元Googleのリーダーシップ開発スペシャリストが語る、ニッポンの組織の課題とは!? 日本人以上に日本を知るピョートル氏インタビュー

プロノイアグループ モティファイ株式会社 代表取締役・ピョートル・フェリクス・グジバチ ポーランド出身。ドイツ、オランダ、アメリカで暮らした後、2000年に来日。2002年よりベルリッツにてグローバルビジネスソリューション部門アジアパシフィック責任者を務め、2006年よりモルガン・スタンレーにて、ラーニング&ディベロップメントヴァイスプレジデントを務める。2011年よりグーグルにて、アジアパシフィックでのピープルディベロップメント、2014年からはグローバルでのラーニング・ストラテジーに携わる。現在は独立し、プロノイアとモティファイの2社を経営。著書に『0秒リーダーシップ』(すばる舎)、『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか』(SBクリエイティブ)。

一瞬一瞬のその場で、建設的な結果を出そうとすることが、僕にとっての「リーダーシップ」。ギャグや冗談もそのひとつです(笑)。

 Bizpowでも以前紹介した『0秒リーダーシップ』の著者・ピョートル・フェリークス・グジバチ氏の2冊目にあたる著書『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか』が話題を呼んでいる。帯のコピーに「あのGoogleが社内でやっている神速仕事術57」とあるように、ピョートル氏は2011年から2016年までグーグルに在籍し、人材育成と組織開発、リーダシップ開発に取り組んできた。しかも日本在住17年という日本ツウであり、グローバルな視点を持ちながら、日本の組織文化や日本人の特性を熟知した稀有な存在でもある。

 現在はグーグルから独立し、組織開発と人材開発のコンサルティング会社を経営するピョートル氏に、日本のビジネスパーソンの長所と短所、また組織的な課題に対するアドバイスなど、忌憚なきご意見をちょうだいすべくインタビューを試みることに。日本の組織の内側にいるとわからないことが、ピョートル氏の青い瞳をとおして浮き彫りになるはず。

 ピョートル氏は2000年に来日し、2002年よりベルリッツ、2006年よりモルガン・スタンレー、2011年よりグーグルというふうに、それぞれグローバル企業の日本支社で働いてきた。なぜピョートル氏は日本に興味を持ち、日本で仕事を続けていくことになったのか? 来日の経緯から話を聞いた。

sub_01「もともと僕は言語学者だったんです。大学で20言語ほど学んで、追加でマーケティングやプロモーションなどビジネスの研究をしていて、最初は千葉大学の研究員として来日したんですね」

――日本のどんなところに惹かれたんでしょう?

「2つの面があります。まず1つは日本の伝統文化ですよね。『わびさび』や『おもてなし』、日本食や自然とのつながりなど、いろいろな伝統文化があって、その一方で、サブカルチャーやイノベーションもある。原宿のkawaii文化もあればロボット業界もあるという非常に幅広い文化に惹かれました。観光客として見ると、とにかく日本は奥が深くて面白いんですよね。そして実際に住むとなると、インフラが整っていて安全で便利だし、食事も美味しいし、給料もそこそこ高い。だけどそれ以上に僕自身のキャリアにとって魅力がありました。自分のブランドを立ち上げるために、どこにいれば自分のエッジが一番きわだつかを考えたんです

――その「エッジ」とは、「特色」や「強み」といったニュアンスですか?

「そうですね。日本語が話せるようになって少しずつ日本に慣れてくると、自分と日本人にかなり似た部分があると感じましたが、そもそも顔が違う(笑)。その点でまず目立ちますよね。むしろチャンスだと思いました。グーグルのアジアパシフィックにいた頃、シリコンバレーに異動するよう言われたんです。グーグル本社にはおそらく3万数千人が働いていると思うんですけど、こういう顔だとあまり目立たないし、自分には会社以外の人脈もない。だけど日本には自分の人脈があって、グローバル企業の経験も活かせる。日本の良さを世界に発信していく際、何か力になれることがあるんじゃないかと考えて、日本に居続けることにしたんです」

――日本で日本人が働いているのは普通ですけど、もし外国で働いたら、日本をよく知る特別な存在になれるかもしれない。なかなかそういう考え方ができる日本人は少ないですけど、それもひとつの考え方ですね。

「逆にシリコンバレーで活躍する日本人も増えています。自分の価値や強みをきちんとわかった上で、自分に適切な場所を見つけるということを考えなければいけないと思います。僕は40歳になったとき、そろそろ自分の価値を発揮して、社会貢献がしたいと思うようになって、日本が一番それを実現しやすい場所だと考えたんです」

――逆に日本の職場でやりくさを感じたり、トラブルがあったことは?

「小さなトラブルはたくさんありましたよ(笑)。まず日本語は曖昧な表現が多いですよね。たとえば日本の会社で『検討します』と言うときは、ほとんどの場合、お断りの場合が多いですが、それを知らないと、前向きに考えてくれるものだと思い込んでしまう。そうした曖昧な表現をきちんと読みとれるようになるまで2、3年かかりましたね」

――日本語のビジネスマナーは日本人でもむずかしいです(笑)。

「敬語の失敗もありましたね。僕の歓迎会があったんですが、みんなで飲んで楽しくやりましょうということで、部長に敬語を使わなかったり、腹を割ってぶっちゃけた話をしていました。みなさんは翌朝になるとTPOをわきまえた敬語に戻るんですよね。ポーランドや欧米では、一度腹を割って話せば、言葉づかいもフランクになるし、一度ファーストネームで呼んだら、その後もずっとその呼び方を続けるものなんです。その違いがわからなくて、敬語も使わずに部長にファーストネームで声をかけたら、同僚から『それ失礼ですよ』と教えてもらったりして(笑)」

――「ヒロシ、昨日は楽しかったね」みたいな(笑)。

「あとは『空気が読めない』と言われたこともありました(笑)。クレームがあって、周りの人が深刻な様子で処理しようとしているときに、僕はギャグや冗談を言うことで、その場を明るくしようと思ったんですね。だけど、みんなと同じような態度にしていないと、失礼にあたると注意されたんです」

――目上の人への礼儀や「空気を読む」感覚は、日本の良い面でもあると思うんですけど、それによって上司や先輩に意見が言えなくなったり、会議でみんなと違う意見が言えなくなったりしがちですよね。『0秒リーダーシップ』では、まず自分の意見を言うことがリーダーシップの第一歩だとされていて、すごく納得しました。経営者やマネージャーだけに必要なことではなくて、新入社員でも誰でも「リーダーシップ」は発揮できるという。

sub_02「実はリーダーシップという言葉が、僕はあまり好きではありません。だけど、それ以上に適切な言葉がないので使っています。リーダーというと、みんなの前に立ってリードしていく存在というイメージが強いと思うのですが、名詞ではなく動詞で使ったほうがいいと思います。リーダーという立場で考えるのではなく、一瞬一瞬のその場でリーダーシップを取るか取らないかを自分で決めるという動詞で考えるんです」

――ピョートルさんが著書で書いている「リーダーシップ」にはいくつかの段階があるように思いました。会議で自分の意見を言ったり、ジョークをまじえてその場の雰囲気を変えるといったことも「リーダーシップ」だし、次の段階としては、自分がやろうとしていることを実現するために人を巻き込んでいくことや、先見の明を持ってリードしていくというリーダーシップがあるわけですよね。

「一瞬一瞬で建設的な結果を出そうとすることが、僕にとってのリーダーシップの根本なんです。いくら大きなビジョンがあっても、一瞬一瞬で建設的な結果が出せない人は、残念ながら実現できないです。日本のスタートアップでよく聞く話なのですが、シリコンバレーっぽいオフィスを作って、イケてるビジョンを持ったベンチャーだとPRしていても、中を見てみると、うつ病に近い状態の社員がたくさんいて、毎月のように人が辞めている。この会社なら自分のキャリアアップにもなるし、社会貢献もできると考えてみんな入社したと思うんですが、実際は人間関係もよくないし、業務の進め方もあやふやで、改善を訴えても鬼社長が話を聞いてくれない。こういう環境はやはりマズイですよね」

――いくら理想が高くても職場の雰囲気が悪いと、たしかにやる気をなくしますね。どうすれば職場の雰囲気が良くなると思いますか?

「たとえば、今日オフィスに来たら社員のひとりが疲れた表情をしていたんですね。そういうとき、声をかけてはいけない雰囲気になりがちですが、僕はすぐに『元気がなさそうですね』と冗談っぽく声をかけるんです。そうすると、明るい表情に戻ったりします。要は『自分を見てくれている』ということが大事で、そこから少しずつ信頼関係ができてくるものなんですね

――グーグルのアリストテレス調査では、従業員の「心理的安全性」がチームの生産性に寄与するというお話でしたね。

「そうです。グーグルはいろいろな調査をしているのですが、働きやすい会社は、平均的な他社に比べて、だいたい売上が20%以上高くて、完全にデータとして結果が出ています」

社員の「心理的安全性」によって企業の成果も上がる。マネージャーは上から目線ではなく、きちんと部下の話を聞くことが大切。

――グーグルというと「20%ルール」が有名ですが、全体としてはどのような意志統一のもと、どういう仕組みで動いているんでしょう?

sub_03「非常に複雑なのですが、シンプルに言うこともできると思います。従業員それぞれのデータを見て、それに基づいて判断するという非常にエンジニアリングの会社らしい考え方です。たとえば採用の際、どんなキャリアの人が何年目でどれくらいのパフォーマンスを出すといったデータを集めて、その理由や相関関係を研究するといったことは、グーグルの中では常識です。『人事=組織開発』という考え方が浸透していて、それを表すのが『Find・Grow・Keep』という3つの単語です。『Find』は採用、『Grow』は育成、『Keep』は定着させるということです。これがグーグルでは全社員の役割だとされています。そのため全社員が採用面接にも参加するし、お互いに教え合う制度にも自発的に参加します」

――日本の会社だと、「これは人事部の役割で、自分には関係ない」となりがちですよね。そういったところから社員の自発性が生まれている?

「グーグルの社風を仕組みとして見ると、透明度が非常に高いです。毎週金曜日に『TGIF』(Thank God, It’s Friday)という全社ミーティングがあるんです。社長も会長もステージに立って、会社の方向性のアップデートについて説明するし、世の中の人たちがまだ知らない新規事業や新製品の発表をします。それが良いニュースか悪いニュースかは別として、まず現状を説明してくれます。それに対して、誰でもマイクをとって社長や会長といったトップの方々に質問ができるんです。そして、どんな質問にも丁寧に建設的な答えを返してくれる。その質問をした人が、後から上司に怒られるようなこともありません。『誰でも気楽に質問できる』というグーグルの文化を、社長自らがロールモデルになって体制として定着させているんですよね

――著書の中で日本のビジネスパーソンが優れている点についても書かれていますよね。どういったところが優れていると思いますか?

「いくつかの面があると思いますが、まず日本のビジネスパーソンは非常に定着率が高いです。なかなか会社を辞めない。たとえば僕の知り合いにZynga(世界的ソーシャルゲーム企業)の創設者の一人がいるんですが、昨年、日本に移住してきたんですよ。シリコンバレーを引退したいと考えて、東京で会社を設立しました。なぜ日本に?と聞いたところ、理由はたったひとつでした。人材のクオリティです。特に日本のエンジニアは非常に素晴らしい。日本的な職人気質があって非常に細やかだし、ミスも少ない。『仕事が好き』というのがベースにあるので、残業もOKで、とにかく頑張ってくれるんですよね。シリコンバレーに比べて給料が低くてもそれを問題にしない。組織作りの面で見ると、本当に素晴らしい人材がたくさんいます」

――シリコンバレーの場合、高いスキルを持っていると、すぐにヘッドハンティングされたり、より給料の高い会社に転職してしまう?

「そうです。今のシリコンバレーはバブルです。新卒で年収2000万円ということもあり得なくはないし、すぐに貰えないとなると他社に移ってしまう。いつも自分の会社の外を見ていて、自分の希望に合わなければ、半年で辞めてもいいという感覚があります」

――「定着率」のほかに日本のビジネスパーソンの長所というと?

「いわゆる『おもてなし』といったお客さまへのホスピタリティが非常に高いですよね。お客さまに満足してもらうことを優先する日本の価値観は、本当に日本の良いところだと思います」

――「長所」というのは、裏を返すと「短所」だったりもします。たとえば定着率が高いということは、変化を望まない保守的な姿勢であったり、「おもてなし」の精神も、行き過ぎると過剰な対応になりかねません。何事も完璧にやり遂げようとすることが、日本人の長所であり短所でもあるようにも思うんです。その点でいうと、アメリカの企業は中途半端な状態であってもリリースしますよね。後からアップデートして改善すればいいという。日本の企業には、そうした「速さ」が欠けているようにも思うんですが。

「非常に欠けていると思います。たとえば日本のテレビのリモコンは、とにかくボタンが多い。この間、テレビを見ている最中に間違ってボタンを押してしまったんです。どうすれば元に戻るんだっけ?と必死にいろんなボタンを押しても、元に戻せなくて、すごく腹が立ちました(笑)。それに比べると、AppleTVやAndroid TVのリモコンは、ボタンが3つか4つしかなくて、操作が簡単なんですよね。「機能・性能重視/ユーザー無視」と「ユーザー重視」の違いだと思います。AppleやGoogleは、まずユーザーがどんな課題を解決したいと考えているかに着目してサービスや商品を開発します。残念ながら日系企業ががんばって似たような商品を作ろうとしても、そもそものスタート地点が違うんですね」

――たくさんボタンや機能を付ければユーザーが喜ぶというのは、日本のメーカーの思い込みだと思います。実際のユーザーは「使いづらい」としか思ってない。

「そうなんですよね。日本を代表するくらいの大企業が、そうした思い込みで動いているというのは、非常に危ない。一個人として自社製品を使ってみて、非常に使いにくいということを実感したとしても、上層部にフィードバックを伝えられないというのが、残念ながら今の日本企業に多い現状です

――あえて空気を壊してでも、自分の意見を言うということが、ピョートルさんが言う「リーダーシップ」でもあるわけですよね。

「そうですね。自分の意見を言えないというのは一つの弱点です。あと日本のビジネスパーソンに多いのが、問題点だけ文句を言って解決案は言わないことです。グーグルでもモルガン・スタンレーでも似たようなことがあったんですが、外資系企業の戦略やサービスが『日本では通用しない』と文句だけ言います。たとえば海外本社から商品なりサービスを渡されて、実際にいろいろ試してみて課題が見つかったら、こういうふうに改善してこの課題がクリアできれば、これくらいの利益が出る、というふうに新たなビジネスプランを持っていけばいいと思うんです。ビジネスマンは数字で説得されるものなので、そうした建設的なプランが提示できれば、本社を説得できる可能性が高い。だけど『日本は違うから』の一点張りで、文句ばかりなんですよね」

――そういったところを意識改革していくには、どこらへんから手をつけていけばいいと思いますか?

「マネージャーの役割を考え直すべきだと思います。スタートアップも含めて、日系企業はちょっと人が増えると、すぐにピラミッド型になりがちです。要は上に立つ一部の人だけがパワーを握っていて、現場の人たちの声を聞かなくなる。現状がどうであれ、『俺が言っているとおりにやれ』と言われると、現場の人たちは黙ってしまう。そうではなく、マネージャーの役割は『育成』だと僕は思っています。『コーチング』というと、みなさんは難しい講座を受けないといけないことのように思われるかもしれませんが、僕がお勧めしているのが、良い質問をすること。マネージャーが部下に質問をすることで、モチベーション、課題、アイデアを聞き出していくことが大切です。モルガン・スタンレーでもグーグルでも、毎週少なくとも30分から1時間をとって、1対1の面談をするんです。そうすることによって部下のために時間を作るということが習慣化されます」

――「良い質問」というと具体的には?

sub_04「部下が今抱えている問題や今後やろうとしていること、キャリアの夢でも何でもいいのですが、相手の価値観がわかるような質問です。しかし、残念ながら多くの上司は、今何がうまくいっていないのか? なぜうまくいかないのか?といった現実的なファクトのみの質問をします。そうした論理的な質問も悪くないのかもしれませんが、うまくいかない背景には、モチベーションの低下や価値観の違い、プライベートな悩みがあったりします。たとえば上司が『こういうものを作ろう』と言ったとしても、それが朝までかかるような作業だった場合、上司と部下との関係があまりよくなかったり、自分の価値観や信念と異なるものだったら、徹夜なんてバカらしい、となってやる気も出ないですよね」

――逆に「自分がやりたい」と思っている仕事だったら、長時間労働もそれほど苦にならなかったりしますよね。集中しているうちに、あっという間に時間が過ぎたりして。

「その仕事をすることで、こうした社会貢献ができるといったことを伝えるといいと思いますね。ビジョンを共有した上で、細かい部分は自分たちがやりやすい方法で実現させてください、と言われれば、みんな反発せずに働くと思います。まず根本に『心理的安全性』があって、自分らしく自由に働けること。さらに意義を感じられる仕事であればパフォーマンスは上がるはずです」

リーダーシップの基本マインドは「優しさ・厳しさ・茶目っ気」の3つ。遊び心が生まれることで、創造力や直感がより働くはずです。

――ピョートルさんが「リーダーシップの基本となるマインド」を「優しさ・厳しさ・茶目っ気」の3つだとしているのが、非常に納得しました。「優しさ」と「厳しさ」はわかりやすいですが、「茶目っ気」が大事だとはっきり言った人はいません(笑)。たしかに振り返ってみると、「いい上司だったな」と思える人のどこが好きだったかというと、「茶目っ気」なんですよね。職場の緊張感を緩和してくれるようなユーモアや親しみやすさがある人というか。

sub_05『優しさ』というのは、まず自分を見てくれているという心理的安全性が根本です。自分をちゃんと見てくれていない人に、叱られても冗談を言われても心は動かない。この『優しさ』というのは、英語でいうと『Nice(いい人)』ではなく『Kind(親切さ)』です。相手は何を望んでいるんだろう? 今はどんな気持ちだろう?と自分の頭をまっさらにしてそのまま人を見ることが大事です。忙しいとついつい自分のことでいっぱいになって、相手に相談されてもちゃんと向き合っていないことが多いんですよね。ところで、みなさんはペットを飼っていますか?」

――ペットですか……? 子どもの頃、猫を飼っていました。

「ワンちゃんでもいいですが、家に帰ったとき、どうしますか?」

――なでたりしますよね。

「同じ目線の高さになって、なでたり、目を見つめたり、ニャーニャーと声をかけたりしますよね。赤ちゃんに接するときも同じですよね。会社にいるときのTPOをわきまえた話し方をワンちゃんにはしないですよね。『ミラーニューロン』と呼ばれているのですが、哺乳類は基本的に相手の行動を見て、同じようなエネルギーを作るんです。いかに相手のエネルギーとダンスをするように動くかが大切です」

――「厳しさ」はどうですか? 今はパワハラやコンプライアンスの問題もあって、厳しくしづらい風潮もあると思うんですが。

「厳しさはやはり必要です。相手が本当にデタラメな行動をとっていたら、危ない目に合う前にフィードバックを伝えるべきです。たとえば15歳の娘がいて、家に帰ってこないで行方不明になっている。ようやく深夜に帰ってきたと思ったらお酒の匂いがしている……。危ない目に合う可能性があるので、注意すべきですよね。ただしそこには相手を思う『優しさ』があります。相手を潰すような『厳しさ』ではなくて、相手のことを思って助言する『厳しさ』が大事です。要は『優しさ』があっての『厳しさ』なんですよね」

――たしかに人格攻撃や個人攻撃みたいな「厳しさ」は、むしろ反発するだけですよね。

「たとえば『お前はバカだ』というのは、厳しさではなく攻撃です。建設的に改善してほしい点を伝えるのではなくて、相手を壊そうとしているような発言ですよね。相手の意見も聞けるような問いかけをすべきです」

――では、『茶目っ気』はどうでしょう。優秀な人ほど苦手だったりするかもしれません。

「基本的に人がどういう場所にいたいかというと、周りも自分も笑顔でいられるところですよね。心理的安全性をつくるには、人が笑い合える場を作ることが大切です。シリアスに考えすぎて、会社で冗談を言ったりイタヅラなんてけしからん、と思っている人は、残念ながら成功しません。逆に僕はチームのメンバーの誰よりも腰を低くして、いたづらをされてもいいという態度をとっていました。最初はメンバーも驚きますが、次第にメンバーも同じように自分の弱さやくだらないところも出してくれるようになります。ガンジーの言葉に『You must be the change you want to see in the world(訳/あなたがこの世で見たいと願う変化に、あなた自身がなりなさい)』という言葉がありますが、人を動かそうとする前に、まず自分がロールモデルにならないといけないんです」

――冗談を言えるような職場環境なら、問題も言いやすいですよね。さらに言うと、遊び心が生まれることで、新しいアイデアが生まれるかもしれません。

sub_06「おっしゃるとおりです。『茶目っ気』というのは、創造力の源泉だと思うんです。グーグルにいた頃、僕が神社好きだということをメンバーが知っていて、みんなでピョートル神社をオフィスに作ったんですよ(笑)。僕がオフィスにいる時間にそれを作っていると驚かせられないから、3時間も残業して作っているんです。それだけ実行したいという気持ちがあるなら、次のプロジェクトでもそのときと同じような気持ちが湧いてくる可能性もなくはない。マネージャーとしては、目標に向けて遊びのような時間を作りながらマネージメントしていくことも大事です」

――なぜ一人ひとりに「リーダーシップ」が求められるかという点では、世の中が指数関数的に速くなっている今の時代では、一人ひとりが自分で判断し、自発的に行動していくことが重要だとされていますね。そのためにも、自分たちがどこに進もうとしているのかを見極める「先見の明」が求められてくると思うのですが。

「これまでどおりの経済と産業の時代なら、同じようなことを効率よく続けていけばいいと思うんです。上司が『右に行け左に行け』と指示して、部下はそれに服従するだけで十分ですよね。ナレッジエコノミーだとそれプラス専門的知識があればいい。だけど、今の世界の変化は速すぎるんです。日系企業の中でもIT系のベンチャーは新しい考え方を持って速く動けるようになっていますが、残念ながら大手メーカーにはそれがない。いまだに巨大な船のような感じで、ちょっと方向を変えるだけで何日もかかる……」

――稟議書を通すだけで大仕事になりがちですよね。

「今何もしないでいることが一番のリスクです。これをやっていかないと将来これだけ損をするとか、この問題を解決することで新しい価値が生まれるといったことを考えて、そこにエネルギーを注げる人たちはリーダーシップがとれるはずです。そのためには、情報を集めて、過去はこうだったけど、将来はこうなるかもしれない、という直感を働かせることが大事です。むしろ僕は若い世代に期待しているんです。『ジェネレーションY』や『ゆとり世代』と呼ばれる世界的な若者たちの傾向がありますよね」

――すべてが満たされた中で生まれ育ったとされる世代ですよね。

「彼らは我々40代くらいの人たちと比べると、大きな組織のストラクチャーで固定観念どおりに動くというより、社会貢献であったり、単純に面白いことであったり、新しい価値を求めているんですね。そして実際にアンテナの感度も高い。『ゆとり世代』というように、家もあるし物もそろっていて、バイトでも普通に生活できるのに、なぜ鬼課長に怒鳴られる必要があるのか? 僕も個人的に納得できません(笑)。ただ厳しくしようとするから、辞めてしまうんですよね。ある行動に対して、こういう可能性もあるけど、こういうリスクもあるというふうに建設的なフィードバックを伝えていけば、彼らのモチベーションも上がるはずです。自分を成長させてくれる上司であれば、彼らはかなり自発的に動きます。グーグルの社員もやはりみんな若くて、必死で働いているんですよね」

――グーグルの社員は、すごくたくさん働いているものなんですか?

働くということは単純に時間の問題ではありません。二人の社員がいて、一人は12時間働いて、もう一人は5時間しか働かない。それで同じ結果を出しているなら、それでよいと思うんです。たとえば、グーグルの管理職には基本的に決められた就労時間がありません。あなたはプロフェッショナルだから、自分の時間は自分で管理してくださいということです。給料やボーナスは労働時間ではなくて、パフォーマンスと結果に基づいているので、極端な話、会社に来なくても結果さえ出していれば誰も文句は言わない。今日は誰にもジャマされずに集中したいから、一日中、家でパジャマのまま戦略を考えるということも、べつにおかしなことではないんですね。仕事とは、ここからここまでやると決めて結果を出すことです。とにかく残業を減らせばいいという最近の日系企業の考え方は間違っていると思います」

――ピョートルさんは2冊目の著書で、自分の仕事の時間を短縮することで、いろんな趣味を持ったり、外部の人に会いに行くことが大切だとされていますよね。楽をしたいということではなくて、空いた時間を次のチャレンジの準備に充てるべきだと。

sub_07「僕は今、コンサルタントと管理職の育成業務を持っていて、次にベンチャー、その次に執筆があります。かなり時間がないんですけど、面白そうなプロジェクトに誘われれば、余裕があれば加わるようにしています。自分の将来を作る、直感を磨く、学ぶ、人脈を作る、プラットフォームを作るなどいろんな目的がありますけど、マネタイズは3割くらいです。サラリーマンにはこうした時間の使い方がなかなかできないものなんですよね。だけど、ハイパフォーマーといわれる人は日常業務を短時間でこなし、成果を出した上で空いた時間で勉強をしたり、人脈を作ったり、何かしら次につながる行動をしています。僕自身、これまでいろいろ新しいことに挑戦してきましたが、結果だけ見ると7割くらいのプロジェクトは、結局、お金にならなかったり、商品化できなかった。だけど、僕にとっての“成功”の定義は、次の選択肢が増えることなんです。たとえ無償でも、新しい人脈や新しいスキル、新しい可能性が生まれるなら、それはもう成功だと思っています」

――本日は貴重なお話、ありがとうございました!

ピョートル氏を知る3つのポイント

少年時代

「今思うと、かなり変わった子どもだったかもしれません。非常に世界に興味があって、ずっと地図を見ていたんです。この国はどんな国だろう? この地域の人たちは何をして生きているんだろう?と想像を膨らませていて、いろんな国の人と接するには、言語を学ばないといけないと思って語学に興味を持ちました。だけど、僕が住んでいたのは小さな村で、周りは高校に行かない人ばかりだった。隣の大きな村の学校に通うようになったんですけど、そのときにイジメにあったんですよね。僕はわりと勉強ができるほうだったんですけど。クラスにもう一人、勉強ができる子がいて、自分より勉強ができる僕にコンプレックスがあったらしく、仲間を引き連れて嫌がらせをするようになったんです。下校中に10人くらいに囲まれてボコボコにされて、血を流しながら帰ったりしていました。辛いと思ったけど……戦える。こいつらは僕の身体を鍛えるための練習台だと思っていました」

青年時代

「18歳のときにポーランドを出て、国外で生活するようになったんです。高校も辞めて、ドイツの建設業界で働いてお金を稼ぎました。そのとき『さらに次に行かないといけない』と気づいたんですよね。Aという悪い状況からBという良い状況に行ったとしても、安心できる状況がいつまでも続くわけではない。初めてドイツに来たときは、ここにさえ来れば自分は永遠に幸せになれると思っていたのですが、一つ階層が上がると、その幻想はなくなります。12歳くらいの頃にアメリカ映画を観て感じたことは、医者や弁護士や起業家といったお金持ちは、みんなハーバード大学のような高い教育を受けているということでした。次はその人たちが持っている資格を取らなくてはいけないと思いました。常に自分がどこに進むべきか、考え直すメンタリティができあがっていきましたね」

これから日本でやっていきたいこと

「僕はすごく日本のみなさんに優しくされて、たくさんチャンスをもらいました。僕の根本には、日本に恩返しをしたいという気持ちがあります。これから一緒に組もうと考えている経営コンサルタントの石原明さんに言われたのですが、僕のような外国人だと『日本人が言いにくいことでも平気で言える』と(笑)。わりとみなさん優しく聞いてくれるんですよね。そう考えると、もしかしたらメッセンジャーや触媒であることを自分の役割にすれば、日本に貢献できるかもしれない。日本経済が弱くなっているといっても、今も日本は経済大国です。日本経済が危なくなると、全世界に大きな影響があります。逆をいうと、日本を元気にすることで、世界中の国々に貢献できるとも思っているんです」

取材・文●大寺 明  写真●高村征也

グーグルの個人・チームで成果を上げる方法
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ピョートル・フェリークス・グジバチ/著
SBクリエイティブ/発行 1400円(税別)

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