コンテンツ制作会社・映像制作会社 代表取締役社長 M田さん(49歳)

M田さん(49歳)
大学卒業後、出版社に入社し、週刊誌やパソコン雑誌、住宅雑誌など、さまざまな媒体の編集部を経験し、編集長を歴任。2005年に独立し、紙媒体とWEBのコンテンツ制作会社を設立。2009年に100%子会社の映像制作会社を設立し、取締役に就任。

IMG_1412<独立データ>
42歳で独立
【独立資金】78万円
・法人登記代:30万円(2005年当時)
・事務所代:30万円
・棚・テーブルなど材料費:3万円
・HP作成費・15万円
【技術・資格】編集長経験

事業内容
設立:2005年
資本金:1円(現在は300万円に増資)
従業員数:2名(現在)
企業パンフレットや販促用マニュアルなどの紙媒体の制作、企業ホームページなどのWEB制作を請け負う。

かつて、某大手出版社で名物編集長として活躍したM田さんは、2005年に独立し、紙媒体とWEBのコンテンツ制作会社を設立。編集者時代から「アイデアマン」として知られ、現在も企業にとって新鮮な提案をすることで仕事を獲得していく、発想力に優れた独立社長だ。現在まで会社を継続することができた、ちょっとしたコツや仕事の秘訣を語っていただいた。

会社作りはDIYの発想で、出来るだけ自分でやる

私が独立したときは、資本金が1円でも起業できる「1円起業」(※2006年の会社法施行により、特例ではなく恒久化された)が話題になっていたんです。まず会社設立のノウハウ本を買ってきて、行政書士には頼まず、手続きは全て自分でやった。なるべくお金を使いたくないというのもあったけど、せっかくだから自分でやってみたかったんです。「1円起業」といっても、公証人役場の定款認証費用や登録免許税で30万円近くかかりましたね。

それから前の会社の近くに10坪ほどの事務所を借りました。家賃14万円で敷金礼金が60万円でしたが、固定費を出来るだけ削減したかったので、仕事仲間だったライターと事務所をシェアすることにして、費用を折半した。また、事務所の全ての棚やテーブルは、ホームセンターで3万円分ほどの材料を買ってきて、設計図を書いて自分で作った。「会社作りはDIY」というコンセプトで会社を始めたかったんです。

前職では、紙媒体とWEBの両方の制作に関わっていたので、知り合いのWEBデザイナーに頼んでホームページを作ってもらいました。イラストレイターに頼んだイラスト料も含んで15万円くらいに抑えることが出来た。

選択定年制を選べる会社だったので、独立を意識しだしたのは30代半ばの頃。しかし、新雑誌の創刊や新規事業の立ち上げに関わったりしていたので、独立のために何か準備をするという感じでもなかった。結局、42歳で退職したわけだけど、退職金があって気持ち的に余裕もあったので「どうにかなるだろう」くらいの考えだった。有給休暇が3カ月あったので、消化期間中に今後の身の振り方を考え、同時に会社作りをしていったわけです。やはり、一度は自分で会社をやってみたいという気持ちが大きかったですね。

コンセプトを明確にすることが、打ち合わせのコツ

前の会社の近くに事務所を持とうと思ったのは、以前の職場から仕事が来ることを期待してのこと。実際、最初の仕事は、前職の編集部とその隣の編集部からの依頼で、1、2年目まではそれで軌道に乗ることが出来た。ただし、「義理は二度まで」というのが私の経験から生まれた持論です。

会社を辞めた当初は、義理で仕事が来るけれど、義理だけでは仕事は続かない。先方からすれば、元編集長だと気をつかってやりにくい部分もあるでしょうし、私もついつい余計な口出しをしてしまう。そういう意味では、それまで関わりのなかった人との仕事の方がむしろ楽だと思うようになった。

前の職場からの仕事が途切れがちになってきたとき、前職のクライアントだった人から連絡が来たんです。社内広報誌やマニュアル作りの依頼でしたが、打ち合わせで提案をして企画をふくらませていったら、それが通って総額1千万円くらいの受注になった。それで人手が必要になってきたので、最初の従業員として前職の後輩2名と同期だった営業1名を入れた。結局、その仕事は年間2500~3000万円くらいの受注額になり、それが4、5年続きましたね。

編集者時代から培ってきた方法論なんですが、打ち合わせで最終的な落とし込みのイメージを一気に考えて提案できることが自分の強み。最初の打ち合わせでは、先方のイメージもぼんやりしていて抽象的なことしか言わないものです。とりあえず客先のニーズをつかんだ上で、競合他社との差別化やコンセプトを明確にしていく。そうやって最終仕上がりのイメージから、それを形にするための具体的な方法を提案していくんです。私が考えたコンセプトだから主体的に仕事を進めることが出来てやりやすいし、そういった仕事はその後もずっと自分に依頼が来ますからね。

会社員時代にやっておけばよかったと思うことは、営業を経験しておかなかったこと。直接売り込みに行きたいところなんだけど、経験がないからできない。だから、打ち合わせやクライアントと会う機会は、常に営業だと思ってニーズをつかもうとしてます。ニーズがわからないと仕事も生み出せないですから。別の仕事をしているときでも、ニーズが見えたら「うちはこういう仕事も出来ますよ」と新たな提案がするように意識してますね。

会社は波がある。いかに運営資金をやりくりするか?

会社員時代と独立後で大きく変わったことは、とにかく入金先を確保する考えになったこと。「入金なくして仕事なし」がモットーですよ。会社員時代はお金の支払い時期などまったく気にしていなかったですが、自分で会社をやるようになると、入金時期が一番大事。入金が3カ月後といったことになると、それまでの運営費を借金するか、自腹を切ることにもなりかねない。

会社を4人でやるとなると、従業員の人件費とデザイナーなどの外注費、それに事務所代などの固定費で月に300万円くらいの売上がないと回らない。入金が遅い場合を考えると、常に1、2カ月分の運転資金をプールしておく必要があるんです。

いざというときに備えて、税理士から「お金は必要がなくても借りた方がいい」と教えられたんです。つまり、借りて返したことが実績になり、だんだん大きな融資が受けられるようになるというわけです。

そこで練習がてら国民金融公庫に申請してみたところ、300万円の融資を受けることが出来た。そうやって借りて返してを繰り返していくうちに、信用保証協会から2000万円の融資が受けられたんです。その直後の2008年にリーマンショックが起きた。為替も銀行も信用できないから、キャッシュで家に保管しておくことにしました。

そうこうするうちに今度は東日本大震災……。業界再編で取引先だった3社が合併したこともあって、売上が半分に激減した。融資を受けたときのお金があったから、なんとか会社を回していけたわけです。ただし、今も返済は続けていて大きな負担となっている。お金はあったら使ってしまうもので、本当にお金がなかったら、もっと早めに手当てをしていたかもしれない。

お金を貯金するのではなく、“信用”を貯金する

会社を何年かやっていると、従業員が自分たちで仕事をこなせるようになってきます。次第に私のやることがなくなっていた。そこで、融資を受けたお金で300万円くらいの設備投資をして、知人と新規事業の映像制作会社を立ち上げたんです。

本体の会社は、これまでの人脈から、私という個人に来た仕事をこなしていく個人事業主の延長。新しく作った会社は、企業向け映像サービスを売りにした新規事業でコンセプトが別もの。いわば会社らしい会社なんです。

私個人に来ている仕事は、私が歳をとるにしたがって、クライアントの担当者も歳をとるから、彼らが現場を離れて急に仕事が来なくなる場合もある。そうしたことも見越して、技術会社を立ち上げようと考えたわけです。今は新会社の方が伸びてきて、メインの収益になって助かってますね。

自分で会社をやっていくなかで、お金を貯金するというよりも、“信用”を貯金するという感覚になった。融資を受けてお金を返していくと“信用”が増す。それと同じで、仕事を納品していくたびに取引先への“信用”が増します。そうやって“信用”を積み重ねていかないと、大きな仕事も来ないし、会社の継続も難しいでしょうね。

会社というのは、外に“信用”が溜まっていれば、50歳を過ぎても仕事は続くんです。だから40歳前後で独立した方が、その10年間で“信用”が溜まるわけだから、独立するなら早い方がいいと思うんです。今の時代は、50歳で会社を辞めざるをえなくなって独立を余儀なくされることもある。50歳から新たに“信用”を積み重ねていくのは大変なことですよ。もし独立を考えている人がいたら、会社員時代になるべく外に“信用”を貯めておくことだと思います。

サラリーマンから起業して成功する独立ノウハウ集

独立前にするべきこと

最新テクノロジーに触れるべし

M田さんは入社1年目のボーナスで初期のマッキントッシュを購入。当時の編集作業はほとんど手作業だったが、DTPデザインやデジタルメディアなど、マックを使って何か新しいことはできないかと考え、独立も視野に入れていた。実際に独立する42歳の頃には、若き日に想像していたとおりデジタルメディア全盛の時代に。いち早く最先端のデジタル機器に慣れ親しんでいたことが、独立後の強みとなった。

自分の能力以上の人に仕事をお願いすべし

自分でデザインも出来た編集者時代のM田さんが、デザイナーに発注する際の基準は、「自分より上手い人にしか頼まない」こと。独立後は、自分で出来るレベルのことは自分でやればよく、本当に必要になってくるのは、より高いクオリティーで仕事が出来る外部スタッフとつながりを持っていること。会社のお金で仕事が頼めるうちに、優秀な外部スタッフとの関係を築いておこう。

会社法の改正を知るべし

「1円起業」とは、2003年施行の「中小企業挑戦支援法」によって、資本金1円でも起業できるようになった制度。それ以前は有限会社は300万円、株式会社は1000万円の資本金が必要だった。ただし、5年以内にそれぞれの規定金額に増資する必要があった。しかし、2006年施行の「新会社法」では、資本金1円で起業できるばかりか、増資の必要もなくなり、会社設立のハードルがかなり低くなった。

独立後にするべきこと

ノウハウ本の連絡先を活用すべし

会社設立にあたってM田さんは図書館で数冊のノウハウ本を借りた。その中に税理関係をシンプルにしようといった内容の本があり、巻末に本の趣旨に賛同する税理士リストが掲載されていた。ちょうど税理士を探していたM田さんは、直接連絡して依頼。また、社会労務士も探していたのだが、その税理士と社会労務士が共同事務所だったため、探す手間がはぶけた。

新規事業は100%子会社でやるべし

会社を二つ作ることで、決算期をズラしたり、二つの会社から給料が貰えるといった利点がある。本体の会社の給料を下げることで、社会保険料が安くなるというメリットも。また、M田さんのように、本体の業績が落ちてきたときに、新規事業の会社の業績が伸びてくるといったこともあり、常に次の手を用意しておくことが、後に大きな助けになることも。

設備投資すべし

Mさんは融資されたお金でスイッチング機械やリモートカメラなどの映像機材を300万円で購入。まず機材ありきで、それを使って何が出来るかを考え、新規事業を生み出していった。人が持っていない道具があれば、出来ることが一気に増え、アイデアも広がる。現在はセミナーや講演会のインターネット生中継など、企業向け動画サービスという競合の少ない事業を展開している。

取材・文●大寺 明