職人がいくら頑張っても報われない縫製業界への“ルサンチマン”が『nutte』の原点。ステイト・オブ・マインド代表・伊藤悠平インタビュー

株式会社ステイト・オブ・マインド
代表取締役社長・伊藤悠平
(いとう・ゆうへい)
1977年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、広告のデザイン会社に入社。退職後、バンタンデザイン研究所で学び、2004年から縫製のアトリエを10年間経営。2014年に「TOKYO STARTUP GATEWAY2014」に出場し、ファイナリストに選ばれる。2015年2月に縫製のクラウドソーシングサービス『nutte』をスタート。2017年8月現在、登録者数約25000人、縫製職人の登録者は約1200人を数える。

縫製は昔からある在宅ワーク。これをインターネットで可視化して、誰でも職人に「縫う仕事」を頼めるようにしたかった

 子どもの頃、祖母が在宅で着物を縫う仕事をしていた。今でも縁側でこつこつ縫い物をする祖母の姿を思い出す。仕事について詳しく聞いたことはなかったが、きっと年金暮らしの副収入といったもので、好きな縫い物で多少のお金が得られることに満足していたように思う。

 筆者の身内にもこうした例があるくらいで、昔から縫製の仕事は在宅ワークとして一般的だった。その多くは個人事業主で、うちの祖母のように付き合いのある業者の依頼だけ請けている。もし高い技術を持った職人に依頼したいと思ったとしても、何かしらのコネがなければ、彼らに辿り着くことはできなかっただろう。こうした“断絶”をなくすことが、インターネットの大きな役割でもある。

 WEB制作やライティングを個人に依頼できるクラウドソーシングサービスが一般的になりつつあるが、2015年よりスタートした『nutte』は、縫製職人のマッチングに特化したクラウドソーシングである。運営会社の株式会社ステイト・オブ・マインド代表の伊藤悠平氏によると、やはり「縫製の仕事は和裁、洋裁問わず昔からある在宅ワーク」で、もともとクラウドソーシングと相性がいい業態なのだという。

 2017年8月現在、依頼する側の登録者数は25000人。1日20~30件ほどの依頼があるそうだが、どういった依頼が多いのだろう?

「基本的にはアパレル関係の方が多く、販売するための商品を作ってくれる方を探されていますね。特にネットショップを運営する方がオリジナルの服を小ロットで作るために利用されることが多いのですが、パリコレに出展しているブランドや百貨店にもご利用いただいています。あとは一般の個人の方が、自分の服を作るためにご利用されることも多いですね」

 一方の縫製職人の登録は1200人に達する。その多くはやはり個人事業主だという。

「自宅で縫製するような個人事業主の方はタウンページにも載っていませんし、職人さんが自分のHPで仕事を募るという感じでもない。あるいは、夫婦や3、4人ほどの小さな縫製工場を営まれている方もいますが、やはりITに強い方は少ない。昔からそうした職人さんはいたわけですが、アパレルや商社、縫製工場の下請けで仕事を請けていたので、一般の方との接点はほとんどなかった。そうした縫製職人さんを可視化して、誰でも依頼できるようにすることが『nutte』で実現したかったことなんです」

 技術的にはどうだろう? 日本の縫製技術は世界的に高水準とされているが、中国や東南アジアなど人件費が安い国に仕事を取られ、衰退の一途をたどっているのが現状だ。

「中国や東南アジアの国々の生産現場というのは機械産業なんですよね。高性能のミシンを大量に置いて大人数で生産ラインを組みます。一人ひとりの職人の技術に差が出にくいのですが、一人で1着すべて縫うという仕事には不向きです。一方、日本の縫製業界は少人数のラインで作業をしますので、一人ひとりのスキルが非常に高い。アパレル業界では最初にサンプルを作るという商習慣があります。展示会用のサンプルや海外工場に発注する際の見本など、服を1点だけ作るというもので、一般的には工場のラインよりもサンプルソーナーのほうが技術は高いとされています。『nutte』に登録されている職人さんの中にも、そうしたサンプルソーナーが多くいます」

 ユーザーが『nutte』を利用する最大のメリットは、小ロットでも依頼できること。それこそ自分が着たい服を1着だけ依頼することもできる。これを縫製工場に頼もうとすると、小ロットの依頼はまず敬遠されるし、たとえ請けてくれたとしても、小ロットでは1着あたりの単価が高くなり、割に合わないことになってしまうのだ。
 ほかにはどんなメリットがあるだろう?

「もうひとつのメリットは服に限定されないことです。たとえば鞄やカーテンなどの縫製の依頼もたくさんありますし、珍しいところだと自動車の座席シートや、子ども用の大きなぬいぐるみを縫う依頼もありましたね。縫うものであればなんでも打診できるので、これまで誰に頼めばいいかわからなかったようなものでも作ることが可能です。依頼する側が自由に『nutte』の使い方を考えて、それに対して職人さんが自分で考えて応えてくれるという、とてもよい構造になってきていますね」

 一般的なクラウドソーシングでは数社が競合しているが、『nutte』の場合、今のところ競合がいない。スタートアップの世界では、大企業が目をつけない「小さな市場を独占すること」が理想とされるが、『nutte』はまさにこの好例だ。なぜ競合他社の参入がないのか?

「ちょっと変わった領域なので参入しづらいのかもしれませんね。これまで私は縫製業を10年間営んできて、その原体験からこのサービスの必要性を感じています。また、このサービスが始まった当初から職人側の期待は大きかったです。そこに依頼者側のユーザーが集まってきて、依頼がどんどん増えているという状態です。一見、何もなさそうなところですが、実は大変に需要がある、ということは職人にしかわからないのかもしれません」

 このほか『nutte』から派生したサービスとして、染め直しが依頼できる『and colors』や縫製素材の総合購入サイト『糸柄市』も展開している。

「職人さんにどれだけいい武器を与えられるかが大事だと考えています。最近はアマチュアの方の依頼が多くなっているのですが、どんな生地を買えばいいかわからない、というとき、『糸柄市』で職人さんが自分で素材を手配できるようにしています。実は個人でアパレル生産用の生地を買うのはけっこう難しいんです。通常は生地の商社に口座を開いて取引きをするもので、新規の口座開設を個人で行うのはほぼ不可能だったわけです。これを弊社で口座を開設して、ネットで購入できるようにしています。『and colors』は染め直しの依頼ができるサービスですが、『nutte』に縫製以外の技術を持った職人さんがいることを受けて、別枠のサービスを設けました。ほかにも刺繍職人さんにワッペンを依頼できる『PLUMARI』というサービスもあります。いずれも職人さんからのニーズやアプローチに応えて作っていったものなんですね」

縫製業を10年間営んできて、身にしみてわかったのは、どれだけ一生懸命、仕事をしても報われない縫製業界の構造だった

 もともと伊藤氏は縫製職人ではなく、ファッションブランドを立ち上げることを目指していたという。しかし、伊藤氏は早稲田大学を卒業してから服飾の世界に進んだという異色の経歴。どういった歩みを経て、デザイナー志望から起業家へと至ったのだろう。

「高校生の頃にYohji Yamamotoのコレクションをテレビで見たんです。モデルがランウェイを歩くとゆっくりとついてくる布の余韻がとても好きでした。私もそういう服を作るデザイナーになりたいと思ったのが、そもそものきっかけです。ただ、高校が進学校だったのでまわりと同じように大学に進学しました。本当は中途退学して服飾専門学校に入り直そうと考えたこともあったんですが、当然、親に止められましたね(笑)」

 そのかわり、大学に通いながら洋裁教室に通うことにした。大学卒業後すぐに服飾専門学校で学び直すつもりだったが、いかんせん先立つものがない。まずは学費を貯めようと伊藤氏は一旦、就職することにした。

「アパレル業界に入ってしまうと、販売サイドに配属され、デザインに関わることは難しいと考え、広告のデザイン会社に入社しました。たとえジャンルは違っても、ものづくりの経験が積める仕事に就きたいと考えたんです。当然、紙媒体のデザインの経験がないわけですから、Illustratorの操作を一から教わるような感じだったんですけど、自分で考えたデザインを世の中の人に見てもらえるという経験ができたことは、本当によかったと思いますね。ただし、学費を貯めることが目的だったので、入社前から2年で退社することを決めていました」

 そして実際に伊藤氏は2年できっぱり退社し、バンタンデザイン研究所の社会人向けスクールで1年間学ぶことになる。

「企画からデザイン、パターン製作から縫製までひと通り勉強しましたね。卒業後は一旦、アパレル会社に就職するつもりだったんですけど、専門学校の課題製作が忙しくて、まったく就活ができない。卒業が間近になって、どうしよう……となったとき、大学時代に通っていた洋裁教室の先生から声をかけられたんです。その洋裁教室はお直し屋さんが本業だったんですが、先生でもあった経営者が高齢で、そろそろ引退したいということでした。縫製のアトリエを継がないか?という話が舞い込んできたんです」

 こうして伊藤氏は再就職せずに、10人ほどの縫製職人が在籍する縫製のアトリエを経営することに。自分もひとりの職人として作業にあたり、営業もこなしていたそうだ。

「テーマパークや舞台衣装を手がける会社に営業をかけて仕事を受注したり、アパレルメーカーからサンプルの仕事を受注したり、少しずつ業績を伸ばすことができたんですけど、それでも多少給料がアップしたくらいで、ぜんぜん儲からなかった(苦笑)。なんとかアトリエを継続していける程度で、10年やり続けることになったんです」

 縫製のアトリエを引き継いだ翌年の2005年、伊藤氏は女性向けファッションブランドを仲間3人と共同で立ち上げた。まさに念願が叶ったわけだが、結果やいかに?

「東京コレクションの出展を目指すような尖がったデザインの服を作っていました。とりあえず2シーズン(1年間)やってみようということで、展示会に出してみたところ、これがまったく売れない……。十数着は売れたのですが、展示会費用が何十万円もかかっているので、その程度ではどうにもならないんです。たとえそこで数十着の注文が入ったとしても、そこから先は工場で量産しなくてはいけないので、さらに多額の費用がかかる。アパレル業界は入金が何カ月も先になるので、あまりにキャッシュフローが悪すぎて無理だという話になったんです。アトリエはギリギリやっていける程度でお金の余裕はなかったし、みんなにも生活があるので、諦めざるをえない状況でしたね」

 一方のアトリエのキャッシュフローはなんとか回っていたが、従業員に給料を支払うと伊藤氏の手元にはわずかな金額しか残らない。そこで伊藤氏は並行して印刷会社に働きに出るようになった。

「印刷会社を辞めた後は、自宅で当時の妻とフィギュアスケートの衣装を縫う仕事を始めました。有名選手の衣装を手がけるなど、仕事の評価はされるのですが、やはり食べていける収入にならない。それでまた別のアルバイトをかけもちするわけですが、縫製の仕事が忙しくなるとバイトを辞めざるをえなくなって、また食えなくなるということを繰り返していたんです。悪いときはまったく仕事がなくて、いいときは疲れてぶっ倒れるほど忙しい。だけど、工賃があまりに安すぎて、夫婦二人で寝る時間もないほど縫いまくっても月30万円がやっとなんですよね。どうしたら縫製の仕事でちゃんと生計を立てられるのか? そもそも縫製の仕事でちゃんと食べていけている人がいるのか?……根本的な疑問を感じましたね」

 縫製業を10年間続けてきた中で見えてきたのは、縫製業界の危機的状況だった。中国や東南アジアと価格競争になり、どんなに安い工賃でも仕事があるだけマシという状況である。景気の問題なら我慢すれば乗り切れるかもしれないが、構造的な問題は行き詰まるしかない。

「どう頑張っても永久に報われないということが身にしみてわかったので、いっそのこと別の仕事に就こうと思いました。そんなとき、クラウドソーシングのサイトを見て、これと同じようなことが縫製でできるんじゃないか?と思いついたんです」

 伊藤氏はアトリエの経営に携わってきたとはいえ、法人化していないため厳密には会社経営の経験はない。起業するための資金もないし、ITに造詣が深いわけでもない。このときの伊藤氏と同じように、たとえビジネスアイデアを思いついても、実現することなく、思い付きだけで終わってしまう人が五万といるはずだ。しかし、伊藤氏は『nutte』を実現した。そのきっかけとなったのが、東京都が主宰する『TOKYO STARTUP GATEWAY』である。このスタートアップコンテストに出場し、伊藤氏は見事ファイナリストに選ばれたのだ。

「ビジネスの知見がない状態でも、こういうことがやりたい、という400字の作文レベルのものでエントリーできるんです。ゼロからスタートアップを育成するという支援プログラムで、ファイナリストに選ばれると、さまざまな起業家の方がメンターについて、半年ほどかけて指導していただける。そのときの私はまだガラケーを使っているようなITゼロ人間だったんですけど、まずインターネットを使った事業についてガッツリ学ばせていただきました(笑)」

原動力は、アパレルと縫製業界に対する“ルサンチマン”。仕事を依頼する側と請ける側が“選べる”ということが大事です

 スタートアップは一般的なビジネスの思考法や方法論が必ずしも当てはまらないとされている。まず大企業が狙わないような小さな市場を選び、素早く独占する。その後、しばらくの間は少数の顧客に深く愛される製品やサービスを作っていくことに専念する。改善に改善を重ね、基盤ができたところで出資を募り、広告を打つなどして一気にスケールを狙うのが常套手段とされているのだ。『nutte』の歩みを見ていると、まさにスタートアップの手法を着実に実行しているように見える。やはり計算があったのかと思いきや、実際はそうでもないようだ。

「結局、起業すると個人でできることが限られているんですよね。私の場合、まずどうすればウェブサイトができるのかというところから始まって、最初にエンジニアを探しました。たまたま私と同じく『TOKYO STARTUP GATEWAY』にエントリーしていたエンジニアが、私のアイデアに共感してくれて参加することになった。事業をスタートして10カ月目くらいまではまったくお金に余裕がない状態なので、プロモーション費用もかけられない。なんとかサイトをかたちにして地道に改善を繰り返していくことしかできないわけです。計算してやったというより、できることをできる範囲でひたすらやっていったという感じですね」

『nutte』は開発期間わずか3カ月でリリースされている。かなりの急ピッチである。さらに『nutte』の場合、ただサイトを作ればいいというものではなく、縫製職人の登録も必要になってくる。

「最小限でサービスを作って、早く世に出すということに意味があると思っていました。大概は最初のものっていろんなところがダメじゃないですか。実際、オープン当初はボタンが押せないという不具合が見つかったりもしました。世に出して、反応を見て、ダメな部分を早めに見つけて、どんどん改善していったほうがいいと考えたんです。職人さんについては、縫製職人が集まっているネットの掲示板を見つけて最初の募集をかけましたね。そしたら100人くらい集まって、一応は依頼ができるかたちが整ったわけです」

 次に重要なのが、本当にニーズがあるのかを検証すること。これに関しては、アパレル業者に営業をかけてみることにしたという。

「本来は営業目的ではなく、サービスを説明して、相手の意見や感想をヒアリングしたかったんです。そしたら、その場で仕事を依頼されたんですよね。最初のうちは、まったく宣伝していなかったので、縫うところがなくて困った人がぽつぽつ訪れるという程度でした。近年は中国で生産できなくなったものが日本の縫製工場に戻ってきていて、縫製工場もスケジュールがいっぱいで断られてしまうようです。そのため依頼したい人が一生懸命ネットで探して、なんとか『nutte』に辿りつくという感じでしたね」

 こうして市場にニーズがあることをある程度は確認できたわけだが、もともと伊藤氏に確信はあったのだろうか?

「正直なところ、わからなかったです。もちろん、私自身がずっと縫製の仕事をしてきて、切実に求めていたサービスだったので、ある程度は受け入れられるはずだと想定していましたが、どういう人が依頼するのか、今のようなサービスに成長することはまったくイメージできませんでした。ただ、職人さんからの期待や共感の声は想像以上にありました。当初はネット経由の依頼は受けないという意見も多いのではないかと考えていたんですが、ぜひ協力したい、という言葉をたくさんいただいた。縫製業界はこのままではダメだ、という業界全体の熱量を感じました。このエネルギーさえあれば、きっと上手くいく、という手ごたえはありましたね」

 ニーズが確認できたことで最初のファイナンスを行ない、その資金でリスティング広告を出した。相応の効果があったそうだが、それ以上に大きかったのがメディアの影響だったという。『インフィニティ・ベンチャーズ・サミット』(※最大級のスタートアップイベント)に出場し、準優勝を果たしたことで、さまざまなメディアに取り上げられるようになったのだ。

「ユーザーにちゃんと使ってもらえるサービスができて、ようやく資金調達が可能になるわけですが、起業後の困難でいうと、やっぱりファイナンスには苦労しましたね。そもそも縫製業界が下火なので、市場が小さそうということで、どこに相談しても断られてしまうんです。なんとか資金調達ができて、広告を打つことができたわけですけど、それ以上にメディアに取り上げてもらったことが大きかった。特に『ガイアの夜明け』(テレビ東京)と『スッキリ!!』(日本テレビ)で紹介されたときの爆発力はすごかったですね。そこで一気に個人の登録者が増えたんです」

 もともと伊藤氏の目的は、縫製職人がちゃんと生計を立てられるようにすることにある。クラウドソーシングにおける適正な工賃についてはどう考えているだろう?

「地方で縫製職人をされている方は、下手をするとワンピースを1着縫って数百円という世界だったりします。それだと1カ月フルに仕事をしても数万円が限界なので、本業として生計を立てていくことは難しいですよね。これまでの縫製業界では、取引先が決まっていて、どんなに安い工賃でも請けざるをえない状況でした。これに対し、『nutte』の利点は、依頼する側も仕事を請ける側も“選べる”ということなんです。工賃や納期が折り合わなければ、断ることができます。依頼の成約率が7割になっていますが、残り3割はそうした理由になります。極端に安い仕事は選ばれなくなるので、自然と淘汰されていって適正価格のバランスが取れていくはずだと考えています。『nutte』では実際に職人が数十万円の収入を得ることも可能になりつつあります。すごい人では月50万円ほど稼いでいるという例もあるんですよね」

 思考法や手法はあくまで目的やアイデアを叶えるための手段のひとつで、一番大事なことは、やはり個人的な“強い思い”なのだと思う。あらためて聞く、伊藤氏の“動機”とは?

「お金持ちになりたいとか、有名になりたいという動機だと、現実は辛くてしんどい局面も多々あるので、たぶん続かないと思います。私の場合は“ルサンチマン”ですね(笑)。10年以上、縫製の仕事をしてきたわけですが、基本的に請け仕事なので収入面ではまったく報われなかった……。いかに請け仕事から脱却するかというのが、『nutte』のコンセプトでもあります。今後もこれまでとは違う職人の在り方を模索していくつもりです」

伊藤悠平氏を知る3つのポイント

日々、揺り戻しを繰り返す

「『nutte』はもともと職人側のメリットを考えて作ったサービスなわけですけど、ベンチャーキャピタルを回っていると、『依頼者側のメリットは?』と問われることが多かったんです。そこでようやく社内でも議論して依頼者側のメリットを考えるのですが、そうすると早く安くできて、かつクオリティーも高いほうがいいわけですよね。それはこれまでの縫製業界と同じ構図で、職人にとってはデメリットになってしまう。そこでまた困ったな……となってメンターの方に相談しにいくと、『このサービスの価値は職人のためにある』という原点に気づかされて、また振り出しに戻るということが何度もありました。依頼者と職人さんのメリットがバランスよく両立することが大事で、どちらか一方に偏りすぎたときに揺り戻すということを繰り返しています」

諦めの悪そうな人が応援される

「もともと資質もスタンスも起業家タイプではないので、今は徐々にそうなっていくために先輩起業家から学んでいる最中です。今も暗中模索でわからないことだらけなので、とりあえず困ったり迷ったりすると、すぐに株主やメンターの方に相談に行くんですけど、みなさん快く応援してくださるんですよね。起業家としての資質が認められたというより、これまでにアパレル業界と縫製業界でいろいろと辛い経験があって、そうした業界の構造を変えたいという気持ちがあるので、『こいつは諦めなさそうだな』ということでお力添えしていただいてるんだと思います」

判断基準は「職人のためになるか」

「株主の方やメンターの方にすぐに相談するわけですが、いろんな意見やアドバイスを聞いた上で最終的に判断するのは当然、自分です。その際の判断基準は、やはり職人さんや縫製業界のためになるか。弊社のサービスの価値は、職人さんにどれだけ喜んでもらえるかということに尽きます。職人さんは同じことをやってきた仲間だという気持ちがあるんです」

取材・文●大寺 明  写真●高村征也

あなただけの縫製工場。縫製のクラウドソーシング
nutte(ヌッテ)

使い捨ての消耗品ばかりつくられる世の中で、失われていく日本の大切なものを守りたい。
そうした経営哲学の元に、縫製業再生に取り組んでいます。

日本の縫製業はこの数十年、衰退の一路を辿っています。
しかし、その技術は世界に誇れるすばらしいものです。
この技術を、まずは日本に知ってもらいたい。
そして、関わるすべての人に新たな挑戦機会を生み出したい。

そうして誰でも、日本の高い技術を手軽に利用できるようになることで、
アパレルの可能性が広がり、さらに若い職人や個人職人にも
活躍の機会が生まれ、業界全体が再建していく。
そのような未来を描いています。

『nutte』では、1200人以上の縫製職人に、洋服はもちろん、
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