世界を変えるためのプロジェクト。Sansan株式会社社長寺田親弘インタビュー

Sansan株式会社寺田親弘
1976年東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、99年に三井物産株式会社に入社。情報産業部門にてコンピュータ機器の輸入、システム開発、JointVentureの立ち上げに従事した後、米国シリコンバレーに転勤し、米国最先端ベンチャーの日本向けビジネス展開を担当。帰国後、社内ベンチャーの立ち上げやセキュリティ関連会社の出向を経て2007年に退職し、4人の仲間とともにSansan株式会社を創業。2011年にThe Entrepreneurs Awards Japan U.S. Ambassador’s(駐日米国大使賞)を受賞。

自身の問題意識から生まれた
「営業を強くする名刺管理」

世界では3億人が名刺を使い、年間100億枚の名刺が流通しているという。この「名刺」が持つ可能性に着目し、「クラウド名刺管理サービス」を提供しているのが2007年創業のSansan株式会社だ。
これまでにも名刺管理ソフトはあった。しかし、スキャンをして読みとる面倒や文字認識ソフトの不正確さもあり、あまり浸透しなかったのも事実。なぜなら電話番号やメールアドレスは一字違っただけで情報としてまったく意味を成さないからだ。
これに対し、同社が提供する「Sansan」はスキャンされた名刺をオペレーターが二重で手入力し、入念にダブルチェックをすることで100%の正確さを実現した。しかも、スマートフォンのカメラでも名刺を登録できるという手軽さだ。代表の寺田親弘氏は、「簡単で、早くて、正しい」という三つのファクターを徹底させたのである。
さらに、「Sansan」の本領が発揮されるのは名刺がネットワーク上にデータベース化された後になる。コンセプトとして「営業を強くする名刺管理」と銘打たれているように、社内の名刺交換の記録が共有されることで、顧客アプローチの効率化につながるという画期的なサービスを提供しているのだ。現在、このサービスの導入社数は1500社を超え、さらに市場を拡大しつつある。
古くからあった名刺というものを、新たなビジネスチャンスに変える。寺田氏は、このビジネスモデルをどのようにして思いついただろうか?

「私自身が名刺管理に困っていたというシンプルな理由があります。会社に入ると山ほど名刺をもらいますよね。その管理方法はいかにも前近代的な方法しかありませんでした。しかし、それでいいや、とおざなりに出来るような情報ではない。大切な情報だから捨てるわけにもいかず、非常に無駄が多いと感じていました。会社員時代は先輩から電話がかかってきて、『机の上にある名刺の束から○○さんの名刺を探して電話番号を教えてくれ』ということがよくあったんです。周りの誰もが名刺管理の厄介さに困っていたわけです」

寺田氏は1999年に三井物産に入社し、その3年後にアメリカのシリコンバレーに転勤となり、現地ベンチャーの日本向けビジネス展開を担当した。このときの問題意識も発想の原点となったようだ。

「もう一つ理由があります。たとえば、私がある商品をメーカーに売り込もうと考えたとします。いきなり代表電話に連絡してライトパーソンにつながる可能性は非常に低い。そこで、同僚に○○メーカーで知っている人はいないか?と聞いてまわるわけですが、それも限界がある。どうにか社外の人脈を使ってライトパーソンに会いに行くと、『御社のIT事業部のAさんは昔からよく知ってますよ』と言われ、後でAさんにその話をすると『言えば紹介してやったのに』となる。商社時代、こうしたことが実際によくあったんです」

もし、名刺をネットワーク上にデータベース化できる仕組みがあり、名刺交換の記録を共有することができれば、この問題は解決されるはず。寺田氏はそう考え、「クラウド名刺管理サービス」の事業化を思いついたのだ。

「日本中、世界中で同じ問題がとりざたされていると思います。そこにビジネスとしての奥行きを感じました。三井物産時代に新規事業や新しいビジネスを考案する役割を担っていましたから、これに限らず、常にいろんなアイデアを考えていました。その中でもクラウド名刺管理サービスは、自分がエンドユーザーとして考えても必要性が感じられた。自身の問題意識とビジネスの可能性の両方が見えたので、この事業ならいけると確信が持てたんです。自分の問題意識から語れる事業は、人を巻き込んでいく際に説得力が増しますよね」

まず個人的な問題を解決しようと考え、そこから新たなマーケットを生み出していこうとする寺田氏の発想には、一年間で100社以上のベンチャー起業を訪問したアメリカでの経験が少なからず影響しているようだ。

「アメリカで立ち上がってくるベンチャーというのは、こういう発想で世の中を変えてやろうとするプロジェクトなんです。それがダメであれば、会社自体も解散。そうした会社の在り方があたり前です。一方、日本で経営というと、会社は社員の生活を背負っているのだといった考えが主流です。元々、そうした考え方が私は苦手でしたが、アメリカでの経験によって、さらにそのギャップを感じることになった。また、実際にイノベーティブなものを生み出している事例を日米比較すると、やはりアメリカの方が圧倒的に多い。自分の仕事観をつくる上で、アメリカのベンチャーの在り方を見た経験は、非常に重要だったと思います」

「彼らがいたから世の中は変わった」そう言われるような会社にしたい

これまでの経緯を聞くと、「クラウド名刺管理サービス」という新アイデアを思いついたことで、三井物産を退職してまで創業に踏みきったと思われるかもしれないが、理由はむしろ逆となる。経営者だった父の影響もあり、寺田氏は小学生の頃から将来は起業しようと心に決めていたという。

IMG_1400「三井物産に入社しようと考えたのは、グローバルな視野を身につけた全般的なビジネスの実力をつけたいと考えたからです。いずれは退職して起業しようという気持ちが先にあり、クラウド名刺管理サービスがきっかけだったわけではありません。入社3~5年目で起業するつもりでしたが、結局8年間、会社の世話になり、そろそろ本来の目標に向かうべき時期が来たと考えてのことです。クラウド名刺管理サービスについては、入社1年目で企画書を書いていましたが、そのときは自分でやろうとは思わず、会社の一事業として考えていました。退職を決めてから、以前ビジネス化できなかったこの事業を自分でやってみようと思い立ったわけです」

きっと寺田氏は「クラウド名刺管理サービス」でなくとも、何かしら新たな事業で創業していたことだろう。そうした志の原点となるのが、幼い頃の戦国武将への憧れだったという。

「小学生の頃、戦国時代の本が好きでした。天下を取ろうとする志がすごいと感じていたんです。おれも天下を取りたいと子ども心に夢見ていましたが、戦争という力ずくの手段で天下を取る時代ではないことは、もの心がつけばわかるわけです。そこで、父が事業をやっていましたから、現代において世界に通用するには、大きな事業を創ることなんだと思うようになったんです」

そして実際に30歳という若さで起業し、「クラウド名刺管理サービス」をかたちにするために必要な人材を口説いてまわり、コンセプトメイクやユーザー価値を高めるといった様々な努力を重ねた。その過程で寺田氏は「本来、自分が何をしたいと考えているか」をさらに突き詰めていった。

「Sansanという会社があったから、世の中はこう変わったよね。そう言われるような会社にしたいということなんです。それは、創業前にメンバーが集まったときから話していました。アップルのように、彼らがいたから世の中が変わったという事業もあれば、彼らがいなくても、いずれ誰かがやっていただろうという事業もある。商社の仕事はどちらかというと後者でしたが、私がやりたいことは前者です。それを意識しだした頃から、子どもの頃からあった野心みたいなものが、何を意味するかが明確になっていきました」

寺田氏は経営者であることに価値を置いていない。あくまで、イノベーションを起こすために会社という組織を作ったとのだと考えている。

「とかく日本では経営というと神秘的な響きを持っていて、ちょっと強調されすぎのように感じます。日本の一般的な経営感というのは、私の印象では会社を経営するために事業をやっているように見える。そのためにはイノベーションも必要だよね、くらいの感覚です。しかし、私の価値観では、イノベーションのために事業があるのであって、その事業のために経営がある。本来イノベーションとはそういうものだと思うんです。だから私は、経営者である前に事業家でありたいし、事業家である前にイノベーターでありたい」

「クラウド名刺管理サービス」が軌道に乗りはじめ、会社の業績も順調に伸びていた頃、はたから見れば順風満帆といったところだが、気持ちが大きく揺らいだことがあった。

「会社を作りたかったのか、社会をなんらかのかたちで変えたかったのか、経営者となってから二度三度と葛藤しました。そのつど心の中を振り返って自分の原点を確認してきたんです。世界を変えたいのであれば、もっとリスクを取って突き進んでいかなければいけない。実際に自分が経営するにあたっては、会社運営とイノベーションの両方が重なる部分でやっていこうとしますが、重要な意志決定が迫られた際には、どちらを優先するかが曖昧になっていると中途半端な意志決定になってしまう。それによって会社自体の存在意義が大きく変わってくるものです」

Sansanでは、平日と土日を振り替えて出勤できる制度「どにーちょ」や、在宅勤務制度「イエーイ」など新たな働き方を取り入れている。また、徳島県神山町の古民家をサテライトオフィスに改造した「神山ラボ」で、田舎に滞在しながら仕事ができるという興味深い試みもあり、従業員にとって居心地のいい環境を整えているように見えるが。

「私たちのミッションとして『ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する』と宣言していますから、私たち自身も働き方を変えていくことにチャレンジしようという発想はあります。ただし、それが使命だとは思っていません。『どにーちょ』や「イエーイ」は、組織的な課題をどうやったら解決できるかを考えた末に作られた課題ベースのものであって、あくまでSansanの目指すべきビジネスモデルに最適化しようとした結果なんです。居心地がいいかどうかはわからないですが、仕事に集中したい人には居心地がいいということなんでしょう。弊社は従業員のコミットが極めて高いですから、そこでサボろうという人がいない。だからこそ出来る制度なんです。逆に、仕事がしたくない人には居心地が悪いかもしれない」

Sansanは世界を変えるためのプロジェクトであり、それができなければ即解散。寺田氏は全社員にそう伝えているそうだ。また、寺田氏自身もこのビジネスモデルが成功したからといって、一生そこに安住するつもりはない。イノベーターとしての役割を終えることができれば、別の経営陣に任せ、また新たなイノベーションに移りたいのだと話した。

“とらわれない”ことがモットー
それが、会社のDNAになっている

寺田氏が考える、世界を変えるほどの“イノベーション”とはどんなものだろう? たとえばそれは、銀行を例にとるとわかりやすい。ヨーロッパ最古の銀行は1406年にイタリアで始まったが、それ以前は家に現金を保管するのがあたり前で、人にお金を預けることに誰しも疑問を抱いたことだろう。

「まず、ビジョナリー(先見の明のある人)が出てきて、みんなに銀行の有用性を説明したと思うんです。それが社会に広まると、今度は家に現金を持っている人の方がマイノリティーになる。それと同じで、今ではほとんどの人がスマートフォンを持っていますよね。それもここ数年の話で、以前はスマートフォンを持っている少数派が、その便利さを周囲に説明していました。それが今では、スマートフォンを持っていない人が、持たない理由を説明する状況に逆転しました。スマートフォンがあたり前になったことで、世の中は変わっていきましたよね。名刺もデータベースで管理するのがあたり前という時代になっていけば、おのずと働き方が変わってくると思うんです」

スマートフォンが普及したことで、Sansanは名刺をさらに便利なビジネスツールへと進化させようとしている。そのアプローチが、スマートフォンアプリ「Eight」だ。「Sansan」がB2Bの企業向け有料サービスであるのに対し、「Eight」は無償で提供される個人向けサービス。「Eight」に登録している人同士がつながり、名刺データが自動的に更新されるなど、名刺をソーシャルなつながりに変える可能性を秘めたアプリだ。

「Sansanは営業を強くする名刺管理サービス。Eightは名刺をビジネスのつながりに変えるというそれぞれ別のコンセプトです。名刺はビジネスシーンにおいて、もっとも広まっているスタンダードなソーシャルツールです。しかし、それがベストだとは思っていません。いずれは紙の名刺がなくなってしまえばいいとすら思っているんです。最終的に名刺を管理するという概念がなくなることが一番の目標です」

それにしても、エネルギーに満ちた人だと感じる。未知の事業を始め、数々の困難を乗り越えてきた原動力として、世界を変えたい、とする高い意識がモチベーションになっていることは理解できたが、「なぜ変えたいのか?」と感じる人も少なくないのではないだろうか。

「それが私の根っこの部分なんです。妻にも言われますよ。世界を変えたいとか意味がわからないって(笑)。それが普通の感覚なんでしょうね。それぞれの人に、そうした説明できない根っこがあると思うんです。知りたいという欲求が強い人に、なぜ知りたいの? と聞いても、知りたいからだとしか答えようがありませんよね。逆に私はそうした知的好奇心がまったくない。知識は何かを達成するために欲しいと考えるだけで、この先、何かアウトプットする機会があるかもしれないから事前にインプットしておこうということが極端なくらい出来ないんです。そのため学生時代は、なんのために勉強するかが明確でなかったため、ほとんど勉強をしませんでした。ひどい高校生でしたよ(笑)」

では、寺田氏の仕事のモットーや常に心がけていることは、どういったものだろう?

「私が常に心がけていることは“とらわれない”ということくらいです。ベンチャーとしては、そこそこの規模になりましたけど、だから何? と思うようにしています。経営者になったからといって、自分はなんでもないよ、と突き放して捉えているんです。そう考えないと、自己満足で終わってしまう。経営判断にしても、これまで自分が積み上げてきたものに対して、とらわれてはいけない。以前に自分が言っていたことすらひっくり返したり、朝令暮改はしょっちゅうです。みんなに対して、より良いことをやるべきであって、会社としてこれまで積み上げてきたことも、場合によっては斬り捨てます。創業以来、ずっとそうしたことを繰り返してきているので、社員にも浸透して、今では“とらわれない”ことが会社のDNAのようになっていますね」

日々のハードワークをこなすための自己管理やリフレッシュ法を聞くと、仕事のためにランニングやジムに通うといった健康管理には気をつけているものの、子どもと遊ぶことが息抜きになっているくらいで、特にこれといったリフレッシュ法はないという話だった。どうやら寺田氏にとって興味があることは、世界を変えることのみ。それ以外の何ものにも“とらわれない”ようだ。

「これも仕事の延長線上ですけど、こうすれば世界はこう変わるはず、と妄想することが唯一のリフレッシュになっているかもしれない。調子がいいときは、これだ! と思えるものが出てきて本当に気持ちがいい。そうしたイメージからすると、今の私たちがいるところなんて本当にまだまだです。ただし、その領域に行けるか行けないかという判断くらいはぼちぼちついてきました。日本の中でそこそこいける程度の事業なのか、世界を変えられるくらいの事業なのか、よくも悪くも見えはじめています」

近い将来、Sansanは海外で「Sansan」と「Eight」を展開することを想定している。今後、アジアの新興国が経済成長を遂げるにしたがって、確実にナレッジワーカーが増えてゆく。それにともない日本と同じように名刺が頻繁に交換されるだろう。異国のビジネスマンが「Sansan」や「Eight」を使って名刺管理をしているイメージが浮かぶ。もしそれが世界標準となったら、世界中のビジネスシーンで名刺の可能性が一挙に広がっていくのかもしれない。

「私がこの世に生まれてきて社会に貢献できることがあるとしたら、ビジョナリーやイノベーターとして働きかけるしかないと思っています。自分のバックグラウンドや能力など、与えられたものを社会で生かすには、そこに使うしかない。えらそうな意味ではなくて、私にはそれしか出来ないと思っているんです」

寺田親弘氏が大切にしている3つのこと

座右の書

「私の経営感覚はドラッカーの本に影響を受けています。ドラッカーの考え方は、会社の目的を従業員の幸せといった内側に置くのではなく、社会を良くするという外側に置くことを明文化しています。従業員を幸せにしていくためには社会を良くしていく必要があり、社会を良くしていくためには従業員が幸せである必要がある。それはイコールのことかもしれません。ただし、重要な意志決定の際には、会社の価値をどちらに置いているかをはっきりさせておくべきだと考えています」

座右の銘

「三井物産時代に影響を受け、今も好きな言葉として、三井物産の社是にある『挑戦と創造』は常に意識しています」

経営者の採用基準

「スキルで人を採用しないということを極端なくらい明確にしています。社長面接では、人間性や仕事観しか見ていません。そのため、ときどきスキルのアンマッチが起きてしまいます(笑)。しかし、そうしたベースがしっかりしていれば、スキルは後からキャッチアップできるものだと思います」

取材・文●大寺 明


Sansan_pr

業界シェアナンバーワンの“営業を強くする”名刺管理サービス『Sansan』
ユーザが名刺をスキャンするだけで”オペレータによる正確なデータ入力” と “組織で人脈情報を共有するクラウド型システム”をワンストップで提供する世界初の法人向け名刺管理サービス。 人事異動情報の自動配信(特許取得)やメール一括配信など営業を強化する機能を備え、2013年10月時点で1,500社超の企業に導入され業界シェアNo.1を獲得している。俳優の松重豊氏らを起用したTVCMも好評オンエア中。