツイッターをやりはじめたんですけど、それを見てくれたのか、カブトムシ好きの高校生が来てくれるようになった。それで高校生の仲間内でお店が知られるようになって、ツイッターのフォロワー数も増えて、少しずつ客足が伸びはじめたんです。

 実は今のお店は2017年に移転した新店舗で、最初のお店は7坪くらいで棚を置くとお客さんが通れないくらい狭かった。すでに家賃を払っていたのでやらざるを得なかったわけですけど、やるからには自分が納得するまでやりたい。お店でやる意味を最大限に生かしたお店作りをしたいと思って、広い物件を探したんですよ。

 ネット販売だけで営業している業者は全国各地にいて、その方が楽だし家賃もかからない。もしお店を作っていなかったら、私もネット販売をしていたかもしれない。だけど、お店でやる以上、対面接客という古いやり方にこだわりたかった。お店の存在意義がどこにあるかというと、わからないことを聞けることですよ。外国産は難しそうだと思っても、私が教えることで「じゃあやってみよう」と思えるじゃないですか。

 今の店舗には貸し棚のスペースがあるんですが、作業用のデスクと洗い場があるし、道具やエサもすぐに買えるので、手ぶらでお店に来て作業ができるんです。お客さんが借りる虫のマンションみたいなもので、空調が常に作動していて温度も湿度も一定になっていることが大事なんです。お店だからこそ、私と話して意見を聞くこともできるし、趣味仲間ができるかもしれないですよね。

お店を続けていくうちに、趣味仲間や同業者とのつながりが増え、応援してくれるようになった。それが今のやり甲斐です

 もともとそういうタイプでもなかったんですが、お店を続けていくうちに応援してくれる人が増えたことで、やり甲斐を感じるようになりましたね。お客さんが常連になってくれて助けられている面もあるし、知り合いの業者が別の業者を紹介してくれるというふうに、どんどん人とのつながりが増えていくんです。

 お店の場合、たとえ売れ筋でなくてもいろんな種類を置かないといけない。もちろん自分で育てたカブトムシを販売していますが、一人でいろんな種類を育てるのは無理がある。OAKSという有名なブリーダーチームの人と友だちだったことで、お店にOAKSの棚ができたんですけど、OAKSの人が友だちのブリーダーを紹介してくれて、その人がまた別のブリーダーを紹介してくれるというふうに広がっていった。

 20年くらいネットで販売実績がある有名なブリーダーの方がいるんですが、その人の虫も友だちのツテで卸してもらえるようになった。これまで絶対にネットでしか買えなかったものが、実際にお店で見て買えるようになって、愛好家の人からするとけっこうな衝撃だと思いますよ。やっぱり個体によって大きさやカッコよさが違うので、実際に見てから買ったほうがいいですよね。

 業者さんだけでなく、捕まえることが趣味のお客さんがカブトムシをくれたり、お客さんが手作りのステッカーを作ってくれたりするので、お店に置いているんですよ。他にもお客さんが好きなヤスデを置いたり、知り合いの花屋さんの食虫植物を置いたりもしていて、自分のお店だから、やりたいことをすぐに実現できることがいいですよね。

 たとえばお店にUFOキャッチャーとガシャポンを置いているんですけど、これが会社だと「いくら儲かるの?」という話になってなかなか通らないですよね。私はサラリーマン時代から費用対効果以外の部分があると常々感じていて、たとえ即効性がなくても1年後に効いてくるものがあるはずです。そこを見極められる経営者になりたいですよね。

 同じ趣味の人や家族連れが集まれるコミュニティースペースにしたいと考えて、自由に使える机と椅子のスペースを設けているんですけど、会社の発想だとそんな無駄なスペースを作らず、もっと商品を置こうとなりますよね。だけど私は商品の価値だけじゃなく、コミュニケーションができる環境という付加価値で押していきたいんです。お店は楽しくなきゃいけない。つまんない店だと思われたら二度と来てくれないですから。お客さんが喜んでくれることが一番ですよ(笑)。

カブトムシ&クワガタ専門店 独立ノウハウ集

独立前

アミューズメント業界で“接客”と“遊び心”を培った

ゲームセンター運営会社で家族連れが集まる店舗から大人向けの店舗まで幅広い客層を対象に接客を経験していたことが、大原さんの店舗経営に活きている。お客さんとはなるべく少しでも会話をするよう心がけ、楽しく帰ってほしいと考えているそうだ。また、UFOキャッチャーやガシャポンを置くなど、前職の経験を活かしたアミューズメント要素を打ち出し、家族連れで楽しめるお店作りをしている。たとえ直接的に販売につながらなくても、お店に訪れる人が増え、興味を持つ人の裾野を広げることが重要だという考えだ。

大人の趣味を究めるべし

もともと子供のためにカブトムシを飼いはじめた大原さんだったが、途中から自分の趣味になっていた。こうしてハマっていくパパの愛好家が多く、大人であれば自分で稼いだお金で好きなだけ買うこともできる。カブトムシやクワガタは多様な種類があるコレクション性が魅力だという。外国産を輸入販売している業者がいて、ネットで注文すると宅配便で届くそうだ。そうしたマニアが好む外国産だけでなく、国産ではオオクワガタが圧倒的な飼育人口らしい。男性には子供の頃から憧れがあり、日本の気候に合っているため初心者でも飼いやすいのだ。

次に流行りそうなカブトムシを予測し、ブリードすべし

サラリーマン時代の大原さんはネットオークションで販売し、副収入を得ていた。いい副業になりそうだと思うかもしれないが、実際に売れる虫をブリードするとなると、それ相応のキャリアとノウハウが必要になる。それは投機にも似ていて、カブトムシやクワガタの相場も上がったり下がったりするのだ。そのため次に流行りそうな種類を予測してブリードしていくわけだが、必ず産卵するわけではなく、生まない場合もありうる。産卵に適した時期にうまく交尾させ、次世代につなげていくことがブリーダーのテクニックなのだ。

独立後

他店にはない商品を置くべし

業界では「血統もの」と呼ばれるジャンルがある。これはブリーダーがカブトムシやクワガタの形や大きさにこだわり、何世代にも渡ってブリードしたもので、オリジナルの血統として自分の名前やチーム名が付けられ、主にネットで販売されている。他のショップでは「血統もの」を一切扱わないお店もあれば、たとえ扱っていたとしても1、2種類であったり、血統名を出さない場合が多い。しかしBeetle onではあえて様々な種類の「血統もの」を扱い、血統名も表記している。これは他店にはない特色であり、あえてカオスなお店作りをしているのだ。

仕入れ値とブリード費用を秤にかけて考えるべし

業界では、オオクワガタなどの国産の「普通種」と、外国産の「レア種」という分け方をしている。当然、後者の方が値段は高い。基本的に大原さんは高いものは仕入れず、ブリードすることにしているが、買った方がいい場合もあるという。なぜならブリードして増やすまでに1年ほどかかるため、エサ代と手間、そして時間経過を考えると、買ったほうが安くて楽だということも十分ありうる。オープン当初は商品の種類を増やす必要があり、かといってブリードする時間がなかったため、手持ちの虫以外はほとんど仕入れたそうだ。その後にレア種をブリードしていくのが理想だ。

清潔感のあるクリーンなお店にすべし

店をきれいにすることに大原さんはこだわっている。1週間も放っておくと、すぐにエサの食べカスや糞尿で汚れてしまうため、定休日には必ずケースを全部洗うようにしている。虫を取り出してケースを洗い、マットを入れ替えてまた虫を戻すという作業だが、200~300という大量のケースになるため、これが終わらない。営業終了後、深夜0時には帰宅するようにしているが、実はその後も大原さんは深夜3~4時まで幼虫の世話やケースを洗う作業をしているのだ。こうした地道な作業によってBeetle onの店内は常にクリーンに保たれている。子供連れの主婦が訪れることも多いため、女性でも入りやすいお店作りを心がけているのだ。

取材・写真・文●大寺 明


かぶとむし専門店
Beetle on

カブトムシとクワガタの専門店です。
初心者からベテランまで誰でも気軽に入れるお店です。

有名ブリーダーのカブトムシやクワガタも各種取り揃えています。
ネット販売とは違い、実際にその目で大きさや形、色つやを
たしかめてからご購入いただけます。

クリーンな飼育環境を心がけ、
都内最安値の貸し棚をご用意しているので
お店でカブトムシやクワガタを飼うこともできます。

ゲームコーナーや駄菓子コーナー、昆虫グッズコーナーなど
店内にはアミューズメントが盛りだくさん!

自由に使える机と椅子のスペースもあるので、
趣味仲間や家族連れで集まり、カブトムシやクワガタを通しての
コミュニケーションをお楽しみください!

【住所】東京都大田区北嶺町31-2 石山ビル2F
【アクセス】東急池上線「御嶽山駅」より徒歩1分
●ツイッター
@beetle on