金融業界を歩んできた女性が、出産を機に「高級ワンピース」でアパレル業界に参入。白金発のブランド『Ayuwa』が語る独立ノウハウ

渡部雪絵(わたべ・ゆきえ)1979年神奈川県小田原市出身。早稲田大学商学部卒(現代マーケティングを専攻)。新卒で三井住友銀行に入行。2005年より日本経済新聞社の速報部門で金融・経済記者として勤務。2007年より三菱UFJモルガン・スタンレー証券にてストラクチャードファイナンスや制度商品の組成等に携わる。その後、1年間の準備期間を経て、2015年に株式会社 Dress Press(その後、アユワ株式会社に社名変更)を設立。

――独立DATA――
●35歳で独立

開業資金 300万円
・HP作成費 120万円
・法人登記 30万円
・生地費 30万円
・パターン制作費、縫製費用など110万円
・展示会費用 10万円
自己資金200万円とクラウドファウンディングで調達した約100万円の計300万円を開業資金としているが、創業補助金が利用できたことで渡部さん自身の負担はほとんどない。これ以下の金額でもファッションブランドは十分開業できると渡部さんはいう。なぜならオンラインショップのサイト制作を依頼した会社が金額相応の仕事をせず、連絡も取れなかったうえ、後になって少ない資金でもっと充実したサイトが作れることが判明したからだ。しかも今回は不完全な状態でサイトが納品され、その後の修正の手間もあり、やや遠回りをしてしまった。

――事業内容――
アユワ株式会社
白金発の高級ワンピースブランド「Ayuwa」を運営。生地も縫製もジャパン・メイドにこだわり、売上の5%を社会貢献活動に寄付する。オンラインショップで販売するほか、展示会の出展や週1のアンテナショップでも試着・販売を行う。

出産後も働き続けたいと考える女性は多い。しかし、育児のために働ける時間が限られることもあり、出産前と同じように勤務するのが難しいのが実情……。それを受け入れる企業もまだまだ少ない。まさに今問われている社会問題だが、視点を変えて「起業」や「自営業」で自ら仕事を作っていくのもひとつの方法だ。金融業界でキャリアを積んできた渡部さんは、出産を機にワンピースブランド『Ayuwa』を立ち上げ、子育てと仕事の両立に挑戦中だ。

中学生の頃に父の会社が倒産するのを目の当たりして、「正しい金融情報を伝えていきたい」と考えるように

 私が就職活動をしていた2001年頃は、ちょうど金融業界の様々な規制が取り払われたときで、大学のゼミで専攻していた現代マーケティングの知識が活かされると考えて、三井住友銀行に入行することにしたんです。

 マーケティングの側から積極的に金融情報を発信していきたいと考えていたんですが、これには理由があって、実は父が中小企業の経営者で会社を潰しているんですね。小田原でスポーツ用品店を営んでいたのですが、父は営業力はある人でしたけど、経営を勉強するような人ではなかった。当時の決算資料を見ると本当に杜撰なんです。金融機関にいいようにされていたんじゃないかって思いましたね。

 私が中学1年生のとき、会社の倒産がきっかけで母は離婚を選択したんです。そういったことで家庭は壊れてしまうもんなんだなって……。母が小学校の教員だったので普通に生活していくことができたわけですけど、私が結婚後も働き続けたいと思うようになったのも、そうした母の姿を見てきた影響があったと思います。私は離婚なんてまったく考えていませんけど、人生何が起きるかわからないですから。

 ちなみにその頃は刑事になりたかったんですよ(笑)。父が騙されたと信じていて、悪いヤツを成敗したいと。でも、だんだん現実がわかってきて、まず金融の知識が必要だと考えるようになったんですね。金融の知識は、金融業界にいた私ですらいまだに決算で苦労するくらいで、一般の人にはハードルが高い。金融の正しい情報を届けることがすごく大切だと思うようになったんです。

 こうして三井住友銀行に総合職として入るわけですけど、最初は個人のお客様に住宅ローンや運用商品を提案するという営業職で、2年目は中小企業を新規開拓する融資の営業でした。当時は銀行が国に借金をしているような状況で、給料も低かったし、ノルマも厳しかった。でも、絶対に目標を達成するぞ!という体育会系のノリがみんなにあって楽しかったですよね。

 融資するには様々な条件があるので、事前にそれをチェックした上で飛び込むわけですが、法人対法人のお付き合いになるので契約するのが難しい。3年目は富裕層向けの営業を担当することになったんですが、個人のお客様は足しげく通って細かなケアをしていくと大きな契約が取れたりするんですね。法人と個人の富裕層の営業を一通りやって、自分なりに納得感がありましたね。

 もともと私はマーケティングや広報の仕事がしたくて銀行に入ったわけですけど、面談でそうした部署に行けるのは10年後くらいになると言われていました。『半沢直樹』というドラマが話題になりましたけど、実際にある程度の年齢になると片道出向が当然のようにあって、ほとんどの人は途中で銀行員ではなくなってしまうんです。自分のキャリアの先が見えないことに疑問を感じましたね。

銀行員から株式情報のニュースメディアの記者に転職。仕事に社会的なやり甲斐を感じ、結婚しても家庭に入ろうとは思わなかった

 そんなとき、たまたま日経新聞を読んでいて金融・経済記者の募集を見つけたんです。金融機関の業者向け端末に株式情報のニュースをリアルタイムで配信するという仕事だったんですけど、同じ金融業界とはいえまったく畑違いで、一から株の勉強をしなくてはいけない。さらに即時性が重要になるので5分後には原稿を書いて配信しなくてはいけなかったりする。慣れるまでかなり大変でしたけど、金融の情報発信という意味では、まさに私が目指していた仕事だったんです。

 私が入社した2005年当時は、株式市場に注目が集まりはじめた頃で、初めて行った記者会見がライブドアの堀江貴文さんのニッポン放送株の買収の会見でした。その後も大阪証券取引所の先物取引のシステムが停止した騒動の会見や、みずほ証券の誤発注問題で深夜2時に記者会見が開かれたり、普通に金融機関に勤めていては味わえないようなことが沢山あって刺激的な毎日でしたね。

 入社2年目に結婚して主人の姓を選びました。苗字が変わったことで先輩記者に「署名記事には名前が出るのに記者たる者が名前を変えるとは何事か」と激しく怒られたこともありましたね。今だと言ってはいけないことですよね。なぜかその先輩記者は私のことを目の敵にしていて人間関係では悩まされましたけど、やっぱり仕事自体は面白かったんですよね。振り返ると笑い話になってます(笑)。

 その後、日銀の記者クラブに常駐することになって、金融業界の様々な世界を取材することができたんですけど、そうこうするうちにマーケットを外から見たいのか、中でプレイヤーになりたいのかということをあらためて考えるようになったんです。私の目的は金融の情報発信をすることだったわけですけど、そうした仕事が広報や記者以外にもあることを知ったんですね。

 それが三菱UFJモルガン・スタンレー証券でストラクチャードファイナンスのレポートを書く仕事でした。まずマーケットの調査をして、その調査結果をもとに金融商品を考案してお客様に営業するという部署で、ひとつの金融商品を作ると何百億というお金が動くので、法律面も補完しなければいけない。そのために一冊の本になるようなぶ厚い書類を作成するわけです。マーケットのプレイヤーとして仕事ができることがうれしかったですね。

 2008年のリーマンショックがきっかけでチームは解散することになったんですが、その後も同様の部署に異動して持株会という制度商品を作っていました。結婚後も家庭に入ろうとは思わなかったですね。仕事をして誰かの役に立てていることや何かしら社会に還元していることが、自分が生きている意味だと感じていました。

転職1年弱で妊娠がわかり、会社勤めが困難に……。女性としての働き方を考えるうちに、「起業」という選択肢が現実味をおびはじめた

 2013年に初めて出産したんですが、実はその前年に20人規模のファンド会社に転職しているんです。転職して1年弱で妊娠がわかって今までどおり働き続けることが難しくなってしまったわけです。年契約の会社で、それまで契約更新されなかった社員はひとりもいなかったんですけど、私が初めて更新を断られたんです。能力不足という理由でしたけど、本当の理由は明らかですよね。

 だけど、自分の権利ばかり主張するのも違うと思いました。20人規模の会社だと、どうやって会社のお金が回っているのかリアルに見えますし、そこで私が育休を取ると20分の1のマンパワーが欠けて、けっこう大変なことだとわかるんです。女性の育児と仕事の問題は今まさに世の中で議論されていることですけど、誰が悪いというのではなく、女性としての働き方を考えるきっかけをもらったと思ってます。

 妊娠によって突然会社員ではなくなったので、いきなり所属している場所がなくなって最初はすごく不安でした。だけど、やっぱり私は働き続けたい。母は教師という公務員だったから仕事を続けられましたけど、会社員と並行して子育てをするのは難しいと感じていました。そのときはまだ起業は考えていなかったんですが、出産後の働く環境だけは作ろうと思っていましたね。

 そのためには子どもを預けないといけない。市区町村が窓口になっている認可保育所の制度を調べてみると、当時は会社員のような外勤者が優先で事務所が自宅のフリーランスは後回しなんですよね。フリーランスは自宅に子どもがいるからこそ仕事ができないし、収入が途絶える可能性もあって会社員以上に深刻なはずです。疑問に思うことが沢山あって、子どもに関わることで何かできないかと考えはじめたんです。

 一番最初はベビーマッサージをお父さんに教えるという仕事をするつもりでした。でも、いざ現実的に考えるとビジネスとしては採算が合わない。次に考えたのがオーガニックの使い捨て紙おむつです。実際にアメリカで同様の商品があることがわかって、これはイケると思いましたね。ところが工場に問い合わせてみると、安い物なので何十万個も作る必要があって、2、3億円はかかるという話だったんです。個人でやるには無理ですよね(笑)。

 フェイスブックでつながっていた某上場企業のCFOの方に相談したところ、「本当に一生、紙おむつをやりたいの?」と問われたんです。「違います」と即答しました(笑)。今は子どもにとって必要だから紙おむつに関心があるだけだと気づかされたんです。「まず自分が好きなことを見つけて、小さく始めて、利益を出しながら成長させていったほうがいい」とアドバイスされて、すごく納得しましたね。

 そうやって考えていくと、そういえば私はワンピースが好きだということに気づいたんです。洋服というとワンピースしか持っていないくらいで、なぜかと考えると、これまで忙しい仕事をしてきたこともあって、早く着替えられることがよかったんですよね。しかも上にジャケットを着れば固い職場でもサマになる。あらためて、こんな万能な服はないと思いました。

クラウドファウンディングと創業補助金を活用して、売上の5%を社会貢献に寄付するエシカルなファッションブランドを立ち上げる

 こうして自分が納得できるデザインのワンピースブランドを作ろうと思い立ったんです。だけど、アパレル業界はブランドも多いし、安いものは寡占状態になっている。消費は安いものと付加価値の高いものに二極化していくと考えていたこともあって、付加価値の高いジャパン・メイドに徹底してこだわって作ろうと考えました。

 だけど私はずっと金融業界にいて、アパレル業界のことは何もわからない。最初はとにかくインターネットで業者を検索することから始めましたね。そうすると近くに希望どおりのアパレルの中間業者さんが見つかったんです。その会社はパタンナーさんも在籍しているし、提携している国内の縫製工場がいくつかあって、デザイン案と生地さえ用意すれば、工場とのやりとりをすべてやってくれてありがたかったですね。

 生地に関しては、恵比寿のアパレル専門学校で見つけました。そこに生地の業者さんが何社か展示していて、縫製工場だけでなく糸まで日本製にこだわっている業者さんが1社だけあったんです。まさに私が求めていたような生地です。

 ひと通り業者さんを見つけることができたんですけど、今度はプロモーションの問題がありました。大学時代にマーケティングを専攻していたので、自分なりにやってみるつもりでしたけど、あの頃から時代も変わっているのでマーケティングの勉強会に参加することにしたんです。

 そこに朝日新聞社の方がいらっしゃっていて、社内ベンチャーとしてクラウドファウンディングの『A-port』が始まり、応募者を募っていることを教えてもらったんです。朝日新聞社の各メディアにも売り込んでもらえるというお話だったので、パブリシティにもなると思って軽い気持ちで応募したんですね。

 起業の準備をする一方で、私は妊娠してからずっと待機児童や子どもの貧困といった社会問題に疑問を感じていて、何か子どもに関わることで社会貢献ができないかと考えていました。支援団体がいくつもあるんですけど、どこもお金が足りていないように思ったんですね。それだったらワンピースを販売して売上の一部を支援団体に寄付すればいいんじゃないかって思いました。

 そこで、売上の5%を子どもの支援団体に寄付するエシカルなファッションブランドを作りたい、とクラウドファウンディングでアピールしたんです。「エシカル」はエコやオーガニック、チャリティなどを意識した活動を指します。目標設定額50万円のところに100万円以上のご支援がいただけて、『ハフィントンポスト日本版』(※米国発のインターネット新聞)や『繊維新聞』に掲載されて、セレクトショップからも問い合わせが入ったんですね。こうして誕生したのが、ワンピースブランドの『Ayuwa』というオンラインショップです。

 起業をしてみて、あらためて女性としての働きやすさを実感しています。なぜならタイムマネージメントが自分でできますし、あまり家を空けずに仕事ができるんですよね。今の時代は女性のほうが創業補助金などの補助金制度に採用されやすくなっていますし、銀行の融資でも金利が優遇されるようになってきている。

 むしろ男性よりも女性のほうがチャンスが増えていると思います。多くの女性がそうした情報を知らないだけなんですよね。今はネットで検索できますし、起業を志す人のコミュニティもいっぱいあるので、考えているだけでなく、まずはリサーチして話を聞いてみるといいと思いますね。

ファッションブランド 独立ノウハウ集

独立前

「営業経験」が最強の起業スキルになる

渡部さんが起業後もっとも経験しておいてよかったと実感しているのが、銀行員時代の飛び込み営業だ。数撃ちゃ当たるという意味合いではなく、相手の懐に躊躇なく飛び込む度胸がついたことが大きい。また、提案からクロージングするまでの営業スキルを身につけたことが、業者と交渉する際に役立っている。飛び込み営業は1件の契約を取るために100件以上回ることがザラにある。スキルもさることながら、諦めずにがんばる精神面が鍛えられた。

「情報発信」のスキルを鍛えるべし

記者の仕事は情報収集と取材先探しに始まり、それを元にアポ入れをして人に会うのが基本。この経験が取引業者の開拓に活かされたと渡部さんはいう。さらにいうと、記者は「書く」ことが仕事。自社ブランドの情報発信において、このスキルが直接的に活かされてくる。クラウドファウンディングでアピールするにしても商品を紹介するにしても、基本的な伝達方法はテキストだ。コンセプトや商品の質の高さだけでなく、それを効果的に伝える文章表現が問われてくる。また、渡部さんはPR活動の一環としてブログの執筆に力を入れたり、インタビューサイトも運営している。これも記者時代のメディア経験があってこそだろう。

公的な創業補助金を活用すべし

渡部さんは起業時に創業補助金を活用。様々な制度があり、渡部さんが利用したのは開業費用(最大300万円)の3分の2を補助するというもの。後に経費として認められた金額(最大200万円)が戻ってくる仕組みだ。つまり先にお金が出るわけではないので、開業資金は自分で準備する必要がある(※ちなみに創業補助金の申請が通ると、銀行の融資が受けやすくなる)。渡部さんの場合は自己資金200万円とクラウドファウンディングの100万円で計300万円を準備した。様々な創業補助金があるので、まずはネットで調べてみるといいだろう。

独立後

女性心理を踏まえ、数を限定すべし

渡部さんが発注している縫製工場の最小ロットは20着だが、数が少ないほど1着あたりのコストが高くなることもあって、渡部さんは1デザインあたり30~40着を目安に発注するようにしている。それでも1デザインあたりの発注としては、かなり少ない数だ。これは在庫を抱えるリスクを避けているわけではなく、女性は着ている服が人とかぶることを極端に嫌うため、あえて数を限定するようにしているのだ。一方でデザイン数を多くするという方針で、今後は限定品としてシリアルナンバーを入れていくつもりだ。

様々な女性の「声」に応えるべし

「Ayuwa」では1デザインにつきSS・S・M・Lの4つのサイズを作っている。これはアパレル業界では珍しいことで、売れ筋がSとMであるため、3サイズというのが一般的。在庫を抱えるリスクもあるが、150cm以下の小柄な女性が着られる服がなくて困っているという声に応えることを優先した。服は身体に合ったサイズでなければ美しく見えない。渡部さん自身、体型の悩みがあり、スタイルをよく見せる服を求め続けてきた。実際にそうした服を着たことで営業成績にもつながったという。きれいなだけでなく、人とのつながりを増やすツールのひとつとして服を捉えているのだ。

オンラインショップだからこそ、「試着」の場を提供すべし

「Ayuwa」はオンラインショップの販売が基本だが、予約が入ると自宅の住所を教えて試着してもらうように呼びかけている。アンテナショップを持ちたいところだが、子育てもあって頻繁に家を空けるわけにもいかないため、自宅を試着スペースにしているのだ。服の販売において、やはり試着は重要。もともと買うつもりがなかった別の服でも、試着して似合うことがわかると2着3着と購入する人も少なくないそうだ。また、子育てを通して親しくなった『東京乳母車』の店舗の一角を、週1のアンテナショップとして利用するなど、できるだけ試着の場を提供するようにしている。

取材・文●大寺 明

エシカルでエレガントなファッションブランド
Ayuwa

Ayuwaは、ファッションアイテムを通じて未来に投資するエシカルブランドです。

エシカルは「倫理的な」「道徳上の」という意味をもつ言葉。環境や生産手法に配慮されていたり、エコやチャリティなどを意識したファッションをエシカルファッションといいます。

Ayuwaのアイテムは、国内生産にこだわり、労働力に見合った対価で生産されています。残布は別アイテムとして商品化し、ロスを出さない努力をします。

売り上げの5%は子ども支援やスポーツ振興活動に寄付し、上質な素材/製品を適切なルート、生産方法でお届けしたいとの想いから日本製にこだわります。

女性のスタイルをより美しく魅せるワンピース、男性の胸元を華やかに彩るポケットチーフで、日本と世界が抱える諸問題に向き合います。