八百屋ベンチャーで年間売上4億円!都内8店舗の「旬八青果店」で都心と地域をつないでゆくアグリゲート代表・左今克憲インタビュー

株式会社アグリゲート 代表取締役社長・左今克憲(さこん・よしのり) 1982年福岡県生まれ。東京農工大学農学部・環境資源科学科卒。2007年に株式会社インテリジェンスに新卒で入社。2009年に同社を退職し、農産物の営業代行を開始。2010年に株式会社アグリゲートを設立。2013年に旬八青果店1号店をオープンし、現在、都内8店舗を数える。2015年10月に「旬八大学」を開講し、自らも講師を務める。

都市部の人に農産物直売所と同じ「新鮮・おいしい・適正価格」の青果を届けることが「旬八青果店」のミッション

「八百屋」というと、今では大手スーパーやコンビニに押され、廃れつつある業態だ。もちろん今も近隣住人に親しまれている八百屋もあるにはあるが、昔ながらの店舗がほとんどで、新規に八百屋を出店しようという人は滅多にいないだろう。何しろ八百屋の粗利率は一般的に20%程度とされる。80円で仕入れたキャベツを100円で売るという薄利多売の商売であり、ここから賃料や人件費などの必要経費を引いたのが純利益なわけだから、地価が高い都心部だと、一見にぎわって見えても実はカツカツの経営状態かもしれない。

 ところが、2013年に第1号店をオープンしてから、都内8店舗まで拡大している八百屋があるのだ。株式会社アグリゲートが運営する「旬八青果店」である。わずか2~6坪の売り場で月商300~500万円を売上げ、全体の年間売上は約4億円。どんな仕組みになっているのだろう?

「旬八青果店」はいわゆる昔ながらの八百屋とはやや雰囲気が異なる。今回取材で訪れた大崎店の店員さんは20代と思しき男性スタッフが2名で、手書きポップには産地や味、食べ方が記され、購買意欲をそそられる。値段も比較的安いし、スーパーでは見かけないような珍しい野菜も多く、店頭にはお弁当や試食品が並ぶ。例えるなら、ヴィレッジバンガードの八百屋版のような感じだ。おいしいものを求めて宝探しをしているような気分になる。

 創業者の左今克憲氏の撮影中もお客さんが普通に話しかけてくる。産地や食べ方について尋ねられることが多く、つい長話になるお客さんも少なくないそうだ。実はこうしたコミュニケーションこそが、旬八青果店が人気の理由でもある。

sub_01「バイヤーから産地情報を得たり、自分たちでも調理して食べてみて、本当に感じたことをポップに書くようにしています。みんな積極的に食べ方を試していて、自分で料理してみたものを社内SNSにアップして全員が共有できるようになっているんです。ちゃんと知識を持ったスタッフが気持ちのよい接客をするということは、旬八青果店を立ち上げたときから重視していました。お客さんとのコミュニケーションを大事にしているんです」

 旬八青果店のコンセプトは『新鮮・おいしい・適正価格』。いずれも消費者が心から求めるものであり、この三拍子さえそろえば流行るのも当然かもしれない。逆にいうと、都心部でこれを満たす店はきわめて少ない。

「地方では農産物直売所で新鮮な青果が適正価格で買えますけど、都会ではそれが難しい。経済的には豊かでも食生活の面では豊かとは言えませんよね。都会にいながら直売所で売られているような新鮮な青果を適正価格で買えること。これを基本方針にしていますね」

 消費者にとっては実にありがたいことだが、これを実現しようとすると店側が身を削ることになりかねない。ところが、旬八青果店の粗利率は驚くことになんと50%。これはユニクロや良品計画が行なっている「SPA」という販売と生産が連動したビジネスモデルを参考に、食と農の業界で「SPF」という独自のビジネスモデルを構築したことによる。

「ユニクロや良品計画は売り場を持っているからこそ、PDCA(※Plan・Do・Check・Action)をスピーディーに回せます。まずニーズを売り場で把握して、それに合ったものを自社工場で作ってみて、それが実際に売れたかどうかをチェックするというビジネスモデルですよね。僕らもお客さんと積極的にコミュニケーションをとることで、ニーズを把握して仕入れに活かすようにしています。ピンポイントで売れる野菜がわかるというよりは、ライフスタイルのトレンドを把握する感じです。たとえば生で食べられる野菜が好まれているとか、季節の変わり目に食べたくなるものとか、そうしたニーズを把握して、需要が見込めれば一気に仕入れたり、作付けまでする場合もあります」

 アグリゲートは日本各地に専属契約をする生産者がいるだけでなく、茨城に「旬八農場」という自社農場を持っている。大田区にある自社の配送センターからトラックで各店舗に配送されるため、届けられた初日や、遅くとも翌日には店頭に並び、早ければ翌日には売り切れるという。これがコンセプトのひとつ『新鮮』の秘訣だ。

sub_02「市場の野菜も基本的には新鮮なものです。ただし、スーパーの仕入れは2週間前にチラシを作る必要があるので、何を入荷するかを事前に決めて無理やりにでも量を確保するんですね。市場にたくさんあればいいですが、足りないとなれば市場は溜めておくことで量を確保する。この期間にもっとも鮮度が悪くなってしまいます。採れたての野菜や果物がおいしいとされていますが、スーパーで消費者が手にとるときには入荷から2週間以上経っている場合が多い。弊社では自社農場や専属農家だけでなく、市場でも買い付けていますが、どういった買い方をしているかというと、その日、市場に行ってその場にあるものを買います。基本的に市場に余っているものは新鮮なんですよね。さらにいうと鮮度は単純に時間の問題だけでもなかったりします。たとえばブロッコリーは収穫後すぐに箱詰めして出荷すると、途中で腐ってしまう。予冷をして熱をとったほうが鮮度は保たれるので、そうした保存技術がちゃんと守られているかを確認して仕入れるようにしていますね」

『おいしい』についてはどうだろう? 鮮度も大事だが、やはり栽培法が重要になるそうだ。

「スタートした当初は野菜の知識が今ほどなかったので、有機野菜にこだわって仕入れていたこともあるんです。だけど、実のところおいしさにはあまり関係がないんですよね。基本的に健康に育った野菜がおいしくなります。それは人間と同じで、風邪薬を一切飲まずに健康に育つ人もいますが、多少は風邪薬を飲んだとしても健康という人がほとんどですよね。完全に薬漬けは論外です(笑)。僕らは健康に育った野菜を常に探しているんです」

『適正価格』については、当然安いほうが消費者としてはありがたい。しかし、極端に安いものは外国産が多く安全面に不安があるし、国産に同様の安さを求めると今度は国内の農家がひっ迫してやっていけなくなり、結果、消費者が買えなくなってしまう悪循環を招きかねない。こうしたバランスの上で国内の農産物を扱うことが、左今氏が考える『適正価格』である。一方で旬八青果店では規格外品の販売にも積極的だ。形やサイズの問題でJAやスーパーが買い取らない農産物である。

「市場で仕入れている規格外品は全体のごく一部で、多くは産地を回って仕入れるようにしています。有料で廃棄している規格外品を発掘して売り場に出すことが、僕らの本当の役割だと考えているんです。たとえばきゅうりを真っ直ぐ育てるには技術が重要になるんですが、どんなに技術があっても雨続きから一転して晴れたりするだけで、一気に規格外が出てしまう。栽培法がちゃんとしているのでもちろん味に問題はありません。むしろおいしい食感になったりすることもあって、そうした特徴や栽培法をきちんと説明できれば商品になります。お客さんも喜んで買ってくださいますよね」

バイク旅をするうちに地域活性化に関わりたいと強く思いはじめた。「農業は儲からない」という構造を販売サイドから変えていく

 さらに旬八青果店では、店名にもなっている「旬」にこだわる。白菜やリンゴは冬場、さくらんぼは7月上旬というふうに、その時期がもっとも収穫量が多く、安くておいしい。しかし、生産者が意図的に旬の時期をズラすこともあれば、温暖な地方では普通より早く旬を迎えることもある。バイヤーが産地を回ってこうした情報を集めてくるという。

sub_03「基本的に旬の時期は外さずに仕入れます。それに加えて、産地を回っているとよりコアな情報が入ってくるんですね。たとえばスナップエンドウの旬は春ですけど、種子島では1月に旬を迎える。冬場にスナップエンドウが激安で並んでいることに驚かれますけど、それはバイヤーが産地を回っているからこそできることなんですよね。農作物は突然できるわけではないので、作付けをしているという情報さえあれば、そろそろ収穫時期だと予測できますよね。産地で直接聞いたり、電話でヒアリングしてそうした情報を集めていますが、これをIT化しようとしているところです」

 規格外品や一般的な旬の時期から外れたものを仕入れることは、地域の生産者の助けにもなっている。もともと左今氏は八百屋をやりたかったわけではなく、「大学時代から地域活性化に関わることがしたいと強く思っていた」と話す。なぜ地域に目を向けるようになったのだろう?

「僕は片親の家庭だったんですけど、その事実を知ったのが高校生のときだったんです。父は花の流通を手掛ける起業家で、月に1回しか会わないような関係でしたけど、まさか結婚していないとは思ってもいなかった。それを知ってすごくやる気をなくしたんですよね。勉強も手につかなくなって2浪してしまったんですけど、その頃は父が起業家だったことに反発して、国家公務員になろうと思ってましたね。父が公務員を毛嫌いしてよく悪口を言っていたので、逆にオレはその方向に進もうって」

 その後、左今氏は東京農工大学に進み、地元の福岡を離れた。福岡も大都市だが、そこで完結してしまうようなムードに抵抗があったという。

「2浪していたので、他の人とは違う経験をしないといけないと思って、毎年夏休みにバイク旅をするようになったんです。下道を何日もかけて野宿しながら福岡の実家まで帰ったり、高知大学の政策立案コンテストに出場するために高知までバイク旅をしたりしていたんですけど、そうやって地方を回っていると限界集落のようなところが見えてくる。そうした地域では農業か土木くらいしか基幹産業がないんですよね。基幹産業があるからサービス業が成り立つわけですけど、高齢化が進むばかりで若い人がまったくいない。この状況をなんとかできないかと考えたとき、土木は政治家を引っ張ってきてうんぬんという話になってしまいますが、農業なら自分たちでゼロから生み出せると思ったんです」

 解決策はいたってシンプルだ。若い世代がもっと農業界に参入すればいい。そこで左今氏は、大学4年生のときに農業系の人材ベンチャーにインターンとして参加し、農業の人材マッチングと起業のイベントを開催した。

「大学3年あたりからちょっとずつビジネスに興味が出てきて、何度かビジネスコンテストに出場するようになったんです。それが2005年のことで、当時はライブドアが飛ぶ鳥を落とす勢いだったこともあって、IT系の事業プランが多かった。起業を目指すような優秀で意欲のある人たちを集めて農業と地域活性化のビジネスコンテストができれば、何か新しいものが生まれるかもしれないという仮説を立てて、農業系のビジネスコンテストを開催したわけです。ところが、集まってくる人材がまったく違うタイプだったんですよね。起業したいというより、田舎に移住して癒されたいっていう人が多くて、将来は地方の自治体に就職したいという……」

 なぜ意欲ある若い世代が農業界に入ってこないのか? 農業界だけを見ていても疑問は解消されない。そこで左今氏は人材サービス会社のインテリジェンスに入社し、人材の流れを相対的に見てみようと考えた。

sub_04「結局、稼げそうにないというお金の問題が一番の理由で、そのため将来性もないと思われている。農業関係者を回って話を聞いてみても、『農業は稼げないけど、やらなければいけないんだ』といった話に終始して、すごく居心地の悪い気分でした。なぜ奉仕の精神がないと農業がやれないんだろう?って……。一方でいろいろ回っていると、ぽつぽつとすごく稼いでいる農家さんがいたりして、どういう仕組みになっているだろうと考えるようになったんです。このまま若い世代が農業に興味を持たないでいると、どんどん高齢化が進んで確実に農業人口は減っていく。10年くらいかけて業界構造が変わっていくはずだと思いましたね。そのときに何かしら地域に関わる事業で名乗りを上げて、土台ができている状態にしておきたいと考えたんです」

 ちょうどその頃から10年が過ぎた。2005年頃に考えていたとおり、左今氏は旬八青果店という販売事業で名乗りを上げたのだ。しかし、2009年のインテリジェンス退職時は、起業することだけを決めていて、具体的に何をやるかはまったく決まっていなかったという。

「当時の自分は営業しかできなかったこともあって、最初は生産法人の営業代行からスタートしたんです。東京に営業所を作るとなると何百万円もかかるものですが、それを月額フィーをいただいて代行するというかたちです。営業で得られた情報はすべてお渡しして、PDCAを回していきましょうということでどんどん受注していきましたね。JAだけに頼っていない生産法人はポートフォリオを組んで販売していることが多いんですね。JAに何十%が卸して、残りの何十%かを自社で販売しているわけですけど、このパーセンテージを変えたいと考えていれば顧客になります。あとは電話帳を見て片っ端から電話してましたね」

 営業代行の仕事を始めてすぐに農水省や経産省に政策提案をしている生産法人から声がかかった。農業をビジネスの観点から改善していこうとする左今氏は、まさに農業界に欠けていた人材だっただろう。

「農業界を俯瞰して見るには理想的な仕事でしたね。仕事量もかなりあったので1年くらいその仕事をしていて、一方で起業の準備として通販サイトを立ち上げたんです。それは農産物を売りたい人と買いたい人をつなげるマッチングサイトで、在庫を抱えないという仕組みでした。それがどんどん売れるようになってきて、お店を持とうかと思いはじめた矢先に、福島屋(※スーパー、レストラン、加工食品を多角的に展開する企業)の大崎店でやってみないか、という声がかかったんです。これまでにも地域の農産物フェアで販売をしたことがあったので、そのときと同じように積極的に話しかけて売るようにしたんですね。そうすると驚くほどカゴに入れてくださる。産地や栽培法、食べ方の情報がおいしさのプラスになることを実感して、八百屋スタイルの売り方が求められていることに気づかされたんです」

今後10年で農業界は今以上に変わっていく。都心のマーケットをつかんだ上で、地域活性化の提案をしていきたい

 こうして2013年10月に旬八青果店の第1号店が中目黒にオープンした。中目黒といえば「住みたい街ランキング」の上位に入ってくる人気の街である。周辺の目黒区・品川区は、オフィス街と高級マンションが混在する一等地。旬八青果店はあえてこのエリアを中心に店舗数を増やしていった。その他にも渋谷、赤坂といった人気エリアに出店し、現在8店舗まで拡大。いずれもおよそ八百屋という雰囲気とはほど遠い街だが、逆にいうと生活に密着した『新鮮・おいしい・適正価格』という店が少ないエリアだ。

sub_05「食のリテラリーは高いんだけど、満足のいく食生活が送れていないというお客様層に合わせて業態を作ったというのが、そうしたエリアに店を出す一番の理由です。もうひとつの大きな理由が物流コストの削減です。だいたいスーパーなどの大型店では1店舗あたり2トン車が満タンになるくらいの商品が必要になるんですが、僕らは8店舗に分散して配送することで鮮度の維持に努めています。そうすると移動すればするほど物流コストがかかってしまうので、エリアが集中していたほうがいい。物流コストを抑えるためにも、今後も都心を中心に拡大していくつもりです。もし他の大都市でやるとしても、たとえば福岡市内で多店舗展開を一気に進めるというかたちをとると思いますね。このビジネスモデルは100万都市以上じゃないと難しい。もしくは、食のリテラリーが非常に高い中規模の都市ですよね」

 たしかに、いくら憧れの街に住んだからといって、生命の基本となる食生活の面で不便では本末転倒だ。八百屋というと下町のイメージがあるが、アグリゲートは逆にこの盲点をついたのだ。

「都市部における農と食のプラットフォームを目指しています。農業をビジネスとして成立させようとなったとき、生産・人材・流通・宣伝・販売といったいくつかの段階に分かれるわけですが、JAの一番弱い事業部が販売なんですよね。いかに売るかが重要なわけですけど、この課題に対して自治体にアプローチをするにしても、プロモーションするだけでは単なる広告代理店になってしまうし、人材を斡旋するだけでは単なる人材派遣業になってしまう。だけど、売り場を持った上で話をするとまったく信憑性が違ってきます。僕らは一連の過程をすべて牛耳りたいと思っているわけではなくて、都心のマーケットをつかんだ上で様々な提案をしていきたい。その中で選ばれる業者のひとつになるというイメージです。同時に地域に入りたい人をどんどん紹介していきたい」

 経営者として未来図を描きながら、今でも左今氏はバイヤーとして産地を飛び回る多忙な日々を送っている。大きな目標の一方で、現状はどうだろうか?

sub_06「地方に出張に行くことで営業しつつ開拓もしてという感じです。強い産地や生産法人ができれば、地域もどんどん変わっていくし、僕らも成長していける。それをSPFのビジネスモデルとして構造的にやっていこうとしているんですね。多くの産地を確保して、マーケットも売上も見込めるという状態になれば順調なわけですけど、今年の台風続きのような異常気象になると、仕入れルートがことごとくダメになって一気に粗利が落ちることもある。そうなると普通の八百屋の構造とあまり変わらない。そこが難しいところですよね。良いときと悪いときを繰り返しながらも年々スパイラル状に良くはなっているんですが、経営者としては、いざというときのためにキャッシュを持っておくといった最低限のリスク回避も考えなくてはいけない。でも、それよりも、この時点で止まることのほうがリスクだと思っています」

 左今氏が地域活性化に目を向けはじめた2005年当時に比べると、まだまだ少数かもしれないが、若い世代の関心が地域に向きはじめているように感じる。筆者の周りにも新規就農の支援制度や地域おこし協力隊の制度を利用して地方に移住した人が何人もいるくらいだ。こうした時代の変化を左今氏はどう感じているだろう?

「これまでにもそうした人たちがいたわけですけど、質が変わってきましたよね。癒されたいというより、ちゃんと経済を生み出す視点を持って地域に関わろうとする人が増えています。地域おこし協力隊については批判的な意見もありますが、あれだけ大規模にやったことで地域に関心を持つ人のパイが広がって、その中から意欲的に取り組む人が出てきている。一方で、新規就農の支援制度については疑問を持っています。現状では個人事業主を増やしているばかりで、本当に農業で食っていこうとするなら、生産法人を作るくらいの気持ちと準備をして農に入っていくべきだと思うんです。ベンチャーで起業を目指す人は、経験を積むためにベンチャーで働いたりしますよね。それと同じで農業をやるなら、一度は生産法人で働いてみたほうがいい。構造を理解した上でプレゼンして、融資なり助成金をファイナンスして事業としてやっていくべきです」

 アグリゲートでは2015年10月から『旬八大学』を開講している。旬八青果店のスタッフ教育というだけでなく、旬八青果店が培ってきたノウハウを広く一般に伝えようというのだ。
「食と農」をビジネスの観点から考える人が増えれば、いずれはそれが地域活性化につながっていくはず。左今氏自らも講師を担当しているが、手ごたえのほどは?

「かなり手ごたえを感じています。うちで働くスタッフはもちろん、これから食と農の分野で起業したいという人や、大企業に席を置きながら社内ベンチャーを立ち上げようとしている人たちも熱心に受講されています。また、農家の方も受講されています。他業種展開を模索されていて、売り手の気持ちを知っておきたいということなんですよね」

 年間4億円を売上げる民間企業が教えるからこそ、より実践的で説得力があると思う。食と農の過程でいうと販売は出口の段階にあたるが、それをやりながら、同時にアグリゲートは人材教育という種を蒔いているのだ。アグリゲートのミッションは「未来に、「おいしい」をつなげる」というもの。未来志向のベンチャーとして、まだまだやるべきことは多い。

sub_07「やはり弊社の基盤は旬八青果店なんですよね。生産者様がいるからこそ成り立っているもので、もちろんそれはすごく大事なことです。この基盤をより強くしていくためには、附属事業も作って行かなくてはいけないし、組織化もしっかりしていかないといけない。そのためにも、もっと大きなビジョンがあるということを社内に浸透させていかなくてはいけないと思ってます。それが今ある課題ですね。それから先の目標としては、2021年を通過点として上場を目指しています。そのときには今ある販売事業をもっとブラッシュアップしていく必要もあるし、生産法人を自分たちで持つことも考えていかなくてはいけない。その過程で必要になってくる広告業やITといったサービスも作っていきたいですよね。これからやるべきことを考えると、今はまだまだだなって思います」

左今克憲氏を知る3つのポイント

パワーリフティングと「PDCA」

「高校生のときに靭帯を切ってしまって、それ以来、スポーツはすべて禁止されているんですが、唯一許されていたのが筋トレでした。それでパワーリフティングをやり始めたらかなり記録が伸びてきて、最盛期には120キロくらい上げてました(笑)。筋トレはまさしく『PDCA』なんです。バーベルが上がらないときに、いくら同じ筋トレをしても上がらないものなんですけど、いろいろ調べていくと、実は大きい筋肉だけで持ち上げているわけではないことがわかる。インナーマッスルのこの部分が弱いせいじゃないか、と仮説を立てて、実際にそこを鍛えてみると簡単に上がったりするんですよね。筋トレは直接的に身体感覚として跳ね返ってくるので『PDCA』がわかりやすい。仕事やビジネスにもこの感覚が活かされていると思います。そんな感じでやっていたら胸の肉離れをおこしてしまって、今はちょっと休んでいるので、かなり筋肉が落ちてしまいました(笑)」

創業者の仕事

「全体の構想を描くことと、ゼロイチを生み出すことが創業者の仕事だと思っています。創業者の考えを吸収したいと思って、いろんな経営哲学の本を読み続けてきたんですけど、時代が変わって昔の経営理念では通じない論理というのも多いので、最近はあまり影響を受けなくなってきました。僕は後世の人が引き継いだほうがもっとよくできるはずだと思っていて、今の組織運営でもゼロイチだけ作ったら、どんどん人に振っていくというスタイルに変えているところです。そのためにも『この業界でこういうことがやりたい』という想いを持った人をどんどん採用して、僕は構想することに専念したいと考えています」

農業の未来に想うこと

「日本の農業は、人口比率や国と国のパワーバランスの変化といった問題を常に抱えているわけですけど、今は人口減少と高齢化によって、今までのように農作物を自分たちで作っていけるかわからないという時代にさしかかってます。高齢者にノウハウが溜まっていて、その人たちが引退したとき、生産者が一気に減って売り手のほうが強くなるとも言われている。それは10年以上も先の話かもしれないけど、そうした構造の変化も踏まえつつ、不本意な食生活を送るすべての人に豊かな食生活を届ける、『未来に、「おいしい」をつなぐ』という弊社のコーポレートアイデンティティを継続していくだけだと思っています」

取材・文●大寺 明  写真●高村征也

「食と農」の大学
旬八大学

 旬八青果店は「旬八農場」の自社生産にはじまり、仕入れ、流通、販売という
日々の実務のなかで培ってきた知識と技術を「旬八大学」を通して還元していきます。
みなさまの参加をお待ちしております!

【ビジネス講座】
■基礎講座
旬八青果店の店長レベルが受講する講義を一般公開しています。
「八百屋」という商売をとおして生産・流通・販売のリアルを学びます。
「食の仕事に就きたい」「アグリビジネスや店舗運営に興味がある」
そんな方にお勧めのコースです。
■バイヤー講座
食のビジネスを行う上で重要な「仕入れ」を担うのがバイヤーです。
現相場やニーズをキャッチしながら、的確な判断で買い付けていく
バイヤー目線から成果物流通の構造を俯瞰し、
産地や市場の見方や、仕入れの組み方などをお伝えします。

【カルチャー講座】
青果に関する正しい知識を、毎回のテーマに沿って楽しく丁寧に
都市の生活者の方々にお伝えしていく座学&ワークショップです。

【旬八ゼミ】
「起業」「地域活性」などのテーマについて
食と農のフィールドから参加者のみなさまと一緒に考えるゼミを開催しています。