2015年の正社員比率50%の時代に、安心して働けるインフラを。クラウドワークス代表・吉田浩一郎インタビュー

株式会社クラウドワークス 代表取締役社長兼CEO 吉田浩一郎
株式会社クラウドワークス代表取締役社長兼CEO吉田浩一郎 1974年兵庫県神戸市生まれ。東京学芸大学卒業後、パイオニア、リード エグジビジョン ジャパンを経て、ドリコム執行役員として東証マザーズ上場を経験した後、2007年に独立。ベトナムで事業を展開する。2011年11月に株式会社クラウドワークスを創業。日本初の本格的クラウドソーシング・サービスとして急成長を遂げ、『日経ビジネス』の「日本を救う次世代ベンチャー100」に選出。著書に『世界の働き方を変えよう』(総合法令出版)がある。

2015年には正社員比率が50%をきる!? 企業と個人を結びつける新たなワークスタイルとは?

 プログラマーやデザイナーといった専門的スキルを持った人に頼みたい仕事がある。あるいは、データ入力やテープ起こしといった早急に頼みたい仕事がある。しかし、どうやって人を探せばいいのかわからない……といった場面が多々ある。これまでは専門会社に連絡するか、人からの紹介に頼るばかりだったが、今ではクラウドソーシングで直接探すという方法がある。ネット上に依頼内容を公開し、それに適したスキルを持った人が応募するというWEBサービスだ。

 1998年にアメリカの「Elance」が開始したこのサービスは、2005年に設立された「oDesk」によって急激に拡大した。2013年末に両社は合併し、累積募集金額は数百億円を超す。また、中国の「zhubajie(猪八戒)」やオーストラリアの「Freelancer.com」のユーザー数は数百万人に達しており、クラウドソーシングは今や世界的な動きとなっているのだ。世界全体のクラウドソーシング市場は、2013年で3000億円にのぼり、2018年には1兆円規模にまで成長すると予測されている。

 このクラウドソーシングを日本で本格化させたのが株式会社クラウドワークスだ。2011年11月の設立からわずか2年ほどで会員数は10万人を突破、依頼総額60億円という急成長を遂げた。ユーザーの中には半年で500万円もの収入を得ている人もいるそうだ。代表の吉田浩一郎氏は「オークションサイトの登場によって起きた個人間の商品売買が、そのまま人のスキルでも売買が行われるようになった」と説明する。

「従来は企業が人材を調達しようとすると、相当な時間がかかったわけです。派遣社員であっても2、3カ月はかかりますし、外注するにしても何度も契約書を交わすなど2、3週間はかかった。それがクラウドソーシングであれば、最短15分でマッチングして仕事を依頼できます。新幹線のチケットをネットで予約したり、ヤフーオークションで商品を購入したり、あらゆるものがオンライン化していますが、ようやく人材に関しても同じことが起き始めているのです」

 これまで、出版業界などフリーランスが一般的な業界を別にすると、企業が個人に仕事を依頼することは滅多にないことだった。企業から仕事を受注するには、まず法人化して社会的信用を得る必要があったのだ。『21世紀の新しいワークスタイルを提供する』をミッションとするクラウドワークスは、まず旧来の企業と個人の関係から変えようとする。

「企業間取引でなければいけないという商習慣は、“正社員一択”という20世紀の枠組みによるものです。企業の人は信用でき、個人事業主は社会的な保障がない人、という文脈です。しかし、これだけ市場が成熟してくると、正社員以外でも高いスキルを持った人は世の中に膨大にいますよね。企業がこのリソースを使わない理由をあらためて考えてみると、実はほぼないんです。ある程度の品質が保障され、きちんと発注できる仕組みがあれば、双方にとって非常に便利なはずです。私たちの事業はこのプラットフォームを提供することです」

 クラウドソーシングの普及は、時代の要請でもあるだろう。企業の平均寿命が35年となった今、正社員になることよりも、自身の能力を高め、企業に依存しない生き方を選ぼうとする人が徐々に増えはじめている。

「2015年には正社員比率が50%を切ると言われていますが、抱える人材を抑えて固定費を削減するというトレンドは避けられないように思います。そういったときに、残り50%の人が安心して働けるようなインフラを提供することが急務だと感じています」

 クラウドワークスが創業した2011年は、あの東日本大震災が起きた年だ。一見、直接的な関係はなさそうに思えるが、時代背景として大きな関わりがあると吉田氏は考えている。

「ゼロ年代というのは、まだ正社員一択の価値観が根強く、非正規雇用をなくすことがいいとされていました。しかし、3.11以降、ずっとあると思っていた会社が突然なくなることが日常的になってきました。いざというときは、会社よりも家族の方が大切だという価値感や、不安を抱えてまで家から離れた都心で働く正社員に固執する必要はあるのかと、多くの人が“個人”であることを意識し、働き方自体を考え直そうとしたタイミングだったんです。そうした時代背景もあり、企業も個人に仕事を発注することにポジティブになりはじめた。クラウドソーシングは個人にフォーカスしたサービスですが、3.11以降の時代背景があったからこそ、受け入れられたのではないかと考えています」

 私たちが東京で暮らす大きな理由は、そこに仕事があるからだ。地方に移り住むといった新たな選択をとろうとしたとき、壁となるのも仕事である。しかし、もし地方にいながら東京にいるのと同じように仕事ができるようになれば、私たちの選択肢ははるかに広がるはず。地域活性化にもつながるだろう。

「クラウドワークスの利用者で東京同士の受発注は13%です。残る87%は東京以外の方なので、直接会わずに仕事をしているケースがほとんどだと思います。やはり時間と場所にとらわれない働き方というのは大きな意義だと思っていますね。経済産業者をはじめ、ソニー、伊藤忠商事、富士フィルム、ヤマハ、TBSといった大手企業にもご利用いただいていますが、高い評価をいただいています。企業が個人に仕事を発注する際にネックとなる信用問題についても、業務委託契約書やNDA(秘密保持契約)をサービスを通じて締結できるので、なんら支障はありません。要は旧来の企業慣習だけが障壁なんです」

クリエイターを応援していきたい。起業家の原点にある“演劇”で培われたプロデュース力

 クラウドワークスには一般的な仕事マッチングである「プロジェクト形式」のほか、一つの案件に対し、複数の人が共同で作業を進める「タスク形式」や、ロゴ作成やネーミングといった募集に対し、複数の人が応募できる「コンペ形式」がある。実績がなくとも制作物を発表できる「コンペ形式」は、クリエイターにとって仕事をアピールする絶好の場になってくれるだろう。吉田氏には「クリエイターを応援していきたい」という気持ちがあるという。その原点となるのが、大学時代に打ち込んでいた“演劇”だ。

cw_sab2「演劇のときのマインドは今もけっこう残っていると思います。大学時代には演劇の他に写真や映画をやったりもしましたが、あまり人から評価されることはなかった。しかし、役者をマネジメントしたり、プロデュース側に回ると評価されることが多かったんです。そういう意味では、スタジオジブリでいうと宮崎駿さんではなく、私は映画プロデューサーの鈴木敏夫さんのようなタイプだと思うんです。ドリコムの役員だった頃は、優秀なエンジニアを社会に売り込んでいくぞ!という感覚でしたが、今はさらに大きくなって、日本中、世界中に眠るあらゆる才能を発掘し、活躍する場を提供したい。個人の力をエンパワーメントしていきたいという思いを持っています」

 吉田氏がビジネスの世界に進んだきっかけも演劇時代の挫折体験によるものだった。自分の劇団を旗揚げし、最初の公演を「廃墟」で行おうとしたのだが、土壇場になって廃墟を使用する正式な許可がとれていなかったことが判明。努力が水泡に帰し、200万円の借金まで背負ってしまった。この経緯は吉田氏の著書『世界の働き方を変えよう』(総合法令出版)に記されているのだが、このとき吉田氏は「自分のやりたいことをやるには、まず契約とお金のルールである社会を知らなければならない」と痛感し、パイオニアに就職することを選んだ。

「その頃は起業や経営といった知識がまったくなくて、違う属性の人たちがやっている自分とは関係のないことのように感じていました。ただし、演劇のようにゼロから立ち上げて自分で何かをやりたいとはずっと思っていたんです。それが振り返ってみると、経営者のことだったんだと後になってわかる。そうした選択肢があることを、もっと早く学校で教えてくれよ、と思いましたけどね(笑)。演劇の中でも歌も踊りもあるオペラは総合芸術だとされていますが、経営も同じようなところがあって、営業のことも金融のことも制作のことも知らなければいけない。演劇でいえばオペラに憧れるというか、私には一番難しいことをやりたいという気持ちがあるんです」

 吉田氏はパイオニアでトップ営業マンとして活躍した後、展示会主催会社のリード エグジビジョン ジャパンを経て、ドリコムの執行役員として東証マザーズ上場を経験。株価は跳ね上がり、急激に人も増えた。しかし、組織のひずみがあちこちに現われはじめ、「成功の形」と信じて追い求めてきた世界が、想像とはまったく違っていたことにうちのめされたことから、起業を思い立つ。

「最初の会社は自分の貯金と国民金融公庫から融資を受けてスタートしました。事業がちょっと黒字になってくるとまた別のビジネスを立ち上げるといったことを5つほど繰り返していたましたが、ふと立ち止まると、お金は儲かっているけど、それぞれの事業は業界ナンバーワンというわけでもなく、何かを変えようとしているわけでもない。単に生活のために会社をやっている状態だったんです。そこに幸せや充実感を感じることができなかった。そのとき初めて、自分が求める充実感というのは、日々のお金が入ることだけではないと気づいたんです」

 ひと頃は多少贅沢にお金を使ってみることもした。しかし、車を買ったり、高級ワインを飲んだりすることに、吉田氏は価値を見出せなかったという。次第にお金のありがたみは薄れていった。そんなとき、信頼していた役員がクライアントとその仕事をそっくり持って独立してしまう。失意の中、吉田氏は現状の事業を漫然と続けることに見切りをつけ、「自分は何をすべきか」を自問し続けた。

「結局、自分の強みを活かしたことをやっていくしかない。その上で、世の中が変わるようなきっかけに対して貢献していきたい、と思うようになったんです。そこで、世の中の一番大きなパラダイムシフトはなんだろう? ということを探していくうちに、欧米で普及しつつあったクラウドソーシングに出会ったんです。このビジネスであれば、自分の強みを活かせると確信しました」

 その“強み”とは、先に述べた吉田氏の“プロデュース力”だろう。遠回りすることになったが、「そのおかげで考える土台ができ、今は安定した経営ができている」と吉田氏は言う。そして、「人生はフィフティ・フィフティですよ」と笑顔を見せた。

経営者の仕事はステージによって異なる。今は2年後に何が起きるかを想像することが仕事です

 クラウドソーシング事業に「すべてを賭ける」と決意した吉田氏は、全財産の2500万円を投入した。車も売り払い、持ち家もなく、事業に失敗したらそれこそ一文無し。自分の持てるものを全て差し出すことで「覚悟」を示そうとしたのだ。

cw_sab1「正直なところ、その後に3億円ほど資金を調達していますから、おそらく元手がなくても起業はできたと思うんです。でも、そうではなく、自分で稼いだお金を社会のために使う覚悟があるという“示し”として必要でした。役員として上場を経験しましたが、そこで私自身の実力は量れない。経営者としての信頼はゼロに近いものだったと思うんです。それまで社長としてやってきた実績として貯めた2500万円で勝負させてください、ということなんです」

 新たなサイトを起ち上げるにおいて、吉田氏はあらゆるサイトで成功するか否かのカギを握っているのは“盛り上がり感”だと考えた。そこで吉田氏は個人投資家の出資を受け、一気にスタートアップすることを試みる。

「会社には自分のお金か融資で粛々と事業を進めていく中小企業と、出資を受けてスタートアップするベンチャー企業がありますよね。前者の第一の目的が利益を出すことだとしたら、後者は外部の出資を受け、さらに出資者の力を使った上で、新たなサービスや新しい文化を短時間で作り、世の中を変えていこうとすることです。Facebook、Twitter、PayPalといったトレンドは出資によって一気に世の中に広めることができたからです。私自身、それまで融資と出資の違いがよくわからなかった。投資家がどういった人たちなのかわからず、なんとなく怪しいと感じていたんです。世の中の人はそういったことをあらためて教えてくれないものなんですよね(笑)」

 出資を受けることで投資家に口をはさまれることを毛嫌いする経営者もいるが、吉田氏はアドバイスを真摯に受け止め、積極的に経営に活かそうという考えだ。

「先人たちが作ってきた社会の仕組みという文脈があります。出資というのは、そうした文脈を引き入れる行為だと考えています。また、人々の気持ちの積み重ねによってできている社会の文脈というものもあります。たとえば、お金の価値にしても社会的な価値はあまり変わっていませんが、個々人のお金に対する価値は相対的に下がってきていると考えています。昔は年収1千万円を目指したり、何がなんでもお金が欲しいという人が多かった。でも今は、お金の話や車の話をしても、それほど興味を示さない人が増えましたよね。当然、誰しも稼ぎたいと考えているわけですが、お金を理由にして会社選びをしなくなってきている」

 では、仕事においてお金よりも大切なものとはどういったものだろう? クラウドワークスで仕事をする人々の働き方に、そのヒントがあるのかもしれない。

「一件あたりの受注額が1千万円や億といった額ではないので、すべてを投げ打ってまでその仕事をやるという感じではないですよね。だから、“やらない”という選択肢もあるわけです。一昔前はクライアント・ファーストでした。しかし今は、お金の多寡ではなくて、納得できるとか信頼し合えるとか、あるいはムチャを言わないといったことが、クライアントに対するウェイトとして高まってきています」

 他の仕事マッチングサービスでは、クライアントとユーザーが直接、連絡をとって取引することを禁じているが、クラウドワークスではそれほど厳密に禁じているわけではないという。

「契約上は最低限、禁止していますが、厳格な取り締まりは行っていないというのが正確なところです。今の時代、名前を教えてもらうだけでFacebookやTwitterで検索ができ、禁止したところで連絡をとる方法はいくらでもありますよね。『北風と太陽』という童話がありますが、私たちのサービスは太陽でありたいと思っているんです。20世紀の仕組みは、情報を遮断してマネジメントするという、いわば北風でした。それは相手を信用していないということですよね。そう考えたとき、私たちのサービス作りの根幹は、ユーザーを信用する“善”でありたい。人を信用したサービス作りの方が伸びると考えているんです」

 経営者としての組織作りにおいても、役職にとらわれず、「ユーザーについて考え、提案・改善した人が一番えらい」というフラットな方針をとっている。吉田氏にとって会社とは、人々が毎日働くための“公器”であり、経営者のものではないという考えだ。社長であってもチームの一つの役割と捉え、自分よりも相応しい人がいれば、いつでも代表の座を譲るつもりでいる。むしろ「社長はちょっと損をしているくらいがちょうどいい」と吉田氏は言う。

「経営者としてやるべきことはステージによって異なります。1年目は自分が思い描いているイメージを形にすることでした。まず、他とは異なるWEBサイトを作り、クライアントが増えていくことを目標にしました。2年目は、サイトがオープンしたので、営業サポートやクライアントへの営業を解禁しました。第1のステージはこうした筋道作りです。そして第2のステージは、組織としての目標を作ることです。サッカーが世界中で流行っているのは、ルールとゴールが明確だからです。会社も同じです。営業がフォワード、開発がミッドフィルダー、管理がディフェンスといったように役割を決めて、チーム全員で協力してゴールに点を入れるという目標を作っていく。その上で、質の高い仕事をする人の雇用を増やし、全体のクオリティを上げていくことです」

 そして3年目に入った第3のステージは、経営者として「次に何が起きるかを“想像”すること」だと吉田氏は言う。

「今は2年後を想像しながら経営をしています。組織や事業の運営は人に任せ、私は見ていません。現状の事業も含めた上で人材のパラダイムシフトが1年後、2年後どうなるかということを、もう一度、想像する作業に専念しているんです。これまでの挫折や失敗を教訓として培われてきたモットーは、変化し続けること。今の世の中は、常に激変する可能性をはらんでいて、1年後2年後がどうなるか、誰にもわからないと思うんです。あらゆる状況を想定して、今あるものをすべてリセットする覚悟を持って変化を恐れないことです」

吉田浩一郎氏が大切にしている3つのこと

経営者にとって大切なこと

「最悪の状況を想像することです。不安の元となっている最悪の状況を想像できると、不安も軽減されます。幾度となく困難にぶつかっていくうちに慣れてきて、たとえ今あるものを全て失うような最悪の状況になっても、『死にはしない』と開き直れるようになってくる。そういう感覚がけっこうありますよね(笑)」

会社の行動指針

「会社概要にある7つの『行動指針』は、創業メンバーがそれぞれ大切にしている信条をまとめたものです。最初に『わくわくしよう!』がありますが、それは私自身、営業職が長かったので、数字や目標に追われる生活を送ってきたからなんです。数字を達成するか否かが自分の評価だというのは、今振り返ると、本当に辛かったと思っていて、どこかしらでわくわくしていることが仕事において大切だと思っているんです。自分が切羽詰ってわくわくしていないと、それに触れるユーザーにも伝わって、わくわくしないものだと思うんですよね」

趣味

「特にないです。やっぱりいろんなものを捨ててますから。社会を変えたいとか、多くの人に共感されたいと思ったら、他のことはほとんど実現できないものですよ。昔の経営者の方は、自分がやりたいと思ったことはなんでも実現するというタイプの方が多かったと思うんですが、私は天才ではなく、普通の人間です。ただ人より熱意があって、そこに人が集まってくれる。それが自分の能力だと思っていて、それを維持し、伸ばすことに集中しています」

取材・文●大寺 明


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