アメリカ風カフェスタイルのカーショップ店主が語る独立ノウハウ

家村武司(いえむら・たけし)
1978年茨城県石岡市生まれ。高校卒業後、工場、建設業、引越し屋などを経て外車専門カーショップのエンジニアとなる。30歳で独立し、2011年12月にカーメンテナンスショップ「BLUE CHIPPER」をオープン。

RIMG010430歳で独立
【独立資金】計50万円
・パソコン 18万円
・電話機とFAX 5万円
・デスクと椅子 5万円
・事務用品代 5万円
・最初の家賃 5万円
・その他諸経費 12万円

BLUE CHIPPER
開業:2008年
個人事業主
板金塗装をメインに車検、一般整備、修理、点検、カスタム車製作、旧車のレストア、新車・中古車販売など車をトータルでサポートするカーメンテナンスショップ。

「手に職をつける」には、ベテランに教えてもらうのが近道。しかし、カーメンテナンスショップ「BLUE CHIPPER」オーナーの家村さんは、とにかく台数をこなして独学で技術を習得したという。「いずれは独立したい」という熱意があったからこそ、地道な修業期間を楽しむことが出来たのだ。板金塗装工を経て、洒落たカフェ風カーショップを開くに至った経緯を聞いた。

技術習得のために働きはじめたはずなのに、工場長が独立してしまい、独学するしかない状況に

車は昔から好きでしたね。高校を卒業してから地元の電子部品工場や建設業で働いて、20歳のときに東京で引越し屋をやってたんです。だけど、車屋になりたくて地元に戻ることにした。一般的には、高校や専門学校で自動車整備士の資格をとってからディーラーなり修理工場に就職するものなんですけど、自分はど素人なので、どうやったら車屋になれるのかもわからない。ちょうど地元に外車専門店がオープンしたので、そこで車を買った際に社長に相談したら、「うちで働けばいい」という話になったんです。

当時、その工場には整備士2人と板金塗装工3人の計5人がいたんですけど、自分が入ってすぐに工場長が独立して、従業員を人を引き抜いたこともあって二人辞め、三人辞め……となっていった。技術を教えてもらうつもりで入ったはずなのに、教えてくれる人が誰もいなくなってしまったんです。

工場が回らない状況になって、社長も困り果てていましたね。そのときの話し合いで「辞めるか辞めないかは任せる」と言われたんです。もし続けてくれるのであれば、「全て好きなようにやってかまわない」という話だったので、とりあえず独学で板金塗装の仕事をやってみることにしました。今振り返ると、やるしかない状態になったことが、逆に良かったですよね。

当然、素人の自分が修理しても納車できるほどのクオリティには仕上がらない。オークションで買ってきた中古の在庫車を「練習台にしてもかまわない」と言われていたので、とにかく台数をこなして腕を磨くことにしたんです。毎日深夜まで作業をして、そのまま工場に泊まって、起きてまた作業をする。失敗してはやり直しての連続でしたね。独学は楽しかったですよ。でも、若かったから体力が持ったけど、今じゃ絶対に出来ない(笑)。

安定しているだけじゃ、つまらない。ちょっとひねくれた変わり者が、独立を目指すものだと思う

RIMG0082 本当は1年で技術を覚えて独立するという前提だったのが、会社がゴタゴタしていて辞めるタイミングを失ってしまったわけです。2年くらいして板金から塗装まで一通り全部出来るようになったんですけど、そうすると自分しか作業ができる人がいないから、社長も引き止めますよね。でも、今となってみれば、1、2年で覚えた技術で独立しなくてよかったな、と思うんです。あのとき独立していたら、まず失敗していたでしょうね。

自分の後に入ってきた人が何人もいたんですけど、ぜんぜん続かなくてすぐに辞めていく人ばかりでしたね。若いときは、つなぎを着て車をイジる姿にかっこいいイメージを持ちますけど、それは、車がきれいになった最後の仕上がりしか知らないからそう見えるだけなんですよ。実際は夏は暑いし、冬は寒い。油まみれになる汚い仕事だし、現実とのギャップがかなりあるんですよね。

自分が続けられたのは「いずれ独立したい」という気持ちがあったから。独立するつもりがないんだったら、ディーラーで働いた方が絶対にいいと思います。毎月給料が貰えてボーナスも出るし、保障もあるし土日が休みで言うことないじゃないですか。でも、「それだけじゃつまらない」と考えるちょっとひねくれた人が独立したがるものだと思うんです。あるいは、人に指図されることが嫌いなタイプだったり、少し変わったところがないと独立は考えないですよね。

結局9年間働いて、30歳を区切りに独立することに決めたんです。いずれは独立するという約束だったので、社長もわかってくれましたけど、やっぱり言いづらかったですよね……。タイミングもありますけど、独立後にどこから仕事をとってくるかといったイメージがある程度、出来るようになったことで踏ん切りがつきました。

せっかく自分の好きに出来るのだから、いかにもありがちな車屋のようにはしたくなかった

最初は塗装業を営んでいる親父の工場に間借りしてスタートしたんです。ちょっと街中から離れた場所でしたけど、すごく大きい工場で半分以上のスペースを使っていなかったんですね。自分がそこに間借りすれば、家賃も半分になるので親父も助かるじゃないですか。

板金塗装で独立しようとすると、普通なら300万円くらいかかるものなんですが、自分の場合は50万円くらいしかかからなかった。なぜかというと、独立するまでの9年間で、ちょっとずつ工具や機材を買い揃えていたんです。普通なら、会社で使う機材は会社の経費で買うものですけど、いつか独立したときに使えるように、自分のお金で買っておいたんです。計画的犯行ですね(笑)。だから独立するときは、引越すだけ、という感じでした。開業資金はパソコンやファックス、事務用品を買ったくらいです。

親父の工場で営業を始めて3年くらい経った頃、友だちのバイク屋に遊びに行ったんです。近々移転するという話で、店舗と工場が空くということだったので、入れ替わりに入ることを即決しました。なにしろ家賃6万円でこの辺りでも格安の賃料だったし、物件を引き継ぐかたちになるので敷金・礼金もかからない。6号線と高速道路に近い立地も魅力でしたね。

ただし、古い物件だったので、2011年の東日本大震災でかなりひどい状態になっていたんです。一旦、建物を全部骨組みだけにして、改修工事をする必要があった。ちょうど被災者支援でほとんど金利がつかない融資を受けられたこともあって、300万円近くかけて全面的に改装することにしたんです。

そのときにイメージしたたことは、車屋さんぽくない雰囲気。昔ながらの板金塗装工場というと、古ぼけた建物で「一玄さんお断り」みたいな雰囲気が漂っていたりしますよね。そうしたいかにも車屋という店構えは避けて、もっと気軽に寄れそうな雰囲気にしたかったんです。○○自動車工業とかガレージ○○といった屋号ではなく、「BLUE CHIPPER」という何のお店かわからない屋号を付けましたね。せっかく独立して自分の好きに出来るんだから、ありきたりなお店にしたら面白くないじゃないですか。

安定して仕事を得ていくためには、人付き合いが大切。口コミの紹介が何よりもいい宣伝になる

RIMG0095 昨年ホームページを作りましたけど、今のところそれほど効果は見えませんね。うちみたいな地域密着型の車屋は、人からの紹介でお客さんが増えていくことの方が断然多いんです。一件一件きちんと仕事をしていけば、お客さんが口コミで紹介してくれるので、間違いがない。

一般のお客さんの他に、うちは中古車業者の下請け仕事がけっこう多いんです。人と人との付き合いから仕事を貰っているようなところがあるので、中古車販売会社の社長さんと呑みに行ったりすることも大事です(笑)。板金塗装業なんて世の中にいくらでもありますから、一緒に食事をしたり、人間関係をちゃんとやって仕事を得ていかないと辛いですよね。

雇われていたときは、工場で作業さえしていればよかった。どんな人がその車に乗っているかも知らずに修理していました。しかし、自分でお店を持つようになると、お客さんと直接話すことになります。それが独立前と独立後の一番の違いですよね。今は接客から納車まで全部自分が対応するので、ただ直せばいいというものでもない。お客さんの性格や人柄もわかるので、それに合わせて説明したり、信用を崩さないように意識するようになりました。人それぞれ違うので対応が大変ですけど、それがやり甲斐になっている面もあります。

独立して良かったことは、ある程度、自分の好きに出来ることです。悪かったことは、全て一人でやることになるので精神的に疲れることですかね(笑)。昼間はいろんな人が来るので、お茶を出したり、接客したりで作業に集中できないものなんです。それだけで一日が終わっちゃう日もあるくらいなんですね。

そうすると、お客さんが来ない夜に作業をするしかない。毎晩23時から0時頃まで作業をしていますね。今でも車を触っている時間は楽しいから深夜まで仕事が出来るんですけど、なかなか作業時間がとれないというのが一番の課題です。納車の期限が迫ってくると、何をやっていても頭から抜けないんですよね。お酒を呑んでいるときも「早くやんなきゃ……」って考えちゃて(笑)。

独立を目指している人にアドバイスをするとしたら、「やりたければ早くやった方がいい」ということです。やらないで後で後悔するより、やって後悔した方がいい。25歳で失敗するのと35歳で失敗するのとでは回復力もぜんぜん違うし、若いうちの方が体力的にムリもききますしね。やってみないとわからないことが沢山あって、それは、独立した人にしかわからないものなんです。

カーショップ店主が語るノウハウ集

独立前にするべきこと

数をこなして技術を習得すべし

技術を身につけるには熟練の人に直接教えてもらった方が確実に早い。しかし、家村さんは独学で技術を身につけるほかなかった。結果として時間はかかったが、「自分でなんとかするしかない」と言い訳ができない状況の方が、人は真剣に打ち込むものなのだ。整備士資格を取るよりも、どれだけ台数をこなしてきたかが、家村さんの誇りになっている。

好きであることが絶対条件

整備士の仕事は、油まみれになって深夜まで作業をしたり、想像以上にハード。そうなってくると、車が好きでなければ到底、耐えられない。そうして継続していくうちに、技術面のやりがいが見つかってくるものなのだ。他店では「出来ない」と言われた車の修理に成功したときに、お客が喜ぶ顔を見ることが、家村さんの一番のやり甲斐になっている。

車社会の地方で開業すべし

都心で開業すると人口が多い分だけニーズが見込めるが、そのかわり家賃が高く、競争も激しい。そうなると、事業を回していくために仕事をするだけの悪循環に陥りがち。それならば土地代が安い田舎で開業するのも賢い判断だ。カーショップに関しては、車社会である地方の方が確実なニーズが見込め、地域密着型として定着できれば、安定して仕事が続けられる。

独立後にするべきこと

「最初の1杯100円」方式をとるべし

BLUE CHIPPERでは車検を破格の値段設定にしている。誰が通してもあまり変わらない車検は値段競争になっているため、いっそのこと儲けを気にせず、次の依頼につながればいいという考えだ。居酒屋で「最初のビール1杯100円」と同じ考え方である。最初に良心的な料金のお店だというイメージが定着すると、「またあそこに頼もう」と人は考えるものなのだ。

技術職であっても接客業の自覚を持つべし

一昔前のカーショップやバイクショップは、技術屋ならではの無骨な雰囲気が漂い、ややともすれば横柄な接客態度だった。しかし、今のご時世、そんな態度では通用しない。家村さんはきちんと説明する接客を心がけている。とにかく安く直す方法や、多少、値段は張っても安心できる部品購入の提案など、いくつかの選択肢を与え、お客に選んでもらうという接客法だ。

様々な儲け口を作っていくべし

BLUE CHIPPERは車だけでなく、クルーザーの板金塗装も請け負っている。クルーザー業者から全国各地のクルーザーが定期的に持ち込まれるのだ。技術さえあれば、このように応用がきくので車に関わらず様々な儲け口を作っていくことが仕事を安定させるためには大切。また、家村さんは技術系の仕事だけでなく、在庫を抱えないオークション代行も行っている。

取材・文●大寺 明

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AUTO BODY SHOP BLUE CHIPPER
アメリカのカフェのようなリラックスムードのカーメンテナンスショップです。板金塗装をメインに車検、整備、修理・点検、カスタム車製作や旧車のレストアまで幅広く手掛け、オークション代行の中古車販売やドレスアップパーツの販売など、あらゆる車の相談に対応。親切丁寧な接客を心がけ、末長くお付き合いしていただけるお店を目指しています。
茨城県かすみがうら市市川425-3
☎0299-56-5422
日曜定休