NPO法人も株式会社も経営面では変わらない。経験者が語る独立ノウハウ/夢職人

NPO法人 夢職人 代表 岩切 準
1982年東京都三鷹市生まれ、江東区育ち。高校卒業後、内装工として就職した後、19歳で大学に進学し、心理学を学ぶ。大学院在学中の2004年から任意団体「夢職人」として活動し、2008年にNPO法人に認可。これまでに300回近くの子ども向けプログラムを開催。

yume_sab1<独立データ>
26歳で独立
【独立資金】31万円
・事務所代24万円
・インターネット回線費用1万円
・ホームページ作成費1万円
・オフィス用品代5万円
【資格】
NPO法人の認可
【事業内容】
開業:2008年
従業員数:3名
ボランティア数:約120名
地域の子どもと若者の成長と学びの場を提供する教育事業

「利益のためだけに働きたくない」といった感覚が若年層を中心に広まっている。しかし、仕事として継続していくとなると、当然、活動資金は必要だし、生活費も必要だ。そこで検討してみたいのがNPO法人。アメリカでは一流大学卒業者がこぞってNPO法人への就職を希望するが、日本ではまだまだ認知度は低い。NPO法人「夢職人」代表の岩切準さんに、設立までの経緯を語っていただいた。

子どもの頃に近所の大人たちに面倒を見てもらった。地域に“恩返し”をしたい気持ちが原点

10代の頃はけっこうヤンチャをしてたんです。当時は将来のことをあまり考えず、「学校を出たら働くものだ」くらいの感覚で、内装会社に就職しました。工事現場で働いていると、休憩所でいろんな工事の方から話しかけられ、「若いのに何をやってるんだ?」という話になるわけです。「ここで何十年も働いて生きていくのか?」「まだ他のことがやれるんだから、やった方がいい」といった話をされ、考えさせられましたよね。

「このままじゃいけない」と思うようになって、頭に浮かんだのが高校時代から漠然と興味があった心理学を学ぶことでした。大学を目指すようになってからは、一晩中働いて、少し寝てから勉強するという毎日です。体力がある年齢だから仕事と受験勉強が両立できた。

多くの人が高校卒業後すぐに大学生になりますが、私の場合は、自分で働いて貯めたお金を学費にあてているわけですから、「大学生になったら遊ぼう」という感覚がまったくなかった。また、学年で成績が一番であれば、学費が半額になるという制度があったので、入学後は飲食店などでアルバイトをしながら、勉強に打ち込みました。

社会心理学を勉強したいと考えたのは、地域社会に貢献したいという気持ちがあったからです。私が育った街は、江戸三大祭りの一つに数えられる「深川八幡祭り」がある下町の文化が残る地域で、祭りというイベントを通して、街全体がつながっていました。幼少期から親や先生以外の大人との付き合いが頻繁にあり、親が忙しい家庭でしたから、近所のおじさんに釣りやドライブに連れて行ってもらうことが週末の楽しみだったんです。

町内には「子供会」のジュニアリーダーという仕組みがあって、年上・年下の子ども同士の関係も密接でした。子どもが自分たちで企画して、キャンプやクリスマス会のレクリエーションを行うことが当たり前のようにある地域だったんです。自分の原体験として、子ども同士の関わりの中から学んだことや、地域の大人たちに良くしてもらった記憶がある。いつか自分も地域に恩返しができるような人間になりたいと思っていました。

座学ではなく、「現場を知りたい」とボランティア活動を開始。子どもを通して、地域の変化を実感する

私が大学で学んだ社会心理学は、統計データを元にした学問ですが、座学だけでなく、現場を知りたいと思うようになっていきました。たとえば、児童虐待のデータを分析していくと、わかることが沢山あるんですが、それだけで判断するのも、ちょっと違う気もする。やはり実際に現場で見て、直接コミュニケーションをとらない限り、わからないものだと思ったんです。

そこで、児童養護施設のボランティアや、子どもたちの自然体験学習などを運営している様々な団体で活動することにしました。しかし、この頃は、その都度その都度、関心のあることをしていたという感じで、それを将来の仕事につなげようとまでは考えていませんでした。

そんなとき、たまたまシングルマザーの女性と出会う機会があったんです。その女性は土日も仕事をしているため、せっかくの休みの日に子どもをどこへも連れて行くことができない。しかも、土日に預かってくれる保育所もない。「辛い」と話されてました。私の子どもの頃と同じ状況です。私自身が周囲の大人に世話になってきたので、子どもの面倒を見ることはなんの不思議もない。月に一回ほど週末に子どもを預かることになったんです。

実際に子どもの面倒を見るようになると、心臓に疾患のあるお父さんや、単身赴任でお父さんがいない家庭など、親と子どもが一緒に遊ぶことが当たり前のことではない家庭がいっぱいあることを実感しました。

私が子どもの頃は、近所の大人との関係が密接でしたが、ここ20年ほどの間にだいぶ様変わりしてきました。お台場や豊洲などウォーターフロントの街ができ、タワーマンションが林立するようになって、新しい方々が沢山入ってくるようになりました。街に人が増えることは良いことですが、核家族化も進み、時代の流れの中でいつの間にか地域の関係性は薄れ、昔のように子どもと大人が自然に接せられるコミュニティがなくなっていたんです。

子どもとの約束を果たすため、内定を辞退し、NPO法人として活動を続けることを決意

yume_sab2子どもと公園で遊ぶことからスタートして、次第に海や山に連れて行くようになりました。しかし、自分一人でできることは限られている。他にも協力者がいれば、もっと多くの子どもたちを受け入れることができますよね。私自身が子どもと接することで得たものが沢山あったので、他の人にもそれを経験してほしいと考え、任意団体「夢職人」として活動を広げることにしました。

活動内容は、料理や工作などのプログラムの他、日帰りのサマーキャンプなどです。東京には田舎のない子どもも沢山いますから、ちょっと足を伸ばして遠方に宿泊学習に行ったりもしましたが、費用は全て自分たちの持ち出しです。自分も子どもの頃に周囲の大人たちにそうしてもらっていたので、何の違和感もないことでした。むしろ、私自身が楽しんでいるような感覚でしたね。

その一方で就職活動もしていて、いくつかの企業から内定をいただいていたんです。就職して任意団体の活動を辞めるか否かを考えたとき、子どもたちに「自分で始めたことは責任を持って最後までやりなさい」と常々話していましたから、ここで辞めてしまったら、「結局、口だけの人間になってしまう」と思いました。悩んだ挙句、筋を通そうと考え直しましたね。

続けるとなった以上、ある程度、仕組みを作っていく必要を感じました。任意団体の頃の活動は、趣味の延長上みたいなものでしたから、自分が病気や怪我をしたら子どもたちとの約束を果たせない場合もある。でも、一般の民間企業では、不調を理由にサービスができないといったことはありえないですよね。AさんがやってもBさんがやっても質が保たる仕組みが必要だと考えました。

子どもを預かることは非常に責任が重いことです。何か事故が起きたとき、任意団体では責任がとれないため危険です。なるべく大勢の大人に関わってもらうためにも、きちんとリスクヘッジをした組織にしないといけません。組織を運営していくには、職員を雇用しなければいけないし、事務所も必要になってくる。そうした理由から、NPO法人の設立に踏み切ったんです。

NPO法人と株式会社は経営面では同じ。しかし、非営利活動の組織だからこそ、できることがある

さっそくNPO法人の本を買ってきて、東京都に申請手続きをしました。しかし、二度三度と申請書類を出し直ししたりして、結局、認可されるまでに1年くらいかかりましたね。その間はフリーターみたいな生活を送りながら、事業計画を練る毎日です。

よく「NPOにするとお金が貰えるの?」と聞かれるんですが、民間企業と同じで何もしなければ1円も貰えないですし、株式会社の配当金というものもない。いいことをしているからといって、世の中は子どもを無料にしてくれるわけではありません。事務所経費も人件費もかかりますし、普通の会社運営と同じように収益を管理していかなければいけません。

最初は家賃6万円のワンルームからスタートして、パソコンはみんなの持ち出し、電話は協力者に寄付してもらうなど、設立資金は極力抑えました。運営資金は、子どもたちの参加費ですが、自分たちがまともに生活していけるようになるまでには設立から3年くらいかかりましたよね。それまではみんなアルバイトをしながら活動を続けてきたんです。

継続していくうちに、親御さんの評判であったり、子どもが友だちを連れて来てくれたりして、5年前は50人ほどだった会員数が、現在は220人くらいにまで増えました。それにともない今年の予算は2013年度の1.5倍くらい組むことができました。今でも損益分岐点を超えたとは言えないくらいですけど、組織が成り立つ仕組みは作れたと思います。

NPO法人と株式会社の最大の違いは、サービスを受ける人とお金を出す人が必ずしも同じでないことです。たとえば、統計データではシングルマザーの過半数以上が貧困状態にあり、子どもの参加費用を捻出することが難しい。その場合、第三者から寄付を募って運営したりします。NPO法人は、利益の再分配を禁じられているため、株式会社とは異なる形で資金調達ができます。

私が目指しているのは、社会総がかりでの教育です。子どもと保護者は顧客という関係性ではありませんから、むしろ私たちはアドバイスをいただいて育てられ、一緒に活動を広めていくパートナーだと考えています。これを「利益」を株主や役員という特定の一部の人に分配する民間企業でやろうとしても、大勢の人が自ら協力しようとは思わないでしょう。非営利活動のNPO法人だからこそ、できることがあるんです。それは“やりたいこと”というのとも少し違う。社会にとって“必要だと思うこと”をやっていきたいと考えています。

NPO法人の独立ノウハウ集

独立前にするべきこと

ボランティアでNPOを体験すべし

NPO法人は正社員にならなくとも、ボランティアで参加でき、間口が広い。岩切さんは大学生時代に様々なNPOでボランティア活動を経験。NPOと一言で言っても、組織文化も違えば、雰囲気も違う。様々な団体のいい点と問題点がわかったことで、後々「夢職人」の組織作りに役立てられた。本を読んでわかった気になるのではなく、やはりアクションが大切。

データ分析力を身につけるべし

社会心理学を専攻した岩切さんは、統計データを読み解く力を身につけた。社会的課題の解決を使命とするNPO法人にとって、データ分析は必須だという。最小限の予算で一番早い解決策を導き出すことがNPO法人の目的だからだ。たとえば一人親を支援する場合、エリア内の総数、父子家庭か母子家庭か、生活スタイルなどのデータを元に具体的解決策を実践していく。

NPO法人認可までの期間を乗りきるべし

資金0円で設立できることがNPO法人の利点だが、申請から設立登記まで、数カ月~1年の長い時間がかかるというネックがある。岩切さんのように根気よく自分で手続きするのもいいが、会社勤めをしていると、書類を何度も書き直したり、役所に何度も通ったりすることは難しい。代行手数料8万円くらいから行政書士に頼めるので、検討してみてもいいだろう。

独立後にするべきこと

自分でやれば、自分のスキルになる

潤沢な資金があるわけでもないNPO法人にとって、コスト削減は重要。何ごとも自分でやるスタンスが求められる。岩切さんは広報費削減のため、自分たちでチラシを作成し、公共施設で配布。ホームページも自分たちで作ることにした。プログラミングの知識もなかったが、必要に応じて勉強していくうちにスキルを身につけ、今では充実したサイトを構築している。

社会的信用を得るべし

NPO法人は役員3名以上と正会員10名を募れば設立できる。任意団体としてこれまでにも活動を募ってきた岩切さんにとって、法人化によって何かが劇的に変わったというわけでもなかった。しかし、社会的信用を得られやすくなったことはやはり大きなメリット。事務所を借りる賃貸契約から、法人や行政の仕事を請け負う際にも、契約が成り立ちやすくなった。

NPO法人も一般企業も同じと考える

NPO法人を慈善団体と誤解する人も多いが、株式会社の資本金や配当金といった概念がないだけで、利益を出すことを認められた立派な法人格だ。総会や役員会議もあり、一般企業の経営と何ら変わらない。会社員経験がなかった岩切さんは、経営について必要なことを学ぶため、「ETIC」という起業支援のNPO法人の塾に参加し、経営者マインドを培っていった。

取材・文●大寺 明

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子どもと若者の成長を支えるアナタのためのウェブマガジン
月刊『ひみつ基地』
発行/特定非営利活動法人 夢職人
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