旅するように店を開く。沖縄ムードの移動販売オーナーが語る独立ノウハウ

殿岡賢人(とのおか・まさと)
1982年千葉県生まれ、長野県佐久市育ち。高校卒業後、軽井沢の万平ホテルに正社員として4年半勤務。退職後、2年ほどして上京し、外資系宅配便会社で配送ドライバーとして働きながら、土日の夜はカフェバーで無給で働く。2009年、妻・さとりさんとの結婚を機に本格的に移動販売をスタートさせた。

多くの人が「自分のお店を持ちたい」と考える。しかし、店舗を借りるとなると保証金や改装費など多額の初期費用がかかり、もし失敗した場合、大きな負担になりかねない。そう簡単に手を出せないのが現実だ。そう考えたとき、車一台で出来る移動販売なら敷居は低そうに思える。実際、ここ数年で急激に移動販売が増えているそうだ。移動販売のノウハウをお聞きした。
――独立DATA――
●27歳で独立
【独立資金】計129万円
・中古キッチンカー(SUZUKIエブリィ) 80万円
・調理器具、漆器類、装飾など備品代 40万円
・発電機 9万円

――事業内容――
tono cafe
開業:2009年
現在は株式会社。
平日は都内のオフィス街でタコライスを中心としたランチを移動販売している。休日は音楽フェス、お祭り、アウトレットモールなど各地イベントに出店。2013年に法人化し、現在スタッフ2名を加え、4人体制で営業している。

決死の覚悟で会社を辞めたのに、フリーターじゃ意味がない。沖縄を旅して自分を見つめ直した

 高校を卒業してすぐに軽井沢の万平ホテルという歴史あるホテルに勤めたんです。フレンチ料理のレストランでウェイターとして4年半勤めたんですが、支配人や管理職に昇進して高い給料がもらえるようになるまでには20年30年という長い時間がかかる。ずっと軽井沢に居続けて、結婚して子供も出来てローンで家を建てる……といった将来のイメージがどうも性に合わなかったんです。違う生き方がしたいと思って退職することにしました。

 あまり褒められた話じゃないんですけど、それから2年ほどパチスロで生計を立てていたんです。データをメモして出る台を見つける方法で、楽に見えるかもしれませんが、すごいハードな毎日でした。開店から閉店まで打ち続けて、一端家に帰って夕食を済ませた後、またパチンコ店の駐車場に戻って整理券をもらうために朝まで車の中で待つんです。絶対に勝てるわけでもないですが、高確率で勝つことが出来て、かなりの収入になってました。ところが、当時の高配当パチスロ機がギャンブル性の高さから行政の指導が入って急に出なくなった。貯金もどんどん減って、病んできちゃって……(苦笑)。

 一週間くらい部屋に引きこもって海外ドラマをひたすら観るだけの生活をしていたとき、突然「沖縄に行こう」と思い立って、その日のうちに一人で旅立ったんです。一カ月くらい沖縄本島や石垣島を旅して、いろんな人に会って、いろんなことを考えさせられましたね。ホテルを決死の覚悟で辞めたのは、流されて生きたくなかったから。それなのに、フリーターやニートをやってるようじゃ辞めた意味がなくなると思った。沖縄に行ったことで以前の感覚が戻ってきて、「このまま腐っててもしょうがない」と自分を見つめ直しましたね。

 それから軽井沢で短期アルバイトをしてお金を貯めて、東京に行くことにした。ちょうど地元の友だちがアメリカの宅配便会社で配送ドライバーをしていたので、自分も同じ仕事に就くことが出来たんです。けっこう厳しい仕事でしたけど、給料が良かったので仕事自体はよかった。でも、心の中では「これからどうしよう……」という気持ちがずっとありましたね。

一人で移動販売をしようとしていた奥さんと出会い、結婚を機に二人で本格的にスタート

20140922_sab02 そんなとき、自由人の高橋歩のトークライブに行ったことがきっかけで、いつまでも同じ所に踏みとどまっているんじゃなくて、何か行動に移さなきゃいけないと思いはじめた。高橋歩のオフ会が葛西のPEACE ROCK CAFÉで開催されていたんですけど、たまたま当時の家から近かったので店に通うようになったんです。その店のオーナーも高橋歩に影響されて開業したんですけど、自分より2歳下で数百万円の借金を背負って頑張ってる姿を見て刺激になりましたよね。

 そうこうするうちに「バーを手伝ってほしい」という話になって、「給料はいらないから飲ませて」ということで平日は配送ドライバーの仕事をして、土日の夜はバーで働くことになった。今いる仲間のほとんどがその店で出会った仲間です。奥さんと出会ったのもその店で、彼女は土日の昼間に居ぬきを借りてカフェをやってました。でも、知り合って1年くらいは遊び人みたいに思われていたみたいで、ずっと嫌われてましたね(笑)。

 当時、奥さんはシェアハウス「むらびと」に住んでいて、そこのオーナーとカフェ兼シェアハウスを開業するという目標を持っていたんです。その資金作りのために移動販売でお金を貯めようとしていたわけです。次第に移動販売の相談を受けるようになって、一緒にリースのキッチンカーを見に行ったりしているうちに「いい子じゃん」と思うようになった。奥さんもそう思うようになってくれて、付き合うようになったんです。

 最初の3カ月くらいは奥さんが一人で移動販売をやっていました。まず米粉バーガーを販売したんですけど、原価が高いのでほとんど利益が出ない。しかも友だちのイベントに出店するだけなので小遣い稼ぎ程度にしかならなくて、キッチンカーのリース代(お試し契約で月5万円)すら返せないという状況でした。次に商店街の一角でバナナ春巻きを始めたんですけど、それもぜんぜん売れなくて苦戦していました。奥さんもさすがにもう辞めようとしていたんですけど、逆に自分は接客が好きなので「これは極めたら面白いはずだ」と思いはじめた。結婚を機に仕事を辞めて、二人で一緒に移動販売をやることにしたんです。

ゼロからフードを考案し、場所を探した悪戦苦闘の日々……。夫婦ゲンカばかりの毎日でした

20140922_sab03 米粉バーガーとバナナ春巻きの経験から、軽食は意外と需要がないということがわかったので、ターゲットを変えてランチをメインにすることにしたんです。そこで、カレーを出すことにした。ところが、いざスタートしたら現場で煮詰まったりしてカレーの味が安定しない……。奥さんは料理に自信があったんですけど、数十人分を作った経験がないので、てんやわんやするばかりでしたね。

 あるときカレーが焦げついてしまって「今日は出せない」となったんです。かわりに何が作れるかを慌てて考えて、急遽タコライスを出すことにした。二人とも沖縄に縁があったので、「沖縄=タコライス」という感じで、適当に決めたんですが、よくカレーを食べにきてくれていた元同僚が「こっちの方がいいよ」とタコライスを褒めてくれた。それから奥さんもタコライスを研究して、納得できるランチを提供できるようになっていったんです。

 「何を出すか」と同時に頭を悩ませたのが「場所」の問題です。当初は以前の職場の配送センター前に路駐営業していて、元同僚が来てくれるだけで満足していて、一日15~20食も売れれば「ラッキー」という感じでした。600円のランチが20食売れれば1万2000円ですけど、食材費やガソリン代がかかるので、原価を引くと50%くらいの収益です。二人でやって一日の最高が6000円だと、普通に働いた方がいいというレベルですよね。毎日、余らせてしまったカレーばかり食べて、生活費で借金もできていたし、最悪に苦しい時期が半年くらい続いたんです。結婚したばかりなのにお金もなくて、毎日ケンカばかりしてましたね(苦笑)。

 その頃は人通りもまばらな場所で、身内を相手に商売しているだけだったわけです。もっと人通りの多い場所に移って、世間の人を相手に商売しないとダメだと痛感しました。それからは情報を調べるようになって、場所探しに明け暮れました。まず企画書を作って、都内を回りながらオフィス街やマンションの空きスペースなど良さそうな場所を見つけたら直にオーナーさんにお願いして回りました。でも、100軒回って1軒OK出るか出ないかです。家賃3~5万円でお願いしても、個人だと門前払いがほとんどなんです。それもあって、社会的信用を得るために去年の12月に法人格を取りましたね。

 初めていい場所を借りられたのが、サービスが始まったばかりの軒先.comを利用したときです。それまで20食がマックスだったのが、青山のオフィス街に出店した途端、100食近く売れたんです。でも、急激に同業者が増えてきて、軒先.comは「早い者勝ち」というシステムなので、場所が取りづらくなってきた。このまま軒先.comに頼っているわけにもいかなくなってきたんです。

車さえあればどこでも戦える。それが移動販売の強味。いろんな所に行けるので飽きもこない

20140922_sab01 そこで、土日はイベントに出店しようということになった。ネットで「出店 募集 飲食」と検索して片っ端から出店応募しました。ネオ屋台村をはじめイベント仲介会社に何社も登録したんですが、そうすると出店募集のメール配信が送られてくるようになるんです。そこから小さい音楽フェスや地域のお祭り、住宅展示場やゴルフ場の一角などいろんな所に出店するようになって、同業者仲間も増えていきました。

 もう一つ大きな変化は、自分たちの車を持ったことです。mixiの「移動販売コミュニティ」で中古の軽自動車を見つけて、ボロボロの車両でしたけど、厨房もカウンターも付いて80万円という手ごろな値段でした。それを契機に個人事業主の開業届けも出したので、このときが本格的な開業ですよね。

 イベントに出店するようになってから、同業者の横のつながりが出来ていい場所を教えてもらったりして、さらに仕事が増えていったんです。そうすると軽自動車が限界になってくる。アウトレットモールの出店で10~20万円売り上げることもあったんですけど、それ以上売れる可能性があっても軽自動車だと食材が積めないので、それが限界なんですね。もっと大きなイベントに出たいという欲も出てきて、大きな車が欲しくなってきたんです。

 そんなとき、ライブペイントで有名なGravityfreeの二人が、音楽イベントで食べて来てくれた。元々大好きなアーティストだったので「今度、描いてください」とお願いしたところ、即OK。「これは2台目を買うしかない!」となって購入したのが、今のハイエースです。結婚式を開いてGravityfreeにライブペイントを描いてもらいました。また、厨房やカウンターの改装は業者に頼むと150万円くらいかかるものなんですけど、自己流で改造して30万円くらいに抑えた。保健所の営業許可をとるためには、キッチンカーの作りが決められているので、それを調べてすべて自分で改造したんです。

 やっぱりペイントが目立つし、見栄えもいいのでお客さんが来てくれますよね。ちゃんとお客さんをつかむコツは、清潔感やひと目でわかるメニューなど、やっぱり第一印象が大事です。冷凍の肉を使わない、調味料をすべて自分たちで仕込む、といったこだわりを大事にしているんですけど、見た目で個性を打ち出すと、オーガニックな雰囲気がお客さんにも伝わりますよね。あと大事にしているのはスピードです。休憩時間に並ぶ時間が惜しいという人は沢山いますよね。ハイエースは自分で改造したので使い勝手の面で効率よくオペレーションが出来て、お客さんに早く提供していけるんです。

 店舗を借りるのと違って、車さえあればどこでも戦える。それが移動販売の強味です。移動販売なら売れそうな場所に自分から攻められるし、逆に売れない場所だったら引き上げればいい。いろんな所に行けるので飽きないですよね。あとは自分の好きなアーティストが出演する音楽フェスに出店して、みんなでお酒を飲みながらゆる~くやったり、実はそれが一番の楽しみだったりします(笑)。

移動販売店店主が語るノウハウ集

独立前にするべきこと

まずは、やりたいことを見つけるべし

本気になれることに打ち込みたいと考える殿岡さんのようなタイプの人は、会社勤めには向かないのかもしれない。ただし、一番難しいのが、やりたいことを見つけること。そんなときは、旅に出て見聞を広めたり、自分に近い感性の人が集まる場に積極的に顔を出して刺激を受けるといいだろう。仲間との会話の中からやりたいことが見つかることが実際に多いのだ。

一流の接客・一流の味を知るべし

政財界の人間が多く訪れる万平ホテルで厳しく接客法を指導されたことが、移動販売の接客でも活かされている。先輩に怒られた経験から、お客を一人ひとりを大事にする考え方になった。また、まかないで一流シェフの味に慣れ親しんでいたことが、当初のカレーの味に活かされた。独立して自由にやるにしても、最初に厳しい職場を経験しておくと後々助けになる。

フードに合わせて場所を決めるべし

同じ移動販売でも、スーパーやパチンコ店の入り口付近で焼き鳥やメロンパンを販売する「軽食」と、カレーやタコライスのような「ランチ」ではターゲットがまったく異なる。フードに合わせて場所を決めることが大切。また、タコライスの場合、オーガニック料理や南国ムードが好きな人が集まる音楽フェスとの相性がいい。フードに合わせて出店イベントを考えたい。

独立後にするべきこと

路駐ではない場所を確保すべし

都内で見かける路駐の移動販売は基本的にNG。ただし、厳しく取り締まられているわけでもないグレーゾーンだ。しかし、傍に飲食店があると営業妨害になるため通報されるたり、無許可であることにつけこんでヤクザがみかじめ料を要求してくることも。長くやっていくなら、マンションや商業施設などの私有地に賃料を払って堂々と営業した方がいい。

融資制度をうまく活用すべし

2台目のハイエースの値段は150万円。ローンの利子と合わせて200万円の出費だ。殿岡さんは開業届けを出して3年間きちんと納税していたことから国民金融公庫に200万円の融資を受けることができた。これをローンの返済にあてたことで、利子代の50万円を浮かせることができた。もちろん国民金融公庫にも利子は付くが、民間融資に比べると微々たる利子だ。

同業者間の横のつながりを作るべし

平日に安定して売れる場所を見つけることも大事だが、ときには土日のイベント出店で飛ぶように売れたりするギャンブル性がこの仕事の醍醐味。最初はお客の流れがわからないため、殿岡さんはとにかく出店してみることにしている。そうするうちに同業者仲間が増え、情報交換ができるようになる。移動販売の仕事は「横のつながりが一番大事」とのこと。

取材・文●大寺 明

20140922_sab04

tono cafe
新鮮な野菜たっぷりのオリジナルタコライスをはじめ、アボガドをたっぷり半分使ったアボガドタコライスがオフィス街や音楽フェスで大人気! 豊富なタコライスメニューのほか、腸詰ソーセージ・モツ煮・ジャークチキン・焼きそば・牛串・焼き菓子・米粉パンドッグ・珈琲・ビールを販売。ご依頼いただければ、都内近郊のオフィス街や商業施設のランチ営業、音楽フェスや祭り、仲間内のパーティまで各種イベントに出店致します。お気楽にお問合せください。
TEL:03-6902-9596
メールでのお問い合わせ
info@tono-cafe.jp